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逢想の纒憑  作者: 中保透
三章 童輪の鏡
39/52

35.訳アリ家族と問題児


「それでマトの事、だよね」

「あぁ……うん」

「マトの、知り合い?」

「うん、この間『さがしもの』してる時に会ったんだ〜! 名前も付けてくれたの!」

「そうなんだ」


「二人はマトの正体は知ってるんだよね?」

 その問いかけに二人は揃って首を横に傾ける。

「あー……えっと、マトが人間じゃないってのは流石にわかるよな」

「マトは、黒くん、でしょ?」

「死神じゃないの?」

「まぁ……ある意味死神なのかも知んないけど」

「でも死神というか子供みたいだよね」

「そ、そうだね……」

 そんなやりとりを聞いていたマトは「僕は死神じゃないってばー! もう!」と頬を膨らます。

 父さんの姿でそれやめろ。


『纒憑でしょう』

「うん、そう」

「ねぇさっきから言ってる『纒憑』って、何?」

「……纒憑は自分以外の魂が身体に取り憑いて魂を喰らう存在。マトは人には取り憑けないみたいなんだけど。簡単に言えば悪霊みたいな感じで……実体はないけど、姿はある。黒い、蝙蝠みたいな靄……なんだけど。見たことない?」

「黒い靄……えっマトじゃん」

「そうだよだからそう言ってんじゃん」

「魂を奪うって事は死神で合ってるんじゃないの? 俺の死期が近いんだなぁと思ったの、合ってる」

 そう思ってるならなんで身近に置いてるのさ……。普通なら逃げようとか助け求めたりするだろ。

 当の灰原は「だってお家ないから……?」と首を傾げており梛莵は眉間を抑えた。


「梛莵……継夏の言うように保護した方がいいんじゃないか?」

「これは心配よね〜……」

「う、うーん……」

「?」


「マトは、拓兄の魂、食べるの?」

「ナト兄達にも言われたけど僕は食べないよ? だって僕に食事は必要ないから!」

 えっへん! と胸を張ってみせる。

「そっか」

『そういう事じゃないわよ馬鹿』

「でもマト、悪い子じゃ、ないよ?」と言って人形に入った拓美を机に置く。


 この子もこの子で大丈夫か? 自分も喰われるかもしれないって事わかってる?



