17.新人研修
文書形式の為横読み推奨。
「じゃあここ……曷代、答えてみろ」
「え、普通にわかんないっすよ?」
「少しは悩めよ……」
まず何を問われているかわからない、という風に曷代は答える。
「……じゃあ王城。答えられるか」
「……?」
燐もまた、何を問われているか理解していなかった。
「先生、人選もうちょっと考えなよ……」
こそっと生徒に指摘される。
「いや、これ中学で習うとこだぞ……」
「ふふふ、勉強だけが……全てじゃないよぉ」
「おい卯鮫、お前もわかんないのか?」
そう言われ卯鮫は先生を見て無言でにこりと笑う。
「お前、語学は成績良いのに何で他は駄目なんだ」
「だってみのりん、語学の事になると怖いんだよぉ。知らないのぉ?」
「……想像つかんが」
授業が終わり曷代は一息ついた。
「いやぁ……難しいな!」
「お前よく転入できたな?」
「えへへ、それほどでも」
「褒めてねぇよ馬鹿」
柑実にはっきり言い放たれ「ひどい……」と項垂れる。
「あはは……次、術訓練だろ。移動しないと」
「なんだ梛莵、もう大丈夫なのか?」
「俺は平気だよ。つっても見学しろって。だから今日は曷代のお守り役〜」
「え、俺?」
「そ。見学って言うより指導に近いけどな」
「へぇ?」
「曷代、がんば。梛莵はスパルタだぜ」
「……うへぇ?」
「因みに〜柑実は燐ちゃんの方に付いてね」と羽蘭が話の輪にしれっと入り込んできていた。
「は!? なんでだよ!」
「ひぇっ! だってだって燐ちゃんの術性質が柑実と一番近いんだもん!」
怒んないでよ! と羽蘭は梛莵の後ろに隠れる。
「怒って、ねぇし」と言う柑実は複雑な顔をしていた。
いきなり言われたのだ、当然といえば当然だろう。
「柑実顔、顔」
「やっぱり……私は嫌か……?」
そんな様子の柑実を見てしょぼん、と燐は耳を下げる。
「え、いや、別にそういう訳じゃ……ゔっ」
「?」
「なんでも……問題ない……」
「ほんと? ありがと〜」
不敵に微笑む裙戸とその陰からじっと圧をかけていた卯鮫に気づくのは柑実ただ一人であった。
「(裙戸の奴、図ったな!)」
* * *
[支援班専攻体育場/術訓練]
「違う!! お前はまず放つ術の想像が出来てない!! それじゃ無駄打ちだろ!」
「はいぃっ!」
「また! そんなんじゃすぐに使える術力がなくなるぞ」
「えぇ、イメージ……いめーじ……?」
疑問符を浮かべながら手振りをする曷代を梛莵は観察する。
葵さんはしっかり扱えるって言ってた。けど、操れるって訳ではないのか?もしかして……。
「と言われてもなぁ、んん?」
「なぁ曷代。不動院長に見せたとき、何か持ってたか?」
「え?えー……?」
突然の問いに思い返すが浮かばず頬を掻く。
「じゃあ何を身に着けてた?」
「え? 私服……あ、アクセサリー?」
「ネックレスか?」
「指輪」
「指輪か……」
ちょっと待ってろ、そう言って梛莵はどこかに行ってしまった。
* * *
「はい、これとりあえず」と梛莵は銀の細いリングを手渡す。
「これは?」
「カードリング。先生に貰ってきた」
「これをどうすりゃ……」
「指輪の代わりになるかわかんないけどやってみて」
「え? う、うん」
そう言われ戸惑いながらも指に嵌める。
「あと何でもいい。こんなふうに〜ってイメージしてやってみて」
「ん……ふぅー、集中」
リングを付けた手を前に伸ばし人差し指と中指を揃えて的に狙いを定める。
するとリングに引き寄せられるかのように術力が炎となって曷代から溢れ出す。
その炎は指先に集まり……リングと共に弾け飛んだ。
「、っ! あ……」
「大丈夫か!? ……あーやっぱりだめか」
壊れたリングを拾い梛莵を見る。
「やっべ、ごめん壊れちゃった……どうしよ」
「大丈夫。想定内だし。言ったろ、『貰って』きたって」
