5 茶会の嫌悪
明けましておめでとうございます。
今日から平日1話投稿していきます。
「お待たせいたしました」
給仕の男が横に立った。
「本日の茶葉は東方産の×××になります。こちらでカップに注いでよろしいでしょうか?」
「ええ、お願いします」
「茶葉のイイ香りがしますねぇ。飲むのが楽しみ~」
サラが可愛らしい感想を言っている間に、給仕が手際よく用意していく。
給仕は茶の入ったカップをサラの前へ置く。もう一つのカップは私に差し出さず、給仕は多く用意された銀製のスプーンですくうと口に含んだ。
「問題ございません」
やっと私の前にカップが置かれる。
「どうしたの?」
サラが不思議そうに尋ねてくる。
「皇族だからです。念のためといったところです」
キョトンとしたサラに笑みを返してから、給仕に告げる。
「私の分の菓子は下げてください」
「畏まりました。何かありましたら、お呼びください」
会釈をして去っていく給仕の背を目で追えば、ゾフィーたちの一団へと辿り着く。会話に興じてこちらを気にしている者は一人もいない。サラと私への興味はとっくに薄れたようだ。
「ルキウス様は甘い物がお嫌いなんですか?美味しいのに」
サラが言いながらお茶請けとして出されたイチゴのコンフィを頬張っている。
口に含んだとたん両手を頬に当てて美味しいと小声でささやいた。
その様子を微笑ましく思いながら、お茶を一口含んで舌の上で回しながら飲み込む。本場東方産だけあって、渋みの後に軽い甘みが広がる。
「甘い物は好きですよ。今は気分ではなかっただけです」
「良かった~。私、お菓子作りが趣味なので、ルキウス様にも食べて欲しいなって思ってたんですぅ~」
「それはうれしいですね」
素直な気持ちを答えれば、サラは伏し目がちに私を見ながら微笑んでいる。
入学してからの出来事、茶会の前にあった高等科の施設案内の話など、サラは表情をクルクル変えながら楽しそうに話してくれる。
「教会のステンドグラス、スゴかったです。白の聖女様のお話になってるって、ビックリしちゃいました」
「学園の教会だけではなく、別の教会では建国時の他の物語が描かれているのですよ」
「ホントに~?別のステンドグラスも見てみた―い」
そういえば、ゾフィーも最後まで残って熱心に見ていたのを思い出し、サラの斜め後ろに目をやる。
ゾフィーの隣には、いつの間にかハインが立っていた。周りのご令嬢はうっとりした様子で二人の会話に見入っている。
黒髪に切れ長の瞳、右目の泣き黒子も相まって十八の年齢以上の色気を漂わせているため、令嬢に人気の令息の一人らしい。ゾフィーも十六歳の成人前とは思えない緩急のついた体つきをしている。このように、妖艶さで目を引くのはニグレードの血筋なのだろうか。
ゾフィーが目線はハインに向けたまま少し顔の向きを私の方に向けると、ハインがこちらに顔を向けて目を細めた。
「お話し中のところ失礼。ルキウス、そろそろお開きに……」
「まあ、ハイン様ですか!」
サラがハインの言葉を遮って声を上げた。
「……ああ」
「私、サラです。入寮式の時は遅れてしまってすみませんでした」
「ああ、あの時の」
顔の前に両手を合わせ、興奮気味にハインに話しかけるサラ。
何か……、こう……不快に感じる。サラになのか、ハインになのか、あるいは二人共になのか。
「どうしましたか?ハイン」
会話を続けようとするサラが次を発する前に、私からハインに問いかける。
「ああ、そろそろ三時間になるから、お開きでもいいんじゃないかと思って」
さっきから「ああ」が多いと、ハインの口癖を心の中で指摘する。
「残念ですが、今日はここまでの様です。有意義な時間が過ごせました」
サラに声を掛けてから、立ち上がる。
「え?私も残念ですぅ」
私に向かって言ったはずのサラの返答が心ここに有らずのように感じられる。今ほど感じた怏々とした気持ちのせいだろうか。
生徒会の役員たちに指示を出し終え、残すはハインの閉会挨拶のみとなった。
扉近くに移動をして会場を見渡せば、やはりゾフィーの集団が大きいので目が行く。
茶会最中よりも人数が増えて十数人ほど、三学年織り交ざった、高位貴族のご令嬢たち。目立たないはずがない。挨拶のため食堂の中央に立つハインを、一団の令嬢全員が静かに見つめている。さすがは高位貴族の尊厳といったところか。
更に視線を巡らすと、壁際に立つピンクブロンドの髪色を見つける。薄緑に鳶色、色とりどりな瞳の令息たちに囲まれて話に夢中のようだ。また小さな不快が胸に漂うのを感じる。
なぜだろう。
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