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逢想の纒憑  作者: 中保透
三章 童輪の鏡
44/52

40.暗闇に潜む 4


※ いじめ、流血表現有り


「灰原、また盗られたの?」

 下駄箱で立ち止まる拓人に少年は問う。


「……いつもの事だし、どっかにある」

「だからってね……親には言ってないの?」

「ゴミ箱だったとしても、大体見つかるし」

「そういう事じゃないだろ、全く。ほら、探しに行こう」

「いい、自分で探せる」

「んー? 先輩だぞ〜? 敬語を使え敬語を!」

「うるさいなぁ、もう教室行きなよ」

「かわいい後輩置いて行ったりしないよ、ほら」


  *


「都外の学校?」

「うん、ちょっと変わった所だけど悪くないかなって」

「ふーん……」

「寂しい?」

「別に」

「拓ちゃんがデレてくれないっ」

「学年だって違うし、いずれ離れるし。何で俺に構うのか知らないけど」

「だって灰原よく一人で弁当食べてるし。ぼっち飯、購買のパンだけど」

「屋上、立ち入り禁止だからね。教室はうるさいし。**だって友達とかいるでしょ、そっち行けば」

「素行の悪い後輩を正すのも先輩の努め、でしょ! なんてね〜」

「? なにもしてないけど」

「お? ここは立ち入り禁止だぞ? それにこないだ煙草吸ってたの、知ってるんだからな」

「吸ってないけど」

「拓美ちゃーん、連れてるでしょ?」

『あら吸ってたわよ』

「ほら」

「嘘つかないでよ。吸ってないし。分解はしたけど」

「なんで分解したのさ……何で持ってんのかも知らないけど、ダメだろう」

「落ちてただけ」

「何で落ちてるのさ……」

「先生が落としたんでしょ。ちょっとした好奇心、一本拝借して後はちゃんと職員室持ってった」

「拝借ってあのねー……ん? 返したのは偉いか」

「渡した先生のだったみたいで焦ってたよ」

「だ、だろうね?」


  *


「……灰原」

 ビリビリに破かれた卒業証書。ずぶ濡れの**。


「*、*……?」


「俺はな……都外に行くのは逃げる為なんだ」

「え、逃げる?」

「はは、最後の最後で情けない姿見られちゃったな」


 どういう事? そんな状態で、なんで笑うの?


「ごめん」

「なんで**が謝……」

「灰原といたのはそうやって、自分を正当化していただけなんだ」

「え?」

「敬える先輩になんて、難しいな」

 そう言って**は苦しそうに笑う。


「く、」

「今まで一緒にいてくれてありがとな」

「待、く**ま!」


 伸ばす手は届かない。待って、なんで。



 後になってわかった。**は俺を庇っていたんだ。

 俺が気に食わなかった先輩達に目を付けられたから。


 気づかなかった。気づけなかった。

 側にいたのに、いてくれたのに。



  ――伝えられなかった。



 何がいけないの? 何がダメだったの?

 わからないよ、覚えがないもん。



  ――伝えないと、でも会いに行く資格は?



