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逢想の纒憑  作者: 中保透
三章 童輪の鏡
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38.暗闇に潜む 2


「……あいつ戻って来なくない?」


 廊下の隅で座り込みマトの戻りを待つ二人と一匹。

「マトっ逃げたの……!?」

「迷っとるんじゃないかの〜ここ来たことないのじゃろう?」

「えぇ〜……行こう。待ってたらもっと遅くなっちゃうし」

「う、うん……」

「そうだ、拓美さん取った奴はどうしてるの?」

「俺が戻るまで外探索するってさ」

「はぁ? なにそれ」

「まぁくっついて来られるよりいいかな。マトなんか見られたら困るし」

「まぁね」

「……見られたら困るのかい?」

「だってそうでしょ?」

「……え?」


 振り向くと懐中電灯が付けられ、人の顔が現れる。


「ひぃっ……」

「ぴぇっ……」

 突然の恐怖に拓人は梛莵にしがみつき、梛莵は柱にしがみついた。


「あはは、こんばんは。自分は見回りだよ。こんな遅くになにしているのかな? 最近肝試しにって入ってくる子がいるらしいからね、君達もかな?」

「ご、ごめんなさい……」

「はは、度胸試しもいいけどこんな遅くに子供が出歩くものじゃないよ」

「あ……でも連れと離れちゃって……」

「あらま、まだ他にいるのかい?」

「はい……」

「そうか。自分が捜してくるから君達は用務員室にいなさい、場所はわかるよね?」

「あ、あの……」

「ん?」

「このくらいの……小さいねずみのぬいぐるみ、見ませんでしたか?」

「ねずみのぬいぐるみ? いや見てないな」

「そうですか……」

「なくしちゃったのかな?」

「はい……それを探してて」

「なるほど。どこで落としたか心当たりは?」

「……渡り廊下の、鏡の前……」

「随分と具体的だね」

「なくした、というか取られたんです。それを返してほしけりゃ肝試しに参加しろって」

「あはは……今時の子はそんな幼稚な事するんだね……」

「本当ですよこんな夜中に呼び出して」


「わかった、探してみるよ。あと連れはどんな感じの子かな?」

「えーと……蝙蝠?」

「うーん猫かもしれないしカラスかもしれない……」

「ん? 人じゃないの?」

「人……かもしれない」

「えぇ……?」

「えっと、幻術! 幻術が使える子なんです。知らない人だと姿を見せないかも」

「あ、術者なのね。そうか……じゃあ隠れられちゃうかな。仕方ない、君達その子を探せるかい? 自分はぬいぐるみを見てくるよ」

「すみません……お願いします」

「見つけたら用務員室に行くから、君達は先に連れの子と合流しなさい」

「はい」


 別れ、二人はマトの向かって行った方に足を進める。


 * * *


「あっちも問題なーし、ここも問題なーし。真っ暗!

