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逢想の纒憑  作者: 中保透
一章 目的
7/52

06.姉と弟


 [次の日の放課後]


「じゃあ、行こうか」

「お願いします」

 哉妹と共に由月の所に向かう。


 燐は曷代と共に纒憑や術について等再度説明を受けるために連れて行かれた。燐はどうするか考えていなかったので丁度いい。



 あの後購買から戻ってきた柑実の様子がおかしかった。まさかと思っていたが予想通り燐と出くわしたようで裙戸経由で聞いた。

 後に燐は少し話が出来たと言っていたがどのように話したかはわからない。


「(でもあの様子からするに、燐の探してる知り合いの名前、聞いたんだろうな)」


 正直に言えば燐の探してる知り合い、『先生』を俺も知っており、柑実は一番よく知っている相手だった。

 そして、柑実が此処にいる理由の一人。


 燐が探してる先生は柑実の実父、『(のぞむ)』さんだった。


 自分も初め聞いたときは聞き間違いかと思った。

 だが柑実の匂いが、雰囲気が似ていると言っていたのは血縁者なのだから納得がいく。


「(これはどう解決したものか……)」


 燐の為を思うなら会わせてやりたい。が、柑実を思うなら会わせてはやれない。


 柑実の父、望さんはかつて前線で纒憑と対峙する竒術師だった。

 しかしある事件をきっかけに彼は絶望し、戦う事を恐れ前線から抜けたのだ。

 その事件が柑実が纒憑を憎む理由であり、戦う理由。

 柑実は父を、大切な家族を守る為にここに入学したのだ。

 そんな父に纒憑である燐と会わせるのを良しとする訳がない。俺も柑実の立場だったら絶対に会わせたくない。



「はぁ……」

「ご、ごめんね……?」

 ため息をついて気を使わせてしまった。

「あ、哉妹じゃない……悪い、別の事考えてた」

 とりあえず今はこっち、だな。

「そう? あ、あたしの家あそこ」

 そう指差す先には古風な屋敷があった。とても立派な。


「……え、これ?」

「うん」

「おぉ……」

「人が来ることは伝えてあるから」

 話ながら案内されると屋敷の裏に一軒家が立っていた。

「びっくりした……前の屋敷が哉妹の家かと思った……」

 梛莵はほっと胸をなでおろす。

「あ、そっちは本家なの。あたしん家は分家なんだ」

「そ、そう……」

 どっちにしろ哉妹ん家なのは変わりないようで。

「どうぞ、散らかってるけど」

「お邪魔します」


 * * *


「雅の部屋はニ階の一番奥なの」

「わかった」

「……あたし、下にいてもいいかな」と哉妹は言いにくそうに言う。

「構わないが……」

「ごめんね、お願い」

「そう謝るなよ、別に悪い事してる訳じゃないだろ」

「でも……」

「まだ解決した訳でもないしできるかもわからないから、期待はしないでほしいけど……」

「うん」

「やれるだけはやってみる」

「うん、」

「……だから、泣くなよ」

「う、ん」

 堪えていたのであろう、哉妹は少し気が緩み涙を流した。

「っ、ごめ、」

「由月が見たら怒られそうだな」

 知らないけど、と哉妹にハンカチを差し出す。

「ありが、と……」

「話してくるから、落ち着かせてきな」

 軽く頭を撫でる。哉妹は頷き、リビングへと向かう。


 さて、と梛莵は階段を上った。


 * * *


 話し声が聞こえる。


「(誰か、来た?)」


 チサの声ともう一人、男の、知ってる気がする声。


「(でも誰だ? 家に上げるような人なんて……)」


 考えていると扉を叩かれる。

「由月、聞こえるか」

「……朱鷺夜?」

「なんだ、返事できるじゃんか」

 正直全く反応がないかも、と思っていたが返答があった事に胸を撫で下ろす。


「なんで朱鷺夜が……」

「哉妹に頼まれたから」

 梛莵は正直に言う。あやふやに言う必要もない。

「哉妹から聞いた。……今、術が操れないんだろ」

「どうして……」

「怖いか? 今までできた事ができなくなって」

「何が言いたいの、わざわざ馬鹿にしにきたの?」

「そんなつもりはないが……そう思ったなら、悪い」

「……」


 壁に背を預け(もた)れる。

「……俺もさ、術が使えるようになってすぐに、操れなくなった時があった。まぁ……今もあるんだけど」

「……」

「自分が自分じゃないみたいで、周りの人も傷つけたよ」

「っ」

「お前のせいじゃないって、大丈夫だって何度も言われた。根拠もないのに」

「……それでどうしたの」