「マトはきっと、大丈夫。だよね――お姉ちゃん」


 紙の切れ端が一芽の周りを泳ぐかのように舞い、肩に人形の紙が立ち腕を挙げる。


 〈!〉


「! 紙が……」

「改めまして……わたしは【巫婪(ふらん) 一芽(いつめ)】。こっちはわたしの、お姉ちゃん」

「……術?」

「お姉ちゃんだよ」

「何言ってんだ、ただの紙切れじゃねーか」

「違うよ、お姉ちゃん」

「『姉』というのは紙でできた物なのかの?」

「そんな訳ないでしょ」

「そうなのね〜あ、そういえば自己紹介がまだだったわね〜。私は南中咲舞、よろしくね〜」

「うん、よろしく」

「あ、そういえばそっか……俺は朱鷺夜梛莵」

「私は燐だ」

「……琉山流」

「『硫酸流せ』? 君物騒な名前なんだね」

「酸じゃねー山! 山だ!」

「ちょっと〜うるさいわ〜山田くん」

「誰だよ!」

「俺は知っての通り、灰原拓人だよ。で、拓美ね」

「自己紹介もしてなかったのにほんとすごいなお前……」

「一応知らない人じゃないし……」

 当たり前のように言う灰原に「いや危な……まぁもういいよ慣れてきた」と梛莵は彼に常識を重ねる事を放棄した。


「……わたし、食材買いに、行ってくるね」

「え、一人で大丈夫? 」

 お姉ちゃんも一緒だから大丈夫、そう言う一芽にマトは「スーパー? 僕も付いてく〜!」と立ち上がりはしゃぐ。

『何言ってるのよ来てるのはあんたの客でしょ。それとあまり私に寄らないで、ぬいぐるみが湿るでしょう』

 人形に移り替えた拓美は文句混じりに指摘する。

「えー」

「マト、怒られちゃったね」

「あら〜なら私一緒に行こうかしら〜いい?」

「う、うん」

 思わぬ同行願いに戸惑いつつ、一芽は南中と共に買い出しへと出掛けていった。



「そういえばマトって靄っていう割には結構はっきりしてるよね」

「あぁ、ややこしいんだけどマトは霧に取り憑いてるんだ。そんで姿は……俺の父さんを元にしてる」

「君のお父さん?」

「うん。だからその、最初会った時こいつが父さんを喰ったんじゃないかって思って」

「えっと……お父さん、亡くなってるの?」

「あ、いや勘違い……だと思う。事情を知ってる人が言ってたから」

「思う……?」

「……父さんに会えてないから何とも」

 知人の言う事を信用してない訳ではないんだけどね、と軽く笑ってみせる。

「それで、そんな奴と一緒にいる君達がどんな人物なのか気になったんだ。知らずに一緒にいて危険がないとは言えないし、知ってても何を考えてるのかって」

「そういう事ね。結論言えば何も考えてないよ」

「だろうねぇ……」

「でも、少しの間一緒に暮らしてても何もないし危険はないと思うよ」

「みたい、だな」

「あと、これは俺個人の感想なんだけど。マトが来てから一芽が明るくなったかなって」

「一芽ちゃん?」

 灰原は頷く。

「あの子、俺の父親の知人の妹さんなんだけど……事故でお姉さん亡くしてて。まだ……受け入れられてないみたいなんだ、仲良かったらしいから」

「それで、あの紙を……?」

「多分。親もその……早くに亡くしてて、歳の離れたお姉さんと二人暮らしだったらしいんだ。身内もいないし、施設も心配って」

「……お前は?」

「ん?」

「親、一緒に暮らしてる感じなさそうだし」

「あぁ。俺の親は仕事で今海外にいるの。流石に他人の家な上、いきなり海外なんて連れてけないし。俺は学校がこっちだから一緒に暮らしてる」

「そうなのか」


 ところで、と話を変える。

「どうするの?」

「え?」

「だってマトは本来危険人物……なんでしょ? 正体を知ってて首突っ込んで来るって事はもしもの時対応できないような考えなしの人じゃないでしょ、君達」

「あぁ」

 マトは「えー僕より危険なのって拓美じゃないの?」と言い拓美に『マト、あんたを潰すの何て私には容易いわよ? 生身じゃないからね』と言われていた。

「ひぇっ……拓美の方が訳わからないじゃん……」

「あ、確かに」

「そう……なんだけど。というよりお前ら全員訳わからないし」

「え? 俺は人間だよ。一芽も」

「いや、そういう事じゃ……えーっと、灰原、は術者だろ。一芽ちゃんも術者で合ってるよね?」

「うん合ってるよ。多分ね」

「多分って……」

「俺も『お姉さん』以外に使ってるの見たことないし、君等の言ってる『纒憑』の可能性だってあるんじゃない? マトや拓美みたいに人じゃなくても憑けるのなら」

「確かに……そうか、そうだよな」

「そう考えると俺ん家って何人で暮らしてるんだろ」

『そうねぇ〜拓人に一芽、私にマト、お姉ちゃん……それにアリスとマリィとを入れたら七人ね!』

「え、他にも住んでんの!?」

「大家族かな」

「半分人外……」

「まぁ三分の二くらいは人外だね」

『んふふ、そうだわね』

「他も人外なのか……」

 変なのばっかり集まってるなとそう思っていると「うん。アリスとマリィは人形」と答える。


 ……人形? 人形って……人形?


「悩みがあるなら聞くぞ? 何かできる訳じゃないけど」

「? 悩み?」

『ぷぷ〜! 拓人、人形に名前付けてる乙女チックな一面を持ってるのよ。可愛いでしょ』

「だってどっちがどっちかわからなくなるし……」

「??」

「アリスとマリィは俺の術。つまり……召喚した人形。不可糸で人形を操るって言ったでしょ?」

「……あ! 鏡から出すってやつか?」

「うん。マトから聞いてるんだよね?」

「僕言ったよ〜! こうピッ、グッてやってピョンってやるんだ〜って!」と手振りする姿にご本人も理解できなかったようで「俺あんな風にやってるっけ……?」と首を傾げていた。