「あぁ、なるほどね」
「怪我してないか?」
「平気。でも何でだ? さっきよりなんかこう……出来そうな感じがした」
んー……と唸る梛莵。
「曷代は……道具の助長で術の発揮が出来るタイプって事だな」
「え?」
「無条件で使える人と条件が合わさって初めて使えるようになる人の違いというか」
「条件……つまり『道具』?」
「道具も然り。術力量が低くても扱えるのも多分それでだな」
「あ、やっぱり低いんだ」
「聞かなかったか?」
「うん。何となくね」
「まぁでも、『引き金』になるだけで普通に使えるようになる人もいるし。後は慣れていくしか」
「そうなのか? なんか意外とアバウトなんだな」
「たしかに」
「でも今ので何となくなイメージも出来たかも! うまくはできないけど」
「最初はそれだけでも十分。後はそうだな……『所有術名称』を決めるといいかもな」
「『所有術名称』?」
聞き慣れない言葉に曷代は首を傾げた。
「あぁ。別名『個術称』。曷代は誰かの術を見せてもらったりしたか?」
「こないだ柑実の見せてもらった! なんかこう……光った。神々しくバチーンって」
真似なのか手振りをしてみせる。
「ふっ、その時『晄陣』とか言ってなかったか?」
「こーじ……? あ! 言ってたかも」
「それだ。個人が所有する術技に名称をつけて部分的固定術にする事によって自身に合った……持ちうる力を最大限に発揮しやすくなるんだよ」
「へぇ〜? じゃあ皆なんかかっちょいい名前付いてんだ?」
「大体は。必ずしもって訳じゃないからな」
「そうなんだ。梛莵も持ってるのか?」
「まぁ……」
「……『俺はなくても出来ますし』?」
「殴っていい?」
「ごめんなさい……」
「俺の場合、代償がな……」
「えっだって自分に合ったものなんじゃないの?」
「基本はな。俺はその基本からズレてるんだよ」
「ズレてる?」
「術にはそれぞれ『属性』がある。それに『種類』も。曷代、お前はわかりやすいだろ?」
そう言われ思い返す。
「炎、かな? 柑実は、光……雷?」
「そうそうそんな感じ」
「あ、梛莵は氷か? 前にピヨ助に使ってた」
「一つはな。俺は氷と……血なんだ」
「ち……え、血液? じゃあ代償って……貧血?」
「そうしょっちゅうじゃないけどな」
「だから梛莵の氷、紅かったのか」
梛莵はこくりと頷くと手のひらに術力を集中させ小さな紅い結晶を造り出した。
「俺は血液を糧にして氷を形成する。主が氷なら良かったんだが……血だから。血液の使用量調整も難しい。怪我とかで外に流れだした血ほどより色濃く、多く優先される」
「別々にしては使えないのか?」
「まぁ出来るとは思うよ。血だけで氷ができる訳ではないだろうし、時々術力調整の為に放出してるのは冷気……だし。けど『刃』としての形成は氷だけでは難しい、今のとこは。そこは経験だろうな」
結晶を握り砕くと、さらさらと舞うように消える。
「ふぅん?? よくわかんないけど難しいな」
「そうだな。まぁ簡単にできるなら訓練なんてしないってことだ」
「……梛莵って刀持ってなかった? 無くても平気なの?」
「あー……そこは調整の問題。俺は皆より術力量が多くてな。かといって使いこなせる訳じゃないから……身体に合わせて緩和させる為に使ってるんだ」
「助長か」
「うん」
「じゃあ種類ってのは?」
「術にはそれぞれ『魔術』『妖術』『神術』に分けられる」
元来より生まれ持ち、覚醒する事によって発揮するものとされるのが術者が持つ一般的な術力『魔術』
古来より妖と呼ばれる者の力を継いだとされるのが『妖術』
神と呼ばれし者がいたずらに力を継いだとされるのが『神術』
「これらを総じて『竒術』って呼んでる。だから俺らも『竒術師』って事。まぁ術ってそのまま呼んでる方が多い。あと術同士の相性もあったりする」
