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逢想の纒憑  作者: 中保透
二章 はじめての
31/52

28.代入


 [温室]


「これは?」

「駄目だ。それだとこっちの効果が薄れる」

「これ」

「それならこれと合わせるといい。効果もそっちの方がいいだろう」

「じゃあこれらでいけそうかぃな?」

「そうだな……これも抽出して混ぜると効果がより引き立つ」

「なるほどな。副作用は?」

「体調にもよるだろうが……当たり前に慣れてないだろうし呪薬酔いするかも知れんな」

「まぁ犠牲は付きものやろな。多少はしゃあない」

「後、香に使うのはこっち。これなら副作用もないし」

「それ使うんじゃアカンの?」

「これは燃やす事で効果が出る。そっちには向かない」

「ふーん、何や難しいな」

「簡単なら誰でも出来てしまう」

「うちやて半分理解出来てへんで」

「そうか。まぁお前が一人でやる事は一生ないだろうし問題ないだろ」


 宇和部の台詞にニヤニヤと井守宮は笑う。

「お? プロポーズか? なんや継っち〜?」

「呪草扱うくせに効力も覚えられん、育てられん奴が何言ってる」

「冗談やろ。あーあ昔は可愛かってんに」

「そうかよ」

「冷たいやっちゃ。まぁええわ、これでいこか」

「ほれ」

 宇和部は手袋を取ると近くの木から赤い実を取り井守宮の口に放り投げる。

「お、茱萸! 熟しちょるな」

「ティクシーだけじゃ食い切らんからな。駄目になる前に食ってくれ」

「継も食えばええやん」

「俺はあまり好きじゃない」

「好き嫌いかい、子供やな〜」

「育ててなけりゃ食うこともないだろ、こんなの」

「そういや何でこんな呪草畑に茱萸が生っちょるの?」

 温室内に蔓延る緑。ここにあるのは実る実や花、全てが呪草と呼ばれる物だ。

「……枯れずにまともに育ったのがそれだけだったんだよ」

「あ〜そいえば普通の植物育てるんは苦手やったな」

「普通に……育てても何故か枯れるんだ……」

「何やろな、愛情重いんちゃう?」

「なんだそれ」

「逆になんでこんなんが育てられるんや」


 宇和部は咳込み少し間を置くと立ち上がる。

「コホッ、……さぁな。悪い、後頼んでいいか」

「なんや調子悪い?」

「いや……」

「継?」

「問題ない。けどティクシーに暫く一人にしてって言っといて。茱萸も好きに食えって」

「おー……わかった」


 井守宮は温室を後にする宇和部の背を見送る。茱萸を摘み食いしながら。


「うーん……うちん子は〜たまぁにひきこもり〜やんな〜♪」



 * * *


 朱弥は病院を出ると車に乗り込む。一息つき携帯を取り出すと電話をかける。


「……あぁ俺だ」

《誰やーオレオレ詐欺かぃな?》

「なんでだ……」

《冗談や。どうやて?》

「準備ができたら連絡を、とさ」

《ほーん、そっちは準備万端なんか》

「みたいだな。いい環境で助かる」

《なんやジジくさいやっちゃな〜》

「ジジ……まぁ弟みたいなもんだからな」

