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逢想の纒憑  作者: 中保透
一章 目的
11/52

10.誰の為 前編

過去編の続き


元にした地域は別にまとめ


 [竒術師 本部]


「柊季」


 任務を終え報告に戻ってきた柊季を上司が呼び止める。


「何?」

「立て続けに悪いが急ぎで次の現場向かってくれるか」

「えーもう帰ろうと思ったのに……音莵ちゃん不足。給料上乗せしてね」

「冗談言ってる場合か」と真剣な表情で返される。

「……もしかして見つかったの?」

「いや。が、派手に喰い散らかしてる。……正直、前のよりひどい状況だ」

「被害はどのくらい」

「同じような被害を全部合わせると五十件は軽く。しかも元魂だけでなく肉体も喰ってる」

「それまでほっといたのかよ……肉体を喰う? 元魂狙いの殺生でなく、か?」

「足取りが掴めなかったんだ。別に放っておいた訳じゃない」

「ふぅん、まぁ違う奴だね。だけど質の悪い……というよりあいつら、実体ないだろう。なのに肉体喰うなんてできんのか」

「わからん。だが見つけた遺体は明らかに噛みちぎられてる……裂かれたり焼かれた跡もあるが」

「なるほどね。厄介そうだな、他に向かえる人はいる?」

「あぁ。現場近くのやつを向かわせる」

「わかった。場所はどこ?」

綠城山(りょくしろやま)の方から草赤巷に向かってると見てる」

「……何? 草赤巷?」

「今の被害の方向を辿るとな……どうした?」

 場所を聞いて真っ青になる柊季。


「いそが、ないと……」

 そういってふらふらと背を向け歩きだす。

「お、おい待て柊季大丈夫か?」

 様子がおかしいと思い止めると柊季は動揺したように話した。

「梛莵が、俺の息子が今そっちの方に、部活の合宿……行ってる……」

「なんだと!?」

「こ、子供が、沢山いる……先生達の中に確か術者はいなかったはずだ……!」

「柊季、しっかりしろ! 近くの登録地点まで転移してやる! 近くのやつらにも急いで向かうように伝える! お前も急げ!」

「っ、わかってる! 頼む!」

 上司は術で柊季を送り出す。


 転移した柊季は方向を確認し走り出した。


「梛莵、無事でいてくれよっ!」


 * * *


 慶悟は宿舎の廊下を一人探し歩く。


「だぁれも居ねぇーったく、先生も部屋にいないしどっか行ってんのかー? こんな遅くに」

 薄暗い。静まり返った廊下は不気味な雰囲気を漂わせ慶悟は身震いをした。


 すれ違った? にしても異様に静かだな。


「先輩達だって大人しく寝るようなタマじゃないだろ……」

 戻ろうかな、と考えていると一部屋の扉が少し開いているのに気づく。


「ん? ……なんだ、あそこにいんの?」


 部屋に近づくと何かが焼けるような、鼻につく匂いがして手で押える。


「うっ、何の匂いだ……?」


 異変を感じ、慶悟は恐る恐る中を覗き目を見開く。


「!!」


 中は真っ赤に染まり、扉の下からも赤い液体が流れ出る。

 そして近くには……腕が落ちていた。


「ひっ……」

 咄嗟に声が出てしまい、慌てて口を押える。

 すると暗い廊下の奥から声をかけられる。


「……誰、ソコニイルノ」



 ――消えかけていた電気は静かに眠りについた。



 * * *


 ハッと梛莵は目を覚ます。


「ふぁ……話してて寝ちゃったんだ……あれ?」

 見渡すと真っ暗の部屋には自分以外誰もおらず、時間を確認する。消灯時間はとっくに過ぎており本来なら皆眠っているはずだった。


「慶悟? 皆? いないの?」


 しん……と静まり返る部屋はどこか不気味で梛莵は不安になり、掛けられていた慶悟のパーカーを羽織る。


「な、なんだよ、肝試しでも行ってんのかな……」


