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逢想の纒憑  作者: 中保透
一章 目的
16/52

15.難親


「リン、ドール……さん」

「燐でいい。その方がしっくりくる」

「あぁ、そう? わかった」

 予想外の情報が一気に入ってきたため梛莵は思わず苦笑いになってしまう。


「しかしすごい偶然だね、リンちゃんのいた所から随分遠いけれど」

「私もこうなってからの記憶が曖昧なのでどういう形でこっちにきたのか……それに私とち、かん(土地勘)? がないし元の場所もイマイチ……」

「そうか……うーん、といっても私もだいぶ昔の事だし場所も案内付きで行ってたからはっきりはわからないかな」

「そう、ですか……」

「ごめんね、力になれなくて」

「あ、いや。先生にこうして会えただけでも十分、です。それに戻った所で……私は本来此処にいるべき者ではないですから」

「リンちゃん……」

「弟や研究所の事が気がかりなのは確かです。でも……私がどうできる問題でもないので本人達に任せる、としか」

「……」

「大丈夫ですよ。弟も、きっと大丈夫……です」

 そう笑う燐は寂しそうだった。


「……ナオ」

「? なに、父さん」

「ナオは優しい子だね」

「……は?」

 突然話を振られて戸惑う柑実を見て望はにっこりと笑う。

「リンちゃんの事、手助けしてあげて?」

「……。は?」

「もちろん梛莵くんもね、私もできるだけ協力はするから」

「いやいや、何で俺まで! こいつに協力する義理なんてないぞ!」

 ダンッと机を叩き燐を指差す。

「あ! こら、指差さないの! それに梛莵くんに任せきりにしたらまた体調崩しちゃうよ」

「ぐ……」

 注意され柑実は素直に指を下ろしていた。

「そういう問題ですかね……」

「元々! 別にここに連れてくるつもりもなかったんだよ! 父さんが梛莵を飯に誘ったからこいつも連れてくるしかなくて……」

「そっか……私、悪い事したんだね……ごめんね」

 しゅんとする望に柑実は慌てて否定した。

「あ、いや、父さんが悪いんじゃなくて……あー、もうっ! わかったよ! するよ! 協力すりゃいんだろ!!」

「ふふふ、ナオは本当に優しい子だねぇ〜」

 望のペースに持っていかれ嫌嫌提案を了承した。望はにこにこと花を飛ばし笑う。

 望さんに弱いな柑実、と梛莵は思う。


「えっ、と?」

「燐、戻れなくとも様子見くらいはしてもいいだろ。ここまできたら乗りかかった船だ。俺もできる限りの協力はする」

「でも……」

「面倒事ならすでにいっぱい引き受けてんだ、柑実も協力してくれるってんなら甘えとけって」

「……いいのか? 今の私は、梛莵達の敵……なんだろ」

「まぁ……といっても俺にとっては燐がって訳じゃないし」

「……」

「それに、今言うのもあれなんだけど。先々燐と鈴を切り離す事にはなってくるだろうと思うから……」

「そう、だな……」

「今の内にやれる事やってからでも、別にいいだろ」

「はは……ありがとう。梛莵に出会えて良かった」

「……そ」

 梛莵は照れくさそうにそっぽを向いた。


「んー……梛莵くん照れてるよね?」

 じーっと見て柑実に問いかける。

「そうだなー照れてる照れてる……はぁ」

「……ナオ、ありがとう」

「別に、いい。父さんも無理はしないでよ」

「ナオは心配症だね。大丈夫だよ」

「……」


「のぅ、いい感じなのは良いがそろそろ余も構っておくれ」

 ピヨ助はひょこっと柑実と望の間に顔を出す。

「ん?」

「あー忘れ……いやさっき紬ん時紹介したろ」

「む! おちびちゃんとは話したがこやつとは話しとらんわ!」

「あはは、話し込んじゃって君とはお話してなかったね、ごめんよ。病院で梛莵くんの鞄に入ってた子だよね、私は柑実望。如斗の父です」と微笑む。

 対してピヨ助は胸を張りドヤ顔をしていた。

「余は『炎帝』ミントスカじゃ! ふっふーん!」

「……」

 そんなピヨ助を柑実は白い目で見ていた。

「炎…?」

「なんじゃなんじゃその目は! 余は神じゃぞ! もうちっと敬ってもよかろう!」

「こいつ、ピヨ助。梛莵んトコに最近居着いたしゃべる鳥」

「え? あ、本当だ〜鳥さんなのに喋ってるね」

「のう、お主の姉といい父親といい反応が遅すぎぬか? 大丈夫なのかの?」

 当の柑実は呆れ顔で頭を抑えていた。

「……」

「お主が心配症なのも何となく察しがついたわぃ……」

「そりゃどーも……」

「ふふふ、まぁ世の中いろんな種族がいるからね。動物が喋ってもおかしくはないよね」

「姉の方と同じ事言うとるぞ主の父親」

「親子、だからな……」

「?」



 ピヨ助はじーっと望を見る。