《二人並んだら親子にしか見えんけどな》

「それは俺が老けて見えるのか? それともあいつが幼く見えるのか?」

《いやどっちもやろ》

「そんな歳離れてないぞ……」

《どうでもええわ。で? いつにするん》

「そうだな……まずどう連れ出すか」

《普通に飯誘って目離したスキにやればええんちゃうの?》

「荒いな。あいつ勘がいいからバレそうなんだが……」

《大丈夫やろ。朱弥がヘマせなな》

「後は緋月をどうするか……」

《え、無視? ここにきて無視するか朱弥こんにゃろめ》


 ふと母親に抱かれ泣きじゃくる子供の姿が目に入り朱弥は眉を顰める。

「一人で留守番はちょっとな……」

《なんでや、なんかあったんか?》

「こないだ……帰り道で花実(かさね)を見かけたそうだ」

《……母親か。なんやこっち越してきたん?》

「わからない。連絡なんかも取ってない。だが職場は隠しようもないしな」

《せやな》

「一人でも気付かれないようにと緋月も変化までしてるんだ。普通に過ごせるようどうにかしてやりたいが……」

《接触はして来んのやろ? 目的は知らんが……》

「まぁ……だが緋月が危惧の念を抱いてるんだ」

 一人にはなるべくしないでいたい。明るく振る舞ってはいるが内心は不安なのだ。それが変容という形で表れている。

《……今までは孝介が側に居ってんからな》

「何から何まで任せきりだな、あいつのとこには」

《せやな。否定はせんで》

「しなくていい」

《とにかく、今は葵ん事や。緋月は最悪うちが決行の時預かる》

「不安」

《なんや一発殴っちゃるから早う戻って来ぃや》

「戻ってもすぐ帰るし」

《帰る前にこっち寄らんかあほ!》

「緋月と買い物行く約束してる」

《ほーほー優しいのぉ、うちが知るか》

「まぁ緋月の事はまた別途考える」

《そうかい。こっちの準備もOKや、あと朱弥の準備だけやで》

「あぁ」



 * * *


 学校に戻った朱弥は緋月を乗せ車を走らせる。


「ねぇねぇ、お泊りしていい?」

「……泊まり? テスト前にか?」

「お泊り勉強会しよって。チサちゃんが」

「別に構わんが……ちゃんと勉強するんだぞ」

「うん。やったー! お泊りなんて久しぶりだなー」

「いつだ?」

「金曜日! 次の日お休みだからね、パジャマパーティーだよ〜」

そう嬉しそうに笑う羽蘭。一人にせずに済みそうだと安堵する。

「まぁ……気晴らしにはいいだろう」


「……ん。ごめんね」

 羽蘭は象徴とも言える派手なターバンを首に下げ、青年は長髪の少女へと変わる。


「お前が謝る必要はない。俺も何もしてやれなくてすまない」

「父さんだって謝る必要ないよ。……私が、必要以上に逃げてるだけだから」

「緋月……」

「あはは。父さん、お夕飯はハンバーグがいいな〜」

「そうか。買い物済ませたらそのままどこかで食べて帰ろう」

「うん」



 * * *


 次の日、羽蘭は元気いっぱいに報告をする。

「父さんからお泊りOKもらったよ!」

「こっちも大丈夫って! お母さんも張り切ってたわ」

「紅ちゃんもぉ、皆がいいならいいよってぇ」

