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第一話『刺激的な目覚め』

――平凡な生活が、いやになっていた。毎日毎日同じようなことの繰り返しになるのがイヤだった。何か刺激的なことが起きてくれやしないかと、俺は切に願っていた


 願っていたの、だけれど。


「……かと言ってこれは、極端すぎやしないか……?」



――朝目覚めたとき、俺、葛城叶多は見知らぬ草原にいた。



 何言ってるんだコイツは、となるかもしれないが、それは俺が一番聞きたい。昨日の夜いつものようにベッドに潜り、朝になっていつものように目覚めたらそこは草原だった。……正直、訳が分からない。どういう原理か着てる服も違うし、いったい俺の身に何が起こってるって言うんだ……?


 腰に手を当ててみれば、俺の身長の半分くらいの長さはありそうな長剣がさやに入った状態でつられている。当然こんなものを付けて練る趣味はないし、何なら買い込む趣味すらない。それだけでも十分な謎だったが、それよりも放っておけない事象が発生している以上そうもいかなかった。


「……まず、ここはどこなんだ……?」


 見慣れない草原に、見慣れない服装。ビル街にほど近いアパートに住んでいた俺からすると、こんな大草原なんか見たためしもなかったし、この先見る機会もないと思っていた。……まあつまり、今の俺には帰るあてがないのである。


「財布は……まあ、ないよなあ……」


 タクシーかなんかを呼ぼうかとも考えたが、そもそも財布がない。そんなことを言えば携帯すら今の俺は持っていないわけだが、それに気づくのはもう少し後の話だ。とにかく、今の俺には何もない。あると言えば剣くらいなものだが、役立て方が分からない時点でただの重しにしかならない。なんなら重くて邪魔なくらいだ。


「刺激が欲しいとは、常々言ってたけども」


 なんだろう、こういうのを求めていたんじゃない気がする。想像の斜め上どころか次元すら飛び越えてしまったような感じだ。数分くらい現状について考えてみたが、今のところ得られたのは『どうもかなりヤバい状況に置かれたらしい』とかいうぼんやりした感想くらいだ。


「……とりあえず、動かなきゃ始まらないか……」


 状況を理解するのをあきらめて、俺はあたりを見回す。見渡す限り草原が続いているので、どの方向に進めばいいかも全く分からない。俺の勘なんて当たったためしがないのだが、それでも現状頼れるのは勘ぐらいしかなかった。


「……じゃあ、仕方ないな」


 考えることをあきらめ、俺は指をさしながら俺の行く先を神様に任せることにする。考えても時間を食うだけだし、現状はそれが一番の選択だろう。


「どーれーにーしーよーうーかーなー……」


 大雑把に四方向に分割し、くるくると回りながら進路を決定する。もう少しで文を言い終わり、あとは地域によってまちまちなおまけ分を付け足すだけというところまで来たのだが……


「………ん?」


 何かうなり声のようなものが聞こえた気がして、俺は回転を止める。いくら草原に放り出されたといってもここは日本、間違いなく猛獣なんかはいないもんだと思っていたが――


「……マジ?」


 うなり声がした方向を向いた瞬間、俺の思考は希望的観測であったことが判明した。


 大きさは……どうだろう、ライオンかトラくらいといったところか。それだったらまだリアリティがあるのだが、頭頂部から生えた日本の角とオッドアイがそれを台無しにしている。それがあるだけで、サバンナにいそうな猛獣がファンタジー物の敵モンスターに早変わりだ。


「……てか、ファンタジーが過ぎるだろ……‼」


 少なくとも地球上にはいないであろう生物を目の当たりにして、俺は認めたくなかった事実と直面する。それは何度もラノベで見てきた、だけどあり得ないと思っていた状況……



「……異世界転移って、こんなにいきなり始まるもんなのかよ……⁉」



 もう少しこう、神様的な何かからの説明とか、運命的な出来事からの転移とか、そう言うドラマ感があったって良かっただろう。寝て起きたら異世界とか、そんなリアリティのない出来事があってたまるか。そんな文句を言ってやりたいところだが、このままでは俺の異世界生活は即死で幕引きを迎えることになるわけで。


「……アレ、どうすんだ……?」


 目の前にいる猛獣は、チュートリアル用のモンスターなんかだとはつゆほども思えない。というか、ライオンとかの形をとった魔物が弱いわけはない。とりあえず腰から剣を抜いては見たが、剣の心得もない奴がそれを握ったところで使い道は転ばぬ先の杖ぐらいのものだ。


「……いやいやいや、こんなあっけない終わり方があるか……?」


 何かあるだろうとポケットを探るも、使えそうなものどころか剣以外のものがない。……絶望という言葉は、この時のためにあるんだと思った。どうあがいてもこの状況から抜け出せる気がしない。剣で戦ってみるか……?