 俺にそんな資格、あるわけ無い。

 気づかないまま、ずっと守られてばっかで。気づいても、何も出来ないで。


 ごめん、ごめん。

 何も出来なくて、何もしてあげられなくて。


 最後に、会って伝えたかったな。


 いつも側にいてくれて、ありがとうって。


 謝りたかった、気づかなくてごめんって。


 術者だって関係ないよ。俺は何も出来ないもん。迷惑かけてるだけだ。



 拓美、ごめん。君との約束、果たせないや。


 正直、今も君の言う『管承者』がよくわからない。

 疎くて、ごめん。役立たずで、ごめん。



 一芽、君にも何もしてあげられなかったね。


 不安だったよね、いきなり一緒に暮らすなんて。

 寂しいよね、置いていかれるのって。

 泣かしてしまったな、何も言えないや。


 ……初めて見れたな、嬉しそうに笑う所。よかった。



 マト、よくわからないままだけど、君の側は不思議と心地良かったよ。


 君がいなかったら一芽とも暗いままだった。

 君のおかげだ。


 さがしもの、見つかるといいね。



 梛莵、会ったばかりで巻き込んでごめん。


「……と!」


 我儘についてきてくれて、ありがとう。


「拓人!!」


「……梛、莵?」

「っ受け身取れぇ……! 受け取れクソ野郎ぉぉっ!!」

「え? ……ぅっ」


 梛莵は拓人を掴み引っ張ると、勢いよく近くの外通路に投げ込む。


「がっ!」

「ぐっ……、灰原! 無事か!?」

「う……え、なんで君……」

 受け止めるは同級生の青年、宮寺。

「は、梛莵っ!!」


 柵に乗り上げ見回す。

 落下地点には木々の影に横たわる……梛莵の姿があった。


「う、そ……でしょ」

「な、」

「梛莵……梛莵!」

「馬鹿、灰原落ち着け! また落ちる気か!」

「なんだよ! 離せっ梛莵が……俺のせいで梛莵がぁ、!」

 柵に縋り、両膝を突く。

「灰、原……」


「俺がついてきてなんて頼まなければ、こんな……」


 * * *


 痛い、身体中が痛い。動かない。

 今までどうやって動かしてたっけ。


「……」


 拓人、大丈夫かな。あいつ下敷きにして、仕返し出来たかな。

 立てない、まだ休むには早いのに。纒憑はすぐそこにいるのに。



  ――梛莵、立て



 ……誰?



  ――立つんだよ。お前なら立てる。



 無理だよ。痛いもん。怖い、怖いよ……。



  ――泣いたっていい。泣きながらでも、お前は立てるだろ。



「……っ」


 立て、立て、立て! こんな所で終わらせない。俺にはまだ、やるべき事が残ってるんだ……!


「――ヒュッ、ゴホッ、ぐすっ……あー痛ってぇ、なっ……ゲホッ」


 木がクッションになったか。それでも打った事に変わりはない。貧血もあって、くらくらする。


「骨は……幸い、折れては無さそ、だな……痛ぅっ」


 早いとこ終わらせないと。

 攻撃自体を仕掛けてこないあたり、多分そこは得意ではない。移動されるのは厄介だが……建物から離れれば、それは解決できるだろ。


 後は身体から離れないうちに身ごと斬るか、引き離すか、だ。


 結論、身体と引き離す事自体は可能と言える。

 核……つまり心臓に向け術で衝撃波を加える事で引き離せる。だが必ずしもではない。

 身体に憑き馴染んでしまっていれば引き離せない場合もある。

 燐のように元魂が残っている場合、纒憑を残し元魂が離れてしまうという事もあるだろう。

 纒憑は取り逃がして身体側は元魂を残しそのまま御陀仏なんてのも有り得る。

 全てが一か八かの賭けだ。

 あの身体の人、最初に会った時は俺達を離れさせようとはしなかったし、多分憑かれてなかった。憑かれたのは別れた後だろう……すぐにこっちに掛かる、って事はすでに喰われた可能性は高い。


