46. 鈴の音、響く
[不動総合病院 総合診療科]
受付に声をかけられ葵は頷き入室を促す。
「やっと来た。引きずって連れてこようかと思ってた所だよ全く」
葵は呆れたように目を向ける。
その先にはラフな格好をした宇和部が不機嫌そうに立っていた。
「悪かったな……」
「まぁいいや。今日の体調は?」
「特に問題ないが」
「そう? ならよかった。はい、じゃ検査周ってね」
宇鶴ちゃんよろしくー、と言われ宇鶴は頷く。
「あ? 検査? 何の?」
「色々! お前内容先に言うと逃げそうだもん。あ、採血もあるから」
「さ、採血……」
「大丈夫痛くはしないよ。チクッとするだけ!」
「それが嫌なんだろう……」
「ガキ……大人なんだから我慢しろよな! 注射くらいでこの子供は……」
「言い換えられてねぇよクソ猫」
「む! なんだよ、新薬打ち込むぞ! 注射嫌いな継夏くんの為の座薬タイプ! ケツ出しなぁ!」
葵はどこからか座薬を取り出すと宇和部に向ける。
「ざけんじゃねぇよ!!」
「宇和部さん早くして下さい」
「あ、はい……」
「やーいおっこられてやんのー! にゃっはは!」
「院長、その薬は没収です」
「あ! 俺の新薬っ!!」
持っていた薬は宇鶴によって奪い取られてしまう。取り返そうと暴れる葵は同席していた晴雨時に猫のように後ろ襟を掴まれていた。
宇鶴は握り潰すと部屋の奥へと進み――水道の蛇口を捻った。
「にゃぁぁぁぁっ!!? お、俺の新薬ちゃんーーーーっ!!!」
いともたやすく行われる行為に葵の泣き声が院内に響き渡る。
日常茶飯事なのだろう、他の看護師は驚きもしていなかった。
というより得体の知れないもの流して大丈夫なのか……。
まぁきっと大丈夫なのだろう。
「没収されんのわかってて学習しないな」
「そうですねぇ」
晴雨時も感じてはいたようで苦笑いしていた。
* * *
「――結果が出るまでしばらくかかるので、院長の方からご連絡が入るまでは自由にしていただいて大丈夫ですよ」
「はい、お手数おかけしました」
「いえ、逃げられては捕まえるのが面倒なので」
「流石に逃げませんよ……」
外の広場でベンチに座り珈琲を啜る。
「……」
宇和部は自身の手を見つめ、数度握り感覚を確かめる。
「(俺は体調が悪いとかは、言ってない。術力が出てた? そしたらわかるはず)」
花壇の花に触れる。
手入れがされているのだろう、綺麗に咲いていた。自分にはできない芸当だ。自然と溜め息が出る。
ふと後ろから肩を叩かれ振り向く。
「つーぎちゃんっ、やっほー! 継ちゃんが病院にいるなんて珍しいね、病院嫌いなのに」
そこには羽蘭が立っていた。
「あー、はは……まぁ、健康診断ってやつだ」
「そうなの?」
「そんで今はあいつの呼び出し待ちだ」
「……」
「緋月?」
継夏くーん、と名前を呼ばれ目を向けると晴雨時がこちらに近づいてくる。
「あれ、アツキちゃん。院長?」
「うん! 元気かなーって会いに来たの」
「そっかそっか。いや羨ましいね、若い子が会いに来てくれるなんて」
「あはは、まこっちゃんだって若いでしょ?」
「「ゔっ……」」
「?」
曇りなき眼と純粋な発言が鋭い刃となり宇和部と晴雨時の心を突き刺す。純粋って怖いな。
「あ、はは……まぁ今ちょっと忙しいかな。会うのは難しいかも」
「あらーそっか。じゃあまた今度会いにくるって伝えて!」
「うん、気をつけて帰ってね」
「うん! 継ちゃんもばいばーい」
「おーじゃあな」
二人は手を振り去っていく羽蘭を見送る。
「継夏くん、院長が探していたよ。電話出ないから逃げたんじゃないかーって言ってたけど」
「え? あ、マナーモードにしてたから気づかなかった……すみません」
「はは、まぁそんな時もあるよ」
* * *
『雪那、ご主人はぁ?』
