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逢想の纒憑  作者: 中保透
三章 童輪の鏡
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43.心境


「ん、んーっ! 久々の外!」

 朝早く梛莵は荷物をまとめ病院を出る。


 様子を見に来た葵は「早いね〜もうこれから学校行くの?」と言う。

「はい、退院の報告と燐の迎えもあるので」

「にゃふふっ彼女のお迎えか〜若いねぇ」

「あのですねぇ……彼女じゃないですよ」

「わかってるって。ま、治ったといってもまだ万全じゃないから無理はしないように、いいね?」と葵は梛莵に釘を刺す。

「はーい」と返事をすると「返事は伸ばさない」と軽く小突かれてしまう。

「う、はい」

「よしよし、また来るだろうけどすぐに再入院、なーんてのはやめてよね〜にゃはは」

「ははは……ありがとうございました」

「ん、お大事にね」


 見送る葵に挨拶をし梛莵は学校へと向かった。



 * * *


 学校に着くと昇降口にいた双子がこちらに気づき哉妹は待ってましたと言わんばかりに駆け寄り飛びつく。

「ぅわっ!」

「よかった〜! また天に召されなくて!」

 登校早々距離感のバグった挨拶ハグにドキッと照れる……どころではなく梛莵は抵抗する。

「いや前も天には……召されてな、いからっ、ちょ、哉ま、首締まっ、ぐ……」

「チサ強く抱き締め過ぎ、首締まってるよ。大丈夫?」

「ありが、とぉ……(死ぬかと思った……)」

「ご、ごめんね?」

「大丈夫……」

 嬉しそうに「んふふ、梛莵、朗報よ朗報!」と言う哉妹。そんな哉妹を由月は「言っちゃ駄目って言われたでしょ」と止めに入る。

「何? すっごい気になるんだけど……」

「後でわかるよ。ほら朱鷺夜、柑実達待ってるから教室行こう。鞄持つよ」

「ありがとう……え、これお迎えなの?」

「そうだよ? 葵さんから学校に向かったって柑実に連絡きたから」

「あたし達が迎え行くーって来たの!」

「あはは……わざわざありがとね」


 * * *


 教室にはホームルームが始まるまでいつも自由な時間を過ごしている生徒達。が、なぜか今日は早めに担任が来ていたので自然と席についていた。

 そんな生徒達に担任は教卓に肘を付き突然「お前らさ、どう思うよ」と問いかける。

 もちろん担任の発言に皆疑問符を浮かべていた。


「主語がないぜ? 名前も明かされてない担任さんよ」

「おいやめろ気にしてんだから」

「自分で名乗れば良いんじゃねぇの?」

「担任は担任でいいんじゃないですかね」

「みのりんとかみたいにぃ、出番って出番なさそうだもんねぇ? アハハ」

 問いかけとは別に気にしていた事を言われ「くっそ、誰でもいいから俺の名前呼んで紹介してくれ!」と声を荒げる。

 切実な担任の頼みをよそに生徒達全員は声を揃えて


「「担任」」


 と。もちろん担任は「ちっがう!!」と否定した。



「で? 何がどう思うかって?」

 反れた話を引っ張り戻し柑実は本題を聞き直した。