「だからそれ意味わかんないって」

『説明が下手くそね。やって見せたら?』

「見る?」

「正直すっごい見たいっ!」

 そう梛莵は目を輝かせていた。



 完全に蚊帳の外な琉山達。

「話の変わりようがすげぇな。話題が尽きねぇ……」

「ふふ、梛莵楽しそうだな」

「そうじゃの〜余達放置されとる、暇じゃ」

「なぁ聞きてーんだけどさ」

「む? 何じゃ?」

「梛莵から聞いたんだけどお前って術力の判別ができんだろ?」

「うむ。混ざっとらねばな」

「纒憑との判別はできねぇの?」

「と、いうと?」

「だから、人間かそうでないかって」

「あぁ。まぁ多分できるぞ」

「できんのかよ。じゃああいつら……鏡の奴とか紙切れとかが纒憑かわかるんだろ?」

「わからん。じゃが紙の娘のは術じゃな」

「は?」

「じゃからわからん。今はの」

「そういえば私も特に何も言ってこなかったな」

「うむ。本来の力が戻りさえすればわかるじゃろうが今はわかる事も限られておる」

「そうなのか」

 そういえば力を使い切ってどうの、とか言っていたな。

「というよりあ奴らは見たまま人子でないのはわかるじゃろうに」

「そうだけど、そうじゃなくて……じゃああのマトって奴! 言われなければわからないだろ、どうなんだ?」

「言われなければわからんな、見た目は」

「それ判別できないって事じゃんかよ」

「そうじゃの、今はそうじゃ」

「は、使えな」


「「……」」


「な、聞いといて何じゃこやつは! 余は『今』はできんが本来の力が戻りさえすればできると言うておるじゃろが!!」

「本当かよ。というか、お前だって纒憑の可能性はあんだよ」

「何故じゃ!」

「纒憑は動物にだって憑けるってんだ」

「余は神なる者じゃ〜!! 余が纒憑ならとっくにお主なんか喰っておるわ無礼者!」

「へーへーガキ臭え神サマだな」

「燃やすぞクソガキ……!」

「ピヨ助やめるんだ、ここは人の家だぞ。琉山、も流石に言い過ぎだぞ」

「纒憑なんかに言われたかないね」

「っ」

「何なのじゃ全く! 燐の嬢、こやつなんか燃やしておけばよいのじゃ!」

 今にも飛び掛かりそうなピヨ助を燐は押さえ、撫でる。

「ピヨ助、やめるんだ。いい子だから」

「ぬぅぅぅっ!!」




「おぉ……」


 鏡から姿を現すメイドのような格好をした女人形が二体。


「右が【アリス】、左が【マリィ】。本体は【アマリリス】……アリスで、マリィはアリスの写し姿なの。だから見た目も左右逆なだけで一緒だし色々ややこしくて」

 灰原は人形達を整列させて見せる。しかし梛莵には違いがわからなかった。

「本体がほぼ左右対象だから俺は左右逆ってのもわかんないけど。人形だけの召喚は?」

「俺の召喚術で普通に出せるのはこの鏡だけ。他を出すにはこの鏡が必要なの。といっても他にこの人形以外出せる訳じゃないけど」

「そうなのか」

「でも糸は関係ないからそこらのを動かしたりはできるよ、ほら」

 そう言うと近くに置かれていたぬいぐるみを軽く動かす。

 何かを引いている様子に「おぉ〜! 本当に糸も見えない……」と空をかく。腕には糸に触れた感覚もなく梛莵は目を見開く。

「因みに、俺以外自分からは触る事もできないよ。俺の意思がなければね」

