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逢想の纒憑  作者: 中保透
二章 はじめての
36/52

33.他学訪問


 ざわつく教室内。

 テスト期間が無事終了し生徒達はホッと一息。


「テストも返しも終わったー! 無事赤点回避おめでとう」

 お疲れ様、とお互いに言い合う面々。一時はどうなるかと思ったがこれで心配はなくなった。


「燐が何だかんだ余裕だったのが意外なんだけど」

「む? 私のテスト全部英語だった」

「あ、燐用に作ってくれてたのね……」

「簡単過ぎて逆に引っ掛けなんじゃないかと疑ったものだ」

「そんなに? どれ……え、内容的にこれ小学生向け」

 共に返された問題用紙を見ると自分達とは異なる簡単すぎる内容が英文で書かれていた。こんな内容ズルい、と内心思う反面、流石にこれはちょっと……と思う。

 当の燐は言われている事が理解できず首を傾げた。

「ショーガク?」

「えーと、要は俺たちよりずっと歳下の子供用」

「お、おぉ……私が出来ないとわかってたのか」

「これは馬鹿にしてるんじゃ?」

「そうなのか……」


 耳をしゅん、とさせ、軽く俯く燐に曷代は慌てて謝る。

 そんな様子に卯鮫は「曷代くんデリカシーないねぇ」と言っていた。



 * * *



「えっと〜場所は観光地でも有名らしい水境都の宮島(つきじま)ってとこの近くにある『私立懐鏡高等学校』かな。本当に存在したんだ」


 放課後、確認すべく携帯でマトが言っていた場所を検索していた。規模はこちら程ではないが大きいように見える。


「正直に答えてたんだねぇ」

「みたい。……ねぇなんで卯鮫ここにいんの? 補習は?」

「紅ちゃん何も聞こえなぁい……」

 ここにはいないはずの卯鮫が耳で顔を覆い机の下にいた。

 赤点を取ってしまった卯鮫は本来補習を受けているはずだ。先生から隠れているのだろうと窺える。……帰るにも見野口先生に連れ戻されるだろうしな。

 廊下から上靴が耳に響くような音を鳴らす。教室の扉が開かれ入ってきた人物はこちらを睨んだ。

「隠れるな卯鮫ぇ!! お前補習組だろ筆記用具持って早く来い!」

「見つかったね」

「いやぁぁ!」

「嫌じゃない! お前今までで一番酷い結果だったの自覚しろ!」

「何でそうやって皆にバラすのぉ!? 酷い! つぐちゃんに言いつけてやるぅ!」

「それ肩身が狭いのは見野口先生だと思うぞ?」

「期末でこれ以上酷かったらお前夏休みないからな?」

「え、嘘ぉ……」

 そんな馬鹿なという顔をする卯鮫。


「あんまし見野口先生を困らせるなよ? 進路だなんだ忙しいんだから」

「シンロ?」

「えーと、学校を卒業した後どうするかっていう……」

「そつぎょー……」

「うーんと……ここで教わるべき事を終えるって事……って言えばいいのかな」

「ふむぅ……?」

「なんて言うんだっけ? ぐ、ぐらじゅえいと?」

「え、どうだっけ。わかんない……」

 隣にいた由月と見合わせるがお互い疑問符を浮かべた。

「?」

「伝わってないし多分違うみたい……」

「いやわかる? んだが私は学校に行ってなかったからその卒業というのがいまいちわからなかっただけだ」


 なるほど、そういえばそうだよな。燐に学生時代がない事を思い出し納得する。


「ほら卯鮫早くしろ。お前待ちだ、というかお前だけだ今回の赤点」

「う、嘘でしょぉ……」

 そんなわけ無い、と赤点候補と思われていた哉妹と曷代に目を向ける。

 そんな目線を送られる二人は

「ごめんね紅ちゃん、私意外と余裕だったの」

「俺も割と平気だった」

 と。


「え、曷代くんもぉ!? 曷代くんだけは絶対仲間だと思ってたのにぃぃ」

「勝手に仲間にするな。ほら行くぞー」

「あぁぁぁぁぁぁぁ……!!!!」

 卯鮫は襟首を掴まれ連れて行かれる。

「俺赤点だと思われてたんだ……」

「まぁ……俺も思ってたわ」


 空笑いをする面々。

 その場の皆思っていたようで否定する者はいなかった。


 * * *


 次の日の昼休み。

