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逢想の纒憑  作者: 中保透
二章 はじめての
27/52

25.の、前に


「お大事に」

「はぁい、ありがとうございましたぁ」


 診察室から出ると葵と出くわす。

「お、紅ちゃんに十也じゃん。怪我したの?」

「葵ちゃん!」

「葵さん」

「でも今は少し腫れてるだけだから大丈夫ぅ!」

「そうなの?」

 でも無理しないようにね、と卯鮫の頭を撫でる。


「……葵さん」

「ん?」

「いや」

「えー? 何何超気になるんですけど〜」

「何でもないよ」

「にゃはは、十也ってば冷た〜い。まぁいいや、二人共気をつけて帰りなね」

「うん、ばいばぁい!」

 軽く手を振り葵はその場を去って行った。


「葵ちゃん、顔色悪いねぇ。いつもより隈酷いよぉ」

「……うん」


 * * *


 長椅子に座りいちごみるくを飲み干すと卯鮫は口の周りに白いひげをつくる。

 呑気なもんだ、と眺めていると慌てた様子の見野口が迎えに来ていた。


「紅っ! 大丈夫か? 任務先で怪我したって……」

「つぐちゃん! ちょっと腫れてるだけだから大丈夫だよぉ! すぐに直るからぁ!」と元気に足を動かす。

 そういう問題じゃないと軽く小突き、思ったより元気そうで見野口は安心する。

「紅ちゃん強いから大丈夫だよぉ!」

「紅?」

「ぷぅ……はぁい」

「裙戸、付き添いありがとね。帰るだろう? 送るよ」

「いや、僕は一旦学校に戻ります。朱弥さんまだいますよね?」

「学長? あっしは見てないけど……」

「葵ちゃんの事?」

「も、含めてちょっとね」

「葵ちゃん先生がどうかしたの?」

「葵ちゃん具合悪そーな顔してるのぉ」

 そういうことか、と見野口は納得した様子を見せる。

「それじゃあ僕は。卯鮫もお大事にね」

「うんありがとぉ〜」

「気をつけてな〜お疲れ様」


 病院を離れ、裙戸は学校へと戻って行った。


 * * *


 [学長室/本部指令室]


「――って感じで問題があったから今回の新人の印は見送り、その黒霧……纒憑に関しては証言と共にこれから確かめると」

「印は別に構わん。しかし柊季の……あいつそんな報告なかったぞ」

「あー……そうなの」

「まぁいい。あいつに信用されてないのは今に始まった事じゃないしな」

「信用以前の問題だろうけど。どうする? 梛莵に行かせるのか?」

「駄目と言っても自ら行くと言うだろう。しかし他校か。どう話をつけるか……」

「あー何か考えはあるみたいだったぞ? もうそのまま任せたら?」

『ならあたちがついて行こうか?』とティクシーが名乗りを上げる。

「いやお前いたらさらに目立つだろ」

『なんで?』

「なんでって……あっちは一般校だぞ。妖精なんてあちこちいるもんじゃない」

『変なの! 獣人や妖族はよくて妖精は駄目なんて』

「纒憑が憑かずにそのまま出歩いてるのと一緒だ」

 ティクシーは頬を膨らませ、アレと一緒にするなと抗議する。


「まずどんな方法で行くのかだな。聞かないと許可は出せない」

「さぁ?」

「は?」

「いや俺も聞いてないし」

「お前なぁ……」

「なんだよ自分で聞けよ。俺だって本当は今『支援班』なんだからな」

「わかってる……悪かったな。植物に関してはお前だろうと思ったんだ」

「ったく先に言えよな。何もないって行ったら草生えてっからまじ草生えるって思ったわ」

『まじ草生える〜www』とティクシーも面白半分で乗っかる。

 しかし冗談のつもりで言ったのだが伝わっておらず朱弥は疑問符を浮かべていた。

「通じてないわ。まぁいい別にそこは。あとあそこ警戒地点の印付けとけよ」

 また何が起きるかわからんからな、と一息。


『ねぇあの狐は?』

「狐?」

「あぁ。その纒憑追っかけてた奴、狐の獣人だったんだ、神術使いの。そいつと交戦する羽目になった」

「ふむ。その狐の獣人はどうしたんだ?」

「猫の小娘が纒憑だと気づいて矛先がこっちに向いてそこに紅が合流。交戦中に怪我した。で、その後如斗が術で支配下に、けど知らん内に解かれてどっか行った。如斗となんか話してたみたいだけどあいつも何も言わねぇしわかんねー」