「梛莵も来るわよね?」

 女子達の会話を聞き流しているとこちらに話が飛んでくる。

「え、何で俺?」

「だって梛莵がいないと燐ちゃん来れないじゃない」

「えぇ……いいのか? 由月」

 というか一応燐が纒憑だって事わかっているのだろうか。

「うぇる……かむ。」

 お前ら呑気過ぎだろ、と柑実は呆れていた。


「お泊り……?」

「どうした?」

「お泊り」

「お、おう、そうだけど……」

 繰り返す燐に疑問符だけが浮かぶ。すると「……お泊りって?」と。

「そこかいっ! えーと、ステイ。ステイだ」

「……? 私はいつも梛莵の家にお泊り? してる」

「うん、そうだな」

「引越し?」

「いや違うし何で引越しはわかるんだよ」

「一日お引越しだねぇ」

「ふむ?」

「紛らわしいから変な事教えんなよ」

「ぷぅ」


「はぁ……それよりそしたらピヨ助も連れてく事になるんだけど、大丈夫か?」

「大丈夫よ、そのつもりで言ってあるから」

 あぁ、本当に俺も来る前提だったのね。何故だろうか。

「お母さんも梛莵来るよねって」

「な、なぜ……」

「だって来るでしょ?」

「だから何で当たり前に俺が行く事になってんの!?」

「「梛莵 (朱鷺夜)だからでしょ?」」

何かおかしい? というかのように哉妹と由月は言う。

「え? ……ん??」

「「?」」

「まぁいいや……柑実も来るだろ?」

「あ? 行かねぇよ」

「何でだよ来いよ! 男女比考えて! それに燐に教えてよ俺だけじゃ無理だって」

「何でだよ嫌に決まってんだろ。それに大人数で迷惑だろうが」

「柑実も来るって言ったら喜んでたよ?」

「何で俺も行く前提?」

「他も呼ぶ?」

 当然のように言い始める由月を柑実は止める。

「いやいややめろ。迷惑過ぎるだろ、お前ん家は合宿所か?」

「だって友達……お泊りになんて呼んだことなかったからすごい楽しみで……」

「うぐっ……」

「柑実来ない……?」

「くっ……」

 小動物のような顔で問われ柑実はたじろぐ。

「あの中に俺達も行かなかったら由月が可愛そうだろ」と梛莵は盛り上がる女子群を指す。

 お前だけでもいりゃ十分だろ、と思いつつ一息漏らす。

「来る?」

「……聞いとく」

「うん」

「というか曷代とかでもいいだろ」

「……そういや俺、曷代と喋った事ない」

「え」

「あの人、柑実達いないとあんま喋んないよね」

「そうなのか?」

「多分……」

「というより由月があんま周りと喋んねぇからだろ」

「そんなこと無いよ」

「まぁ俺も前の事なけりゃほとんど喋んなかったしな」

「……そんなこと無い」

「お前ちょっとは姉離れしろよ」

「なんで?」

「『なんで』? いや逆になんでだよ」

「由月が急に離れてったら哉妹可哀想だろ」

「お前はお前でなんでこいつら甘やかすの?」

「え、甘やかしてるつもりないんだけど……」

「柑実だって朱鷺夜甘やかしてるでしょ、それと一緒」

「俺がいつ梛莵を甘やかしたよ」

「いつも」

「はぁ?」



 * * *


 [柑実宅]