「相性?」
「種類が混じった術力ってのは今は珍しくないんだけどな。それでも反発はするんだよ」
「自分の術力なのにか?」
「自分……はまぁ反発してるの見たことないしわかんないけどあるんじゃないかな。俺が言いたいのは要はあれだ、火は水に弱いみたいな感じの方」
「あぁ、なるほど」
「三竦み……ってやつかな。
魔術は『妖術に弱く、神術には強く、弱い』
妖術は『神術に弱く、魔術には強い』
神術は『妖術には強い。魔術にも強い、が弱い』
って感じだ」
「ふーん? あれ、神術と魔術は強いのに弱いの? 対になるって感じか? ……俺ってどれだろ?」
「そんな感じだ。血縁者が混じり気の無い『人』であれば魔術じゃないか? あとで調べてもらえば」
「あ、調べられるんだ」
「あぁ。羽蘭曰く『皆違って皆いい』だそうだ」
「は? 」
「種類によって術力に特徴的なのがあるんだよ。知らないけど」
「なるほどね? まぁ……しかし名称ね……あ、因みに聞いていいのかわかんないけど、梛莵は何て名称なんだ?」
「俺のは『衅鋒』だ。柑実はさっき言ってた『晄陣』」
「きん、ほー」
「衅鋒」
「これってなんか決めるのに定義的なのあるの?」
「まぁ自分の属性、主な技を踏まえた名称に大体はするかな」
「なるほどなるほど。自分の属性ね……」
「あんまし長いと唱えてる間にやられるぞ」
「おぉ……そうだね、相手は待ってはくれないしな。……これって唱えないって選択肢はないの? なんかハズい」
曷代は照れながら梛莵に問う。
「別に声に出さなくても内で唱えりゃいい。唱えた方が明確になる。傑人なら別だろうけど、常人にゃあやふやだと失敗したりするし」
「ちゃんと理由はあるんだな」
「そりゃ……俺も最初は思ったしな……」
「そうなんだ……」
「術を慣らしつつ模索すればいい。必要な道具も」
「? 指輪じゃないのか?」
「どうだろな。たまたま指輪に反応してただけかもしれないし」
「そっちも問題かぁ」
「試行錯誤。探してく他ないな」
「だよなぁ〜名称に道具……」
「あと基礎体力と身体強化」
「ぐ……何、あの高さを飛び降りれる柑実みたいな感じになれと? 嘘でしょぉ?」
三階から軽々飛び降りた柑実を思い出し頭を抱える。
「あのくらいならまだ序の口だな。足場も安定したとこだったし。着地ももちろんだが高く上がる事も出来るように、な」
「えぇ、待ってよアレだってもう人間技じゃないよね? 俺、人間勘違いしてる?」
「中でも受け身とか反射神経とか?」
梛莵が出してくるノルマに曷代はさらに頭を抱える。
「出来るようにならなきゃいけないのは術だけじゃないって事はよくわかったよ……アドバイスとかない?」
単に言われるだけじゃ出来る気がしない、と曷代は手助けを求める。
「……術力を乗せる。以上」
梛莵は真顔でそう答えた。
「え、ちょっと待って何重要そうなとこが適当なのさ」
「説明が……面倒くさくなってきて……」
「面倒くさがらないでよ! そこ大事でしょ?」
梛莵の両肩を掴み必死に頼む曷代。
「あーわかったわかった! 術力を外に放出する事で……なんて言うかな、『術』として? 内に巡らす事で『身体能力』を上げるって感じ」
「巡らす?」
「これもまたイメージだ。神経に術を集中させて全身に流し込むイメージ」
「神経に術を……」
「これを意識的にやれるようになって」
「無茶言うね!? まだ出来てすらいないんですけど!」
「はっはっは! 出来るようになれば柑実みたいになれるぞ」
梛莵は親指を立てにっこりと笑ってみせる。
「ガンバリマス……けどこれは属性云々は関係ないのか?」
「全くではないがそんなに変わらないんじゃないか?」
「曖昧なんだ」
「そりゃな。自分にない属性の事なんてわかんないし。因みに俺は走るよりも跳ぶ派」