 午前授業を終え、(補習から逃げたいから)連れてけという卯鮫の懇願を余所に梛莵達はマトの言う『灰原拓人』に会うべく出発の準備をしていた。

「じゃあよろしく頼む」

「柑実は?」

「あー……ちょっと来れなくなって」

「そうなんだ」

「代わりに琉山が付いてきてくれるって。頼りにならないけど」と指を差された琉山は梛莵の手を叩く。

「おっ前、一言余計だっつの。指差すな」

「裙戸も断られちゃったしな。事情知ってんの琉山くらいだし」

「いや知らん知らん。他校に殴り込みに行くから頃合い見て止めて来いとしか言われてねぇ」

「失敬な! 殴り込みじゃないから!」


 言い合っていると呑気な声の女生徒・南中が手を振り近寄ってくる。

「梛莵く〜ん、私も行くわ〜」

「えっ」

「流くんじゃ〜心もとないでしょ〜?」

「咲舞いてもしょうがね……いってぇ!!」

「んふふ」

「蹴るな蹴るな! お前の蹴り痛ってぇんだよ!! 折れる!」

「そこまで強く蹴ってないわ〜」と言いながら蹴るのを止めない南中。

「痛っ、雰囲気と言動が一致してない! お前点数思ったよりいかなかったからって半分八つ当たりだろ」

「んふふっ!」

「え、何……痛っ!! おい誰か止め……あたたたたぁぁぁぁっ!!」

 なぜか肩を組まれたと思ったのも束の間、足を前に掛けられる。


「こないだ〜裙戸くんに教えてもらった〜こぶらついすと〜」 ※ 犠牲は曷代

「あいつ何余計な事教えてんだっ!!」


 琉山を一方的に組手にする南中の姿に「うーん、これは琉山より南中連れてけばいいんじゃ? 強いし」と梛莵は考え始める。それに由月も同意していた。

「誰かっ止め……っ」

 段々青ざめる琉山に技をやめない南中。


「すごいわ咲舞、もうそろそろキマりそうよ」

 華麗に決まる技に目を輝かせる哉妹。

「尊い犠牲だったね」

 南無、とさり気なく手を合わせる由月。

 そんな由月らに琉山は「死んで、ねぇわ!」とツッコむ。


 * * *


「えー、保護者としてピヨ助を添えます」

「は? 保護者ぁ? これが?」

「これとはなんじゃ! 余はお主らより遥かに年上じゃぞ!!」

「というか何でいんの?」

「だって留守番してろって言ったのにまた鞄に入ってたんだもん」

「お前家出る前に鞄確認する癖つけろよ」

「ちゃんとみたよ!! 今回は俺じゃなくて燐の鞄に入ってたの!」

 そう言われた燐は「何か重たいと思ってはいたが気の所為だと……」と思い返し頷く。

 こいつ等こんなで大丈夫か。そう思いながらも「いや不審に思ったなら確認しろよ」と大事な事なので注意する。


「まぁいいじゃない〜」

「呑気だな!? それにこいつら一応監視対象だからな!?」

「流くんってば、心狭〜い」

「これは俺が問題なのか?」

「別に〜何かされた訳じゃないでしょ〜? そんなだから流くんモテないのよ〜」

「う、うるせぇな! そんなのどうでもいいだろぉ!」

「琉山うるさいよ耳痛い」

「あん? 由月てめー自主訓練付き合ってやったの誰だと思ってんだ」

「何言ってるの」

 それはそれ、これはこれ、と手振りする由月。

「にゃろぉ……せめて表情筋どうにかしろ!!」

「俺は感情豊かでしょ」

「感情じゃない表情! 表情が追いついてない!」


 そう騒ぐ琉山に他の面子が代わって抗議する。

「何言ってんだよ絶妙に整ってんだろ」

「そうよ雅の顔がいいからって当たらないで」

「嫉妬は良くないわよ〜」

「当たっても由月にはなれないぞ?」

「そうじゃぞ」

「知ってるよ! お前らなんなの!? 由月の顔大好きかよ!!」


 対して由月は「俺は人気者らしい。やったね」と変わらない表情でガッツポーズをしていた。

「そうだな! せめてもうちょっと嬉しそうな顔しろ」

「してるでしょ。スマーイル」

 そう言う由月の表情は笑顔とは遠く無に近い。

「スマーイルな顔じゃねぇ」

「何よ雅だって笑う時はちゃんと笑うわよ。琉山が見たことないだけで」

 あたしの弟にケチつけないで、と哉妹は由月の前に立ち盾になる。

 琉山は「嘘クセェな……」と呟いていた。


 * * *


 [最寄り 砂中駅]


