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逢想の纒憑  作者: 中保透
三章 童輪の鏡
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36.強育


説明回ですね、はい。


 後日、梛莵は燐を連れ報告の為に学長室へと訪れていた。



「朱鷺夜兄も黒霧に触れられる、と。そいつ本当に触れないのか?」

 ソファに座る朱弥は問う。


「えぇ、試しに南中に触れてもらったんですけど対象を掴む事はできないようでした」

「なるほど。触れられる理由はなんだ……そこを詳しく知りたい所だな」

「そこまでは自分も……拓人は管承者だから触れられるんだそうですが、俺はその管承者ではないですし、父さんも……多分関係はないかと思うんですが」

「俺からすれば柊季の奴もよくわからん事だらけだがな……過去の事も、竒術師になった理由も目的も知らん」

「過去はどうだかはわかりませんが……目的は人探しじゃないんですか? 会ってぶん殴りたい人がいるって昔言ってましたよ」

「因縁の相手でもいるのかあいつは……朱鷺夜兄が触れられるのは柊季の血縁者だからと考えとけばまぁ妥当だろう」

「でも俺は普通の……取り憑いてない纒憑は黒霧のように触れる事はできませんよ? 拓人はわかりませんけど」


 朱弥は少し考え口を開く。

「本来掴めないような物にでも……憑いていれば触れられるって事か?」

「多、分……?」

「んー……条件がわかれば取り逃がし対策が出来そうだが……拓人くんの術はなんだったか、召喚と糸だったか?」

「はい、『召喚型不可糸』と呼んでいるそうです。糸は肉眼で確認する事はおろか、術者の意思無しでは他者が触れる事もできないと」

「召喚型不可糸……だが召喚術と糸術は別なんだろう?」

「そうですね、糸は単体で扱えるそうなので」

「ふむ。だがそうか、『童輪の鏡』……に纒憑と明言する少女、管承者……うーん、わからん。聞いたこともない」

「管承者に関しては拓人本人もいまいちわかってはいないようでした。鏡の少女、拓美の話も真偽までは……」

「そうか。しかし宇和部も言ってたが大丈夫なのかそいつは……ほっといたら騙されそうだな」

「はは……本人は知らない人じゃないからって言ってましたよ」

「そういう問題なのか? お前とそっくりだな」

「どこがです!? 俺そこまで危機感無しじゃないですよ!」

「初対面の纒憑を連れて帰ってきた奴が何言ってんだ」

「保護監視を任せたのは朱弥さんですよね!?」

「他に見る奴いないしな……皆家族いるし、卯鮫みたいに術者でない者に任せる訳にもな。それにお前が連れてきたんだからお前がちゃんと世話しろ」

「燐はそこらの猫と同じ扱いです?」

「朱弥は面白いな」

「いや他人事! 燐の事ですけども!?」

 燐はお構いなしに続ける。

「しかしマトの事は今後どうするんだ? そのまま野放し、という訳ではないのだろう?」

「そうだな。出来るなら拓人くんら含め一度こちらに来てもらいたいが、こちらの事情で遠方から来てもらうのもな……」

「あの様子だよ『いいよ』って言いそうだけどな」

 そう言う梛莵に燐は「だな」と頷く。

「はぁ……まぁ一応聞いてみてくれ。交通費はこちらが持つ。連絡先は交換しているんだろう?」

「はーい」

 すると突然燐が朱弥に「ため息は婚期を逃すと言うぞ」と。

「いきなりどうしたの……それ言うならため息は幸せが逃げる、な。そんなのどこで覚えたんだよ」

 というか意味わかってないだろう。

「紅が担任に言っていた」という燐に「それため息の原因卯鮫だよ」と返す。

「卯鮫あいつは……ったく、ため息くらいつかせろ問題児共」

「『従順なかわいい生徒』の間違いでしょう」

「お前は従順の意味を辞書で引き直してこい。従順どころか反抗的だろう」

「反抗した覚えないです。何言ってるんですか、失礼ですね」

「そういうとこだ!」

 苛立ち声を荒げる朱弥に対し梛莵は「朱弥さんこわ~い」と反省の色を見せずわざとらしく怖がる。

 そんな梛莵を燐は横で「よしよし、私がついているぞ」と撫でいた。

 「何なんだお前らは……っ」

 退学にしてやろうか。そんな気持ちで朱弥は握る拳に力を籠めた。


 * * *


 [屋外体育場/対人組み訓練]