「いや、無理だな」


 かすかに見えた希望をすぐに振り切って、俺は立ち尽くす。正直言って、走っても逃げ切れる気がしなかった。なんたってここは草原だからな。獣の視力なら俺を見失うなんてことは絶対にありえない。……とどのつまり、俺はここで終わりってことだ。


「……出来のいい夢なら、今覚めてくれたっていいんだぞ……?」


 確信してしまっても、やっぱり死ぬのは怖い。というか、猛獣に食われるとかまっぴらごめんだ。そんな痛い死に方したくないし、そもそもなんでそんなことになったかもわからないし。だけど、きっとそれは全部分からないままで終わるのだろう。せめて一息に殺してから捌くなりなんなりしてくれと、とびかかって来る目の前の猛獣に願いながら俺は目を閉じて――


「――『天眼』」


「……は?」


 瞼の裏に、突然訳の分からない文字が映りこむ。その直後、俺の体は勝手に動いていた。


「何が、起こって……!」


 体が風を切る感覚に思わず目を開けると、俺の体は猛獣の体を跳び越すような形で宙を舞っていた。当然俺が狙ってそうしたということはないし、何なら猛獣よりも俺の方が戸惑っている。パルクールの選手もびっくりするような体勢で、俺は今地面に向かって落下しているのだから。


「勝手によけたんならそこまでちゃんと責任とれよ……‼」


 下が草だから死ぬことは無いだろうが、このままいけば間違いなく手首がどうにかなる。そうなったら最後、今度こそ俺は猛獣の餌ルート一直線だ。そう確信しても、宙にいる俺がどうにかできるわけもなく――


「落ちっ――」


「『緩衝』」


 地面に落ちるその直前、またしても俺の視界に謎の文字列が映りこむ。その直後、再度俺の体は勝手に動いた。


「なんだ、ってんだよ……!」


 どういう原理かは分からないが、手首が異次元のしなりを見せて着地の衝撃を完全に吸収する。体の向きやらなにやら細かい要因が加わっていたのだろうが、俺に理解できたのはとりあえず無傷らしいということだけだった。


 間違いなく死ぬというところから、俺はどういう訳か回避に成功したというわけだ。どういう理由でそれが起きたのかはとりあえず置いておくとして、目の前の死を回避できたのはありがたい。ただ、一つ問題を上げるとするならば――


「……これ、何の解決にもなってなくね……?」


 確かに延命にはなった。ただ、猛獣の体に傷がついたわけでもなく、あくまで現状維持ができただけなのだ。……そして、俺から猛獣に対する有効打はない。


「結局じり貧じゃねえか……‼」


 絶妙に残念な運命の助けに舌打ちしつつ、俺は必死に猛獣から距離を取る。ただ、猛獣のが人間より足が速いのは当たり前の話で。今度こそ逃がさないといわんばかりに、背後から猛獣がとびかかって来るのが分かったが――


「『天眼』」


「また――っ!」


 謎の文字が浮かび上がり、俺の体は無意識に右へとそれていた。すんでのところで爪の一撃を躱し、次のとびかかりを屈みながら前方に滑り込むようにして回避する。とても俺の体がやっているとは思えないその身のこなしに、俺は戸惑いを隠しきれない。


「……というか、結局倒せなきゃ意味ねえんだって!」


 確かに回避はできるかもしれないが、こんなギリギリの回避を続けられちゃ俺のメンタルが保たない。どうにかして撒く方法を考えたいが、そんなものがパッと思いつくわけもなく。


「『天眼』」


「くそがっ……‼」


 またしても謎の現象に助けられ、俺は数秒の延命に成功する。しかしそれも意味がないのだと、覚悟を決めて少し距離が開いた猛獣の方を振り返ると――


「…………『フレイムバレット』‼」


――少女のものらしき凛とした声が聞こえた瞬間、猛獣に炎の弾丸が直撃する。…………意味がないと思っていた延命は、思わぬ形で俺の命を救うことに成功したのだった。

予定よりだいぶ遅れてしまってごめんなさい!これからは最低でも週一ペースでは投稿していきたいと思いますので、これから始まっていく物語を是非楽しみにしていただければと思います!プロローグを読みやすいように改訂いたしましたので、もう読んだという方もぜひ見直していただければと思います!

――では、また次回のエピソードでお会いしましょう!


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