「ん? 部屋居らんの?」
『うん、温室にもいないの』
「なんや出てきた思ったら全く……」
呆れていると扉を叩く音が響く。
「井守宮、いるか?」
「お? 居るで、入りぃ」
扉を開くと訪れるには珍しい客だった。
「何や珍し。どしたん千也」
「ちょっと調べてほしくて。今大丈夫か?」
「嫌や」
「……」
「い・や・や!」
「まだ内容言ってねぇだろうが……」
「千也の頼みとか面倒くさそうやもん嫌やわ」
「どういう意味だおい」
「そのまんまや。可愛い十也を見習いや」
「なんで息子を見習わないといけねぇんだよ」
そう言うと千也は舌打ちをし、不機嫌になる。
「おー怖。また喧嘩したん? 全く仲良くしぃよ。朱弥んとこ見習ぇ」
「誰があんな奴見習うかクソが」
「あんなぁ……一応名目上は上司やぞ」
「ふん。……上司じゃなけりゃ関係なんか切ってるっつの」
さらに眉間にシワが寄る。
「で、何や?」
「……水下の――」
* * *
[診察室]
「来たな反抗期!」
「反抗期じゃない。悪かったな気付かなくて」
院内放送で『迷子のお知らせ』してやろうかと思ったよね! と葵はぷんぷんっと効果音が付きそうな顔で頬を膨らましていた。絶対にやめろと言うと「どーしよっかな〜にゃふふっ」といたずら顔で笑う。
そんな事をしていると宇鶴に威圧され葵は「にゃぅ……俺院長だよ? 院長なんだよ?」と縮こまる。
いつもやたらと『院長』を口にする。……まぁ、見た目もガキ……若い方だから自分で言わないと知らない奴には研修医に間違われるのだろう。
「そんで? 何調べたかったのか知らんが、結果は?」
「あぁ、うん。健康体だったよ」
「あ、そ。じゃあ問題ないんだな。帰るわ」
宇和部は立ち上がり扉の方へ向く。すかさず服を掴み引っ張る。
「最後まで話聞けよー! 俺がただの健康診断でわざわざ呼び出すわけないだろ! 院長暇じゃないんだぞ!」
「じゃあ何調べたかったんだよ……」
大事なのは問診だよ、と言って宇鶴に席を外させる。
「さて、継夏」
スッ、と耳を指し問う。
「――――お前には、『何』が聞こえるの?」
* * *
「梛莵、梛莵、起きてくれ」
「ん、んん〜? どうしたの?」
「完成している」
「え! もう!?」
見ると机の上には垂れ耳のうさぎのぬいぐるみが出来上がっていた。しかしパーツがなかったからか目は黒いボタンが付けられていた。
「燐器用なんだな。俺が言い出したのに全部やらせてごめん……」
「いや、私じゃない」
「え?」
「鈴ではないかの」
「え!?」
「あぁ。おそらくな」
「おそらくって……」
「『私』も寝てしまっていたし、ピヨ助は私が作っていたと言っていたからな」
「……そうなのか」
鈴。本当にいる、のか?
「ナイショと言われたがの。これは隠せんじゃろ」と出来上がったぬいぐるみを指す。
「なぁ燐、鈴と疎通出来るんじゃないのか?」
「あぁ。だが今は眠っているのだろう、返答がない。……確認はできないがそうとしか考えられないだろう」
「まぁそうだな。そっか、『外』に出てきたんだ」
喜ばしい事だ、そう笑う燐。閉じ籠もっていたからだろう。
鈴がどんな子かも知らない。
野生児なのだろうと思っていたが……そうでもなさそうだ。
いつか、起きている時に俺の前にも姿を現してくれるだろうか。
* * *
「――ん。」
「あ、燐起きた」
夕食の支度をしていたのだろう、部屋には良い香りが漂う。
「また寝てしまっていたか?」
「うん。まぁ燐はさっきも寝てたかもしれないけど、鈴が起きてたんなら身体は休まってないだろうし……」
「そうだな……」
鈴。
《聞こえるか?》
――……
《眠って、いるか》
――……
《……》
――燐ちゃん
《鈴!》
――ごめんね
《何を謝る。謝らなくてはならないのは私だろう》
――どうして?