「いやそんなん言われてもわかんないっす」
すると梛莵は人差し指と中指を揃え見せる。
「柑実は走れば誰よりも速い。俺は跳べば誰よりも高く跳べる。クラスの中ではな」
見せた二本指で走る動きを、そしてまた指を揃えて腕を上げ高く跳ぶ動作を手振りで見せる。
「そういう事……卯鮫ちゃんとかも高く跳びそうなイメージあるけどな。あの子兎の獣人でしょ?」
「まぁな。卯鮫も跳べるぞ、中々に。あいつの場合元々の身体能力もあるが。でも俺のが高い」
「なに対抗してんの?」
「は? 対抗なんかしてないし。俺のが高いもん」
少しムッとしたように梛莵は答える。
「(もん……)そうっすか」
「あー! 信じてないだろ! 跳んでみせようか?」
「ぜひ、と言っても梛莵だけ見てもわかんないしな」
そう言うと確かに……と梛莵は不満気に納得していた。
「まぁ要はさ、個人の得意なとこで違いが出るって感じなのかな? 術を巡らした身体能力に関しては」
「そうだな……簡単にいえばそういう事だ」
ふーん、と曷代は顎に手を添え考える。
「曷代は何か運動で得意なのはないのか?」
「え、運動? うーんなんだろ、サッカーとかかな?」
『梛莵ー! サッカーやろーぜー!』
そう笑う慶悟の姿と曷代の姿が一瞬重なる。
「あ……そ……」
違う。全然違う。曷代は曷代だ。
「梛莵……?」
急に黙り込んでしまう梛莵に首を傾げる曷代。
「……いや、聞き方が悪かった。そういうことじゃなくて走るとか投げるとか跳ぶとかの基本動作というか」
「えー考えたことないな……」
「はは、まぁそうだよな。とにかく、そういった部分の得意が出るって事だな」
「なるほどね」
――キーン、コーン――
話し込んでいると授業の終わりのチャイムが鳴る。
「あー終わっちゃったな」
それに対し「やっと終わった……」と曷代は小さく呟いた。
「あ? 何か言ったか?」
「急に柄悪っ! 柑実みたい!」
「幼馴染だからな。ずっと一緒だったし多少は似るだろな」と少し自慢げに言う。
「そうっすか……」
「驚かないんだ」
「まぁ……卯鮫ちゃんが言ってたし」
「そうなのか。まぁ知られて困る事じゃないしな」
教室に戻ろう、そう背を向ける梛莵に曷代は問う。
「なぁ、梛莵が竒術師になった『理由』って……っ」
スッ……と口元に人差し指を向けられる。
「曷代、周りには理由なんて簡単に聞くなよ。俺はお前の『理由』を聞いたから答えるが」
梛莵の表情から感情が消えたかのように、瞳からも光が消える。だが曷代をしっかりと捉えていた。
「復讐」
――パキキッ
「!」
二人の周りを冷気が漂う。地面が梛莵の足元から凍り始め曷代は後退る。
「俺は『アイツ』を見つけ出す、その為に此処にいる」
憎悪に満ちた鋭い眼光。フゥー……と深く吐き出された息は白かった。
「あ、あいつ……?」
「――っはぁ、げほっ……あっ」
ボタタッ……と咳と共に鼻から血が垂れ、梛莵はその場に伏せてしまう。
「! 梛莵、血……!」
「はぁ、だ、大丈夫……」
「大丈夫って……」
「ちょっと冷気で咽っただけだ。問題な、……んぶっ!」
そのまま渡せば断られるだろうと思い曷代は自身のハンカチを梛莵の鼻に無理矢理押し付けた。
「……ごめん」
「なりら (何が)?」
「何がって……その、聞かれたくなかったんだろ?」
「別に?」
「……え?」
何かの見間違いだったのだろうか。
「だって俺だけじゃないし、復讐が理由の奴なんて。でもあんま聞くもんじゃない」
「あぁ……」
「……悪い、条件反射みたいなもんだと思ってくれ」
「……」
「はぁ……悪い癖だ。感情的になるとどうも術を抑え込めない。俺もまだまだだな……」
どう返したものか、曷代は何も答えられずに俯いた。
それもそうだ。何も理由なく身を投げるような所に進むはずもない、少し考えれば分かる事だ。