 大雑把な説明をする宇和部に朱弥は頭を抱えた。

「おぉ……お前も適当だな……」

「大体わかれば問題ないだろ。それに話したくないなら無理に聞く必要ないからな。ここにいる奴はそんなんばっかだろ」

「そうだがな……怪我人も出たか」

「紅は十也に付き添ってもらって病院に行ってもらってる。あとは気になるなら本人に聞くんだな。俺からは聞かない」

「あ、あぁ。うーん……まぁわかった」

 言い方が力強く、機嫌が悪いのか少し怒っているようだった。何かまずい事を言っただろうか。


「……あのさ」

「ん?」

「……いや、いいや。俺も部屋戻る、水やらなきゃ」と立ち上がる。

「あぁ。悪いな」

「そう思うならボーナスくれよ」

「勘弁してくれ……」

茱萸(ぐみ)食べたい!』

「食えば? まだ熟してないだろうけど」

『別にいいのよ! あの渋みがいいの』

「変なの。あんなん不味いじゃん」

『まぁ美味しくはないけど〜』


 * * *


 任務から戻り梛莵は着替えより先に教室へと向かっていた。


「あ、やっぱりまだいた。由月!」


 教室には由月と哉妹は帰り支度をしていた。

「ん? あ、朱鷺夜戻ってたんだ。お疲れ様」

「梛莵! お疲れ様! おかえり!」

「ただいま。由月にちょっと頼みたい事があって」

「俺? どうしたの?」

「実は……」



 〜説明中〜



「なるほど。それでその『拓人』って子の親戚を装って尋ねる、と」

「うん。会ったことないけど頼まれたって感じで」

「いいけど……そんなうまくいくかな」

「事務の人が女性なら……いけんじゃないかな」

 じっと由月を見る。由月は男性から見ても整った顔立ちをしていると思う。

 無表情でも様になっているな、と意識を持っていかれそうになり咳払いで意識を戻す。

「それに聞いた感じだと由月が近いかなって感じがして……」

「それ、髪色が緑っぽいってだけでしょ」

「まぁ……」

「……まぁ、ダメ元で会えなくてもその学校に実際いるかわかればいいんでしょう?」

「うん。それにダメなら後は待ち伏せるしか……」

「梛莵ってばまるで他校に喧嘩売りに行くみたいね」

 ふふっと笑う哉妹に梛莵は恥ずかしそうに「し、仕方ないじゃん……」と呟く。


「となると……平日じゃないとだよね。先生にも伝えないと」

「だな」

「本部には? 朱弥さんに伝えたの?」

「いや、まだ……」

「なんで先にそっちに言わないの……」

「だって駄目って言われそうな気がして……」



 〜一方の朱弥〜


「くしっ……ズズッ、風邪かな……」



「――だとしても、だよ。流石に上が許可だしてないのに出向けないよ」

「うん……」

「他校相手だよ。そこらの現場とはまた違うんだから」

「わかってるんだけど……」

「ほら、俺達もついてくから」

「え? あたしも?」

 由月の事だけだと思っていた会話に自分も含まれていて驚く哉妹。

 何か変な事言った? というように由月は首を傾げていた。

「……何でもないわ。お姉ちゃんがいないと駄目ね」

「? うん、そうだね」

「哉妹ごめん……」

「ふふ、あたしは大丈夫よ」

 梛莵と哉妹のやり取りに当の由月はよくわかっていないようであった。


 * * *


 朱弥の元を向かう途中、裙戸と出くわす。

「あ」

「あ、梛莵。もう戻ってたんだ」

「裙戸も。卯鮫は?」

「治るまでは安静にって」

「そっか……」

「大丈夫だよ、今は少し腫れてるだけだから。骨も異常ないって」

「ならよかった」


 ところで、と梛莵の後ろをくっついていた由月達を見やる。

「由月達引き連れてどうかしたの? カチコミ?」

「なんでだよ。俺達は朱弥さん所に……」

「梛莵達も?」

「も? 裙戸も用あるのか」

「うんちょっとね。梛莵はあの纒憑の事?」

「うん」

「そっか。先にいいよ、僕アツキのとこ寄ってから行くって伝えといてもらえれば」

「わかった」

「あ、そうそう。柑実に夜連絡するって言っといて」

「? わかった」

「よろしく〜」と裙戸は羽蘭の所に向かって行った。わざわざ俺を通す必要あるか?


 * * *


 [学長室/本部指令室]