「なるほど、じゃあ糸で怪我させる心配もない訳だ」

 由月が知ったら羨みそう。

「そういう事だね」


「この糸、僕みたいだよね〜拓人しか触れないって」

「あっそういえば! これに触れるって本当?」とマトを指差す。

 灰原は「うん。ほら」と言ってバシッと平手打ちの良い音を立てる。

「痛っ! 何で叩くのさ!」

「おぉ〜! というか痛覚あるのか」

「いや痛くないけど反射的? に……」

「逆に触れないのってどんな感じなの?」

「え、触ってないからわかんない……」


 マトは目を輝かせると両腕を大きく広げ受け止めるような体制を取る。

「どうぞ!」

「え、やだ。ばっちい」

 梛莵は触れる事を速攻で拒否した。

「ばっちくないよ! 帰って来てから水浴びしたもん! 綺麗!」

「ちゃんと風呂入るんだ……」

「風呂に入ると言うか通り抜けるというか」

「僕とそんじょそこらの水は相容れないからね!」

「そ、そう……」

「大丈夫! ちょっと湿るだけ! 多分」

「なんだよちょっと湿るって……まぁ霧だからか」

「ほらほら〜」

「くっ、顔が父さんだから複雑っ」

「『ほら梛莵、怖くないから』」

「なにそれ父さんの真似のつもり? 死にたいの?」

「ご、ごめんなさい……」


「えーい」

 灰原は梛莵の腕を掴むとマトの方へと引き、手を触れさせる。


「あ!! ……え? あれ?」

「……え?」


 その手は身体を突き抜ける事なく触れていた。


「普通に触れてるね」

「た、拓人がナト兄に触れてるからとかじゃない?」

「ん」と掴む手を離す。

「さ、触れる! なんか変な感じするけど……これ逆に本当に触れないもんなのかな……」

 梛莵は再度確かめるようにマトを頭を乱雑に搔き乱す。マトはなぜか嬉しそうに大人しく髪を乱されていた。

「わーわー! 触れる人三人目ー!」

「三人目?」

「うん。柊季さんも僕の事触れたよ?」としれっと答える。

「それ先に言えよ! 殴るぞ! あれ、あっ! そうじゃん触れるなら殴れんじゃん!!」

 そう拳を握る梛莵にマトは慌てて灰原の後ろへと隠れる。

「え! 嫌だよやめて! 拓人〜!」

「俺を盾にしないで」

「いじわる!」

「逃げるなよ!」

 自分の周りで騒ぎ出す二人の間に突っ立っていた灰原はなんとなく目線下の梛莵を撫でた。

「よしよし」

「なんで撫でた?」


 その脳内では猫の大運動会が浮かべられていた……。


 * * *


 玄関を開く音と共に元気な声が響く。

「んふふ、たっだいま〜!」

「ただいま」

「あっいっちゃん達おかえりなさ〜い」

 撫でられている梛莵を見ると南中は嬉しそうに笑った。

「あらあら梛莵くんもう弟認定されたの〜?」

「え、弟……にん、て?」

「弟……よしよし」と再度撫でる。

「いやいやいや!? ってもしかして年上……なの、ですか?」

 そういえば年齢とか聞いていない。凄く失礼をしていたのでは……!?

 今更ながらに自分の言動を振り返る。

 灰原は特に気にしている様子はなくボーッとしていた。

「俺は今年17になるよ。今高二だよ」

「同い年! もう俺17歳だし寧ろ俺のが年上!」

「え、年下かと思ってた」という灰原は驚いて……る?

