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逢想の纒憑  作者: 中保透
三章 童輪の鏡
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37.暗闇に潜む 1


 静まり返る学校。月の光が射し込み廊下を照らす。



  ♪見つけた、ミツケタ。



 不思議ナニオイ。



  不要、不要。**ノ邪魔ニナル奴。



 サァオ待チカネ、食事(しごと)ノ時間――♪



 * * *


「鏡に映る人影? 」


「そうそう、なんか夜の零時に渡り廊下のとこの鏡の前に立つと映るんだって」

「あーもしかして扉と向かい合わせになってるとこ?へー面白そうじゃん。そう思わない?」

 ニヤリと笑うと青年は拓人に話を振る。


「……ねぇ、灰原くーん」

「別に、思わないね」

 そう言うと拓人は教室を出ていく。


 青年は「チッ、何だよつまんねーな」とその背を見送り舌を打つ。


 * * *


 [屋上]


「鏡の……って拓美の事?」

《知らないわよ〜私はどんな鏡でも入れる訳じゃないのよ?》

「というか何で俺に話振るの。意味わかんない……」

《拓人ってばこんなのと一緒にいるくせにほんとオバケとか苦手よね》

「だって拓美は喋れるし触れるし見えるしマトだってそうだしっ」

《人形に入ってるだけで私を触れたと言っていいのかしら。マトなんて死神だって思ってたのにそれは平気なのね》

「渡り廊下通るの怖くなっちゃったじゃん……」

《拓人の恐怖の基準がわからないわ。普段からこんな姿見せられれば友達の一人くらい出来たんじゃないかしらね》

「もうやだ渡り廊下渡らない」

 一人完結する拓人に《聞こえてないわね。渡り廊下の存在意義……》とため息を漏らす。

 拓人は「誰だよそんな噂流したの」と半泣きになっていた。


《噂は所詮噂よ。気にしなければいいじゃないの》


「はぁ、やな予感しかしない……」




「――は?」


 予感が的中。

 言われた事が理解できず……というより脳が拒否をし思考停止する。


「だぁから、何人かで肝試ししようって」

「すればいいんじゃない? 夜中なんて学校閉まってるよ」

「何怖いの?」

「別に」

「ならいいじゃんやろーよ」

「やらない。勝手にどうぞ」

「いやいやぁノリ悪過ぎでしょ。たまにはいいじゃん」

「君達のノリとか知らないよ」

 巻き込まないで、と軽くあしらい帰ろうとする拓人。動揺を見せる事なく接していたが心臓はばくばくである。


《面倒くさいわねーいっつも拓人に絡んできて馬鹿なのかしら》

「……」


 同級生の青年は拓人のポケットに入った人形、拓美を取り上げる。


「ちょっと、何するの!」

「灰原くんさー、いっつも胸ポケットにぬいぐるみ入れてるよね」

 女子みたい、気持ち悪い。

 そう人形をつまみ掲げる。


《何するのよ汚い手で触らないでちょうだい!》

「関係ないでしょ、返してよ」

 必死に人形へと手をのばす。伸ばされた手を避け、その姿を嘲笑うかのように「大事な物なんだー」と。


「ちゃんと返してあげるって。夜に来ればね」

「……っ!」


 青年を睨み、不可糸を(ふる)う。

 しかし人形を持つ腕を大きく振り避けられてしまう。


「おっと、術を使うのは無しっしょ」

《ちょっとちょっと振り回さないで! せめて鏡に戻してよ! 他に移れる物なんてないわよっ》

 拓人! と叫ぶ拓美の声は自分にしか聞こえていない。

 ただの人形だと思っている青年は「じゃ、また夜の零時前にね」と去っていく――。


「っ……」


 * * *


 [灰原宅]