「へぇ、お泊りか〜! いいんじゃない? いっておいで」

「……うん」

「ふふ、ナオがお泊りなんて梛莵くん家以外初めてじゃない?」

「そんな事……」

「だってナオ、小学も中学も修学旅行とかお泊り行事、行かなかったでしょ」

「それは……必要ないと思ったから」

「理由になってないよ。まぁ過ぎた事はもういいけどね、学生は今しかないんだから思い出作りも大事だよ」

「うん……」

「楽しんでおいで。あ、でもちゃんとお勉強はするんだよ。ナオの事だし心配ないと思うけど」

「俺は勉強会のせいで逆に成績落ちそうなんだけど」

「そうなの?」

「あい……燐の奴が内容理解してなくて……それ教えてって、俺までつられてわからなくなりそうで」

「リンちゃん……まぁ仕方ないは仕方ないかな、あの子学校行った事ないだろうからね」

吸収は早いからナオが付いてあげればきっと大丈夫だよ、と。

 小さく相づちを打つ柑実に向き望は微笑む。

「ナオ、私は大丈夫だから」

「……ん」

「ほら〜お稲荷さん作ってあげるから、ね?」

「はは……台所立つのは危ないからやめて絶対に」

「えー?」



 * * *



「行こうか」

 リュックに着替えや勉強道具を纏め家を後にする梛莵達。

「余も一緒で良いのかの?」

「じゃあ留守番してる?」

「む、せぬ!」

「燐、忘れ物はないか?」

「大丈夫だ!」

 フンーッ! と耳をピンッと立て尻尾をくねらせる燐。

「燐の嬢はどうしたのじゃ?」

「さぁ……もしかして泊まり、楽しみ?」

「お泊り……!」

「これは聞こえてないっぽいわ」

「じゃな〜」


 * * *


「「お邪魔しまぁす!」」

「お邪魔します」


 元気な声で挨拶をする卯鮫と羽蘭。そんなノリは関係ないと普通に挨拶する柑実を双子の母・小智(こざと)が出迎える。

「いらっしゃい」

「これ手土産です。父さんが皆で食べてって」

「あら、ありがとう。夕飯の後にいただきましょう」

「あ、梛莵達もう来てる!」

「おー」

「あ、燐ちゃーん!」

「おい卯鮫、人ん家で走んなよ」

「柑実は紅ちゃんの親かな?」

「ごめんねママぁ!」

「誰がママだ!! せめてパパにしろ」

「え、そこ?」


「……」

 じっと真顔で見つめる燐に羽蘭は首を傾げる。

「? どうしたのかな?」

「だ、誰だ? 匂いが羽蘭……?」

「え? ……あ、もしかして燐ちゃんわかってなかった感じ?」

「あー、みたい」

「??」

「俺だよ、羽〜蘭。ほら〜」

とターバンを頭に付け変容する羽蘭。

「!!?」

「羽蘭は本当は女の子なんだ。術で姿を変えてる」

「そ、そうなのか……羽蘭からいつも甘い匂いがするのはそういうことか……」

「いやそれはこいつがいつもチョコ食ってるからだろ」

「……こないだみたいにもう一人の、という訳ではないな?」

「あぁ幻影の事か。それとは別だよ」

「ふむぅ……ここに来てからよくわからない事が多いな……」

「あはは、私が紛らわしいからだよね〜ごめんね」

「大丈夫だ、驚きはしたが」


「変化に関しては〜とか言っとったのはそういうことかの」

「あ、ピヨ助ちゃんだ。お久〜」

「や、ヤマアラシじゃ……」

 パチパチと音をたて羽蘭の髪は広がっていた。

ターバン取ると静電気すごいんだよね、と笑い水を求める。案内され羽蘭は洗面所に移動して行った。



 リビングで早速勉強をと道具を準備していると自室にいたのであろう哉妹が勉強道具……ではなさそうなポーチを持って降りてくる。

「皆いらっしゃ〜い!」

「なんか一人楽しもうとしてるのがいる」

「そりゃあたしん家だからね!」

「やっほ〜チサちゃん」

「ちーちゃん!」

「あ! 紅ちゃん、本物のアツキちゃん!」

「私はいつも本物だよ?」

「うふふ、そうじゃないわよ」


 きゃっきゃっと騒ぐ女子達を燐は和やかに眺める。

「皆可愛らしいな」

「燐ちゃん時々孫を見てるような感じ? だよね」

「まぁこいつ俺らより、ぐふっ」

 言いかけては梛莵の肘鉄とピヨ助の蹴りを食らう。

「あはは不思議だよな〜柑実?」

「そう、だなぁ……!」

「なんでどついたの……?」

「如斗は学習しないのぉ。望に怒られるぞ?」

「チッ……」

「?」


 * * *


「ここはこことここを掛ける。で、これを代入してこうなる」

「掛ける……代、入……?」

「なぁ誰か九九表持ってねぇ?」