 担任は「この学校……このクラスの転校生の多さよ」と腕を組み黒板に寄りかかる。

「この学科にきた転校生がこのクラスになるのはこの学科は一学年一クラスしかないからだろ?」

「だとしても! 小中じゃあるまいしこんな転校が続くか阿呆! しかも変な時期に変なのばっか! こっちの身にもなってくれ……」

 そう愚痴垂れる担任に曷代は「え、俺変?」というと柑実は「まぁここに来るだけすでに変わってんだろうな」と返す。

 その『変なの』に含まれる燐は自分の事だと思っておらずいつもながらに首を傾げていた。

「まぁいいじゃないですか。他のクラスよりは見る人数も少ないですし」

「じゃあクラス担当変えてもらいます? 学長に言っときましょ「やめて下さい俺が悪かったから」」

 裙戸に続いて笑いながら言う羽蘭に食い込み気味で止める。

 因みにこの学科は特殊な為、担任となる教諭は給料がちょっと上乗せされるのだ。



「戻ったわ! あれ、もうHR始まってたかしら?」

「まだ大丈夫だよぉ、名無しの担任が愚痴ってただけだからぁ」

「何愚痴ってるの? 彼女ができない事?」

「あ、梛莵くん! おはよぉ!」

「おはよ」

「おい梛莵、お前内申点引くぞ」

「梛莵くん梛莵くん、担任の名前はぁ〜?」

 突然の卯鮫の問いにピンときた梛莵は元気な声で答える。

「【市蓮(いちれん) 真也(しんや)】先生! おはようございます!」

「合格っ! 退院おめでとう!」

「うぇ〜い」

「うぇ〜いぃ」

 去り際に卯鮫とハイタッチをする。



「おはよう」

「梛莵、お帰り」

「ただいま。あれ燐、席の場所変わったの?」

「うむ」

 左隣から前に座っていた。席替えでもしたのかと思ったが変わったのは燐だけのようだ。

「とりあえず楜莵の席分詰めて埋めただけだ」

「そういう事か」

「というよりそのまま学校来て大丈夫なのか? まぁ無理すんなよ」

「あぁ。色々ありがとな」

「気にすんな」

「おーし、じゃあちょっくら連れてくるわ」


「何を連れてくんの? 珍獣?」

「何でだよ。転校生だと」

「また?」

「おう」

「よかったな、梛莵」

「え、何が?」

「何って「燐ちゃんストップストップ!」」と間入れずに曷代が制止する。

「なんで皆止めるの? 俺に知られちゃまずいの?」

 ムッとする梛莵に柑実は軽く笑い「自分の目で確かめろって事だ」と言う。

「確かめるって……」

「すぐわかる。まぁいい事か悪い事かはお前次第だが」

「えーどういう事……?」

「連れてきた」

「え、早」

「いや亜妻先生がそこまで連れてきてくれてたからよ、ほら入っていいぞ」



「え」


「……よっ。」

 前の制服とは打って変わって白いセーターを着た拓人がこちらを捉える。


「た、拓人!? なん……ぶふっ!」

 拓人の登場に気を取られ飛んできた蝙蝠姿のマトに気付かず顔面で受け止める。

「やっほーナト兄!」

「あぇ? マト!?」


「まぁ大半は知ってるだろう噂の灰原拓人くんだ。その梛莵に引っ付いてる奴がマト、梛莵の弟だ」

「弟じゃありませんよ!!」