「とにかく死にものぐるいで術を抑えるのに必死だったよ。正直あんまし覚えてない」

「なんだそれ……」

「それほど必死だったって事にしてくれ。術の制し方なんて皆当たり前にやるんだ。わかるわけないだろ?」

「まぁ……」

「だから、どうやったかなんてよくわからないんだよ。できたからまぁいっかって」

「悩んだ割に適当」

「まぁな。術の事だって未だ解明しきれてないんだ。前の時なんてもっとわかるかって」

「……確かに」

「だけど、引きこもってるだけじゃ解決はできないだろ」

「そんなの、わかってる」

「お前の問題かもしれない。でもお前だけの問題じゃないだろ」

「なにそれ」

「哉妹も、自分のせいだって責めてる」

「そんなのわかって、る」

「わかってない」

「わかってるよ!!」

 由月は声を荒げる。


「ならどうして、応えてやらない」

「っ」

「哉妹はお前の問題をお前だけの問題じゃないって思ってるから、自分も悪いと思ってるんだろ」

「! っ、それは……」

「……由月にも由月なりに思う所があるんだろうけど、哉妹を想うなら返事くらいしてやれよ」

「……」

「向き合わないのが優しさと思うなよ。時にはそれが、癒えない傷にもなる」

「わかったことを……」

「……側に、手の届く所にいるんだから。どんな形でも、支えてやれよ」

 梛莵は座り込み膝に顔を埋める。

「朱鷺夜……?」

「はぁ」

「呆れてるでしょ……」

「……まぁ」

「ほんと、何しにきたの」

「え、伝わらない? 俺の渾身の思い」

「なにそれ……でも、まぁありがと」

「……。由月、お前ここ開けろ」

「は?」

「開けて、顔見せろ」

「や、やだ」

「嫌じゃない開けろ」と雑になっていく梛莵。

「ちょっと面倒くさくなってるでしょっ!」

「当ったり前だろ! お前は駄々こねてる小学生かよ!」

「ほんと何なの!?」

 扉をこじ開けようとする梛莵に、由月は開けられまいと押える。


「傷つけるのを恐れんな」

「!」

「傷つけていい。傷つけられるのが嫌ならお前と向き合おうとなんかしないだろ」

「っ、俺は傷つけたくない」

「知るか。こっちは怪我するのなんて任務で慣れてんだ」

「そういうことじゃないでしょ……」



 哉妹は騒いでいるのが気になり階段側に来ていた。


「(話してる。雅、やっぱりあたしじゃだめだったんだ……)」


「俺は、チサを傷つけたくないんだ」


「!」

「だったら尚更、閉じこもるなよ」

「っ今だって、俺は術が仕舞えないんだ」

「……」

「そんな中、向き合える訳ない。傷つけるってわかってる」

「……そうか」


 梛莵は哉妹に気付いており、こちらに来るよう手招く。

 後は任せた、と背を押す。

 哉妹は戸惑いながらも頷き、扉に向く。

「雅」

「っ!」

「その、あたし……」

「……」

「……傷つけていいよ」

「なっ」

「傷くらいどうってこと無いよ。あたしは、雅と向き合えない方が、苦しい」

「でも……」

「ここ、開けて? 顔見せてよ」

「……」


 駄目か。そう思っていると部屋の鍵が開き、扉が少し開く。

「雅っ」

 哉妹は扉を勢いよく開け、由月に抱きついた。

「ちさ、」

「馬鹿っ! 馬鹿、馬鹿……雅の馬鹿ぁ」

 糸が切れたように泣きじゃくる哉妹を由月は抱きしめた。

「ごめん、なさい……」

「心配したんだからっ、一人で抱え込まないでよ」

「っ」

「あたし、雅いないと何もできないよ」

「……」

「一人で起きれないし、髪の毛だって結えないもん」

「それは……できるようになろうよ……」

 梛莵は少し離れたところで頷く。

「できないもん……あたし一人じゃ、雅がいないと……」

「チサ……」

 あとは二人で大丈夫だろう、梛莵は邪魔にならないよう、一階に降りる。


「〜っ、雅は一人でよくてもあたしはだめなの!」

「ごふっ」

 哉妹は抱きついたまま由月に頭突きする。

「チサ、痛いよ」

「あたしだって痛いよ。これはあたしの痛み、雅に対する思いだよっ」

「!」

「でも雅がいるなら、こんな痛み、痛くないもん。耐えられるよ」

「ははっ……何、それ」

「あたし、真面目に言ってるんだよ」と頬を膨らませる。

「うん、うん。ありがとう、ごめんね」

「もう……ふふっ」

 安心したように二人は笑う。


 自然と、張り巡らされた糸は消え、解かれていた。


「あ、糸が……」

「……治まった?」

「わからない、けど大丈夫な気がする」

「そっか」

 そう哉妹は微笑んだ。


 * * *