「いや高校生にもなって持ってる訳ないでしょ」

「紅ちゃん持ってるよぉ」

「なんで?」

「というより俺に押し付けてねぇでお前が教えろよ」

「梛莵くんは今紅ちゃんの担当だよぉ!」

「こっちもこっちで大変なんだよ」

「はぁ? ……え、汚っ」

「ぷ、ぷぅ!」

 見るとノートには呪文の様な文字が並べられ、今にも何かを呼び出しそうだった。

「先生への難問を書いてるんだ……俺も読めない」

「まだ(こいつ)の方が読めるぞ……」

「だってだってぇ! 紅ちゃん字書くの苦手なんだもん……」

「汚いというか文字繋げて書くから読めなくなるんだよ。一文字ずつ書きなよ」

「継ちゃんよりは綺麗だもんー!」

「継夏さんの字、そんなひどいっけ?」

「いやあの人の走り書きは達筆なだけだ。普通に書いても綺麗だったぞ」

「だって」

「ぷぅ!」

「ぷーぷーうっせぇお前は風船か」

「ぷぅっ!」

 柑実は騒ぐ卯鮫の顔を鷲掴む。


 ピヨ助は教科書を覗きページを捲る。

「ほぅこんな事を学ぶのか学校というのは」

「ピヨ助って字読めんの?」

「馬鹿にしとるな? 読めるわ! お主らより長生きぞこちとら」

「じゃあじゃあ、字は書けるの? 書いてみてよ」

と羽蘭も混ざってくる。

「面白がっとらんか? 勉強せんか童共」

「いやぁチサちゃんがキャパオーバーで」

 指された方を見ると机に伏せ「うぅ……あたしはもう駄目ね……」と呟いていた。

「何だかんだいつも赤点は回避してるでしょ。そんな範囲広くないし大丈夫だって」

「それは本当に大丈夫か? この先」

「今学んでる事って将来本当に必要なのかしら……」

「語学は役立ってるよぉ?」

「語学はね。この謎の数式よ……」

と数学の教科書を広げピヨ助を見せる。

「数字や記号らがいっぱいじゃな……」

「今必要だからやんだろ。余計な事考えずまず身につけろ」

「うぅ正論だわ……」

「人子のやる事はよくわからんの」

「何だピヨ助わかるんじゃなかったの?」

「文字は読めるが流石にコレは読めぬ。何と読むのじゃ?」

「読む、というか解くというか……」

「解く……ふむ?」

「これ以上教える人数増やすなよ。きりがない」

「人ってか鳥」

「あ?」

「ごめんて」


「んー……」と唸る燐。

「あんだ頭抱えても解決しねぇぞ」

「……鈴が出てくるのを完全に拒否している……返答もない……」

「それ逃げただけじゃね? そもそも本当に疎通できてんのかも知らねぇけどよ。出てきたことねぇし」

「学校も行ってなさそうだったしな。助け舟は出せないって感じじゃない?」

「私の中の鈴は物知りなんだ……」

「お前ん中だけな」



「頑張ってるわね、夕飯できたわよ」

「わーい、ご飯! 小智さんのご飯美味しいんだよね!」

「あらアツキちゃんお上手」

「えへへ〜っ」

「皆苦手な物ない?」


 すると哉妹が即答する。

「茄子」

「それは千智の嫌いなものでしょ。食べなさい」

 続けて由月が答える。

「いちご」

「おいしいのに!」

「夕飯にいちご出す訳ないでしょ」

「なんで由月達が候補挙げるのさ……」

「だって母さんわざと嫌いって言うもの出すから」

「食べれれば出さないわよ」

「食べたくないから出さないでよ……」

「ぐだぐだ言わないで並べてちょうだい」

「「はーい」」


「……嫌いって言わなければいいんじゃ?」

「素直なんだよ二人とも」



 * * *


 [準管理棟 第三研究室]


「宇和部は?」

「ひきこもりタイムや〜そっとしたって」

『あたちも追い出されちゃったのよね〜』

「なんだあいつどっか悪いのか?」

「わからん。聞いても『なんでもない』の一点張りや。遅めの反抗期やろか」

『ご主人ご飯も食べないのよね』


 井守宮は軽く息を吐き俯く。

「……うちでも信用されとらんっちゅー事やろか」

「井守宮……」

「まぁ、ほんまの親でもないしな。仕方ないやろ、出てくるの待つしかあらへん。何や仕事あるんやったらうちが代わりにやるわ」

「いや、今はないから大丈夫だ」

「そうかい。まぁ行ってき、ほれ言われちょったやつ」

と井守宮は小さな袋を手渡す。

「あぁ悪いな。後で連絡する」


 渡された物を胸ポケットにしまい、朱弥は病院へと向かった。



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