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逢想の纒憑  作者: 中保透
一章 目的
17/52

16.甘い、甘い


「……」



 ――燐の嬢は怖いか。



  ――怖いです。正直にいえば。



 静まり返る廊下に足を踏み入れた時に聞こえてしまったピヨ助と望の声。

 燐は盆を持ったままその場に立ち尽くした。


 柑実が会わせたくないと言っていたのは……私の知らない年月で先生に何かあったからなのだろうとは思っていたが。先生は、義父さんの元を訪れていたのはおそらく梛莵達と同じ『竒術師』としてだ。

 ならば『纒憑』が駄目になった理由があるのだろう。纒憑が義父となんの関係があったのだろうか。


「燐? どうした?」

 梛莵に声をかけられハッとする。

「あ……いや、部屋がわからなくなった」

「迷うほど広くないだろが……真っ直ぐ。真っ直ぐ進んで突き当り左曲がった手前の部屋。紬、教えてやれ」

「あーい! こちー!」

 紬はパタパタと走り指を差して案内をする。

「あぁ……ありがとう」

「?」



「じじ、ごはーん!」

 紬は部屋に入り望の方へかけていく。

「今日はねぇからーげとわかめごはんだよ! あとおねぎのおみしょしりゅ!」

「そっかそっか、紬が剥いた葉っぱはどこにいったのかな〜?」

「んとねーおみしょしりゅ!」

 望に問われ紬は自信満々に答えた。

「違う、サラダの中だ」

「あらー、紬違ったね」

「?」

「美味そうじゃの〜」

「腹減ってきたな。な」

 梛莵は満面の笑みでピヨ助を見る。

「梛莵、何故余を見る」

 柑実が「共食い……」と小さく呟いていた。そういう事か。

「ふふふ、育ち盛りがいるから沢山作っちゃった。いっぱい食べてね」

「つぅちゃんわかめごはんいっぱい食べりゅ! じじの分まで!」

「え、じじの分ないの?」

「手伝わなかったからかの?」

「ど、どうだろう……」


 笑いが飛び交う食卓はとてもにぎやかで温かかった。

燐は研究所をいた頃を懐かしみ、静かに微笑んでいた。


 * * *


「ご馳走さまでした」

「いえ〜にぎやかで楽しかったわ。また来てね」

「なとちゃ、帰っちゃうの?」

「また遊びにくるよ」

 梛莵は腰をおろし紬を撫でる。

「私も外まで見送ろう」

「そんな、ここで大丈夫ですよ」

 出ようとする望を止める。

「ふふ、いいんだよ。それに少し風に当たりたいからね。ナオもいるし大丈夫だよ」



 冷たい風が吹き草木を揺らす。


「はぁー……さすがに夜は寒いな。ピヨ助が温かい」

「じゃろうじゃろう」

「カイロ扱いかよ」

「……柑実」

「なんだよ」

「ありがとう」

「何が」

「先生と、会わせてくれて」

「別に。会わせるつもりは元々なかったって言ったろ」

「それでも。なんというか、肩の荷? がおりた」

「……そうかよ」

「それと……すまない。巻き込んでしまって」

「……」

「梛莵も柑実も先生も……私の我儘に」

「お前は何も言ってないだろ。父さんが言い出したことだ」

「それでも、」

「はぁ……梛莵の言うように、甘えときゃいんじゃねぇの。だけど俺は必要な事にしか協力するつもりはない」

「あぁ。いい、十分だ」


 再び風が吹き柑実は夜空を見上げた。

「その……会えるといいな、弟に」

「! うん。……へっぷち!」

「はは……風邪引くなよ」



「今日はありがとうございました。燐の事も突然で驚いたでしょう」

「まぁね……でも遅かれ早かれ会うことにはなったんじゃないかな」

「ですかね……望さん、柑実も巻き込む形になってしまってすみません」

「ふふ、大丈夫だよ。ナオも多分、梛莵くんが頼らなくても頼らせようとしてくるだろう」

「まぁ……そうですね……」

「梛莵くん。君自身がナオに甘えないようにしているのかもしれないけれど、甘えたって構わないんだよ」

「えっと……?」

「……ナオ、君が名前を呼んでくれなくなって寂しいんだよ。自分が頼りないないのかもって」

「そんな事は……! 確かに、柑実になるべく頼らないようにしようとはしてました、けど……」

「口では言わないけどね。ナオ、昔より過保護になったでしょ」

「それは……はい、だと思います」

 梛莵はチラリと柑実の方を見て答える。

「心配なんだよ。変わってしまった君の事が」

「……」

「私もね、心配だよ。無茶してしまわないか、ってね。……柊季にそっくりだ」

「そう、でしょうか。俺は父さんみたいに立派じゃないです」

「立派、ね。あの寂しがり屋さんがねぇ。全くどこに行ってるんだか」

「あはは……父さんが寂しがり、ですか?」

「ふふふ、あの子も……私も。皆寂しがりなんだ。何かに縋っていないと落ち着けない」

「……縋、る」

「別に縋るのが悪い事ではないよ。程度の問題さ」

「……はい」

「またいつでもおいで、ここは君のもう一つの家だから」

「ありがとうございます」

「リンちゃんも、いつでも連れて来なさい。今度は『表』からでなく『裏』から直接おいで。ナオと飾未にも言い聞かせておくから」

「あはは……わざわざ『表』を通らせたのは燐や……ピヨ助を警戒してでしょう。でもそういってもらえるとありがたいです」

「あ、そうだ。ピヨ助くんは学校とかの間どうしてるんだい? ずっと連れ歩くわけにも行かないよね」

「あー……そうですね、今日はたまたまくっついて来ちゃってただけなので」

「なら留守の間、ここで預かるよ。私も話し相手になってくれると嬉しいな。積もる話もあるしね」

「いいんですか? でも柑実が嫌がるんじゃ……」

「えーナオ、いいよねー?」と少し離れた所で燐達と話している柑実に確認する。

「何が?」

「留守の間ピヨ助くん預かるよって」

「……いいんじゃない? どうせ駄目って言っても聞かないでしょ」

 そういう柑実は説得をする前に諦めているようだった。

「ほら、良いって〜」

 笑う望に柑実はため息をついていた。



 また、と手を振り帰っていく梛莵達を見送る。

「父さん、風邪引くよ。中に入ろう」

「うん……ナオ」

「何?」

「私の事は心配いらないよ」

「……」

「大丈夫だから、意地悪しないで仲良くね」

「……うん」

「ふふふ」

「なんか機嫌いいな」

「そう? そうかもしれないね」

「いいけど浮かれて転んだりしないでよ」

「そうしょっちゅうはないよ〜、あだっ!」と言いながら望は段差に引っかかり転ぶ。

「はぁ……言わんこっちゃない、大丈夫?」

「うぅ痛い……大丈夫……」

 柑実は呆れながらも笑う望に優しく手を差し伸べた。


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