「それは俺が子供って言いたいの?」

「でも俺達皆まだ子供でしょ……?」

「違ぇねーな」

「あら流くん、いたのー?」

「ずっといたわ! 放置されてっけどな!」


 ふと耳を垂らした燐が目に入る。

「燐?」

「あ、梛莵」

「どうした? ピヨ助も縮こまって」

「いやぁ会ったばかりの時の柑実を思い出したというか……」

「は?」

「ぬん!」

「ぐっふぅ!」

 ピヨ助は勢いよく梛莵の腹に飛びつきパーカーに入り込む。

「何すんだよ! ちょ、くすぐった、やめ、ふひゃ……」

「ピヨ助……」

「何があったの? いきなり人の服の中入んなよ」

「……どーせ余は役立たずじゃよ。そんなの余が一番わかっとるわ」

「えぇ? 何、さっきの頼もしく見えないってやつ引きずってんの?」

「いや……その……」

「?」

『あら〜そこの硫酸くんがその鳥さんに使えないって言ってたわよ〜?』

 拓美は小馬鹿にするようにクスクスと笑う。

「え? 焼き鳥に?」

「梛莵……」

「冗談だよ。なんでそんな話になってんの」

「……何でも、ないのじゃ」

 不貞腐れた様子に呆れ半分、少し心配に思い服の上から軽くあやすように叩く。

「言いたくないならいいよ」

「うむ……」

「琉山、付いてきてもらってるのにちゃんと説明しなかったのは悪かった。でもだからって当たり散らさないでくれよ」

「別に当たり散らしてる訳じゃねーし。本当の事を言っただけだ」

「はぁ〜……」と長いため息をもらす。



「拓兄」

「ん?」

「咲舞がね、今度お出かけ、しよって。いい?」

「うん。よかったね」

「うん、お姉ちゃんも、一緒……!」

「そっか」


「随分甘やかすんだな」

「え?」

「琉山、やめろよ」と梛莵は止める。

「なんだよ。はっきり言わねぇからいつまでも受け入れねーでいんだろ」

「……どういう、ことかな」

「琉山!」

「はっきり教えてやれっつってんの。そいつの姉貴は死んだ。認めさせろよ」

「!」

「おいっ!」

「あんだよ、お前もお前だ。そいつが纒憑ってわかってて、父親を喰ったかもって思ったんなら何で斬らない」

 胸ぐらに掴みかかる梛莵の腕を掴み、琉山はマトを指差す。

「なっ、それは……最初は切ろうとしたけど、」

「結局切らずに放置してんならお前の考えも甘いって事だろ」


「……そんなの、わかってるもん……」

「一芽……」

「ぐすっ、」

「……わざわざそんな事を言いに来たの?」

「拓兄……?」

『あらぁ〜……』

 静かに問う灰原の表情はあまり変わったようには見えなかったが琉山を捉える目には怒りを感じた。


「ねぇ、そんな事言う為に来たの? それは……ご苦労だね」


 じわじわと感じる灰原の術力。

 怒るのも当然だろう。

 家族を、本来の用とは関係のない一芽を巻き込む形になっているのだ。


「悪い、そんなつもりじゃ……琉山、謝れ」

「何でだよ」

「何でって……」



  ――パァンッ



 弾く音が部屋に響く。

 南中が平手打ちをした音だ。


「謝りなさい。貴方の考えを押し付けないで。皆が皆、貴方のように受け入れられる訳じゃないのよ」

「……」

「ごめんなさい、一芽ちゃんもごめんね」

「えと、咲舞は悪く、ないよ……?」

「その、ごめんな……」

「……いや、別に。本当の事ではあるし」

『拓人……』

「でも君に言われる事じゃないよ。こっちの事、知りもしない君にはね」

「……悪かったな」


 * * *


「ほんっとーにごめん」


「別にいいよ。それに君の謝る事でもないしね」

「でも……」

「……まぁ、一芽ともちゃんと話す機会なのかな。このままは流石にダメだろうし……俺もね」

 上手く言葉が返せずにいるとまた頭を撫でられる。

「君が気にする事じゃないよ。こっちの事に関しては」

「うん……あ、連絡先教えてもらってもいい?」

「いいよ。そういえば、君達ってどこから来たの?」

「あぁ、砂中街(さなかがい)って所の『羽蘭戦門高等学校』なんだけど。知ってる?」

「うら……」

「えーと、灰原?」

「拓人でいいよ。……多分知ってる。知り合いが通ってる所、そんな名前だったかも」

「そうなのか」

「うん。今三年だと思うよ。留年とか退学になってなければね」

「あはは……」

「そっか……そんな事もあるんだね」

「?」

「いや……「ナト兄もう帰っちゃうのー?」」

「あぁ、まぁまた会うことになるだろうけど」

「そうなの?」

「うん。悪いけどまた色々話聞く事になるかも。マトと別の事も」

「別の事?」

「えーと、拓美、さんの事とか?」

「なるほどね。わかった」

「じゃあまた」

「うん、またね」

「ばいば〜い!」


 去り際に梛莵は「あ! 俺はお前の兄じゃないからな! 」とマトに釘を刺した。



 * * *


 帰りの電車では会話もなく静かだった。


「じゃあ。今日はありがとな」

「いえ〜んふふ、一芽ちゃんと仲良くなれてよかったわ」


「……」

「……べっ!」

「あんだ焼き鳥にすんぞ」

「焼かれるのはお主じゃ! ここは外じゃし問題なかろう……!」

「おいピヨ助大人気ないぞ、やめろ」

「ぐぬぬっ!」

「はぁ、頼むんじゃなかった」

「そうか」

 残念だったな、と言い残し琉山は去って行った。


「あーもうっ! 拓人が寛容な奴でよかったよ……」

「うちの流くんがごめんなさいね〜……」

「いや、南中が謝る事じゃないし……」

「今度〜ジャーマンスープレックス、かましとくわね」と両拳を見せる。

 いや何で? 南中はプロレスラーか何か?