 廊下を覗き見回すが誰もいる様子はなく非常灯だけが辺りを照らしていた。


「……慶悟ー? 滝川ー? 北野ー? ……皆どこいんだよ」

 廊下を歩き回るが誰ともすれ違うことはなく不安だけが募る。

「ほんとどこいったの……ふぅ、寒い……」

 冷え込む身体を擦りながら向かい棟に繋がる廊下に近づいた時、遠くから何かが散らばるような音が響いた。


「っえ、な、何今の音…向かい棟の方?」


 * * *


「――っはぁ、ハッ、くっそ、何なんだよっ!」

 悪態をつきながら慶悟は積まれたダンボールの物陰に隠れる。


「何処ニ居ルノ? 主ノショクジノ邪魔スル、イケナイコ。キヒヒッ」


 ズル……ズル……と何かを引き釣りながら歩く『それ』は慶悟を探しながら不気味に笑う。

「ンー、コレ邪魔クサイ」

 ボトッと落とされた『物』は真っ赤で所々が焼け、ズタズタに裂かれていた。


「フゥッ、フゥー……!」


 何だよ! 何だよあれ! 人……人、だよな?


 声が漏れないよう口を抑えつつ覗くがその拍子にカタンッとポケットに入っていた携帯が落ちてしまう。


「……ソコ?」

「! (やばっ)」


 慶悟は咄嗟に『それ』にダンボールを投げつけ走り出す。

「! イタイ、イタイ! オ前モボクヲ蔑厶カ!?」

 よろめく『それ』は走り去る慶悟の背を睨み感情を昂ぶらせた。


「皆ミンナ、ボクヲ見テ逃ゲル! ボクハ何モシテナイノニ! アイツモ! コイツ等ト一緒!! ナラ、イラナイ! ダロウ!?」


 そう言って足元に落とされた人『だった』物を踏み潰し慶悟の後を追う。



 ――崩れたダンボールの近くには慶悟が落としていった携帯が鳴り響いていた。



 * * *


「……出ない。慶悟、一体どこいるの?」


 階段を降りながら再度慶悟に電話をかける。すると近くからバイブ音が鳴り響く。

「慶悟? そんな所にいるの? え、なに……」

 音の鳴る方を見ると散らばった死体が辺りを赤く染めていた。


「ひっ……ひ、人? なんで、何が起きてるの!? 慶悟! 慶悟! 近くにいるんでしょ!? どこだよ……! これ、慶悟の携帯……」

 落ちていた慶悟の携帯を拾い上げ、辺りを見渡す。


 血、あっちに向かってる。怪我してるの? それとも靴についただけ? どうしよう、どうすればいいの?


「お、大人の人、誰か……っ」

 とにかく後を辿ろう、と踏み出した時死体に足がぶつかる。

 その死体を見て梛莵は目見開く。


「せ、せん……せ?」


 後ずさりし座り込む。


「何だよ……何だよ! 先生が、じゃあ皆は……? 誰でもいいから、誰かいないの? お願いだから、一人はやだよぉ……ぐすっ慶悟どこ……ふっ、うぅ、助けて父さぁん……」

 一人泣きじゃくりながらも、立ち上がり歩きだす。

「慶悟、怪我してたらどうしよう、僕……っ泣いたってしょうがないだろ! しっかりしろ梛莵!」


 自分に喝を入れ涙を拭い、走り出す。


 * * *


 [合宿所 食堂]


「かはっ、イッテェ……」

 壁に凭れ慶悟は『それ』を睨みつける。

「隠レテモ無駄。オ前ノニオイ覚エタ。大人シク主ノゴハンニナルンダネ」

「主、主って、ハァッ、さっきから何言ってんだよ。お前しかいねぇじゃんっ……まさかまだ別にいんのかよ……」


「何イッテルノ。サッキカラズット此処ニイルダロ」


 ズズズッ……と『それ』の身体から黒い靄が翼を広げ姿を現し揺らめく。


「――ヒュッ」

 先程よりも比べものにならない恐怖に慶悟は息を呑む。

「ハッ……ハァッ、フゥッ――!」

 カタカタと身体が震え、うまく息ができなくなる。


 何、何だあの黒い化け物…! それにコイツも、よく見たら『魔族』……? 獣人とか妖族の類いなら別に珍しくないけど魔族なんて本当にいたのかよ……!