「仲直りはできたか?」

「朱鷺夜……」

 リビングに降りると梛莵はお茶を啜っていた。

「雅、おはよう」

「母さん……帰ってたの」

「千智まで泣かせて、この子は」

 そういって哉妹を撫でる。

「ごめんなさい……」

「全くよ、心配したんだからね」

「ん……朱鷺夜。巻き込んで悪い、ありがとう」

「ありがとうね、朱鷺夜くん」

「いや、俺は何も」

「ふふっ梛莵のおかげよ、ありがとう」

「あー……うん」

 梛莵は照れくさそうに目を反らす。




「学校、来いよな」

 梛莵は由月に念を押す。

「うん」

「あと哉妹泣かすなよ」

「う……わかってる」

「ふふふっ」

「じゃ。また明日……じゃないな、来週」

「梛莵、ありがとう」

「ありがと」

「……ドウイタシマシテ」

 何度も言われるのは照れる。そそくさとその場を去っていく梛莵を見送り由月は哉妹に向き直す。


「チサも、ありがとう」

「! うん。どういたしまして」


 * * *


 [学校 生徒会室]


「終わったか」

「梛莵」

「おかえりーこっちはとっくに終わってるよ」と羽蘭はチョコレートを頬張っていた。

「待たせてたか。悪いな」

「いやいいよ。……どう? 解決はした?」

「あぁ。大丈夫そうだ」

「そ」

 羽蘭も羽蘭で二人を気にしていたようで、安心した表情をしていた。


「二人か?」

「うん。さっきまで十也もいたけど梛莵ももう来るって言ったらじゃあ明日奈とデートするって帰ったよ」

 そういってにやにやする。

「俺のせいなんだけど……あんま振り回してやるなよ」

「? なんで梛莵のせい?」

「お前……まじか」


 裙戸は羽蘭と纒憑である燐を二人きりにはしたくないのだろう。だから俺が来るまでは一緒にいるようにしているのだ。


「危機感ないなぁ。俺が言うのもなんだけどあんま心配させんなよ」

「うん?」

「はぁ……燐、帰ろう」

「あぁ」

 後ろで「ちょっと、何の話?」と言っている羽蘭に(裙戸の奴不憫だな……)と思う梛莵だった。



 * * *


 [弧山(こやま)神社 柑実家]


「あら如ちゃん、おかえりなさい」

 掃き掃除をしていた女性がこちらを向く。


「姉さん、ただいま。父さんは?」

「休んでるわ。今日は調子、良くないみたい」

「そっか……」

「如ちゃん……どうかしたの?」

「なんでもないよ。ちょっと気になっただけ」

 そういって柑実は家に入る。




 柑実は縁側に座り、一人考え込む。


「(今は、一人にした方がいいよな)」


 本当は父を確認して、安心したかったがやめた。

「ふぅ……」

 縁柱に寄りかかり目を瞑る。


「(なんで、あいつは父さんを知ってるんだ。でも『望』なんて名前珍しくもないし、人違いな可能性だって……)」


 事件以来あまり長い間の外出をしない父を探すくらいには知っている、と言うことはおそらくそれより前。


「前線に立ってた頃? そんなの随分前の事だぞ」

「何の話だい?」

「! ……父さん」


 驚いて振り返ると父【(のぞむ)】がいた。


「体調、大丈夫なの」

「問題ないよ、少し目が疲れただけだから。それに飾未(かざみ)からナオの様子見てきてーって言われてね」

「姉さん……何でもないって言ったのに」

「ナオはわかりやすいからね。何か嫌な事でもあったかい?」

「……いや、本当になんでもないよ」

「そ」

 望は横に座り「夕方は冷え込むね」と白い息を吐く。


「……ナオ、やめたくなったらやめなさい。ナオが背負う必要はないからね」

「――やめないよ。俺なりに……自分と向き合いたいんだ」

 正直、自分でも今をどうしたらいいかなんてわからないんだ。


「――いつの間にか、大きくなったねぇ」

 望は柑実の方に手を伸ばし、その手を柑実は支える。

「でもね、あまり抱えるものじゃないよ。ナオは私みたいになって欲しくないからね」

「みたいって……父さんは十分立派だよ。俺は尊敬してる」と支えている手を握る。

「ふふっ恥ずかしい事言うね……ありがとう」

「……父さんは」

「うん?」

「……なんでもない。風邪引くから中に入ろう」

「ナオ……」

「心配いらないよ。俺は大丈夫だから」

 そういって望の手を引き部屋に入る。



ブラコンとシスコンの双子。ファザコンの幼馴染。

コンプレックスがいっぱい。

ちなみに主人公はファザコン強めのファミコン。

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