「じゃーまん……?」

 聞き慣れない長文にピヨ助と燐は理解していなかった。因みに過去に見た裙戸の犠牲者は葵さんの息子・孝介である。

「大丈夫、裙戸くんから合格点はもらったから上手く出来るわ〜」

「何が大丈夫なのか。というか裙戸の奴何でそんなん習得してんだよ……」

「『アツキちゃんでもできる変質者撃退法』を模索してる結果色々覚えたって言ってたわ」

「羽蘭をゴリラにでも育てる気なのか? 裙戸は」

「女の子にはちょっと難しそうよね〜」

「……ソウダネ」

 同じ女の子なのに習得してる南中はどうなんだ。……余計な事は言わずに内に秘めとこう。


「じゃあ、また学校でね〜。ばいばい」

「ありがとな」


 * * *


 帰り道、ピヨ助は琉山とのやり取りを説明した。


「――なるほど。ピヨ助が纒憑の可能性な……」

「余はアレではないぞ。一緒にするでない」

「わかってるよ。魂含めてならわかるけど術力だけを取る纒憑なんて聞いた事ないし」

「別に奪い取って回っとる訳じゃないんじゃが」

「わかってるわかってる。そういう見方をする奴もいるって事だろ」

「腹の虫がおさまらんわっ! 全く!」

「琉山の事情は知らないが……纒憑に対して敵対的なのはよくわかった。まぁ、仕方ないのだろうな」

「燐……」

「まだ如斗の方が話のわかる奴じゃぞ! こっちの事聞きもせんで!」

「柑実も疑ってはいたけどな」

「え……いつじゃ?」

「多分神社の……鳥居を潜らせるまでかな……?」

「鳥居を……?」

「燐がなんか音聞こえるって言ってたろ、あれが聞こえなかったのなら纒憑じゃないって事だろ。多分」

「……梛莵も思ってたって事かの」

「……まぁ」


 ピヨ助は梛莵の頭につつき攻撃を食らわせる。

「何じゃ何じゃ何じゃ!」

「痛ぁっ! あったり前だろ! 喋る鳥なんか普通いないんだから!」

「なら最初に言うのじゃ! 疑われてるとわかっておればここまで腹立たんのじゃっ!」

「悪かったよ! でも監視対象にされてんのわかってたろ! じゃあ疑われてるってのは大体察しつくでしょ!」

「ぬ、むぅ……そうじゃがっ!」

「疑って悪かったよ。でも今だって正体がはっきりしてないのは確かだろ。言葉だけじゃ証明にはならないって」

「ぬむむ……」

「機嫌直してくれよ。もう疑ってないからぁ」

「……本当かの」

 頭上から疑いの目を向けられのを感じ「……うん」と返事をする。

「何じゃあ、今の間は! せめて目見て言わぬか!」

「はぁぁ!? 頭の上にいんのに見れるか! それに術力取られてんのに疑うなって方が無理あんだろ!」

「溢れておらんもんは! 取っとらんって! 言っておるじゃろ!」

「俺は意図的に出してる時もあるからわかんないし!」

「意図的に出しとる時なんか見たことないぞ!」

「だって今のとこ出す必要ないし!」

「知らんわ!」

「二人とも仲良いな」

「「良くない!!」」





 ベランダから拓人は月の光に照らされた海を眺める。


《拓人》

「ん、何」

《拓人が気にする事ないわよ》

「気にするって?」

《拓人は別に悪い事してないもの》

「……そう」

 


『置いてく貴方を私はいらない。拓人がいればそれでいいわ。……それでも拓人には貴方が必要なのよ、ばか』



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