「各々二人になって対人組みな。十也はそこの金髪と」と講師は曷代を指す。

「はーい。じゃ、早速やってこうか」

「げっ……は、はい……」

「ん〜? ねぇ曷代、今『げっ』て言ったかな?」

「言ってません言ってません!!」

「あはは、そっかそっか。じゃあ今日も元気に逝ってこ〜」


 黒い笑顔を向ける裙戸――。


「ね?」

「ひ、ひぃぃぃぃっ!」


 から逃げられるわけも無く肩を捕まれてはとりあえず投げられていた――。


「なーんかまた余計な事言ったのかな」

「アイツも学習しねぇ阿呆って事だな」



「望さんの具合どう?」

「とりあえずは平気。しばらく入院にはなるが……身体は健康だからよ」

「そっか。なら良かった」

「あー……ピヨ助預かっても大丈夫だぞ? 一応姉さんはいるし」

「大丈夫だよ。飾未さんだって色々忙しいだろ。ピヨ助だって留守番くらいできるだろ」

「ならいいが……」

「色々頼っちゃってる俺が言うのもなんだけど柑実も無理するなよ」

「はっ、俺は問題ねぇよ。頼れるんなら頼りゃいい、気にすんな」と撫でられる。


 柑実はあまり弱みを見せない。俺が弱い部分を見せてばかりだから出すに出せないのかもしれないが……。


 やるかー、と伸びをする後ろ姿は梛莵には大きく見えた。


「じゃ、まず俺が打太刀な」

「わかった。宜しく先生」

「はっ、」

 軽く笑うと柑実の姿が目の前から消える。


  ――――後ろ!


 脇腹を狙う蹴りをかろうじて受け止める。

 その反動で一歩後退り相手に距離を取られてしまう。


「反応が遅れてんぞ! 集中しろ!」

「っ、悪い! もう一回頼む!」

「あぁ」


 柑実は正面から足を振り下ろす。


「はぁぁっ!!」


  ――頭を狙った攻撃か


 両腕で守りの構えを取り振り下ろされる足を受け止め……られずそのままかかと落としを食らう。


「痛っっったぁぁぁぁぁぁいっ!!」

 頭を抑え転げ回る梛莵。


「阿呆!! これが実戦ならお前頭真っ二つだぞ!!」

「受け止められると思ったんだもん!」

「もんじゃねぇ!! 腕に力も込めねぇで添えてるだけじゃそのまま腕もさよならだっつの!!」

「込めた! 込めたよぉぉっ」

「言い訳無用!! こんなでお前よく今まで無事だったな!?」

「纒憑でもこんな格闘技みたいな事してくる奴いないもん!!」

「言・い・訳は、無用だっつってんだ!! 一から(かた)やり直せ大馬鹿者!!」

「俺は形なんて知らないよ! 段位保持者怖い!!」

「段位なんざ知るかぁぁぁ!!! 立て!!」

「ひぃぃぃぃぃぃっ!!!」


 因みにこの対人組みと関係はないが柑実は中学まで剣道、空手、柔道と武道を嗜んでいた。



「梛莵より柑実のがスパルタじゃん。なにあれ怖……」

「ははは、柑実は梛莵の側にいれない時自分で身を守れるようわざと厳しくしてるんだよ」

 ここで甘やかしちゃ後が痛いからね、と付け足す。

「な、なるほどぉ〜流石お母さん……」

「曷代もだからね? いざ自分が戦う事になった時、今のままじゃ瞬殺だよ。相手がこんな対人向けの技使うとは限らないんだから。これだって実戦では通用しない事がほとんどなんだと考えた方がいい」