ふふふ、学校って同じようなお部屋に机がいっぱいあるけど何するとこなんだろ」


 廊下からマトを呼ぶ声が聞こえ軽く返事をする。合流しようと教室から出る時、ふと気配を感じ振り返る。


「……?」


 * * *


「おっまたせ〜」

「あ! いた! 遅いから逃げたのかと思ったろ!」

「えへへ、ごめんね〜面白くて夢中になっちゃった!」

「ったく……で? 何かあった?」

「特に何もなかったよ?」

「そう、ならよかった」

「ところでナト兄、鳥さんは?」

「? ……ピヨ助?」

「嘘でしょ……」

「もー! 大人しくしてろって言ったのに!!」


「ふぅ……マト、仔猫になって」

「抱っこするの? いいよ!」

 マトは仔猫の姿になり拓人に抱き締められる。割と力強かったようでマトは手足がピンッとなっていた。

「梛莵、手繋ごう」

「え、おう?」

「ふぅ、これで安心……」

「あ、うん……そうだね」

「えー! 僕も手繋ぎたーい!」

「駄目。マトは俺に抱っこされてて」

「俺もピヨ助の温もりが恋しい……」

「マトは冷たいよ? 梛莵も冷たいけど」

「あぁうん、そういう事じゃなくて……まぁいいか」

「拓美と合流したら貸してあげる」

「ピヨ助も探さないといけないんだけど」


 * * *


『んむぅ〜!! ほぁっ!』


 まぁ待ちきれる筈もなく、何とか動こうと拓美は一人暴れていた。


『や、やったわ! 私ったらやれば出来るじゃないの!』


 身動きが取れるようになり、辺りを見回す。


『(ふふん、これで拓人を探せるわね! 動きづらいけど……)』


 教室の扉、非常灯、自分のいた前後には鏡、鏡。


『(それにしても……鏡が多いわよね。なぁによ、身だしなみはちゃんとしろって当てつけなのかしら)』


 気配を感じ、物陰に隠れる。


『(暗くてよく見えない。まぁあいつらの仲間じゃないわよね? 多分)……とにかく拓人を探しましょ。大丈夫、きっと来てくれてる』


 * * *


「……ちょっと気持ち悪くなってきたかも」

「大丈夫か?」

「何だろう、こう……何かが出ていく感じがする」

「術力が溢れ出てるのか?」

「わかんない……もしかして拓美に何かあったのかな」

「拓美さん? でも拓美さんは術じゃないんだろ?」

「うん、でも拓美は自分に何かあれば俺は無事じゃ済まないとか言ってたでしょ?」

「そういえば……ピヨ助よりも先に早く合流した方がよさそ……っ!」

「どうしたの?」


 肩にていた得物を下ろし身構える。


「拓人避けろっ!」

「――え?」


 * * *


「むぅ〜梛莵どこじゃ〜反対方向に来てしもたかの?」

《こっちを登ってあっちに行けば……》


「わぷっ!」

《きゃっ、ちょっと何よー!》

 前方不注意、一匹と一体はぶつかり跳ね返る。


「む! お主拓美の嬢か!」

《あ! あんた梛莵んトコの喋るひよこ!》

「余はひよこでないわっ!」

《何であんたがここにいんのよ》

「拓人が梛莵に付いてくるよう頼んだのじゃ! 余はそれに付いてきただけじゃ」

《何よそれ。一緒にいないってあんたはぐれてるって事じゃない》

「そうとも言うの」

 ふふん、と胸を張る姿に拓美は呆れる。

《はぁ。でも拓人は来てるのね?》

「うむ。マトもおるぞ」

《拓人以外どうでもいいわ。でもそうね……ぬいぐるみ(これ)動きづらいしあんた私を運んでちょうだいよ》

 そう言って拓美はピヨ助の背中によじ登る。

「何じゃいそれが物頼む態度か! 余はお主の従者でないぞ!」

《ふーん従者、いい響きじゃない。ほらほらどうせ目的は一緒でしょ》

「むぬぬ余は神じゃぞ、こんな扱い……!」


《……》

 ぎゅっと掴む力が籠もる。強がっているものの、一人不安だったのだろう。


「……まぁ大目に見てやるわい。しっかり掴まっとるんじゃぞ」


 * * *


 「蝶々、風舞え……」



  《衅鋒(きんほう) 『霧雨紅蝶(きりさめこちょう)』!!》


 霧と交じり、紅氷の蝶と雨針が闇に向かい放たれる。

 その道は霧で視界を塞ぎ直ぐには見つからないだろう、梛莵達は廊下を走る。


「わわっ何何? よく見えなかったけどなんか僕みたいなの? 飛んできたよね?」

「うっ……く、走れ! あれが纒憑だ! くっそ、ピヨ助がなんか感じるって言ってたのってこいつがいたからか?」




 教室に身を潜め追手の様子を確認する。

「来てなさそうだな」

「はぁ、はぁーっ、もしかして最近立った噂の正体……?」

「かもな。正体があってよかったと言うべきか」

「お、オバケじゃないならよかったよ……」

「それでいいのか……見回りの人大丈夫かな」

「……もしかして戦うの?」

「見つけた以上は。話も通じなそうだしな」


「!」


「どうするか。校内で戦う訳にも……うまく外に誘い込めればいいんだけど……」


 振り向くといるはずの拓人の姿はなくマトは焦りを見せる。


「拓人? あ、あれ? ナト兄、拓人がいないよ?」

「え? 拓人!? 嘘だろ!?」


 * * *


「う……何が起きたの? 梛莵? マト?」


 開かれた窓から強い風が吹き込みカーテンを揺らす。


「どういう事? さっきまで教室棟に……」


 部屋を見渡すとピアノが置かれ、音楽室である事が窺えた。


「やぁ」

「! 見回りの人……?」


 見回りをしていた男性はにこりと笑う。


「やっとだ」

「え……?」

「自分はね、一つ一つをじっくりと味わうのが好きなんだ」

「何を?」

「あはは、一緒にいた子に教えてもらわなかった?」

「?」

「でもそうか、術者……うん。まぁいいか」

「……」

「うん、大丈夫。君は何も考えなくてもいいんだよ」



「ただ、そこにいればイイ」



「――ほぁぁあっ!!」

 拓人の前にピヨ助はヒーローのように蹴り込む。


『拓人!!』

「拓美!?」

『もう馬鹿馬鹿〜! 私を一人にするなんて! 従者失格よ!』

「え、俺いつ従者になったの……」


「……ただの人子、ではないの」

「人子?」

『何が起きてるかわからないけど。拓人、鏡を出してちょうだい』

「あ、うん」


『大丈夫、貴方は私が守るから』


 * * *


「拓人ー! どこ行ったの?」


 拓人の術力は覚えてる。溢れ出てるのなら……感じろ、拓人の気配を……!


