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逢想の纒憑  作者: 中保透
三章 童輪の鏡
46/52

42.制裁


「“葵親衛にゃんこ隊”?」


「うん。葵さんなんか猫を従えてる人なんだよね、野良とかでも寄ってくる」

「猫に好かれやすいんだろな。本人も猫っぽいし……しかもちゃんと言う事聞くんだよ。葵さんの居場所がわからなきゃ猫に聞きゃ大体連れてってくれる。まぁ本人が拒否れば教えてくんねぇけど」

 凄いね、と拓人はもらった林檎を頬張る。

「ちなみに飼い猫は凶暴だぞ。独占欲がな……」

「ははは……」

「燐ちゃんは?」

「私?」

「猫さん、だから……」

 拓人に言われそういえば、と柑実は燐の方を向く。

「なんか感じるのか?」

「うむ……感じる、かはよくわからないが確かに葵の側は不思議と落ち着くかもしれないな」

「あの人の周り騒がしいけどね」


「何じゃ望みたいじゃの。あやつの周りにも色々寄ってくるぞ」

「まぁな」

 昔は二人一緒にいると周りが動物の溜まり場みたいになってたらしい。天然ふれあい広場かな。

「確かに望さんは望さんで鳥やらりすやらを引き寄せてるよな……」

「流石父さんだな」

「あ、お母さん林檎のおかわりちょうだい」と拓人。

「誰が母さんだ」

「母さん俺も」と梛莵も同様のに林檎の催促。

「ほら、よく噛んで食えよ」

「「ありがと」」

「否定をやめたな」

「如斗……」


 * * *


 [外科/診察室]