《私がいる表は鈴の居場所だ。私ではない》
――でもその居場所を作ったのは燐ちゃん。私じゃない
《それは鈴がいてくれるから》
――……
《鈴》
――もう少し、眠らせて
《……わかった。鈴、私の事は気にかけなくていい》
――……
《鈴がこちらへ出たいと思えたら、いつでも替わる。私がすぐにでもここを出られるわけでは無いが、きっと梛莵達が方法を見つけてくれる》
――燐ちゃん、私は燐ちゃんとお別れはしたくないよ
「……大丈夫、私はいつでも側にいる」
梛莵は「拓人達に声かけてくるよ」と立ち上がる。
――あ……仕上げにリボン、付けないと
《あぁ、そうだな》
「私はリボンを付けてよう」
この鈴も、音の鳴るように。
* * *
携帯を取り出すと何件もの着信が入っていた。
出なかったのなら伝通石に繋げればいいのに、と耳に触れるとピアスがなく忘れてきた事に気づく。
折り返すのも何だか気が引けて気付かなかったフリをしようと仕舞おうとした時、井守宮から着信が入る。
「……もしもし」
《やっと出たか。継、どこ居るん》
「不動の所。もう戻る」
《病院か……そか、気ぃつけて帰ってき》
「あぁ」
「ふぅー……どう誤魔化すか……」
* * *
葵の言葉に宇和部は目を見開く。
「な、にが」
聞くな。
「だから、お前の耳にはなに――」
やめろ
――――ダンッ!!
診察室に机を叩く音が響く。
「継、」
「……んで、」
一番に気付くのが、お前なんだよ。
「図星なんだろ。あんま俺をナメるなよ」
宇和部は俯き、歯を強く食いしばる。
「それで、症状はいつから」
「……」
「継夏」
「何で、気づいた」
こっちの質問は無視か。いや、余裕がないと見ればいいか。
俯いたままの宇和部に葵は「時々お前は反応が遅いから」と答える。
「最初はボーッとしてるだけかと思ったけど。話してる時、お前は目を見てるようで見てない時がある。そん時は口元を確認してるんだよ。無自覚?」
「そう、だったか」
「支援班に回ったってのも、それが原因?」
「……あぁ。現場で症状が出ても対処できないし、依頼人の話が聞き取れなかったら困るし」
顔を上げるが目は合わない。
班が変わったってのを聞いたのは半年くらい前だった。それより少し前くらいから、だろうか。
「ふーん。今は? いつから?」
「聞こえない。……はっきり聞こえるようになったのは一年くらい前から」
はっきり、ね。ならもっと前からか。
「なんでもっと早く来なかったんだよ……他に症状は?」
「今の所はない。幻聴、だけだ」
それにちゃんと区別はついている。
「元々、耳鳴り程度はあったんだ。疲れのせいだろって……そのうち、聞こえなくなると思ってたんだ。別にしょっちゅう聞こえてるわけじゃない」
宇和部の言葉に葵は静かに耳を傾ける。
俺は問題ない。
「今だって、」
声なんて聞こえない。
「俺は……」
俺は正常。
「……なぁ、俺は、おかしいのか?」
――怖い。
「継夏……どんな時に聞こえるとか心当たりは?」
「ない。聞こえるタイミングも、聞こえなくなるタイミングもわからない」
「どんな風に聞こえる? 話しかけられる感じとか、周りが単に騒がしいとか……内容はあんまし聞き取れないけど、とか」
「……助けを、求められてる感じ、というか」と小さく呟く。
「助け?」
「あぁ。あと来ないで、とか痛いって。……一応区別はちゃんとついてる。幻聴、なのか……そうでないかは。でも両方聞いてると、その……つ、らい」
辛い。
絞り出すように吐き出す言葉。葵は息子の姿を重ねる。
「なるほど、それで引き籠もってたワケね」
「ん……」
頷く宇和部の視線は下を向いたままで合わない。
