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《メシアの最下層》

「我こそ腐れきったこの世の救世主、彼氏(かれうじ)ホウカだ!!」

 彼氏ホウカは救世主の自覚がある。他の有象無象と違って。


「さて、今日もSNSでいっぱい嫌がらせしようか!!」

 ホウカは自己犠牲の精神を持っている。他人への嫌がらせというつまらないものに自己の労力と時間を割ける。救世主としての責務を全うすることを第一とし、それのために自己の人生を捧げる覚悟がある。

「あくまでも平凡で、それでいて巧妙に倫理観を外した文章をっと……」

 彼女の救世の方法自体は単純である。SNS上で適当な相手に不快な文章を送り付ける。その相手が文章を読むと、反論したくなったり他人に愚痴りたくなるようなものが最適だ。もし反論や愚痴をせずとも頭の中であれこれ無駄に考えてくれればそれでいい。そうやってなるべく相手から時間と思考を奪い取る。相手のリソースを無駄なことに割かせる。

 この攻撃は不可避である。何故なら人は絶えず目の前の問いについて思考するからだ。救世主の彼女が問いを設けると人はそれに対し有効な反論を返し乗り越えるか、もしくは適当な言い訳を考えて問い自体から回避する。人は悪口を言われればそれが妥当かどうか必ず判定する。悪口自体を自然なもの日常にありふれたものとして受け流せる人間はいない。救世主としての彼女の責務は、出来るだけ低レベルで考えるだけ無意味かつ考えたくなるような問いを投げかけることだ。


「ふぅ……ひとまずこれくらいかな?喉乾いたしジュースでも飲もっと。」

 この攻撃の目的が人類の思考の制限であることは言うまでもないだろう。ホウカの行動は言わば『人類の精神的なリソースを消費させる最も効率の良い方法』である。人類の思考は日々加速している。情報化社会となってそれはより顕著になった。このままでは人類は人類滅亡よりも先に『解』を見つけてしまう。解とは生き方の正解、学問の正解、考え方の正解などだ。人類は解を知ったが最後、まるで完全クリア後のゲームにいるかのような虚無感に襲われる。人類の思考の極みというものは全くくだらなく、決して到達してはいけない代物だ。俗に言う『悟り』と呼ばれるものも到達してしまえば何のありがたみもない。ゴールというものは到達するまでの過程を楽しむものであり、実際にゴールすればいいわけではない。ゴール後に次のゴールが生まれるならともかく、後に何も無いと分かってて誰がゴールなどする?それは自ら崖に向かって突っ走るようなものだ。『解』に到達した世界は地獄である。人類を地獄に落としてはいけない。

 おそらく人類がこの境地に至るにはまだ数千年かかるであろうが、救世主であるホウカは誰よりも早くその問題と解決策を見出し、それに生涯を捧げる覚悟をした。だから救世主なのである。


「ふわぁ……眠……早く帰って寝よっと。」

 以上のことは全てホウカが10分で考えた妄想である。彼氏ホウカは救世主でもなんでもなく、ただ日頃のストレスを他人への嫌がらせで発散している最低のクズでしかない。

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