「何で朱弥さんまで傷だらけなんです?」

 宇鶴は引っかき傷だらけの朱弥を怪訝な顔で手当てする。

「こいつが集合かけやがりましてェ……」

「ふーん! 朱弥が悪いし!」

 ぷくーっと頬を膨らませる葵に院長は子供ですか、と呆れていた。



 〜ちょっと前〜


「「ニャーーッ!!!」」

 襲いかかる数匹の猫、猫、猫。

 どこにいたんだ、スタンバっていたのかと思うくらいの勢いだ。

 当の本人は他数匹に守られ被害者面。

「ぎゃーー!! 痛、あおっお前なぁ!!」

「べーっ! 朱弥が離さないのが悪いし! 俺のキュートなベビーフェイスを鷲掴みなんて!」

「お前は女子か!!」

「文句言うならお前が止めればいいだろ! もうっ! ついでにあっちも突撃! 行っくよ〜にゃんこ達!」

「ニャニャーッ!!」

 猫達も葵の掛け声にしっかり返事をし、一風達の元へと前進する。もう医者辞めて猫使いで食っていけるんじゃないだろうか。

「ちょ、ま、待ておい馬鹿!」

「威嚇部隊取り押さえ!」

 フシャー! と朱弥に噛みつく通称威嚇部隊。

「ぁ痛ったぁ!!」

「癒やし部隊おいで〜」

「にゃぁんっ」

「んにゃ〜皆可愛いっ!」

 戦闘にはまだまだな仔猫達は甘え担当、癒やし部隊。その可愛さに葵もメロメロだ。朱弥との温度差よ。


「ではでは。総員、かかれぇ!」

「ニャニャー!!!」


 * * *


「へぶしっ! か、痒い…」

「いやー猫アレルギーだとは……災難だね、君。院長着替えてきて下さい」


 頬を腫らし所々引っ掻き傷を作っていた拓人の同級生・宮寺を手当てするは外科医兼術専門研修医の【晴雨時(せいうじ) (まこと)】。


「ちゃんとコロコロしたし! 皆院長に冷たい!」

「はいはい、シールあげますから」

 引き出しから可愛らしい猫柄が描かれたシールを取り出し葵に手渡す。

「あ、可愛……いや、いらないよ! それ小さい子にあげてるやつじゃん!」

「君もいる?」と宮寺の方にも。

 しかし「い、いらないです……」と断られてしまう。


 後ろでにこやかに腕を組み壁に寄りかかる一風をなるべく見ないように晴雨時はコソッと「院長、灰原さんが笑顔なのに怖いんですけど……」と葵に耳打つ。

「ん? 大人のじじょーってやつだよ。独身の君にはわからないね!」

「宇鶴さん、院長の研究室、あそこ一掃しましょう」

「いいですね」

「やめて! 入らないで、入室禁止! お前ら院長をナメてるでしょ!」

「はぁ、まぁ」

「もうお前らに給料やんないぞ」

「きゃー院長素敵ー(棒読み)」

「院長キュート〜かっこいいー(棒読み)」

 そんな二人に葵は「次の新薬の実験台にしてやる……」と心に決めた。


 * * *


「そろそろ帰るぞ」

「わかった」

「ん、もぐもごっ」

「ごっくんしてから喋れ」

「ごくんっ、ご馳走さま。望さんにもよろしく」

「あぁ。早く治せよ」

「うん。……燐達の事任せて悪い」

「……紬も喜んでるしいんじゃね」

 それより自分の心配しろ、と呆れられる。


 入院している間、柑実は燐とピヨ助の監視を引き受けてくれている。その関係で柑実の家に泊まっているのだ。

 望さんの事もあって当然安心しては休めないだろう、隈が出来ている辺り寝不足なのが窺える。

 だが以前と比べ大分馴染んだようで梛莵は安堵する。


 大人しくしていたピヨ助は「幼子は可愛いから良いのぉ」と言っていた。

「お前はジジイかよ」

「まぁ主らからしたら余はジジイよの」

「爺ちゃん、ちゃんと言う事聞いて大人しくしてろよ」

「蹴飛ばしてやりたい所じゃがまぁ、爺と呼ばれるのも意外と悪くないの」

「え、気持ち悪っ」

「……梛莵、お主燃やされたいのか?」

「ピヨ助、すぐ燃やそうとするのは良くないぞ」

「う、むぅ……」と引く様子に燐の言う事は聞くのかよと内心イラッとしてしまう。だがここで言い返すとまた面倒くさいので思うだけに留める。

「ほらピヨ助鞄に入れ。葵さんは目瞑ってくれてるが本来はお前連れてくんのも駄目なんだから」

「仕方ないの。ではのっ」

 そう言って柑実の鞄に入る。

「梛莵、拓人、また来るな」

「うん」

「あぁ。ありがとな」



 柑実達を見送り、部屋には拓人と二人になる。


「……拓人、座ってるの辛くないか?」

「俺は大丈夫だよ。先生にも良くなってるって言われたし、すぐ退院もできるって」

「そっか。……なぁ転校先、一芽ちゃん所は?」

「それはないよ。一芽の学校女子校だし」

「あ、そうなんだ」

「高校の転校って、よくわからないけど難しそう」

「まぁ……義務じゃないしな」

「うん……」

「他に、行きたかった学校とかなかったのか? 希望一本だった訳じゃないだろ?」

「いや……希望一本だったよ。今の学校、お父さんの母校なんだ」

「へぇー、にしてはあまり良く思ってなさそうだったけど」

「昔は共学だったらしいんだけど今は男子校なんだよね。お父さんは共学に行ってほしかったらしい」

 え、なぜ?

 意向はわからず、拓人もよくわからないと言った。


「梛莵、達の行ってる学校ってどんなとこ?」

「俺のとこ? 普通科はどこともあんま変わんないんじゃないかな。他がわかんないけど」

「梛莵の学科は?」

「……前に言ったように俺らの学科は竒術師の養成所兼、だ。本部ほどじゃないけど任務にも出るし、こないだみたいな戦闘だって起こりうる。危険と隣り合わせだ。俺は薦めないし、お前の親も許さないだろうな」