「(柊季、お前どこにいるんだ。自分の子供も、弟分もほったらかして)」
誰かに気づいてはほしかったのだろう。だが気づいてほしい相手は自分ではない。本当は区別も難しいのだろう。
「正直、俺の専門分野じゃないし本来下手な事は言えない」
「……」
「でも一つ、継夏の場合ちょっと気になるとこがあってさ」
「気になる所?」
「術の種類。お前は妖術保持者、妖の力を継いでるってのはわかるでしょ? 要は妖族の血を引いてるって事になる」
「そうだな」
「じゃあお前は何の妖族なの? 井守宮みたいに見た目じゃわかんないし」
「知らない。……俺は自分が何者なのか、ずっとわからないんだ。お前、俺が小さい頃の事、覚えてないの知ってんだろ」
宇和部は幼少期の記憶が抜け落ちている。
四つの時、養護施設にやってきたそうだ。
その時すでに記憶が曖昧で自身の事もいまいちわからなかったらしい。
持っていた荷物の中に表紙の子の氏名欄より上の部分を破かれた母子手帳が入っていたらしく最低限の情報は得られた訳だ。
捜索はしたが両親は行方知れず……という事になっている。
その後とある一件を機に井守宮に引き取られたのだ。
「まぁ。……少しでも何か思い出したりとかは?」
両親の事は宇和部自身、知らない。
「さぁ……どうだろうな。柊季に連れてこられた時からしかあんま覚えてない」
知らされていないから。
「そう……とにかく、専門医に継ぐからカウンセリング受けろ」
俺からどうこういう事ではない。詳しくは知らないし。
「色々聞いといて結局投げんのか」
「だってお前、俺じゃ嫌なんでしょ?」
「別にそういうわけじゃ……」
「……ごめん、口出しといてなんだけど正直俺が無理なの。精神的なのは専門外ってのもあるけど、俺がつられてくるんだわ。お前にアドバイスなんか出来る余裕、今はない」
「……」
「一度専門医と話してみ。楽になるかもしんないだろ」
「……あぁ、手間かける」
「他には伝えない方がいいの?」
「あぁ」
「井守宮には」
「言わないでいい」
落ち着いたら自分で話す、と話の幕を閉じた。
* * *
他の医師と確認を取り合う。
健忘、幻聴……脳も耳も異常なし、と。外傷の跡もなし。術力による身体への影響も見られない。体格の割に少し痩せ気味、多分引き籠もって食ってないんだろな。
他に考えられるのは過去の影響か。
井守宮に引き取られる以前の事は柊季しか知らないし、柊季も知ってるかは正直怪しい……。
あとはどういった経緯で養護施設に来たか。
「施設……」
そして……柊季が出た後、施設で何が起きたのか。
柊季経由で望なら何か知ってるかもしれない。落ち着いてきたと思うけど……。
でも今は望に負担は掛けたくない。また何か引っ掛かりがあって再発するかもしれない。
「はぁー……」
葵は首に掛けている指輪を弄りながらため息を吐く。
* * *
「たーくとー」
梛莵は拓人宅の呼び鈴を鳴らし声を掛ける。
すると一芽が部屋へと招いてくれた。
「へい、らっしゃい」
「ナト兄! らっしゃーせー!」
「ここは店か。お前はいつでも元気だなぁ……」
「どうかした?」
「あぁ、人形が出来たんだ。拓美さん出せる?」
「もう? 呼ぶよ」
《童輪の鏡 ――聲に従い姿を晒せ》
召喚した鏡には拓美の姿はなく、拓人らの姿のみが映る。
「あれ、いない。拓美って鏡に戻ったよね?」
「うん、晩ご飯の前に、戻してた」
「もしかして……鏡出?」
「家出みたいに言うなよ」
「ノックしてみる? 縁起悪いかな?」
「お前縁起とか気にするのか」
拓人はノックをしようと手をかざす。