「え……」


 裙戸は手銃を作り曷代の頬をつつく。

「あくまでこれは護身術。自分が矛になる時はこんなもんじゃ直ぐに折られてしまうよ」

「守りが最大の武器ってやつかな」

「それ『攻撃は最大の防御』の事言ってるの? 君の守りで術は防げるのかな?」

「ふ、防げないです……」

「だよね。身体の術巡(じゅじゅん)強化もそうだけどね、曷代はまず基本的な身のこなしを覚えないと強化した所で紙なんだから」

「紙かぁ〜……改めて言われると悲しい……」

「卯鮫にだってできたんだから曷代もきっとできるよ」

「何故に卯鮫ちゃんが出てきた?」

 すると何故かきょとんとする裙戸。

 よくわからず疑問符を浮かべていると思い出したように続ける。

「あ、そっかそっか。曷代は知らないよね。馴染んでるから気づかなかっただろうけど卯鮫も半年くらい前に加入した子なんだよ」

「そうなの!?」

「うん。僕が父さんに半強制で連れてかれた任務先で会ってね、色々あってこっちに来たんだ」

「へぇー……じゃあ元々のメンバーはそんなにいないの?」

「そうだね……でも特科の二年は多い方だよ。三年なんて今二人しかいないから所属は特科だけど普通科と一緒になってるし」

「道理で特科の先輩らしき人見かけないわけだ……じゃあ主に学生任務は二年に来るって事になるんだ」

「まぁそうなるね。三年生も支援班だけだから単独で行くことはないし」

 誰かしら同行はするね、そう言われ疑問がいくつか浮かび問う。

「ふーん……ねぇ、二つほど聞いてもいい?」

「二つどころか色々聞かれてるんだけど。答えられる事ならいいよ」

「ご、ごめん……支援班だと単独はないってどの班も一緒じゃないの? 基本二人一組って聞いたけど」

「なんだ、そこ詳しく説明されてないのね」


 任務先で何が起こるかわからないし最低の二人組行動は基本なんだ。もしもの時、外部に連絡が取れない、なんて事にはなりたくないでしょ?

 だけど人数も多くはないからね。単独任務も普通にあるよ。

 でもそれは総索班の場合のみ。特攻班や支援班は別なんだ。

 何故か? それは得意の違いかな。


 優立先攻『特攻班』

 戦闘特化の人が主かな。所謂脳筋ってやつ、細かな事を考えるのは苦手。対立対処が主だよ。


 次に戦闘補助『支援班』

 前線での戦闘より裏や後方からのフォローかな。

 まぁそのままだよ、他の人を支援するのが主。所属してる人が一番多いチームかな。

 わかりやすく例えるなら指令する朱弥さんや裏方管理してる井守宮さんとか。

 曷代は現段階では支援班だよ。


 あとは総合助攻『総索班』

 これは捜索や戦闘、補助とかの対処も行う総合的チーム。

 支援班でもあり特攻班でもあるって思ってもらえればわかりやすいかな。任務に出る事が多い本部の人はほとんどこれ。


「特攻班は支援班がいて成り立つ、逆も然り。総索班は二つを持ち合わせてるから……」

「単独でも問題ないって感じ?」

「まぁ問題ない訳ではないけどそんな感じ。だから支援班が主の任務は基本ない、かな。あ、現場に行く場合の話ね」

「なるほどねぇ、チーム分けの理由がなんとなく理解できたよ」

「それはよかった。まぁ例外もあったりするんだろうけど基本はって頭の隅にでも入れといてよ」

「うん、ありがと」

「いえいえ。もう一つは何?」

「あ、そうそう。任務に連れてかれたって言ってたけど裙戸の父ちゃんも竒術師なの? って思って」

「うんそうだよ」


 ね、(せん)ちゃん、と呼ぶ裙戸。……まさか。


「おいテメェその呼び方やめろっつったろうが。シバかれてぇのかクソが」

 焦げ茶髪で前髪を上げている自分より背は低めの男性。

 お前に言われると鳥肌がすげぇ、と不機嫌そうに舌を打つは今日の講師だ。


「えと……お父、さん?」と裙戸を見る。

「うんそう、こちらのおチビさんは僕の父さん。お恥ずかしながら」

「ちびじゃねぇ、テメェが馬鹿デケェだけだろ」

「あはは、お互い名乗ってないの? 挨拶は基本だよ〜?」

 まるで挑発するかのように父を見ては笑う裙戸。

 その挑発に乗るかのように講師はムッとした表情で名乗る。


「……【裙戸(ふちど) 千也(せんや)】。本部所属の総索班、今日は宇和部の代わり、だ」


「あ、曷代仁月です、よろしくおねがいします……」

「あぁ……」


「「……」」


 え? 終了? いや別に特別話す事があるわけじゃないんだけど終わり? 嘘でしょ? 俺からなんか話題振るべきだった?