「どうしたのかな?」

「主は……神術か」

 こやつの術力が身近に感じたのはそういうことか。なるほど。

「……よくわかったね。中でも私は特殊な方なんだけど」

知神(ちじん)にちょいと似たような術力のやつがおったからの」

「へぇ、そう。珍しいね」

「まぁの。しかし人子に神力が宿るとは世も末よの。神との区別がつきにくいわ」

「そうなのかい? 他に比べれば少ないのかもしれないけど割と珍しくはないと思うのだけれど……梛莵くんだってその父親だって神術使いだし、ナオや飾未もね」

「多いの」

「それにしても君は他人の術力の種類が判別できる子なんだね」

「なんたって余は神じゃからの! 混ざっとらねばわかるぞ」

「神……」

「あっ信じとらんな? 別に良いもう慣れてきたわ」

「いや、信じてない訳じゃないよ。昔ここにも神様がいた事はあったからね」

「飾未も言うておったの。今居らぬという事は……?」

「まぁ……色々と、ね」

 望はこれ以上は言わない、というふうに口元に人差し指を添えた。



 それぞれ話していると戸が叩かれる。

「お話は済んだかしら? お夕飯の準備ができたのだけど」

「つぅちゃんも葉っぱむきむき手伝った!」

 紬は褒めてと望に駆け寄り手を引く。

「ありがとう紬、飾未。皆もお話はこれぐらいにしてご飯にしよう」

「如ちゃん運ぶの手伝って」

「わかった」

「あ、俺も手伝います」

「わ、私も」

「ふふ、ありがとう。お願いするわ」



 皆手伝いに行ってしまった為ピヨ助と望は取り残される。

「皆、いい子だね〜」

「……主」

「ふふ、気づいているんでしょ? 私の目の事……いや術力の事、と言ったほうがいいのかな」

「ほぅ、お主抜けておる奴と思ったがそうでもないようじゃな」

「貴方も……只者ではないでしょうから」

「ふむ。してお主、その目を治そうとは思わんのか」

「唐突ですね……できるのなら治してますよ」

「術力が操れんからか?」

「いえ、そんな事はないですよ。収まっているでしょう。私の(なか)にしっかりと」

 そういってにこりと笑い、自身を魅せる。

「じゃが随分乱れておる」

「ふふ、そう? ……視えているのなら騙せませんね」

「如斗は原因はわかっていると言っておったが」

「原因、か。そうですね。そうかも知れない」

「なんじゃ当の本人は曖昧なのかの」

 んー、と少し考えてから応える。

「……私にも色々あるんですよ」

「……」

「怖いんだ……この眼に映す事が。その思いが乱れに乗って影響を及ぼしているのでしょう」

 自身の瞼を指でなぞり、開かれた眼は再びピヨ助を捉える。

「……だからそのまま視ない事を選んだと」

「選んだ訳ではないですよ。それに……全く視えない訳ではないですから。言ったでしょう、できるのなら治していると」

「再び映す事は望んでいる、か」

「えぇ、もちろん。目を背け続けても仕方ないのもわかっているんです。けど……」


 俯きぽつぽつと思いを吐き出す。


「駄目、なんだ……怖い……私は、私が怖い。私の選択が、私の言葉が、」


 その言葉は自身の過ちを振り返るように、小さく、小さく。


「……?」

「……なんて、暗くなっちゃったね。そろそろ皆戻ってくるかな。この話はまた、ね?」

 望はピヨ助を再び捉え微笑む。

「……そうかの。最後に一つ聞いてもよいかの」

「答えれる事であれば」

「燐の嬢は怖いか」

「……」

 望の笑顔が固まる。しかしピヨ助は続けた。

「答えられぬか」

「いえ、答えられますよ。……怖いです。正直にいえば」

「燐の嬢が怖いか、それとも……纒憑であるから怖いか」

「意地悪ですね……もちろん後者ですよ。彼女は何一つ悪くない。悪いのは私なのだから」

「……」

「だから恐怖を抱いてしまった私なりの彼女への償いです。手助けというのは」

「息子に半分押し付けていたが?」

「ふふふ、ナオの事だ。彼女にきつい態度を取っていたのでしょう? それに私だけでは何もできないですし」

「難のある親を持ったものじゃの……如斗は」

「ふふっそうですねぇ……彼らには私のようになってほしくないからね」

「今までに何があったのかまでは聞かぬが……自分ばかりを責めるものではないぞ」

「貴方も随分お優しい方なんですね。……こんな者も気にかけてくださるとは」

「ふん……何、梛莵や燐の嬢には世話になっとるから多少の助力にはなろうと言うたまで。関係者ならば範囲内よ」

「そうですか、でもあまり干渉することはおすすめしませんよ。たとえ貴方が神であるとしても、感情のある者であるならば」


「……御忠告どうも。心配はいらぬ」



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