第5話
「ほぇー。結構キレイですね」
玄関に上がるとすぐダイニングキッチンが目に入る。
トイレ・バス付き、2部屋の洋室の2DKの間取り。僕が住みたいくらいのなかなか良い部屋だと思う。
「掃除はそれなりにしてるから。築年数もそんな経ってなかったはずだ……えーと、そこがトイレで、キッチンと冷蔵庫は自由に使って」
「了解です」
「真里さん、こんちわー」
軽く挨拶をしながら隣の部屋へのドアを開けた。
「おかえり、仁。……その子がウチに入ってくれる子?」
彼女は姫野真里さん。同じ大学の3年生で、僕が高校生だった時からの知り合いである。カールのかかっているふわふわで栗色に染めた髪で、可愛らしい顔をしているので、周りの男学生達にも人気がある。……が、僕はこの人の”本性”を知っているため心の中で少し恐怖心を抱いている。
「えと、1年の天道天音です。これからよろしくお願いします!」
「3年の姫野真里です。よろしくね、天道さん……仁、あんたよくこんな可愛い子を勧誘できたわね」
「いや、勧誘したわけじゃないです。逆に声をかけられたというか……」
「え!? あー、ツイッターの募集を見たのね。逆ナン的なことかと思っちゃった」
逆ナン以上におかしな声のかけられ方をした気がするけど……
「自分から参加希望ってことは天道さんの実力に期待しちゃっていい?」
真里さんが目を輝かせ、天道さんに訊ねる。
「はい!ゲームの自信はあります!」
まて、天道さん。それは自信過剰がすぎるぞ。
「わお、やったぁ。実は来月の大会に出るための人員が足りなくて困ってたのよねー」
「大会って……なんのですか?」
「RBR……Radical Battle Royaleって知ってる?」
「聞いたことはありますけど、どんなゲームかは分からないです」
「説明しよう!」
「急にどうしたんですか、仁さん」
Radical Battle Royale、(略称:RBR)とはバトルロイヤル形式のFPS(一人称視点のシューティングゲーム)である。3人×33チームの合計99人が、武器や防具を駆使して最後の1チーム、「チャンピオン」になることを目指して戦う、というものだ。
RBRの特徴を、より詳しく解説しよう。
プレイをはじめると、海で囲まれた大きな島の中央頭上、標高2000mにある飛行機からパラシュートをつけたキャラクターが降ろされる。島に降り立った後は、建造物内などに配置されている戦闘に役立つ武器や防具、スキルなどのアイテムを、他のプレイヤーに倒されないように収集していく。プレイヤーを倒した場合、そのプレイヤーの亡き骸からアイテムを拾うこともできる。
試合時間の経過で「セーフティゾーン」の大きさが縮小してくる。試合開始時は島全体がセーフティゾーンであるが、30分経過時点で50m×50mくらいの範囲までマップが小さくなり、狭い範囲で戦闘を行うことは避けられない。セーフティゾーン外に出ると大きなダメージを受けてしまうので、マップに表示されている「次の段階のセーフティゾーン」をよく見て移動することが重要だ。
拾えるアイテムを簡単に紹介する。
【基本武器】…最大2つまで所持可能。
・アサルトライフル(有効射程距離:中距離、遠距離)
・ショットガン(有効射程距離:近距離)
・スナイパーライフル(有効射程距離:遠距離)
・ナイフ(有効距離:至近距離)……など
【基本防具】
・ヘルメット(頭部に命中した弾丸のダメージを軽減する)
・アーマー(胴体に命中した弾丸のダメージを軽減する)
防具にはレベルがあり、例えばLv1のアーマーよりLv3のアーマーの方がダメージを大きく軽減するが、レベルが高い防具は島内に落ちている確率が低い。
【スキル】…最大2つまで所持可能。使用してもなくならない。
・グレネード(投擲でき、着弾地点で爆発する。3分に1回使用可能)
・インビンシブル(3秒間だけダメージを一切受けない状態になる。4分に1回使用可能)
・ヒール(投擲でき、着弾地点から半径5m以内にいる味方を回復する。2分に1回使用可能)
・ダブルジャンプ(空中でジャンプができるようになり、建物の屋根や2階に登りやすくなる。1分に1回使用可能)
・シースルー(半径30m以内にいる敵の位置が壁を透けて表示されるようになる。5分に1回使用可能)
・リバイブ(投擲でき、着弾した場所に死亡から3分以内の味方を復活させる。10分に1回使用可能)……など
このようなアイテムを駆使して戦って1位を決めるシステムが、多くのゲーマーを魅了し、公式大会やコミュニティが開催する大会が盛り上がる程の人気のゲームタイトルとなっている。
……って感じのゲームだ」
「……仁さん、語りすぎてちょっとキモチワルいです」
「うぐ」
容赦のない言葉を天道さんにかけられる。
「あんたたち、もうそんな言葉を掛け合えるくらい仲が良いのね」
「掛け合うというか、一方的に言われてるだけな気がするな……」
「ふふ、まーいいじゃないですか。……それで、私FPSってやったことないんですけど……」
「あー……なら大会出るのは少し厳しいかもしれないわね……いえ、天道さんが他のゲームに慣れているならちょっとプレイすれば才能が開花するかも……習うより慣れろよ。実際にやってみましょう!」
「はい!」
うーむ。大丈夫だろうか……
僕は少し不安を感じつつも、無造作に置かれている予備のパソコンとモニターを用意しはじめた。