「梛莵は、何で今の所行こうと思ったの? 入る前から危険があるってわかってたんでしょ? なんで……」

「俺等はそれぞれ目的があって自らこの道を選んでる。拓人、お前は違うだろ。……俺の理由は言わない、拓人には関係ない事だ」

「あ……ごめ、ん」

「……悪い、強く言うつもりは……」

「いや、」

「でも普通科なら別に、止めはしない。あー……もしかしたら拓人の言ってた知り合いにも会えるんじゃない? 会いたいのかはわかんないけど」

「そう、だね」

「……まだ今の学校在籍してんだろ。お父さんと話してゆっくり考えなよ」

「うん……ありがと。俺、部屋戻るね」と部屋を出る拓人を見送る。


 言い方が八つ当たりだな。ため息を吐き天井を見上げる。

 わかってはいても大人になれない自分がつくづく嫌になる。


「ナト兄〜」

 真っ黒な蝙蝠が開いている窓のサッシに止まり手を上げていた。

「マト、来てたのか」

「うん、いっちゃんも一緒に! 身体大丈夫?」

「俺は問題ない。一芽ちゃんは……大丈夫?」

「うん、ちょっと元気ないけど……咲舞が来たりしてくれてるから」

「そっか」

「あ、さっき外でクッションくんが猫に襲われてたけど止めた方がいい?」

 あぁ、やっぱり集合したんだ。

「多分大丈夫だよほっといて」

「そ? ならいっかー」

「なぁマト」

「なぁに?」

「お前は何で拓人の所にいるんだ? 別に住む場所が必要な訳じゃないだろ」

「えっと……」

「……どこか行けって言ってる訳じゃなくて、単に気になって」

「んー……『おかえり』って言ってもらえるから、かな」

「おかえり?」

「ただいまとおかえり、普通なのかもしれないけどそれだけで僕、嬉しいかったんだ〜」

「……」

「僕はいつも一人でいたけどね、それでも独りは寂しいもん。だから、誰かが待っててくれる事って、特別なんだ。拓人と出会ったのは偶然だけど、一緒にいるのは偶然じゃない、そう思いたい」

「うん」

「……僕、人の側にいちゃいけないんだってわかったけど、誰かと一緒にいたいって思っちゃ、駄目なのかな」

「……マト、こっちにおいで」

「でも僕外から来たからばっちいだよ?」

「気にしなくていい」

 ポンポン、と膝元を軽く叩き招く。

 マトは渋々膝元に止まり、梛莵は優しく頭を撫でた。

「ごめんな」

「なんでナト兄が謝るの?」

「俺は、自分が傷付きたくないから、周りを傷付けてしまう。弱い、最低な人間だ。いつも選択を誤る。どうしたらよかったのか、どうしたらいいのかわからない。後になって後悔するんだ」

