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HA NI KA MI  ハニカミ  作者: 霜月 ハジメ
第一章 彼女たちの事情
6/73

6 苦手な

昨日投稿出来なかったので、本日2話投稿します。

 


 顔合わせのお茶会が無事に終わり、五月一日から新入生が生徒会へ新たに加わった。サラ・ピアン・ツー・ノイマンやアルドリック・フォン・ヘルグリューンら成績上位者五名が選ばれた。

 今年度の女生徒はサラのみだ。第二学年には女生徒が三人いることを思えば少ないが、運営に大きな支障はないだろう。


 新入役員を迎えてから最初の生徒会行事は六月の芸術鑑賞会になる。今年は歌劇の鑑賞が予定されている。劇団の確保や来賓の招待は、年度が明けてからでは間に合わないため昨年度中に手配などは終わっている。年度が明けてからは会場となる講堂の準備や来賓の席順など細々とした調整を行っていくだけだ。


 例年ならさほど難しくない。難しくないのだが……。

 皇族からの来賓が生徒会予算をフランベさせた次姉になってしまった。しかも次姉の希望だというから、頭が痛い。


「はぁー」

「どうしたんですか。ルキウス様?」


 無意識に嘆息していたようだ。


「少し、来賓のもてなしについて考えていまして。気難しい方もいますからね」

「大変ですね~。私もお手伝いしますから何でも言ってください!」

「優しいんですね。サラ嬢」

「ルキウス様の為に私頑張ります!」


 男子役員数名で鑑賞会に不備が無いよう講堂の点検をしていた。

 途中、サラが書類の決裁に戻ってほしいと私を呼びに来て、生徒会室のある特別棟へ向かい渡り廊下を歩いている。


「サラ!」


 通路の外から声が掛かり、二人同時に振り返る。


「放課後にどうしたんだ?」


 鳶色の目と同色の髪に、精悍な顔立ち。一般的な成人の一回りは大きいであろう精強な体躯。

 テオポルド・ツー・フォイアロート。近衛騎士団長の次男で、私の側近候補だった一人だ。今年度入学だったと思い出す。


「ルキウス様と生徒会の仕事中なの」


 サラの言葉に今気づいたという態で、私に向かって軽く会釈をしてきた。 


「そうか。今日は俺の鍛錬に付き合ってもらえないか」

「また今度、生徒会の無い日に付き合うわよ」


 去り際のテオポルドの鋭い視線。目は口ほどほどに物を言うとが、まさしくこのことだろう。学生同士の事ゆえ不敬と言う気はない。

 いくら剣術にたけていても候補だった(・・・)理由はこれに尽きる。


「サラ嬢はテオポルドと仲が良いのですね」

「友達の一人ですよ~。ルキウス様が私の交友関係を気にしてくれるだなんて……」


 最後の言葉には疑問を持ちつつも、笑顔のサラに釣られて口角が上がる。


 腕を後ろに組み、上体だけ私に向て飛ぶように歩くサラ。ピンクの髪がフワリフワリと揺れて、入学式の時に思ったようにまるで少女に見える。

 

「可愛らしいブローチですね。サラ嬢に似合っています」

「本当ですか―!ルキウス様に褒めてもらえてうれしいー」


 茶会の時は気付かなかった。


 茶会自体、装飾を着けた女生徒を見た印象がない。今年度は風紀の乱れを感じないとは思っていた。

 例年なら、制服や髪に装飾を付ける女生徒が多くいた。髪留めなどは女性にとって必需品であるため、校則での規制は難しい。なかには、学校や生徒会が強く言わないのをいいことに度を越えて華美になりすぎる者もいる。


 それに比べれば微笑ましい。


 伸びた茎に花のつぼみと大ぶりな葉を模しただけ。葉には……。


「シャクナゲの蕾なんです。私の髪色とお揃いで淡いピンク色なんですよ」

「葉の部分に汚れがあるようです。授業の筆記中にインクが付いてしまったのかもしれないですね」

「ああ。これ、アリなんです。カワイイでしょ?」


 黒い点がまさか模様とは。


「め……珍しいですね」


 虫を模す趣向……、背がゾワリとする。


「本当は四匹なのに一匹誰かに横取りされたのかも」


 悪寒のせいか、サラの言葉が理解できず愛想笑いで答える。


「もしかして、ルキウス様、虫がお嫌いですか?」

「嫌いというほどでは……」



★★★★



ブーン ブーン

ブン ブン ブン ブン

バチン ブン バチン


 夜の執務室、扉を開けて一歩中へ入ると奇妙な音がする。先導していた護衛がランプを高く掲げると、奇妙な音が激しくなる。


バッチン!


「ぐぅあッ!!」


 何かが弾けるような音と男の野太い声が響いた。

 前にいる護衛が顔を抑えて跪く。


バッチン!


「イタッ!」


 私の頬にも弾けるような痛みが走る。


「申し訳ありません。私が屈んでしまったために。大丈夫でしたか?」

「何かにぶつかりましたが、大事ないです」


 暗がりに目が慣れてきたのか、部屋全体が朧に見えてくる。

 黒?いや茶色?の小さな物体が複数、ブンブン呻りながら飛び交っている。


「どういたしましたか⁉」


 騒ぎを聞きつけた数人の使用人が駆けつけてきた。

 護衛と使用人たちが総出で灯を点け、部屋の中を確認する。


「これは!」

「……虫です……ね」


 黒光りする物体を親指と人差し指で摘まんだ使用人が言う。


「五匹以上はいそうだな」

「すべてをすぐに捕まえるのは難しいでしょう」

「昼間の方がおとなしいはずだ」

「なぜこのお部屋にだけ、こんなにーー」


 黒い物体を覗き込みながら、使用人たちは口々に言う。


 私も近づいてみる。ソレは頭部と思わしき先端に角を持ち、背は一見硬そうな皮、内腹は蛇腹になっている。使用人が腹ばいに返すと、体の中央から伸びた六本の脚には無数の繊毛が生え、ウネウネと動いている。


(うぇッ!)

 心の中とはいえ、生まれて初めて卑下た声を上げてしまった。



 黒い虫が取り除かれたということで、数日ぶりに執務室に入る。


 執務机を前に椅子に腰かけ、数日後に開かれる皇宮行事の式次第に目を通していると、手に持った書類の陰で黒いモノが動いたような気がした。気のせいと思い、書類を読み進める。また、何かが視界の端に移りこむ。


 さすがにと思い書類を持った手を下げると、目があった!


 針の孔ほどに小さな黒い目。

 黒光りはしているが角はない。目の近くにある細く短い突起を不規則に動かしてながらこちらを見ている。一瞬動きを止めたと思ったソレは、六本の脚をのそりのそりと動かし近づいてきた。


「誰ぞ!出あえ!」


 思い出しただけで身の毛がよだつ。

 確か十か十一歳、蒸せるほど暑い夏の日だった。



★★★★



 生徒会室の前に着き扉に手を掛ける。サラの入室をエスコートしようと差し出そうとした右手を止め、扉の上を見る。


「ルキウス様、どうかしましたか?」


 同じく上を見たサラが聞いてくる。


「いえ、白い粉が落ちてくる錯覚に襲われまして」

「えー、やだー。何それー」


 苦笑いが漏れる。言って失敗したと思いながら、クスクス笑うサラを促して生徒会室に入った。




「サラ!遅かったな」



この生き物、私の拙い文章で伝わったでしょうか?

子供から大人まで人気な、夏のキング的存在の彼らです。

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