第6話
「よし、パソコンの準備できたぞ」
この部屋の中央に、隣接した2台の長机があり、その端の床にはゲーム用パソコンが合計4台置いてある。その中に真里さんが以前使っていた予備のパソコンがあったので、それを天道さんがプレイできるようにセッティングした。
「ありがとうございます。……なんでこのマウスとキーボード、虹色に光っているんですか?」
天道さんから素朴な疑問が投げかけられる。
「噂によると、ホタルが光る理由と同じらしい」
「……仁さん、私のことバカだと思ってます?」
「いや、ごめん。そのマウスはゲーム向けの性能がいいマウスで、ゲーミングマウスと呼ばれていて……光っている理由は、カッコいいからだよ」
「カッコいい……ですか?」
「カッコいいだろ! とっても!!」
「えぇ……」
「気にしなくて大丈夫よ、天道さん。その感性の違いは、男と女がわかりあえない理由の一つだから」
真里さんが天道さんにやんわりと説く。うーむ、この輝き、カッコいいと思うんだけどなぁ……
「まずはキャラクタークリエイトからね」
真里さんの指示に従い天道さんがRadical Battle Royale――RBRを起動すると、タイトル画面の後に、キャラクター作成の画面が表示された。
「あたし達はてきとーに駄弁っているから自分の好きなように作ってみて」
「はーい」
RBRで操作するキャラクターは、キャラクタークリエイトで体型や顔をイジったり、服や帽子などのコスチュームを着せることによって自分だけのキャラクターを作ることが可能だ。顔は、目や眉、鼻に口までカスタマイズできる上、身体は手足の長さや太さまで変えられる。女性キャラクターはバストの形までこだわることができる。キャラクターの能力は全員共通で一切違いはないが、体型を小さくしたら弾の当たり判定も小さくなってしまうという点に対応するために、敵のプレイヤーからは全員同じ体型で表示されるようになっている。
「そうだ、天道さんに2つ伝えることがあったんだ」
「なんでしょう」
キャラクタークリエイトに頭を悩ませている天動さんがこちらをチラリと見た。
「このサークルにはもう一人メンバーがいて、4年の星さんって人なんだけど研究とかが忙しいみたいでたまにしか来ないってのが一つ」
「なるほど。だから大会に出るための3人目のメンバーを集めてたんですね」
「うん。もう一つがこの部屋の家賃なんだけど……真里さんが全額払ってくれてるんだ」
「え!? ……全額ですか!? お金……大丈夫なんでしょうか?」
「いいのいいの。いちおーそれなりに稼いでるから。」
「稼いでるって……バイトでですか?」
「恥ずかしいからあんまり言わないようにしてるんだけど……ゲーム配信で」
照れた様子で真里さんが答える。
「配信?! すごいですね!」
「ふふ、他の人には秘密でお願いね」
このサークルのメンバーしか知らないことだが、真里さんは動画配信サイトで人気のゲーム配信者で、その配信についた広告料でこの部屋の家賃を支払ってくれているのである。彼女には感謝してもしきれない。
「……ってことで真里さんにすごくお世話になってるから、飲み会とかでは真里さんの分をメンバーが支払うことにしてるんだ。それが部費みたいな感じだけど大丈夫かな?」
「逆にその程度でいいんでしょうか?」
「あ、あとこの部屋の掃除も真里さん以外のメンバーが担当することになっている。まあ最近はほとんど僕だけど」
「別にあたしは気にしてないんだけどね。仁がなにかさせてくれって言うから」
「なるほど……わかりました。姫野先輩……いえ、姫野様!ありがとうございます……!」
天道さんは真里さんを崇めるかのように感謝した。
「あはは、ホントに気にしないで大丈夫だからね。」
そんなこんなで10分程度雑談していると、天道さんがキャラクターを完成させた。画面には目の前の天道さんに瓜二つと言えるくらいそっくりなキャラクターが表示されていた。バストの部分がおそらくゲーム内で設定できる最大サイズになっていて、現実との差異があることが気になったが、そこはツッコまないでおこう……。