「あ、おかえり拓人〜」

「あ……ただいま」

「あれ、拓美はどうしたの?」

 今日は人形に入ってたよね? と不思議そうに拓人の顔を覗き込むマト。

「……学校に忘れて来ちゃって」

「えぇ? 拓美絶対怒ってるよ! 暗くなっちゃうよ〜! 取りに行くんでしょ?」

「うん……」

「拓人?」


 マトの服をがっしりと掴むと「い、一緒に来て……!」と縋る。

「え? でもいつも行ってる所でしょ?」

「そう、なんだけどぉ……」


 すると携帯が鳴り響く。共に拓人の悲鳴も。


「ひぇぁっ……!」

「ヒェア?」

 どこから出てきたのかサングラスをしてラッパーのようなポーズをとるマト。どこで覚えてきたのだろうか。


「あ……梛莵からだ」

 携帯の画面を見ると梛莵からの着信であった。

 それを聞いたマトは「え! ナト兄!?」と嬉しそうに拓人の周りをうろうろとする。

「もしもし……」

《あ、拓人今平気? マトの事なんだけどさ》

「う……た、」

《え? 歌?》

「助けてぇ……!」

 会話開始直後のSOS。

 もちろんなんの前触れもなく助けを乞われた梛莵は動揺する。

《え、えぇ……? どうしたの?》

「人形に入ったままの拓美、取られちゃって……」

《え!? 取られたって……もしかしてこないだの人?》

 そう問うと拓人は「うん……」と答える。

《なんだあいつ、人の物取って小学生か……》

「夜に来れば返すって言ってるんだけど……」

《え、夜?》

「う、うん……」

《でも返すって言ってるんだろ? 本当にちゃんと返してくれんのかわかんないけど……というか何で夜?》

「その、き、肝試しするって……」

《……それに参加しろ、と?》

「うん……」


「《……》」


《ま、マトは? 連れていけば? 変化できるでしょ? 小さくなってもらってさ……》

「マト生身じゃないから頼りない……」

 そう言う拓人の横で聞いていたマトは「僕の頼り基準って生身かどうかなの? さっき付いてきてとか言ってたのに」とぶつくされる。

《でも俺に言われてもなぁ……》

「つ、付いてきて」

《えぇ……あのさ、もしかして怖いの?》

「お、俺ホラーとか苦手なの……!」

《お前……死神側に置いといて何言ってるの……》

「僕死神じゃないもん!」

 ナト兄まで! と言いながらマトは蝙蝠に姿を変えると拓人の頭に引っ付き暴れて髪を乱す。鬱陶しかったのだろうマトを鷲掴むと机に捨てる。

 不満をぶつけるように「僕悪くないもん」と机の上でじたばたと抗議していた。

「だってマトはちゃんと触れるし」

《そこ?》

「来ぃてぇ……っ」

《あ、ぅぉ、お、俺じゃなきゃダメ? 他にいないの?》

「いない……一芽連れてくわけにはいかないし」


 吃る梛莵の様子に「もしかしてナト兄も怖いの?」と言われてしまう。

《は、はぁ!? 別に怖くないし! 纒憑だって同じようなもんだし!》

「じゃあ大丈夫だよね! あ、いっちゃんおかえり! これからナト兄遊びに来るって〜!」

「!」

 丁度帰宅した一芽にマトは嬉しそうに報告をする。

《いや行くって言ってないですけど!?》