「……」

「過去の事をずっと引きずって、結果周りを巻き込んで、傷付けて、それでも止まるのをやめない。望まれた事ではないと思う、それでも俺は、また後悔したくないから」

「ナト兄……」

「マト、側にいたければいればいい。どこかに行きたければ行けばいい。それを決めるのはお前だ」

「いいの、かな」

「ああ」

「ナト兄の側にも、いてもいい?」

「ああ」

「拓人やいっちゃんの側、離れなくてもいいの?」

「本人達が嫌がらないのなら、いいだろ」

「うん」

「さ、拓人の所にも行ってあげな。今は拓美さんが出せない分、マトがいてあげる方がいいだろ」

「拓美出て来れないの?」

「まぁ……病院だし、下手に召喚もできないだろうし」

「そっかぁ……拓美も寂しがってるだろうね」

「まぁ会おうと思えば会えるだろ。……会えるのなら、何も難しくない」

「ナト兄は、誰かに会いたいの?」

「……うん、逢いたい。でも、逢えない。だから会えるのなら、それは難しくない」

「柊季さん?」

「父さん達ももちろんそうだけど、そうじゃない。家族とは別の、大切な人だ」

「大切な、人……」


「逢いたいと想う事は、今の自分の支えなのかもしれないな」

 そう笑う梛莵は少し苦しそうな顔をしていた。


 * * *


 ノックの音が響き、扉が開かれる。

「拓人、部屋に戻ってたか」

「お父さん。気は晴れたの?」

「トゲのある言い方だな……悪かったよ」

「……お父さん達は、こっちに帰ってくる予定ないの?」

「そうだな……元々仕事関係なくあちらに暮らすつもりだったし、母さんの身体を考えるとな」

「……そうだよね」

「拓人……」

「お父さん、行きたい学校あるの」

「行きたい学校?」

「梛莵達の所。駄目?」

「ああ、あの子他校生だっけ。どこなんだ?」

「ここの近くの、羽蘭高」

「羽蘭? まぁ、友達がいるならいいんじゃないか? あとは空きとか入学できるかだろうが」

「本当?」

「ああ。しかし今の家から通うのは遠いだろう。一芽ちゃんもあっちの学校だし……」

 するとガラリと扉が開き、一芽の登場。

「わたしも、その学校、行きたい」

「え、一芽ちゃん?」

「一芽、来てたの」

「うん。マトも一緒、だったんだけど……ナト兄のトコ、行っちゃった」

「マト……拓人もさっき言ってた子だね」

「うん、半年くらい前に拾った」

「拾……え? 何か動物飼いはじめたの?」

「ううん動物じゃないよ。お家ないっていうから一緒に住んでるの」

「えーと、梛莵って子の兄弟じゃなくて? どういう事?」

「マトは、マト……ナト兄が、マトは纒憑って、言ってた」

「マトワマトイ? えっとマトって子は人、だよ、ね?」

「ううん、マトは、纒憑……黒くん」

「……?」

「マトは子供みたいな子だよ。黒い霧なの」

「??」

 説明が説明になっていない二人に一風は疑問符しか浮かばず。掘り返してもわからないだろうと諦めた。

「ナト兄なら、詳しくわかると、思う」

「家出とかじゃなくて?」

「ううん、お家ない」

「んー……んんー?? と、とりあえずその子の事は置いとこう。一芽ちゃん、学校変えたいのか?」

「できる、なら。ナト兄のトコ、咲舞も、燐ちゃんも、いるから」

「同じ学校に友達はいないのか二人共……」

「学校で、あんまりお話、しない」

「そ、そうなのね……人付き合いが苦手な訳ではないよな?」

「? 話かけられれば、返す」

「わざわざ話かける事ないし……」

「おぉ……そうか……元から口数は少ないとは思ってたがここまでとは」

「「?」」

 何か? というように傾げる二人。よく今まで意思疎通できてたな。

「まぁ、そうだな。学校の方は見てみる。さっきいた大柄の人、その学校の先生なんだろ?」

「うん。確か学長さんって言ってた」

「……えっそうなの!? やっば……」

「?」

「私のせいで駄目だったらすまない……」

「なんで?」

「いや……」

「ね、廊下にいる人、帰さないの?」

「廊下?」

「あ、あー……忘れてた……ちょっと待ってて」

 立ち上がると廊下へと出ていく父。

 残された一芽と二人、マトが来て以来こう二人になる事は減ったな。

「拓兄、もう平気?」

「うん、ごめん心配かけて」

「わたしは、大丈夫。拓兄が無事で、よかった」

「うん」

「……わたしは、拓兄の側に、いてもいい?」

「うん、もちろん」

 その言葉に一芽は「……えへへ」と微笑む。


「拓人、入れても大丈夫か?」

「何を?」

「拓兄の、学校の、人」

「あぁ……うん」

「ほら」

「あ……はい」

 入室する同級生の頬は手当てされ、ガーゼが貼られていた。

「……えっと、名前なんだっけ」

「え、名前も覚えられてないの……宮寺(みやじ)だよ。宮寺(はる)

「だって呼ぶ事ないし……必要もないし」

「……」

「それで? 何?」


「ごめん!」

「……何に対して謝られてるのかわからないんだけど」

「今までの事、嫌な思いさせて、こんな事に巻き込んで、ごめん」

「……別に、君の嫌がらせとか小学生のやる事と変わらないし」

「でも……」

「俺も悪かったんでしょ。君の癇に障るような事したからなんでしょ」

「いや、お前はなんも……」

「別に謝ってもらわなくていいよ。今後関わる事もないし」

「ごめ、ん」

「……拓兄、これさっき、咲舞から、食べてって」

「え、今? ありがと……一芽?」

「一芽ちゃん?」

「?」

 土産を手渡すと一芽は椅子から立ち上がり歩き出す。


「……これは、拓兄の分」

 そういって一芽は宮寺の前に立ち止まり平手打ちをした。

「っ」

「ちょ、一芽……!」

「これはたっちゃんの、分」

 襟を掴み、もう一発。

「……っ」

「これは、ナト兄の、ぶ……」

「いっちゃん、なぁにしてるの?」

 振り上げられた手を止めるようにマトは一芽の前に立つ。

「マ、ト」

「皆びっくりしてるよ。ほら、手痛くなっちゃうから」

「うん……」

「お前どこから……」

「窓だよ? 開いてるからねー」

 何事もなく振る舞うマトに動揺を隠せないでいた。

「窓ってここ三階……」

「えへへ、僕飛べるから。見たことあるでしょ?」

「え? ……あ、その声、あの時の蝙蝠……!」

「そうそう〜今ね、ナト兄の所行ってたんだけど拓人の所行ってあげて〜って言われたから来たの。クッションくんもいたとは思わなかったなぁ」

「クッションじゃないんだけど……」

「そう? まぁ何でもいいよね! 拓人、遊びにきたよー!」

「マト、一応病院だから静かにね」

「はぁい」

「拓人、二人の言ってたマトって子はその子、か?」

「うん、そう。梛莵が名前付けたの」

「人……じゃないな。君は何者なんだ?」


 マトは考える。

 僕は何者か、言われていたように纒憑だと言っても正直自分が何者か、わからない。なら答えはこうだ。


「僕……僕はマト。黒霧のマト、だよ」


 * * *


 [病院/入口]