「……コワイ?」

「!」

「ボクガコワイノ?」

「何、っ言って……」

「ソレトモ主? ソンナ訳ナイヨネ。主ハ優シイカラ」

「は、ぁ? 優しいもんかよ、人殺して、ご飯だとか言って」

「……デモ主ハボクヲ見テモ蔑マナイ」

「そりゃ、バケモン同士だからだろっ」

「マタ、化ケ物ッテ言ウ。何カシタ訳ジャナイノニ!」

ギリッと歯を食いしばり壁を殴る。

 その衝撃で窓ガラスが割れ、辺りに散らばる。

「っ何かって! ひ、人殺しといて何言ってんだよ!」

「ボクカラジャナイ! アイツ等ガ『化ケ物』ッテ何デモ投ゲテクルカラ悪インダ!!」

「っ」

「ダカラ主ガ喰ベタ! 主ハボクヲ守ッテクレタダケダ!」

「!」


「主ハオ腹空イテル。ナラ丁度イ……「慶悟!!」!」

 呼ばれた方を見ると梛莵が息を上げ、入口に立っていた。


「み、見つけた……!」

「っ! 梛莵、何で……っ」

「何でって、探してたからだろ! だって先生が、皆もいないし……! 慶悟、怪我して……!」

 涙目になりながら慶悟に近寄ろうと歩き出そうとして止められる。


「こっちに来るな!」

「何、マタ邪魔?」

「えっ? だ、誰……? 女の子……?」

「……」

『……――、――。』

「主? ……ワカッタ」


「慶悟、何がどうなってるの?」

「俺だって、ッ……わっかんねぇよ。でも、あいつが先輩達を、うっ……」

 慶悟は覗き見た部屋の惨劇を思い出し嘔吐しそうになるが堪えた。


 バサッと魔族の少女は翼を開き窓に足を掛ける。


「サヨナラ、モウ君達ト会ウ事ハナイデショウ」

 そう言って飛び去っていった。


「行っ、た?」

「あぁ……ヤバイもん残してな……」

 少女の後には黒い靄が一人立ちしていた。

『――、――――!』

「? 何……アレ?」

「梛莵!」

「えっ」

 いきなり突き飛ばされ思考が停止する。


「あぐっ……!」

 食事用のナイフやフォークが数本飛び交い慶悟の肩を突き刺す。

「っ慶悟!」

「〜っ痛っ、梛莵、いいからお前は逃げろ!」

「む、無理だよ! やだ! 慶悟も一緒にっ」

「無理でも嫌でもねぇ! お前は怪我してねぇだろ! 俺が止める! だからお前だけでも逃げろ!」

「何言ってんだよ! わかんねぇよ! 置いてけるかよ!」

「チッ、いつまでも甘えんな! 状況を考えろ! っ痛、……俺は、走れないんだよ!」

「何、っ!」

 見ると慶悟の左脚は焼け、何かの破片で切れたのであろう、出血していた。

「血、血が…!」

「わかったらとっとと行け!! 邪魔だ!!」


「っ!! 〜っ嫌だ! 行かない!」

「っの馬鹿野郎!」

 慶悟は肩に刺さったナイフを引き抜き梛莵の胸ぐらを掴んで廊下に投げ飛ばす。

 勢い良く扉を閉められ梛莵はすぐに駆け寄った。

「げほっ、何すんだよ!! 開けろ! 慶悟!」

 中から何かで押さえられ扉は開かず梛莵は思い切り叩く。


「はぁ、はぁ……梛莵、ごめんな」

「は? 何言って……」

「俺が我儘言って……こんなとこ連れてこなきゃ……」

「何言ってんだよ! 今はそんな事どうだっていい! ここ開けろっ開けてくれ……っ!」

「何でこんなことに……なんだってんだよ……」

 慶悟は堪えきれず涙を流す。


「慶悟っ! はぁっ……さ、寒い……こんな時にっ」

 梛莵は急な寒さに震え白い息を吐く。

 ――窓ガラスは曇り、凍り始める。



「――っあぁぁ!! くそ! くそ、くそくそ!! 何なんだよ!」

 慶悟は痛む身体を立ち上がらせ近くにあったパイプ椅子の一部を黒い靄に向け投げつけた。が、すり抜け壁に当たる。

『! ……――』

「っさっきから、ぜぇっ、何言ってるか全然わっかんねぇんだよっ!」

『……』

「フゥー……もう、っどうにでもなれ」


 深呼吸をし、呟く。


「――来いよ。お前なんか、怖くねぇ!!」



会話が多いのは会話を先に書いて後から行動とか付け足してるのが悪いと思います。前に書いた通り

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