 ――上。


「マト! さっきいた所の上! 向かいの、あそこだ。纒憑がいるかもしれない、先に合流してくれ!」

 そう言って向かい棟の奥の部屋を指差す。

「あぅ、わ、わかった!」

 マトは蝙蝠へと姿を変え、言われた方向へと飛び出す。続くように梛莵も拓人のいる方向へと走り出す。



 マトと別れ、一人進む。

 その暗闇に過去の不安がフラッシュバックする。


 点々と繋がる血の道。誰もいない、自分だけ。

 焦りからか、息が上がる。 


「っ、考えるな! 大丈夫、あの時とは違う。一人じゃない。無力なんかじゃない。落ち着け、落ち着け……っ!」


 拓人は術者だとしても戦闘に慣れている様子はない。

 なら今の拓人は術者じゃないも同然だ。


「拓人、無事でいろよ!」


 * * *


「それで?」

『私は鏡に戻ったわ』

「うん」

『私は、鏡に、戻ったわ!』

「知ってるよ」

『……拓人、貴方術者でしょう』

「うん」

『アリスと! マリィを! 出すの! そんであいつをけちょんけちょんにするのよー!』

「?」

『あれは纒憑よ! 梛莵が言ってた奴! マトと同じ奴ー!』

「でもあの人見回りしてた人だよ?」

『じゃあ喰い憑かれたんでしょ!』

「だめじゃ拓人、梛莵と合流するのじゃ!」

「え、うん」



「あー! 拓人いたー!」

 開いた窓から蝙蝠から人型へと姿を変えたマトが入り込んでくる。

「急にいなくなっちゃったからびっくりしたよもー! あれ、鳥さんも一緒だ!」

「拓美も合流して鏡に戻ってるよ」

「ほんと? そっか! ならよかったー。ナト兄も今こっちくるって」


「……せっかく引き離したのになぁ」

「あれ、おにーさん誰?」

「見回りしてた人……だったはずなんだけどさっきと違う人みたいな……感じ」

「双子なの?」

变化(へんげ)……君はどれほど喰らったんだい?」

「えー? なんで皆僕を大食いと思ってるの? 自慢じゃないけど僕に食事は必要ないんだよ」

「そう、だから食費かからない」

 二人の返答に「(梛莵の説明も無駄になっとるな……)」と思うピヨ助。


「お腹空かないってちょっと寂しいけど苦しくないからいいよね!」

「マトって前向きだよね」

「えへへ! そうかなー」

「お主ら呑気にもほどがあるじゃろ! 今はそれどころじゃないのじゃ!」


「ふぅー……まぁ同族であろうが同じ『魂』なんだ。仲良く世とお別れしなさい」

「えー?」

「何じゃ、同族も例外なく喰らう、という事かの」

「ふふ、そうだね。別におかしな事はないだろう? 相食みなんてさ」


「相食み?」

「共食いって事」

「共食い?」

「あれ、俺ら食べる、御飯。わかる?」

「お主も把握しとるならもうちょい焦らんか!」

「あっはっは! さて、時間も十分あげたでしょ。お友達まだ来ないんじゃ……ね?」

「そうだね、さよなら」

「ばいばーい」

「君等さては馬鹿だね?」

 纒憑は扉の前に立ち塞がる。


「!」

「行かせるわけないでしょ。君等は自分の『食糧』なんだから」

「……俺はきっと美味しくないよ、ほらこっちなら丸々して美味しそうでしょ」

 そう言うと抱えていたピヨ助を前に出す。

「うぉい拓人! なぜ余を差し出すか!」

「! 拓人危ない!」

 マトが咄嗟に拓人の腕を引き、倒れ込む。見ると譜面台がいくつか投げられていた。

「っ物投げるなんて危ないよ。怪我するじゃん」

「君さ、ふざけてるの?」

「……」

「冷静なのか、抗ってるつもりなのかは知らないけど。自分はね、お腹が空いているんだ。大人しくしてくれるかな」

「大人しくする訳ないよね。マト」

「え? 何?」

「飛ぶよ」

「飛ぶ? ってちょっと拓人!」

「窓、開けったぱなしにしたのが悪かったね」

「本当に馬鹿なのか!? ここは四階だぞ!?」

「ちょっと高いけど……じゃあねっ」

 そう言うと拓人は窓の外へと飛び降りた。



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