 うまいように誘導されていく。マトは全く狙っているわけではなく純粋に梛莵が遊びに来る事を望み、喜んでいるだけである。

 そんなマトの愉悦(ゆえつ)も梛莵の不満も拓人にはお構いなし。

「明日土曜だし交通費も出すし泊まっても大丈夫だから、来てね」とほぼ決定事項になっていた。


《ちょ、えぇ……まじ?》

「わーいお泊りー!」

《人の話聞いて? こっちにも都合ってものが……》

「マトの事煮るなり焼くなり刻むなり殴るなり好きにしていいから」

「拓人!?」

《乗った》

「ちょっとナト兄!?」

《でもピヨ助と燐も連れてく事になるんだけど。諸事情で一緒に住んでて》

「ピヨ、助?」

《あーっと、あの赤い喋る鳥の事》

「あぁ、うん大丈夫。ほんと大丈夫だから、問題ないから来て」

 強制。完全に強制なっていた。

《なりふり構ってられない感じだな……わかったよ。何時からなの? 肝試し》

「零時前にって言ってた……」

《は? 夜中? 何考えてんだ……》

「あの、渡り廊下のか、鏡に零時になると幽霊が映るらしくて……だから肝試しって話になって……」

《……俺、明日朝早いんだわ。ごめんな》

「来るって言った……っ!!」

《うぉっ、大声出せんのか……わかった、わかったよとりあえず行くよ……》

「絶対だよ、フリじゃないから」

《流石にそこまで薄情じゃないよ……》


 通話を終了させ、ふとマトが言ってた事を思い出す。


「……拓人って墓場とか平気なんじゃないの?」


 * * *


「よ、よぉ……こんばん、は」

「梛莵? 大丈夫かの」

「ナト兄達こんばんは~!」

「いらっしゃい、どうぞ……」

「おぅ……」

「咲舞、いない?」

「え? 南中? ごめん今日はいないな」

「そう……」

 顔を出したかと思うとしょぼくれてロフトに上がって行く一芽。

「……なぁもしかして南中連れてきたほうがよかったの?」

「どうやらあの子の事気に入ったみたい」




「今までそんな噂なんてなかったのに」

「あ、そうなんだ……というか拓美さん、拓人と離れられるのね」

「そういえば。まぁ別に拓美は俺の術な訳じゃないしね」

「ふーん? 人形に入ってる時動けたりは?」

「さぁ……動いてるの見たことないし動けないんだと思う」

「そう……あれ、糸で手繰り寄せられたりしなかったの?」

「やろうとしたら避けられた。動かれると狙えない……」

「そうか……なんか面倒くさい奴だな」

「いつも絡んでくるの。今回ばかりはほんといい加減にしてほしい」

「はは……」

 多分からかっても涼しい顔してるのが気に入らないんだろうな。

 本人は「まともに相手するだけ無駄だし」と言っていた。


「何じゃ燃やすかの?」

 突然口を開いたと思えば物騒な事を言い出し口から軽く火を吹くピヨ助。

「何でだよ」

「ムカつく餓鬼はまとめて消し炭じゃ。余に任せぃその程度なら朝飯前じゃ」

 半分は琉山の八つ当たりだろう。ピヨ助を膝に収め、制止する。


「お前物騒にも程があんだろ……やめなさい」


 * * *


 [PM.11:40 壊鏡高校 校門前]