 ならばせめて、五体満足、綺麗なままで。


「屋上か? いや移動、してるよな……拓人の所に……っ」


 やばい、立つ力すら入らない。呼吸するのも痛い。


「ふぅーっ……くそ……!」

「ナト兄!」

「マト」

「う……よかったぁ! いきなりナト兄が降ってくるから、僕、僕……!」

「お前、屋上に向かったんじゃ……」

「鏡で一階まで飛ばされちゃったの、また向かおうとした矢先にこれだもん……」

「なるほど……な。マト、拓人の所に行ってくれ。あそこ、二階の外通路に投げたから」

「投げ……? え? 投げた? 投げたって言った!? どういう事!?」

「うるさい、響く……拓人が屋上から落とされたんだよ、落下途中で……そっちに引っ張り投げた。クッションもいた、から大丈夫なはず……」

「拓人が……?」

「まだ仕留めてない。拓人に、ついてやってくれ」

「でもナト兄、怪我して……!」

「術者は簡単に喰われない、核に術力が宿ってるから喰われにくいんだ。だけど、多分拓人はまた狙われる。近くに一般生徒もいるんだ」

「生徒って……もしかしてここに呼んだ人達?」

「あぁ。途中で会ったからクッション役に任命した」

「クッションってそういう事かぁ……」

「とにかく、側に頼む。俺は大丈夫だ」

「で、も……」

 言い淀むマトを軽く撫でる。

「マト、これが終わったら遊びにおいで」

「……いいの?」

「あぁ。だから拓人を頼む」

「えへ……うん!」

 マトは人姿から蝙蝠に変化すると拓人の元へと飛んでいく。



「ふぅ……」

 身体に術を……集中……痛みを冷気で麻痺させて……止血を……よし、次は血を……巡らせろ。


「こんな所でへばるなよ……!」


 * * *


「たぁくとぉ!」

「わっ何だ!?」

「あれ、クッションだ〜。拓人見なかった?」

「く、クッション……? というか蝙蝠が喋……」

「あ……まぁいっかー。今はそんな事どうでもいいから、ねぇ拓人知らない?」

「拓人……? 灰原の事か?」

「そうそう灰原拓人〜ここにいるってナト兄から聞いたんだけど」

「あ、あっちに行った……」と宮寺は校庭の方を指す。

「え! 拓人ってば何考えてるのさぁ! もう!」

「な、なぁ!」

「何?」

「あの、赤毛の、梛莵って奴……は、その……無事なのか?」

「……一応無事だよ。でも早く診てもらった方がいいと思うな」

「そ……う、」

「んー拓人のとこ行ってって言われたけど君の事ほっといたら駄目なんだろうし〜うーん……」

「灰原の所行けって言われたんだろ。行けよ」

「でもでも〜……」


「……」


  *


「……さない」

「え?」

「邪魔」

「灰、っ……!」


 宮寺を払い除け怒りをぶつける。術力を纏い、睨む拓人に息を呑む。


「いつもいつも、俺が何したってんだよ……!」

「あ……」


 立ち上がると痛む足を引きずり、ゆっくり校庭の方へと歩き出す。


「お、おいそんな状態でどこ行くんだよ!」

「うるさいっ、邪魔をするな」


  *


「――……俺、何馬鹿してたんだろ」


 * * *


「あれ、生きてたんだ」

 校庭に立つ拓人を見つけると纒憑はニヤリと近づく。

 見つけやすい校庭にいれば来るだろうと予想し、見事に的中。

「……」

「あは、怖い顔。助けてもらったのにわざわざ来てくれるなんて君本物の馬鹿なの?」

「るっさいなぁ」

「強がっちゃって。術も使えないでどうする気なの?」

「使えない? ……見くびらないでもらえるかな。現に動けるようになってるでしょ」

「ふーん?」


 この近くの鏡の場所なら把握してる。なら、壊せ、壊せ!


「糸よ触れ……『壊々刹処(かいかいさっしょ)』!!」


 張り巡らせた糸を力のある限り引き、遠くで鏡がひび割れる。


「く、痛ぅ……っ」


 拓人の手からは紅い血がぼたぼたとしたたり落ち、痛みで涙が視界を曇らせた。


「……気が狂ったの?」

「フゥー……ぅ、ある程度、大きさが無いと通れないんじゃ、ない?」

「何……? な、鏡が割れて……!?」

「これで、終わらせるっ――童輪の鏡!」


『――拓人ったら無理しちゃって。いいわ、こっちに寄りなさい』

「?」

 拓人は拓美に言われるがまま《童輪の鏡》に寄りかかる。


『拓人、耐えなさいよ』

「え?」


 鏡が黒く染まり拓人を包むようにして塵が舞う。


『その身、(われ)が共に――『同輪操鏡(どうわそうきょう)』』



 空気が変わった? あの鏡で一旦引いて……。


「『……纒憑風情が、()が鏡に映れると思うな』」

「何?ぐッ……」

「『邪魔だ、出ろ』」


 入り込もうと一面の鏡に映ろうとした時、胸に力を込められ突き飛ばされる。

 拓人は周りを見回し、頷く。



「?……!!」

 ふと、見えるはずのない自身の身体が纒憑の視界に入る。


 出された? 引き剥がされた? どういう事だ。自分からは離れてない。

 この術者は自分ら死後人を何もわかっていないはず。

 それにこの術力は……一体何が起きた?

 まるで別人……別人?