「今から行って丁度下校前くらいかな?」

 携帯で最寄り駅までの行き方を調べ、到着時間を確認する。

「電車?」

「うん。一応任務扱いにはしてくれてるけど私用だから……」

「なるほどね」

「かかった移動費用は後で用紙書いて提出してって。まぁそれは俺がまとめて出すよ」

「わかった」

「しかし大人数だな……これ隠れても普通にバレるぞ」

「あれ、琉山もくるの? 咲舞が居れば十分じゃないの?」

 そう首を傾げる哉妹は普通に置いてくものだと思っていたようだ。

 南中も「そうね〜?」と琉山を見ては笑う。

「突然の仲間外れ! このメンバー自由人多すぎなんだよ! 咲舞! お前もだからな?!」

 そう言ったのも束の間、訪問面子は各々自由を見せた。


「あ、物産展やってるわ〜帰りに寄りましょ〜」と南中。


「雅! 見てみて! 今度さくらんぼフェアやるって!」

「チサ果物好きだね」と哉妹と由月。


「今日晩ご飯どっかで食べてこっか」

「ピヨ助入れるのか?」

「鞄に入れとけば平気でしょ」

「余の扱い雑ではないかの?」と梛莵と燐とピヨ助。


「言ってる側から!!」

 琉山は子供に注意する親の如く叫ぶ――。


 * * *


「電車、電車」


 燐は楽しそうに尻尾を揺らし外を眺めていた。

「燐電車初めてじゃないでしょ」

 始めて会った時学校に行くのに電車で移動してきたのだから。

「まぁそうなんだが。どういう風に動いているのか、私は今楽しいぞ」

「そ、そう……」

「梛莵、余も外眺めたい」

「しょうがないなぁ……鞄からは出るなよ?」

 梛莵はピヨ助を入れた鞄を窓に寄せ支える。

「にゃっ! 真っ暗になったぞ!? 耳が変……!」

「トンネルに入ったのかの〜」

「トンネルか!」

 ピンッと尻尾を立てる燐に梛莵は慌てて「ちょ、燐! スカート!」と自身のパーカーを被せた。


「んふふ、燐ちゃんはしゃいじゃって可愛いわね〜」

「ガキかよ……」

「あれ、琉山いたの?」と気にせず外を眺めている燐の腰にパーカーを巻き付けながら言う。

「いるわ!! お前いい加減殴るぞ」

「冗談だよ。置いてったらうるさいし色々隠蔽すんの面倒くさいし」

「隠蔽すんなよ馬鹿」

「む。琉山より頭良いし。由月の顔に嫉妬してる事学校中に言いふらすよ」

 羽蘭に言いふらせば一発だし、と本当に言い広めそうな人物を挙げる。

「嫉妬してねぇよ!! やめろ!」

「流くん迷惑だから騒がないでちょうだい」

「あ! 梛莵、梛莵! 海だ!」

「燐海初めてなの?」

「いや初めてじゃないな」

「あ、そうなのね」

「おい咲舞こいつも騒いでんぞ」と燐を指す琉山。

「燐ちゃんはいいのよ〜流くんはダ〜メ」

「なぜ……」


 * * *


 [水境 宮島]


 駅を出ると広がる海。観光地らしく人々が賑わい潮風が鼻をくすぐる。


「えーっとここからそんな離れてないはずなんだけど……」

「学生結構いるわね。もう下校時間なのかしら」

「うっそ、もしかしてこっちまだテスト期間とか?」

「とりあえず行ってみようぜ」

「あれ、じゃない?」と坂の上の学校らしき建物を指差す由月。

 梛莵は「あ、そうみたい」と地図を確認し歩き出した。




 [私立懐鏡高等学校]


「むぅ……」と唸るピヨ助。

「大丈夫? もしかして酔った?」

「いや……何じゃろうか、嫌な感じのする所じゃのぅ」

「嫌な感じ?」

「大丈夫か? やはり留守番していた方がよかったのでは……」

「それは嫌じゃ」

「わっがまま」

「じゃあ俺達聞いてくるね」

「あ、うん。頼むな」

 由月と哉妹は校舎に向かって行った。


「俺達どうしよっか。学生達もちょこちょこ帰り始めてるみたいだし……」

「それ隠れてるつもりか? バレバレな上に不審な目向けられてるぞ」

 木の影から校門を覗く梛莵とそれを真似る燐。それを白い目で見る琉山。


「君ら何してるの?」

「何ってそりゃ『灰原拓人』って奴がいるか確かめに来たんだろ」

「俺?」

「は? 何言って……?」

「?」


 振り向くとそこには見知らぬ男子生徒が立っていた。


「え、誰……」


 青年は変わらぬ表情で答える。


「その灰原拓人、だけど」



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