「お、ちゃんと来たんだ。そんなに大事なの? あの人形」

「来たよ。返して」

「あぁ、返すよ。取りに行けばね」

 ニヤニヤとする青年。

 人形を持っている様子もない。まさか……。


「そのまま帰るなんてつまんないじゃん。一緒に遊ぼうぜ。……やる事は簡単。人形を持って帰って来たらそれで終わりでいいよ」

「……ねぇ、人形置いてある所って」

「渡り廊下の鏡の前。昼間話してたっしょ? せっかくだしね」

「君、性格悪いね」

「ははっ褒め言葉として受け取っとくよ。どうする? やめるの?」

「……行けばいいんでしょ」

「そー来なくっちゃ」




 携帯のスピーカー越しに会話を聞き取る。


「どうだってー?」

「渡り廊下の鏡の前にあるって言ってよ。用意周到か、最悪」

「うーん、場所わかれば僕が取りに行ったんだけどよくわかんないからなぁ」

「お前物持てんの?」

「軽〜いのなら持ち浮かせられるよ〜油断すると落としちゃうけど」

「ふーん? にしても……予想はしてたけど素直に返す気ないんだな」

「これから僕たちどうするの?」

「とりあえず拓人が入ったら窓開けてもらって、そっから一緒に付いてくよ」

「はーい」

「誰かに見つかりそうになったら隠れろよ」

「わかった〜」

「渡り廊下の鏡がどうしたのじゃ?」

「だからそこに幽霊が出るって噂があるって……ってピヨ助! またなんでいるの!? 燐と待っててって言ったでしょ!」

「いや〜そうなんじゃがこっちが気になっての」

 見るとピヨ助はマトに持ち上げられていた。いやお前も何普通に持ってんだ、言えよ。

 マトも冷たくて良いの、と冷却剤扱いである。もう火の鳥なんかやめちまえ。


「お前ほんと言う事聞かないなぁ!」

「あっ拓人入ってったよ」

「えっ! もうっ大人しくしててよ!」

「うむ」




 〜その頃の燐 灰原宅〜


 聞き耳を立て、部屋を見渡す。

「ピヨ助……さては梛莵についていったか」

「ピヨ助も、ついてったの?」

「みたいだ。大丈夫、起きた時にはきっと皆帰ってきてる」

「うん……」

「何心配いらない。梛莵はお兄ちゃん、だからな」


 * * *


 真っ暗で静かな廊下で拓美は一人騒ぐ。


『もー何なのよあいつ! 私をこんな所に置いてくなんて! 次見かけたらただじゃおかないんだからっ! 騒いで脅かしてやるわ!』


 深夜の学校。騒いだところで誰も来るはずはなく拓美は騒ぐのをやめる。


『(拓人、早く来てちょうだいよ……)』


 きっと来てくれる。そう信じて。


 * * *


 校舎横の窓が開かれ隠れている梛莵達に気づくと拓人は手招きをする。


「梛莵、こっち」

「おう。大丈夫か?」

「大丈夫な訳ないでしょ帰りたいよ」

「はは……」

 まぁそうだよな。

 人形回収して速攻帰る気でいたのに結局強制参加させられたのだから。



 窓から入った校内は月明かりが射し込むも暗く、静かな廊下が目に入る。


「……」


 一人歩いた合宿所の廊下を思い出す。

 暗くて、声をあげても誰もいなくて……怖くて、寂しかった。

 梛莵は羽織っているパーカーを軽く握る。


 嫌だな、泣きそうだ。


「えと、ナト兄? どうかしたの?」

「……いや、何でも。早く拓美さん見つけて帰ろう」


 * * *


 携帯のライトを頼りに目的の場所まで歩く。


「こっちで合ってるの?」

「うん……鏡のある所だと四階のとこ渡った向かい側かもう一個隣の校舎なんだよね」

「梛莵の学校程ではないが広いのぉ」

「梛莵のとこもっと広いの?」

「まぁ……俺の所特殊だからなぁ。学校とはまた別の建物が繋がってるのもあるけど」

「別?」

「あぁ。俺ら竒術師って言って……纒憑の討伐を主として色んな依頼を受けたりする所の養成所……みたいな学科のある学校なんだ。その本部とか色々繋がってるの」

「竒術師……マトに会ったのってその依頼でって事?」

「まぁ会ったのはたまたまなんだけどな」

「人がいっぱいいたのって集まってたからなんだ〜」

「集まってたってかあの時はお前のせいで集まったんだけどな」

「え? 僕?」


「む?」

「どうした?」

「あっちの方から何か感じるんじゃが」

「やだやだ何、何がいるの」

「い、いやまだ何かいるって決まった訳じゃ……ピヨ助不用意な発言控えてよ」

「僕ちょっと見てくるよ〜」

 そう言うとピヨ助の指した方向へとマトは飛んでいく。


「マト……頼もしい奴じゃんか」

「梛莵、お主心変わり早すぎぬか?」

「先陣を切ってくれるならマトがいてよかったと思う」

「俺もそう思う。でもこれ普通に置いてかれるやつだから梛莵がいてくれてよかったと思う」

「照れるな」



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