「拓美――『ちょっと! 乙女は準備に時間がかかるの! 少しくらい待ちなさいよ!』出てきた」
鏡に触れる前に拓美は姿を見せた。
「何の準備?」
『それを乙女に聞くなんて、やっぱりあんた乙女心がわかってないわね』
「拓人、この鏡割っていい?」
『わ、悪かったわよぅ! 待ちなさいよー!!』
拳を構える梛莵を制止するように慌てて謝る。もはや狙って喧嘩売ってるのかと思えてくる。
「はぁ……拓美さん、ちょっと鏡から出てきて。人形出来たから」
『え? もう出来上がったの?』
「うん。まぁ造ったのは俺らじゃないんだけど……」
『……そう』
残念そうな顔をする拓美。まぁ……そうだよな。
「えっと、ごめん」
『べ、別にあんた達に期待なんかしてないもの! ふんっ!』との事。
へー、ふーん。心配はいらなかったようだ。損した。
「はいはい。今燐が仕上げにリボン付けてくれてるから、来て」
『あ! あの赤いやつね! うふふ、拓人のネクタイの色とお揃いよ!』
「そっかー」
それ俺らともお揃いになってるけど黙っとこ。
* * *
「連れてきたよ」
「あぁ、おかえり。丁度調整? し終わった所だ」
うさぎのぬいぐるみの首元には赤いリボンと――ベルがあしらわれていた。
『へーよく出来てるじゃない』
「燐ちゃん、これ、付けてもいい?」
「ん? 作ったのか、すごいな」
「分けてもらった、リボンも、付けた」
「うむ、可愛いな。そしたらこっちにリボンが垂れるようにして……」
「たれ耳で、よかった」
「そうだな。ん、飾り気? がついて華やかになった」
「首のもふもふ、気持ちいい」
「ねぇでかくない?」
「そうだな」
「俺ポッケに入るやつって言ってたよね。あれ、言ったよね?」
「そうだな」
「あれ入るわけないよね」
「そうだな」
「梛莵なんで目逸らすの?」
「だって本人がご所望なんだもん! 拓美さんに言って!!」
「燐ちゃんが枕持たせてきたのってこういう事なのね……」
一芽の作ったハット帽を飾ったうさぎはくるりと身を翻す。
「どう?」
人形に入る拓美は腕を動かしたり跳ねたりと動作確認をする。鏡で全体を見ては満足気にベルを鳴らした。
『ふんふん。そうね……可愛くはないし不格好だけど』
「あのねぇ……せっかく鈴が作ってくれたのに」
『鈴?』
「あ、あー言ってなかったっけ? 燐もマトと同じ纒憑。だけど身体の子も残ってるんだ」
「えーと、じゃあ燐ちゃんは本当は燐ちゃんじゃないって事?」
「まぁ……そういう事かな?」
燐は頷く。
「この身体は鈴のものだ。私は鈴に……住まわせてもらっているというか」
「燐ちゃんは借り住まいの達人なんだね」
「そ、そうな……鈴には俺も会ったことないんだけど」
「そうなの?」
「理由があって表立ちたくないみたいで」
「でも少しでも出てきてくれたんだ。梛莵の前にも出てきてくれる日が近いかもしれないな」
「だといいけど」
『ふーん、だからあなた魂が二つあったのね』
「わかるのか」
『ふふ、私はあなた達とは違うから〜』
「……そうか」
『な、何よ。別に当たり前の事言っただけじゃない』
「あーいや、本当にちゃんといるんだなって思って」
「梛莵……」
「悪い、燐の言う事を信じてないわけじゃないんだ。けど前にピヨ助にも言ったように言葉だけじゃ、証明にはならない」とピヨ助を撫でる。
「いや、大丈夫だ。私が纒憑だとはわかっても鈴が残っているとはただ見ただけではわからないのだろう」
『鈴……ふーんそうねぇ……でもま、いいんじゃないかしら。なんだか……温かいわ』
なんだかんだ言いつつも気に入った様子だ。
拓美の言葉に拓人は少し驚きつつも小さく微笑んだ。