 悶々とする曷代に裙戸はまたまた思い出したように言う。

「あぁごめんね曷代、父さん人見知りなんだよね」

「ひ、人見知りじゃねぇ!! 特に言う事にゃかっただけらっ!!」

 即座に否定するが動揺を隠しきれていない。噛みっ噛みである。

「曷代はよろしくって言ったよ。父さんはよろしくできないの?」

「う、ぐ……よ、よろしくぅ……」と目を泳がせ引き攣った笑顔? を見せる。

「ど、どうも……」

 そんな千也に痺れを切らした裙戸は「もう、ちゃんと相手を見て。大人でしょ、見本を見せないと」と曷代の前に突き出す。


「フシャーーッ!!」

 威嚇し、突き出す腕を払い逃げようとする千也。体格も裙戸の方が上だからか普通に捕まえられていた。


「逃げないの! ちゃんと挨拶できないって葵さんに言い付けるよ!」

「やだぁぁっ!!」

「あの〜、ごめんどっちが親ですか?」

 曷代はツッコまずにはいられなかった。



 騒いでるのが気になったのか術訓練中の卯鮫が廊下の窓から覗き、飛び出してくる。

「あれぇ千ちゃんだぁ! 任務から帰ってたんだねぇ!」

「おぉ、紅ちゃん。久しぶ……うぐっ!!」

「おかえりぃ! 肩車してぇ!」

「もうすでによじ登ってるが!?」

 千也によじ登ると卯鮫は運動場を見回す。


「今日の対人組は千ちゃんが講師なのぉ? 継ちゃんじゃなかったっけぇ?」

「体調悪いんだとよ。悪かったな俺で」

「そっかぁ。アハハッ千ちゃん大丈夫ぅ? わがまま言ってないぃ?」

「何で俺が! 言う方なんだよ!」

「時すでに遅しだよ卯鮫。曷代相手に逃げようとしたからね」と裙戸。

「千ちゃん……大丈夫だよぉ、曷代くんは怖くないよぉ」

 よしよし、と千也の頭を撫でる。

「別に怖くないっつの! クソが!!」

「なんで自分より大きい人はダメなのさ。世の中父さんより大きい人多いよ?」

「うるせぇ別にダメじゃねぇ!! 話す事ないだけ!」

「でも逃げたらダメだよぉ。ナメられちゃうよぉ?」

「う、ぐぬぬ……!」

「父さん海外任務とか今までよく大丈夫だったね」

 自国より背の高い人多いだろうに。


「……そんなのそれっきり二度と会うことねぇし」

 知ってる奴誰かいれば平気だし、そう小さく呟く。

「それを人見知りって言うんだよ」

「ひ、一人だって平気な時あるし!!」

「墓穴墓穴。人見知りの人の特徴ネットで調べておいでよ」

「ぐぅぅっ……!! クソが!!」

 言い返せないと次に『クソが』。自身の父親の語彙力の乏しさ……幼稚さに裙戸は頭を抑える。


「相変わらず千ちゃんは面白いねぇ」

「これが親だと思うと僕は恥ずかしいよ」

「でもでもぉ千ちゃんは頼りになるよねぇ」

 笑む卯鮫に合わせるように「……ま、そうだね」と軽く笑う。



 離れた所で組み合っていた柑実が頭を抑えた梛莵を引き連れ寄ってくる。

「千也さーん、保健室行ってきます」

「なんだボコボコにしたのか。容赦ねぇな」

「そこまでしてないっす」

「絶対たんこぶだよー!」

「出来てねぇから大丈夫だっつの。騒ぐな」

「寒っ、おい梛莵冷気漏れてんぞ引っ込めろ」

「ぐ……千也さんのが容赦ない……」

「そゆことなんで。休ませてきます」

 被害範囲が広がる前に。

「わかった。保健室凍らすなよ」

「まだ大丈夫、まだ大丈夫ですよ……!」

「しょっちゅう病室凍らすガキが何言ってんだ。どっから来んだその自信」

 すると突然「む、むぅぅっ!!」と奇声? を上げる梛莵。

「ヤバい卯鮫化した」

 おい、と裙戸を呼ぶと『落とせ』のジェスチャー。

「待って紅ちゃん化って何ぃ!?」

「んー? まっかせてー」

 騒ぐ卯鮫をスルーし、そう言うと裙戸は笑顔で梛莵の肩を組む。

「な、何……ふぐぅっ!?」

 最初こそ暴れていたが段々と梛莵は静かになっていく……。そして柑実に手渡すと小脇に抱えられ連れて行かれた。


 その様子を止める事なく見ていた千也はいつの間にか卯鮫を肩車したまま曷代の後ろに隠れ「え、あの人怖……」と呟いていた。

「お宅の息子さんですよ……」

 見た目に反し臆病なのか。

 苦笑いな曷代に卯鮫は「千ちゃん変に強がりさんなんだよぉ」と耳打ちする。

 先程のやりとりを思い返しだろうな、と納得。



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