「あーかやさーん、とーきやでーす」

 トトトトトトンっと高速ノックをかます。


「うるさいうるさい何回叩く気だ……」

 呆れ声と共に扉が開かれる。

「かわいい生徒が来ましたよ」

「本当にかわいい生徒は自分をかわいいと言わない」

「またまた〜」

「押し込むぞチビ」

「チビって言った!! 何で本部は皆オブラートに包まないんですか!!」


「今のは朱鷺夜が悪いでしょ……」

「ふふ、梛莵ったらかわいい事するわね」

 そんな様子を由月は呆れ哉妹は笑う。

「まぁいい。朱鷺夜兄はわかるが……由月達もか?」

「付いてきてくれました」

「俺達来なくても大丈夫そうだったんじゃない?」

「まぁいいじゃない、面白い所見れたし」


 * * *


 ソファに腰掛け用件を聞く。

「で? 宇和部から多少話は聞いたが……他校生相手にどう行くつもりだ? 場合によっては許可出せないぞ」

「はい、そこで由月に協力してもらおうと思いまして」と由月に注目を促す。

 当然ながら朱弥は頭を抑えていた。

「色々すっ飛ばすんじゃない。ちゃんと説明しろ意味がわからん」

「纒憑の関係者である生徒……『灰原拓人』の特徴が秘色色?の髪色だとかで、近しそうな由月に親戚を装って尋ねてもらおうかと思いまして」

「お前それで本当にいけると思ってるのか?」


 梛莵は無言で立ち上がると由月の顔を掴み朱弥に向ける。

「よく見て下さい。事務の人が女性なら勝てると思うんですよ」

「??」

 朱弥は軽蔑の眼差しで問う。

「事務員が男だったらどうするんだ?」

「……大丈夫でしょう」

「お前はどっからそんな自信出てくるんだ?」

 梛莵は無言のまま目をそらす。

「血が足りなくて頭まで回らなくなったのか?」

「やめて、冷静にならないように頑張ってるから」

「いやそこは冷静になれ」

「だって他校相手にどう行けってんですか普通に追い返されるのがオチですよ」

「そうだろうな」

 じーっと見つめる梛莵に負け朱弥は頭を掻く。

「はぁ……かと言っていい案も思いつかん。ダメ元で行ってこい、クレーム対応くらいはしてやるよ」

「よかったね」

「うん」

「……お前はちゃんと報告しろよ」

「あー……はい」

 まぁ、父さんの事だろうな。

 視線を落としつつ返事をする。

「だがせめて十也か如斗辺り連れてけ。お前らだけじゃなんか心配だ」

「はぁい。燐はどうしましょう」

「え? どうして燐ちゃん?」と哉妹。

「え? ……あ、二人とも聞いてない感じ?」

「俺は柑実から聞いた。朱鷺夜が預かってるって。纒憑なんでしょあの子」

「えっそうなの!? あっだから名前『鈴』なのに『燐』なのね」

「チサ……」

「えへへ……話してると普通の女の子だしあんまし気にしてなかったわ」

「まぁ……俺も纒憑だって事忘れるけど」

「お前らいくらなんでも危機感なさすぎるだろう」


「まぁそれは置いといて……」と手振りで話を投げ飛ばされる。

「(置いとかれた……)」

「んー、一緒に連れて行っちゃえばいいんじゃないの? だって学校に尋ねるのは雅だけで後は待機でしょ?」

「まぁね」

「え、俺には誰も付いてきてくれないの……?」

 困り顔で尋ねる由月に哉妹は少し考え答えた。

「……あたし一緒について行くわ」

「うん」

「まぁ……二人でも大丈夫でしょ、頼むわ」


 * * *


 [教室]


「別にいいけど」

「ごめんな」

 元々ついてく気ではいたしお前らだけじゃ心配だ、と言われてしまう。予想はしてたが。


「そういや由月、術は元通り操れるようになったのか?」

「うん。放課後の自主訓練に琉山が付き合ってくれてたから大分」

「そうか。で、いつ行くんだ? 明日か?」

「いや、テスト期間に入るだろうからとりあえずそれ終わってからにしろって」

「そうかテスト期間……おい他人事みたいに言ってるけど俺らも来週じゃねぇか」

「そうだね」

「大丈夫なのかよ」

「俺は別に……」

「うん」


「た、大変だわ……」

「え? チサ……もしかして忘れてたの?」

 青ざめた哉妹はにこりと由月に笑いかける。

「雅。あたしは無理だけどあなたなら一人でもできる子よ」

「何言ってるの。家帰ったら範囲だけでも勉強するよ」

「まずいのは俺らより連れだな」

「……燐は大丈夫?」

 ボーッとしていた燐に話を振る。

「何がだ?」

「何ってテスト……あー今まで習った所をどのくらいできるのか見るっていうか」

「……? 何故?」

 理解が追いつかず疑問符だけが頭に浮かんでいた。

「まぁ……まずお前は問題文が理解できるかだな」

「そこかぁ〜!」

「??」


「チサ、よかったね」

「何が?」

「一人じゃないよ」

「ちょっといきなり見捨てないでよ!」

 先程とは打って変わって哉妹を切り捨てる由月。この様子は先が思いやられるな……。

「勉強会でもする?」

「する!」

「いいけど……チサ真面目に出来るの?」

「頑張れ」

 俺は知らん、と帰ろうとする柑実を掴み助けを乞う。

「待ってよ俺、燐に教えられる自信ないよ」

「俺も無理。問題文理解させるのなんて手遅れだろ諦めろ」

「私は何をすればいいんだ?」

 何の事やらと言わんばかりに問いかけてくる燐に柑実は白い目で「勉強だろ」と。

「? わかった」

「いやこれ絶対わかってないって柑実助けて」

「……嫌だね。俺は必要だと思った事にしかそいつに協力しない」

 泣きつく梛莵に柑実は間を置いて断る。

「必要だろ、赤点だったら連れてけないから必然的に柑実が面倒見る羽目になるぞ多分。そしたら俺が離れてる間ちょっと頼むどころじゃないぞ」

「チッ、それも嫌だ」


 微笑ましそうに哉妹は由月に話しかける。

「何だかんだ嫌がってるって感じしないわね」

「朱鷺夜に頼ってもらえるの、嬉しいんでしょ」

「あらツンデレかしら?」

「そうそう」



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