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逢想の纒憑  作者: 中保透
一章 目的
9/52

08.願い事

情緒不安定ですかね、暗めです。


「ほう、ほう。これがコロッケとな!」

 先程の調子はどこへやら。でかい態度に戻っていた。

「はぁ……」

「なんじゃ?」

「べっつに」

「鳥ってこういうもの食べていいのか?」

「余は問題ないぞ。そこらの鳥ではないからの〜別に食べなくとも問題ないが」

「じゃあ食うなよ。食費が勿体ない」

「ケチ! 食べてもよかろう!」

「お前が食べなくても問題ないって言ったんだろ」

「食べなくても問題はないが美味しそうなものは食べてみたいじゃろ!」

「あっそ! ありがとよ!」

 美味しそうには見えている事に礼はいう。腹立つが。


「梛莵、何だかピヨ助と話してると子供っぽいな」

「んぐっ、ゲホッ」

「大丈夫か?」

 燐はむせる梛莵の背中を擦る。

「子供……」

「主らなぞ子供じゃろ。別に間違っとらんであろう」

 ピヨ助はコロッケを「これは! 美味じゃ!」と頬張っていた。



 ――梛莵ってばほんと子供だな〜。まぁ俺も子供だし、大人の言ってる事なんて半分わっかんねぇけど。なははっ――



 子供、まだ、子供なんだよな。


「……そうだな」

「梛莵?」

「なんでもない」

「梛莵……」

「ごちそうさま。先、風呂入るわ」

 そういうと立ち上がり風呂場へ向かった。

「あぁ……」


 * * *


「ふぅー……」

 湯に浸かり一人考える。


 成長すれば大人になってく、なんて言っても中身は子供のままだ。

 争いなんて何も生まない、傷付くだけだって。わかってる。けど、わかりたくない。

 俺は俺が決めた事は成したい、誰がなんと言おうと。


「……俺は、まだ大人……にはなれないのかな。……慶悟(きょうご)


 梛莵は一人の少年の名を呟く。


 お前は、お前だったらどうしてたんだろうな、なんて。

 お前なら笑い飛ばしそうだ、そんなの知るかって……。


「会いたい、皆が居ても……お前がいないとさみしいよ……」


 壁に寄りかかり目を瞑る。




「出たのか……梛莵、顔色が悪いぞ」

「大丈夫。少し頭が痛いだけだから寝れば治るよ」

 先に寝る、そういって寝室に入る。

「どうしたんだ……?」


 * * *



 ――梛莵は寂しがりだな。いつまで引きずるんだよ



 俺が成すべき事を果たすまでは、囚われ続けるよ。

 慶悟、俺は何もできなかった自分を許せないんだ。お前を助けられなかった自分が。



 ――梛莵だけでも助かっただけよかったじゃないか



 俺は、



 ――梛莵が無事でよかった……だからお前は――



 ……慶悟。



 『生きろよ。せいぜい足掻いて、俺の分までさ』



 * * *


「(寒い……熱い……わからない)」

 薄っすらとする意識の中、額に熱を感じる。


「梛莵、少し水を飲めるか?」

「……なに」

「水だ。水、わかるか」

「ん……」

「立て続けに、色々と背負わせてしまっているからな。疲れが出たんだろう」

「……」

「梛莵、すまないな」

「……違う」

 燐の腕を引く。

「わっ」

 勢いで上半身を布団の中に引き込まれる。

「(! 梛莵、すごく冷たい。まるで氷みたいだ。術力が漏れ出ているのか?)」

「違う、違うから……」

「梛莵?」

「だれの……せいでも、ないから」

「……泣いているのか?」

「急に、いなくなったりしないで……お願いだから」

 意識が朦朧としているのだろう梛莵は脈絡なく話す。

 燐は自分ではない誰かに言っているのだろうかと感じた。

「……」

「もう、さみしいのはやだよ……」

「……あぁ」

「一人に、しないで……側にいるって言っただろ……置いてかないでよ、」

「梛莵……」

 すぅ……と眠ったのか、掴まれた手の力は抜け寝息が聞こえた。


「……私で良ければここにいるぞ、それに梛莵は一人じゃないだろう」

 燐は梛莵の頭を撫で涙を拭う。


「柑実や羽蘭、紅に裙戸に曷代、他にも側にいるだろう。私は梛莵の事をまだよく知らないばかりだが、想ってくれる人達に恵まれてるとは思うぞ」

 手を強く握り温める。

「……無理に大人になる事はない、いつでも縋ればいい」

 この子は何か大きな事を背負っているのだろう。


「(全く、梛莵の親は一体どこに行ってるんだ。こんな時側にいてあげるべきだろう)」


 眠る梛莵を見つめ、会えなくなった弟の事を想う。


「……私が、言えた事ではないな」




 ――暖かい。


 目を覚ましボーッとする頭で考える。


「(まるで、本人を前にした気分だったな。その後燐に声かけられて、それで……なんだっけ)」


 すると横からぷぅ……と聞こえ、見るとピヨ助が首元に収まって寝息を立てていた。


「(こいつ、温かいな。邪魔くさいけど)……?」


 布団の中で何か掴まれている感覚がして覗くと燐が手を握ったまま眠っていた。


「(……え、どういう状況なの)」

「ん……」


 思考停止した頭がはっきりしてくる。



 ――さみしいのはやだよ……――



 あぁ、俺は何て醜態を晒したんだ。

 眠る前の事が鮮明になり自己嫌悪に陥る。

 すぅ、すぅ、と寝息を立てている燐の手はとても温かく、優しさを感じた。


 握られた手を握り返し、梛莵は再び眠りについた。



 ――――――


 

「ナト兄ぃ早くー!」

「待ってよ楜莵」


 元気に走る少女【楜莵(こと)】と追いかける梛莵。



 〈10歳・夏〉



主人公の過去編に突入します。

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