「……曷代、もいっこ悪いんだけどいい?」
「ん?」
「ごめん、立てなぁい……」
「えぇ! って顔真っ青!!」
見ると血の気の引いた梛莵が半泣きでいた。
本人は「朝ご飯食べそびれたー」と呑気な事を言って。
「そういう問題なの!? ちょ、背中乗れる?」
言われるがまま背にもたれかかる梛莵を持ち上げると予想より遥かに軽く動揺してしまう。
「軽っる!! えっ乗ってるよね!? 鶏がら!?」
「お前は今すぐ死にたいらしいな……?」
首に当てられた手に力が込められ曷代は慌てて謝る。
「ゴー……保健、室ぅ……ガクッ」
「梛莵ー!! 気をしっかりー!! あと道わかんねぇ!! だ、誰かー!!」
教室に戻るのに廊下を歩いていた生徒が騒ぎを聞き寄ってくる。
「あ? どーしたん、また貧血か? 最近頻度高けぇな」
「あらぁ、梛莵くん大丈夫〜? 保護者呼ぶ?」
「ほ、保護者……?」
「うん、お〜い柑実く〜ん!」
女生徒は廊下の方に呼びかけると丁度通りかかる柑実と燐がいた。
「何? ……あぁ」
「! 梛莵、まだ本調子じゃなかったか?」
曷代に背負われぐったりとする梛莵に燐は近寄り心配そうに撫でる。
「あ、そうだ……柑実、ハッピーバースデー……」とグッと柑実の方に向けて親指を立てた。
「え、今? ありがとう?」
「柑実誕生日なの? おめでとう」
「おめ、でとう? 」
「はぁ、まぁ、どうも。梛莵は明日だ」
「そうなのか」
「わぁ! んふふ、そっか〜! 二人ともおめでとう〜」
呑気に祝う女生徒【南中 咲舞】。
「めでとう…っていやいや、呑気に祝ってねぇで保健室に早く運んでやれよ!」
一人ノリツッコミをする男子生徒【琉山 流】。
そんな琉山の声がこだまして訓練場に響いていた。
* * *
柑実に案内され話しながら保健室に向かう。
「そういえば先生は?」
「外。対人組み訓練の方についてた」
「訓練内容違うの?」
「あぁ、術戦術と体術……要は格闘術の二手に分かれてやってる。術耐性のある部屋も数限られるしな」
「あ、梛莵がさっき言ってた身体能力の方?」
「うん、そう……そう……」と梛莵は怠そうに相槌を打つ。
「次回はそっちだってさ。裙戸が付いて教えてくれるって。お前が可哀想に思えてきたわ」
「え、何でさ」
「裙戸は……戦闘スタイルが近接格闘に近いから……」
「……うん?」
「術を、使わなくても強いのに……術でさらに……つおぃ」
「うん……」
「尚かつ反射神経がいい。すぐにかわされるし捕まるし軽々投げられる」
「えーっと……」
「何、花は用意しといてやるよ」
柑実は普段からは想像もつかない爽やかな微笑みでそう答えた。
「天に召される前提なの!?」
「きっと苦しむことなくやってくれるよ……」
「裙戸ってあの裙戸だよな!? あの紳士的な奴!!」
裙戸を思い浮かべて二人に確認する。
「紳士的……か? あいつ結構腹黒いぞ」
「お腹……真っ黒バッキバ筋肉だるま……」
「それただの嫉妬じゃ……」
「俺だってあるもん……筋肉ちゃんとあるもん……」
「いや絶対ないでしょ軽すぎだし」
ピキッと音が立ち沈黙したかと思うと柑実に小声で「裙戸に『殺っておしまい』って言っておいて……」と言っているのが聞こえた。
柑実も「オーケー、ハードモードで大丈夫って伝えといてやるよ」と悪い顔をしていた。
「調子乗りましたホントすんませんやめて下さい!!」
「俺の指導は……温水みたいなもんなんだぜ……」
「あはは、まじかぁ……」
まぁ、梛莵の指導正直怖くなかったけどな。
そんな事を思っていると「初心者だから手、抜いてやっただけだし」と言っていた。
「心読むなよ! ありがとね!」
* * *
保健室に梛莵を置くと二人は教室に戻って行った。
梛莵はベッドに横になったまま自分の腕を揉み、一人顔を顰める。
「筋肉、あるし……!!」