一体、何がどうなった?
人が生きている中で、「もし」「たら」「れば」などという言葉は存在してはならない。
それがオレの生きてきた上での教訓だ。
?「パパ!パパ!」
誰かが呼んでる声がする、あぁ、娘の明日香か。
そうだ、数年前に離婚して今は娘と二人暮らしだったんだ。
今、なぜ明日香の声が聞こえるんだ?
そもそもオレは通勤途中だったから、明日香がいるはずがない。
明日香の声がフェードアウトしていき、もうまったくの無音が続く。
そういえば、オレ、ろくなな人生を歩んでこなかった気がする。
離婚に至る理由も元嫁の十数年に渡るオレと明日香への「モラハラ」が原因。今思えば何故あの嫁と結婚したのか
不思議に思うくらいだ。
幸せな事と言ったら、娘の明日香が早々に生まれてくれたこと。そして明日香との旅行やキャンプ、スキーに行った事だな。
それ以外の家庭生活は散々なものだった。嫁はオレをATM扱いにしてくれるし、娘への態度も酷かった。
それらが原因で嫁とは離婚に至り、娘と二人、平穏な生活を始めて娘の高校も卒業間近の今、オレもアラフィフと呼ばれる世代に差し掛かっていたな。
あと数年で一人を満喫して第二の人生を!
ん?待て待て色々な事が走馬灯のように走り始めているぞ・・・・・
「もしかしてオレ、なんかヤバいのか?」
「もしかして何かあって死ぬ間際なんじゃないか?」
「おいおい、ちょっと待て、これはまずい!目をさまさなくちゃ!」
?「おい、僕、大丈夫かい?」
「ん、んん~」
?「一緒に病院いこう」
「へ?いや大丈夫?な感じです、大丈夫です。」
?「そんな訳にいかないだろう、警察と救急に連絡するから」
「ぁ、はい、わかりました」
まもなくして警察と救急隊員がやってくる。
オレはどうやら事故に遭ったらしい。
それも道路脇の雪山から道路に滑り落ちて轢かれたとの事。
(っていうか、道路脇の雪山って・・・・中学生じゃあるまいし)
(ん?何?このダサい長靴・・・こんな靴履いてなかったし、しかもこのジャンパー何??なに!?)
見覚えのあるジャンパー。今日日ジャンパーなんて言わないがそこは昭和生まれだなと自分自身を窘めつ、服装や周りの景色を見渡す。
その中で救急隊員に質問されたりしていたものの、個人情報を言っても流石に取り合ってもらえない。
「君、学校は豊山中学校?」
「え?いえ、博通に勤めてます」
「何を言っているの?どこかぶつけているのじゃないか?」
「とにかくこれから病院に連れていくけど、お父さんの名前とお母さんの名前、それから住所と電話番号を教えて」
「父は佐久山 一夫、と母は亜希子。朝日市東〇条△丁目、電話番号は・・・」
「朝日市?今ここまでどうやって来たの?親戚の家に来ているの?」
「いえ、普通に・・・」(普通?オレ通勤中の車を運転していたはず)
「あのすいません、ちょっと混乱しちゃっているみたいなので、教えてほしいのですが」
「どうしたの?何か思い出せそう?」
救急隊員もそこに割り込むようにして覗き込む警官も訝し気にオレを見ている。
「今、ここ、どこですか?」
「あ、そういう事か」救急隊員も警官も納得した顔をしている。事故で頭を打って混乱しているようにみえているのだろうか。
「ここはね、湯沢市3条の通り。あそこの車を運転していた人の話によると雪山から滑り落ちてきた君をはねたそうだ、頭、痛いところない?
(湯沢市、オレが小学校6年生から高校卒業するまで暮らしていた街だ)
~~~自分自身の個人情報と状況の整理をしよう~~~
オレ、佐久山 健太 47歳。バツイチで娘の明日香18歳と二人暮らし。広告代理店の博通に勤めており通勤中に記憶が途切れ今の状況にいる。幌見市に住んでおり、携帯番号は〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇。両親は朝日市に健在。
通勤中の車を運転している時に確か明日香の声が聞こえていたな。それっきりか。
ふと目を手にやる。ずいぶんと若い手。寒さも冷たさもあまり感じていない時期。そんな時期もあった。この季節、家事の水仕事でひび割れで手荒れも酷いはずだが、見慣れた武骨な手ではなく丸みを帯びた子供の手。
ダサい長靴、見覚えのあるジャンパー、今の時刻は不明。でも夕方っぽい暗さ。周りの景色は見覚えがある。ここは確か中学生の時に車に轢かれそうになった事もある。
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唐突に思いついた事があり、そばにいた救急隊員に質問をする
「あの、いいですか?」
「どうしたの?痛いところあるの?それとも何か思い出した?」
「オレ、いくつに見えますか?」
「え?いくつってどう見ても中学生だよ」