リスタートのルール
新木女史は、にこやかに話し始めた。
「まずはいろいろとご説明をしますね。まずは時間です。これから健太さんが30年以上かけて戻ると、【あっちの世界】の健太さんは70歳を越えてしまいます。ですので時間は【こっちの世界】の1年が【あっちの世界】の1時間に相当しますので、無事に戻れた場合は丸一日程度と理解してください」
ずいぶんとご都合主義だな。と思いつつ新木女史に目を見やるとちょっと不機嫌そうな眼付でオレを見ていた。(ヤバい、読まれてるな)
「次に、絶対にやってはいけない事です。【あっちの世界】の記憶で未来予知、それに関すること、そしてその知識で財を成したりしてはいけません」
「あ、なるほど。技術的なものとかバッ〇トゥ〇フュー〇〇ーみたいな事をやるなって事ね」
「その通りです。健太さんが【あっちの世界】の知的財産で財を成そうとした時にはすでにその知的財産ではない違うものに更新されます。なので無理なのですけどね」
新木女史はにこやかに続ける。
「そして大事な事です。他人の生死に関わる事や他人の人生に関与する事は絶対にやめてくださいね」
「ん?それは微妙におかしい話になるのでは?」
オレは疑問を投げかける。
「まったく同じ人生を歩まないと言う事は、明日香が生まれる事もないだろうし、それに違う女性と結婚生活を過ごした場合、その女性の人生に関与する事になるのではないですか?」
「そこはですね、引き合わせの法則が働きますのでご安心ください」
「というと・・・」
「健太さんが【あっちの世界】で出会って関与した人物は必ずいずれかの形で出会う事になります。そしてその時に選択肢があります。選択肢次第ではいろいろな人生が送れます。最終的に『生まれてくる子供』については絶対的な力が働きますので、必ず出会う事になります。あ、それは未婚で子供がいなくても『引き取る』という選択肢が出てきますので必ず出会います。親子の引き合わせはそれほど強いのですよ」
「なるほど。じゃぁ、一生独身を貫こうが一夫多妻で何人子供ができようが明日香は必ずうちの子供になるという事ですね?」
「あの、一夫多妻は日本ではダメですがお子さんが何人生まれてもそうですね、一人は必ず【あっちの世界】の娘さんになります」
新木女史にシレっと躱されてしまったオヤジギャグ。
「あ、そうそう、さっき【あっちの世界】の知的財産がどうのって話と予知の話が出てましたが」
「はい、なんでしょう?」
「【あっちの世界】の記憶、つまり今の記憶は持っていくと言う事?」
「その通りです」
「脳の活性度、つまり記憶力とかどうなるのですか?」
能力、身体能力もさることながら脳力もアラフィフともなれば非常に心配になってくる。特に記憶力や何やらが最近怪しい。
「記憶はそのままです。身体能力も脳力も14歳に戻ります」
「そのまま、例えば勉強なりなんなりをしていくと上書きされて記憶できる?」
「はい」
「それは脳みそパンクしてしまわないですか?」
「現状、人類は30%程度しか普段使われていません。そしてすでに忘れてしまっていることもあるかと思います、そういった普段使われていない分野に記憶を入れていけば・・・」
新木女史の言葉を遮ってオレは質問をする。
「いやいや、簡単に言うけれどもパソコンのハードディスクじゃあるまいしキャッシュのなんちゃらとかできる話じゃないですよ」
「そこはご心配なく。普通に生活する分には何も弊害はございません」
「まぁ、神様が言うのならそうなのでしょうけど」
不承不承、納得するしかなかった。考えようによっては今までの記憶だけでも中学生に戻った時点で試験や入試は余裕でこなせる、つまりある意味チート?ではなかろうか、とも思える。
「健太さんは、常日頃、『あの時、高校がこうだったら・・・』とか『あの時、こうだったら』とかお考えですよね?なので一番の人生の分岐点である中学生に戻り、尚且つ高校受験をやり直しし易い中学2年生の冬に戻る時期を設定してみたのです」
なるほど。オレの住む北海道は中学生の成績がランクになり、ランクと当日点でどこの高校に行けるか決まる仕組みなので、一理ある。
「しかしオレの信条は・・・」
「知ってますよ、「もし」「たら」「れば」などという言葉は存在しない、ですよね?」
「なんでも知ってますね」
「生まれた時から担当していますから」
「新木さんと会う事はできるのですか?今、思いつかなくても後からやってよかったか、判断に苦しむ事が出てくるかもしれません」
「大丈夫です、先ほど申し上げた件は重大事項なのでそれ以外については注意をしに来ます。と言っても夢の中でですけど」
「わかりました、とりあえず過ごしてみます」