「しっかし人外が着々と増えていくな……敵陣を招くなんてここの警戒態勢はどうなってるんだ」

 後付で梛莵に世話はよろしく、と丸投げ。

 横で聞いていた拓人は「何言ってるの? 俺は人間だよ」と反論。

 ブレず自分を保てているようでなによりだ。

「お、おぉ……そうだな、すまん」

「いきなり先生にタメ口とはやるねぇ」

「?」


 * * *


 燐の元席は拓人の席となった。最初から世話を押し付ける気満々だったなあの担任。


「転校してくるなんて聞いてないぞ」

「? 転校するって言ってたよね?」

「いやそうなんだけど……というかよく親許可出したな」

「まぁ最初は反対されたけど……」


  拓人は数日前の事を思い返す――



「――はぁ!? そんな所いいわけないだろう!」

「でも良いって言った」

「それは普通の学校だと思ってたからで……! だったらせめて普通科にしなさい!」

「でも梛莵達はその学科だもん」

「だもんじゃない、学科違くても学校一緒なら別に会えるだろう」

「良いって言った」

「ダ・メ!」

「やだ」

「嫌じゃない、何で自分から危険な所に首突っ込もうとするんだ。そんなの許可できる訳無いだろう!」

「でも、そこなら術の扱いだって嫌でも上達するだろうし……拓美やマトの事だって何かわかるかも知れないし……」

「拓美ちゃんはともかく……梛莵くん達とはマトくんの事で会ったんだっけか? だとしても! 駄目!」

「い・や・だ」

 変わらない表情のまま頑なに拒否する拓人に一風は頭を抱えた。

「こんな我儘今までは言わなかったのに……いや、我儘はまだいい、でもこればっかりは絶対に駄目だ!!」

「……パパ〜」

「パパ呼びしても駄目なものは駄目」

「チッ」

「舌打ち!? 拓人お前今舌打ちしたか!? そんな風に育てた覚えないぞ!?」

 父に対し拓人は聞かないと、いうようにツンッとそっぽを向く。

「拓人?」

「……」

「拓人。こっちを向きなさい」

「ふーんっ」

「はぁ……一芽ちゃんも拓人に何とか言ってくれない?」

 そのやりとりを眺めていた一芽に助けを求める。何か言ってくれるかと期待して。

「わたしも、拓兄と同じ。咲舞と同じ、学科がいい」

 だが期待は速攻で切り落とされた。

「何で!? 一芽ちゃんは学年も違うんだから同じクラスになる事はないよ!?」

「ボコボコに、殴り飛ばしたい人、いる。だから力、付ける」と拳を見せる。

「いや物騒! 女のコが何言ってるの!」

「お姉ちゃん、否定した。許さない。咲舞に膝枕、してもらってた。許さない」

「何で膝枕!?」

「わたしも、咲舞に膝枕、してもらいたい」

「学校関係ないよね!? その子に会えればいいよね!?」

「やだ」

「二人共あのね? 許可するしない関係なくせめてちゃんとした理由言ってくれないかなぁ?」


 二人は顔を見合わせ頷く。いや何? お父さん二人がわかんないよ……。


「術の上達と拓美とマトの身元調査、梛莵がいる」

「お姉ちゃん、認めさせる。奴、殴る、咲舞もいる」

「ねぇ一芽ちゃんは説得する気ある?」

 脳筋? 脳筋なの?