「鏡ノ連レモ死後人カ……! 」

「『貴様らと一緒にするな』」


 すらりと鏡から鋏刀を取り出すと大きく振りかぶり――



「『断鋏(だんきょう)双刀(そうとう)……』」



 一本邪魔だな。

 そう呟くと鋏刀の片方を放り投げる。



「『――《『斬絶大限(ざんたつおおぎり)』!!》』」



 勢いよく振り下ろされた鋏刀は深く地面を抉り、その衝撃は纒憑へと向かう。しかし寸前の所で躱され拓人は舌を打つ。


「クゥ……ッ!!」

「『外したか。使いづらい身体だな』」


「拓人!」


 拓人は梛莵を見るなり、纒憑を指差す。

「『……あそこ』」

「え? 何、離れたのか……!」

「『後は任……せ、た……」と意識を手放す。

「拓人! おい、拓人!」

 倒れる拓人に駆け寄ると気を失っているだけのようでほっと息を吐く。


「ハハッ! モウチカラ尽キタカ!」

「くっ……!」



  《衅鋒『紅霜柱』》


 紅氷の槍柱を形成し身構える。



「喰わせはしない……絶対に!」



「そうだな」


 ――キンッという音と共に落ちてくる雷光に梛莵は目を瞑る。



  《燈風ていふ 『万雷煌々』!!》



 再び開き見ると燐と南中の姿があった。


「燐!? それに南中も、なんで……」

「ピヨ助が知らせてくれたんだ。私では足手捲りかと思ってな、咲舞を呼んだんだ」


 足手捲り……? 足手まといって言いたいのかな。


「んっふふ、燐ちゃんからの初コール、びっくりしたわ〜。私移動術使えないから流くん家に叩き起こしに行ってたらちょっと時間掛かっちゃったの〜ごめんなさいね」


「……ピヨ助」

「……」

「ありがとう……ごめんなさい」

「ふんっ……わかれば良いのじゃ」


「梛莵、怪我して……! 身体もこんなに冷えてっ」

「俺は大丈夫、大丈夫だから」

「傷だらけで何言ってるんだ! それに拓人も……!」

「! 拓人くん、もしかして……」

 目を瞑る拓人に南中はもしや、と梛莵を見る。

「いや、今は気を失ってるだけだ。大丈夫」

「そう……よかったわ」



「邪魔ナ……!」

 術者が増えた事により纒憑は立ち淀む。

「……梛莵くん、拓人くん運べる?」

「あぁ……南中、あいつは鏡を通して移動する。入られると厄介だ」

「ふんふん、わかったわ。なーがせくん、いつまでもいじけてないで手伝ってちょうだい〜」

 空に向けて呼ぶ南中。先には屋上の扶壁でしゃがみ込む琉山の姿。頭を掻くと屋上から出っ張りを利用しながら飛び降りてくる。

「……くそ眠ぃ」

「後で膝枕してあげるから〜」

「いい。お前関節技キメる気だろ」

「素直じゃないわね〜。よろしくね」

「はぁ……貸せ」

「……いい。俺運べるし」

「歩くのがやっと、みたいな奴が何いってんだ。こっちは眠ぃんだよとっととしろ」

 ムッとしていると「今は喧嘩している場合ではない」と燐に怒られてしまう。

「……わかったよ。頼む」

「あぁ。何だこいつも手血だらけじゃねぇ、何したらこうなんだ」

「わかんない。来たらもう血だらけだったし」

「ふーん……梛莵」

「何?」

「……いや、何でもない」

「は? 何だよ」

「何でもねぇ。とりあえず先にこいつ預けてくる」

「預ける? 誰にだよ」

「警察。誰か呼んだんだろ」

 校門の所に集まってた、と。

 そういやあいつ一人だったな、そういう事か。

「一芽、もついて来てる。そこで待ってる」

「一芽ちゃんも?」

「危ねぇから家で待ってろっつったけど行くって聞かなかったんだよ」

「……まぁ、拓人もマトも皆こっちにいるし、そうだよな」

「梛莵、戻るまで咲舞の援護頼むわ」

「言われなくとも。……悪いな、こんな夜中に」

 別に。そう素っ気なく言いながら拓人を運んでいった。

 さて、問題はこちらだ。

「燐、あいつがこっちに来たら建物に近づけないよう放てるか?」

「ふむ、狙いは鏡だろう? できるだけやってみるがあまり期待はしないでくれ」

「頼む」

 燐は頷き「気をつけて」とその背を見送る。


 * * *


「はぁっ!」



  《咲き放て 火弁よ熔け―― 焔蹴(えんげ) 『破無彼岸(はなひがん)』!》


 南中は足に火を纏い、蹴り込むとそこから炎が花開く。