「……」

「……宮寺くん、だったか」

「あ、はい……」

「拓人は許したが、私は許すつもりはない。今後二度と、拓人に関わらないでくれ」

「……はい、すみませんでした」

「……気をつけて帰りなさい」


 お辞儀をすると宮寺は病院を後に、一風はその背中を見送った。

 さて戻ろうか、と思っているも葵が笑いかける。

「にゃは、お優しいんですね。本当に一発だけなんて」

「院長先生……すみませんお騒がせして」

「にゃはは、別に構いませんよ敷地外ですし。それに今回は怪我だけで済んでよかったってもんです」


「自分も一応親なんで、我が子に何かあれば怒りますよ」

「ですが、大人気ないのも確かです。子供のいざこざに親が下手に口出すものでもないでしょうから」

 宮寺の行く方向に目を向ける。自分の行動は行き過ぎだろうかと疑問も持っていた為だ。

「……どうでしょうかね。それは子の受け止め方次第でしょうが、放っておくのも、やはり違うでしょう」


「……一つお伺いしても良いでしょうか」

「何でしょう?」

「先生、ご兄弟っていらっしゃいます?」

「え?」

「いや、前に先生によく似た方にお会いした事があったので……」

「それって……! 金髪の、細身で長身の男ですか……っ!?」

 一風の両腕を掴み問いただす。

 思ってもない反応に少し驚くも答える。

「え? あ、いえ、黒に近い茶髪の……私よりは身長は低めの方、なんですが……」

「あ……」

「その方も苗字が不動だったのでご兄弟なのかと……すみません」

「いえ、こちらもすみません……多分偶然です。俺に兄弟はいませんから」

「そう、でしたか。すみません、何か期待させるような事言ってしまったみたいで……」

「いえいえ、取り乱してしまってすみません。あ、自分はこれで。何かあればまたお声掛けしますので」

「あ、はい。ありがとうございました……」


 * * *


 病室に戻ると拓人と一芽は眠りについていた。

「……ふ、疲れちゃったかな」

「拓人のおとーさん?」

「ん? あれ、マト……くんだよね?」

 布団の上には真っ黒い蝙蝠がちょこんと座り、こちらに話しかける。

「うん、僕姿変えられるのー」

「そ、うなのか」

「……僕ね、自分の事よくわからないんだけど、拓人達は側に置いてくれたの」

「……」

「僕、拓人達の側にいてもいい?」


 その問いに少しの沈黙。やはり駄目、だろうか。


「……君が危険な存在なのか私にはわからないよ。果たして側に置いていていいものなのかも」

「……うん」

「でも、一芽ちゃんが少し明るくなったのは君のおかげだと拓人は言っていた」

「えと……僕、何も……」

「拓人自身、前より口数も増えたと思う。嬉しい限りだよ。それもきっと、君のおかげなんだろう」

「……」

「ありがとう、これからもこの子達を頼むよ」

「! うん……っ!」




 人気のない建物の影、膝を抱え座る葵に猫達は心配そうにすり寄る。


「なぁ〜ん」

「……」

「院長、こんな所で風邪引きますよ」

「……」

「何かあったんですか?」

「何もない。……ちょっと一人にして」

「……わかりました。薬は院長の部屋に置いてありますから、患者さんで試さないで下さいね」

「うん……」

「にゃぁん、なぁ〜」

「にゃはっ、くすぐったいよ。慰めてくれるの?」

「んみぃ〜?」

「はは……はぁ……」


「……」

 一風の所に行ってからなかなか戻らない葵に様子を見に来ていた朱弥は出損なっていた。しかし自分が出た所で何もしてはやれない。

 今は気づかれないよう……側で見守るくらいしか。




幼馴染みに林檎をめっちゃ食わされる主人公。

拓人と含め計3個は食わされてる計算です

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