「でもお母さんは俺の好きにして良いって言った」

「そんな訳ないだろ。私は母さんから何も聞いてない」

「お母さんはお父さんから転校の話聞いてないって言ってた」

「うぐっ……」

「お父さんの独断って事でしょ。お母さんに隠し事って事でしょ」

「隠し事ってなぁ……ちゃんと話すつもりでいたよ。順番が違えただけで」

「……お父さん、俺が転校できなければって思ってるでしょ」

「そんなわけないだろ? 普通科なら良いって言ってるじゃないか」

「……本当?」

「本当本当。だから……」

「なら特科で」

「なんでそうなる!」

「じゃあ転校はなし?」

「それはなし」

「お父さん過保護だと思う」

「いーや普通だ。お前がおっとりし過ぎだから心配なんだろ!」

「そんな事ない。あとお父さんうるさいからもうちょっと静かにして」

「あのなぁ……」


「ここお引越し、するの?」

「ん? まぁここと離れた所に行かせるつもりだから結局はね……」

「なら、砂中街」

「もう梛莵くん達の学校通う気じゃないか……まだ決まってすらいないよ?」

「? うん、そこ、絶対行く」

「う、うん……そうか…… (一芽ちゃん、拓人の性格移ったのかなぁ……)」


 * * *


「日置いたら急にいいって言い出したんだよね。転入試験も免除されてラッキーだったけど」

「え、免除? そんな事あるの?」

「高校の転校初めてだしわかんない……」

「そういえば拓美さんは? 鏡の中?」

「うん。まだよく知らないとこだし、前に引き離されたのがトラウマになっちゃったみたい」

「あらら……」

「慣れたら出てくるって言うと思うよ。まぁそれに初日に人形持ち歩くのはちょっと……」

「それ気にしてたんだ……」

「荷物になるし」

「そこかよ」

「それはそうと」


「改めてよろしくね」

「……あぁ、よろしく」


 笑顔とは言い難い、複雑な表情で返す梛莵に拓人は「そんな顔しないでよ。俺が決めた事だし」と言っていた。



 * * *


「ねぇねぇナト兄」

「ん?」

「咲舞はいないの?」

 いっちゃんが咲舞によろしくって言って〜と言われたという。

「あぁ、えっと……」

 教室を見回す。そういえば見てないなと思っていると燐が「咲舞なら琉山と朱弥も一緒に任務だと言っていたぞ」と。その補足を柑実。

「事後調査、あの後の現場確認になかなか入れてもらえなかったらしくてよ。あ、後で報告書提出しろって」

「うん、聞いてる。そっか……現場にいたのは俺達以外はあの二人だしな」

「私はいた所でわからないからな」

「まぁ……と、言っても校内駆け回ってたのは俺らだけど」

「だから一緒にいたピヨ助も連れてってる」

「そうなのか」

「後説教でもされてんじゃね。自分とこの生徒が他校に無断で侵入した上に暴れ回ったんだから」

「う……わかってるよぉ……」

「まぁ、結果的に纒憑の討伐はできたんだ。問題ねぇだろ」

「いや問題なくはないんだけど……」

「何を起こすにも犠牲は付きもんだ。纒憑による魂喰(こんしょく)被害が免れただけましだろ」

「え? でも、見回りの人……」

「奇跡的に無事。その日の記憶は曖昧みたいだけどな」

「今は葵の所でしばらくは様子を診るらしい」

「そうなのか……よかった」

「しかし運が良いのか悪ぃのか。たまたまお前らがいたから無事でいれたものの……深夜の校内警備で事件に巻き込まれるなんて思わないだろうな」

「あはは……」


 話混んでいると突然教室の扉が開かれ生徒達は皆目を向ける。


「遊び、きた」


 そこには新しい制服に身を包んだ一芽が立っていた。


 * * *


「そっちはどうだった?」

 朱弥の問いに琉山と南中は首を振る。

「ピヨ助のわかる範囲を見た感じ、残って無いです」

「置かれてた鏡自体が術、って事かしら〜」

「うむ……」


「あの……鏡がここ数週間のうちに増えていたのは先日の、何でしたっけ……幽霊みたいのが原因なのでしょうか?」

「纒憑です。そちらで撤去していないのであればおそらく。しかし増えている事に気づいてはいたんですね」

「そりゃ、校内に不自然に設置されてれば……最初は生徒のいたずらかと思いまして注意はしていたんです。なんの為にやっているのか不明ですし、深夜の内に設置している様子でしたので……。それに変な噂も立ち始めて肝試しをしようとする生徒もいたりして、丁度警備を頼んだ矢先の事だったんです」

「そういう事でしたか。鏡自体の形成には時間がかかってたって事か……」

「でも〜タイミングがよかったですね〜。もう少し遅かったら……」

「二人共、中央棟の屋上も頼む」

「……は〜い」

「あの子は今何を……?」

「……一歩遅ければ校内にいる生徒達全員が被害にあったかもしれない、と言う事です。今調べた感じであれば問題ないでしょうが、私的には鏡の総取替えをおすすめしますよ」

「大袈裟な……」

「まぁ、あくまで可能性の話ですので。修繕費と……灰原くんの壊した鏡の弁償費はこちらが持ちます。その旨はそちらからお伝えして下さい」

「え、あ、はい」

「見積書が出ましたらこちらの私用連絡先に一報いただければ。あとまだ気になるような事があれば……当たれる人数の関係で短期間にはなりますが、専門術者を警備に派遣しますよ」


 そう言うと朱弥は自身の名刺を差し出す。

 教師として、ではなく竒術師としての名刺。その意味を察したのであろう相手側は「派遣、ですか」と朱弥をみる。

 朱弥はにこりと笑う。


「こちらはビジネス、ですので」



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