「ちょっと動かないでちょうだいよ〜! ただでさえ暗くて見づらいのに狙いづらいわ〜」

「小娘ガッ」


「南中」

「あら梛莵くん動いて平気?」

「あぁ。あまり周りを壊さないでくれよ。後が大変だ」

「そうね〜反省文は免れないだろうけどそれ以上は面倒くさいものね」

「悪いな」

「大丈夫よ、柑実くんの代わりに梛莵くんをしっかり守るから!」

 ぐっと力こぶを見せる南中。頼もしいな。

「あ、はは……おっと。逃がさない――」



  《蝶々、風舞え―― 衅鋒 『霧雨紅蝶』!》


 霧と交じる紅氷蝶と雨針は纒憑に向かい放たれる。

 見えにくくなる周囲、纒憑は捕らえられまいと霧の薄い前方へと前進し飛び交う。

「ッ」

 それを好機と踏み、蹴り掛かる南中。


「んふふ、逃げ回るなんて臆病者なのね〜大丈夫よ、すぐに楽になるから――」



  《焔蹴 『火華(かか)(まい)


 身を翻し、火弁の舞い散る風砲を放つ。


 しかし上手く躱され校舎へと。

「あら〜建物の方行っちゃったわ」

「燐!」


「あぁ任せろ。新しく考えたんだ」

 燐はフンスーッとやる気に満ち溢れた表情で構える。



  《雨々、降れ、撃て――》



 帯びた電気が空に放たれ――



  《燈風 『追雷雨(ついらいう)』!》



 分散された光が纒憑を追うように落ちる。


「おぉ……建物に当たってないよな?」

「大丈夫でしょ〜燐ちゃん扱いが上手ね〜」

 当の本人はドヤァッと嬉しそうに胸張っていた。

「フフッ、柑実も凄い凄いと褒めてくれたぞ!」

「へ、へー」


 多分適当にあしらったんだろうな。棒読みで言っている姿が浮かぶ。


「お前ら呑気に技披露してる場合かよ」と呆れるの琉山が戻る。

「流くん、ちゃんと戻ってきてくれたのね〜」

「お前俺の事そこまで薄情だと思ってんの?」

「そんな事ないわ〜」


「人間如キガ、フザケルナ、フザケルナフザケルナフザケルナ!!」


 怒りに任せ形成された鏡の破片が梛莵達に向け飛ぶ――。


「まじかよ……――磐蒼(ばんさ) 『岩壁柱(がちゅう)』」


 琉山が術を唱えると青色をした岩が壁となって飛び交う破片を受け止める。


「あっら〜怒っちゃったわ」

「そりゃ怒るだろな。こんな呑気に相手されちゃ」

「んふふ、流くん拘術得意でしょ? 今度は逃げられないように、お願いね〜」

「はぁー……咲舞、お前誘い込め」

「オーケーよ〜梛莵くんトドメは任せたわ〜」

「あ、うん。わかった」


 じゃ、と手を伸ばし琉山は招くようにその手を振り下ろす。



  《磐蒼 『岩尖墜(がんつい)』》


 鋭く尖った青岩が形成され、地面に刺さり左右の道を塞ぐ。


 続けて上から追い打ちをかけるように南中が蹴り込む。

「んっふ〜流石、流くん容赦ないわ〜」



  《焔蹴 『火華の舞』》


 火弁の舞い散る風砲。避ける先は青岩に囲われた袋小路。


「地面に穴空いちゃったじゃん、怒られるわー」

「もう怒られるのは確定なんだよ。ほらやれよ」


 まぁ、そうだよな……しょうがない。

 もう腹をくくるしかないのだ。まずはこれの始末が先。


 梛莵は踏み込み、得物を引き抜く。


「フゥー……此岸にしがみつく悪喰(あくじき)なる魂よ、天還(あまかえ)(あがな)いたまえ――」


 逃げ場のない纒憑は迫る梛莵に術を放とうと構えるが間に合わず――



  《衅鋒 『氷翠一刀(こすいいっとう)』!!》



 紅い氷が花開き、埋め尽くされる。



 * * *


「やったか?」

「あぁ」


 梛莵達は亡くした魂に弔いの意味を込め、胸に手を添える。


 氷は昇華するも残る冷気が吐く息を白くする。

 校庭の地面は抉られ、見るも無惨な形に。建物が無事なだけマシか……。


 あ、やば……。


「痛ぁ……っ」

 気が抜け、自身に掛けていた術も解け始める。膝を付き蹲る梛莵。


 痛い、痛い。

 額から血が、垂れる。無理に動きすぎた。


「梛莵? おい、しっかりしろ! 南中、救急車来てないか!? こいつ術で出血止めてただけだ!」


 寒い……――。



 ぼやける視界の先に、微かに映る黒い影――




  誰? ……慶、悟――?



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