第1話
桜が咲き乱れる四月。大学二年、ゲームサークル代表の僕 ―― 舞丘 仁は困っていた。
憧れのキャンパスライフが幕を開け、目を輝かせた新入生たちが体育館に集まっている。部活動やサークルの勧誘がここで行われているからだ。サークル毎に分けられた各エリアで、代表と思われる上級生達が活動内容を新入生に説明している光景が見える。
体育館入口付近で一人で突っ立っていた僕は、キョロキョロと辺りを見渡し、ゲームサークルのメンバーである先輩から頼まれた条件に当てはまりそうな人物がいないか探す。
その条件とは『大会に出れるくらいゲームが上手い人』
無理難題を押し付けられてしまったな……
今回のサークル紹介の場では、大学公認のサークルのみが勧誘する場所と時間を与えられる。しかし、僕が所属するサークルは大学非公認のサークルであるため、体育館付近で多くの人に声をかけるか、ツイッターのサークル用アカウントで募集するくらいしかできないのだ。
声をかける前にゲームの上手い下手なんて分からないから数撃ちゃ当たる作戦でいくか……?
どんな風に声かけようか考えていると、新入生達がピンクの悪魔に吸い込まれていくが如く、どんどん体育館内に入っていく。
ぼけーっと、そんな空想にふけっていると、横から突然話しかけられた。
「あのー」
声がした方を見ると、新入生らしき女の子がいた。
(キャラクターイメージ)
肩下まで伸びた流れるような綺麗な黒髪。目のぱっちりした端正な顔立ち。その透き通った瞳を見ていると、自分が吸い込まれそうで――
「あの!」
しまった。変態モードになっていた。
「えーっと、なんでしょうか?」
「わたし、一年の天道天音といいます!」
「に、二年の舞丘仁です」
落ち着きのある美人系と思いきや、元気いっぱいの自己紹介をされ少し驚く。
「これを見て来たんですけど、合ってます?」
スマホを見せられると、そこには僕がツイートしていた勧誘文が載っていた。
『◯×大学 非公認ゲームサークル メンバー募集中!ゲームがめちゃくちゃ上手い人待ってます。本日体育館入口で募集予定。ジーパン白シャツの人がサークル代表です。ぜひお声がけを』
「あぁ、僕が代表の舞丘だよ。もしかして入会希望者?」
「いえ、違いますよ」
「あ……ごめんごめん。早とちりしちゃったみたいだ。なにか用かな?」
「……わたしと……」
「……?」
「わたしと勝負しましょう!」
「……へ?」
急にポ○モントレーナーみたいなこと言い出したその子は、サっとかばんから携帯型ゲーム機を華麗に取り出した。
「しょ、勝負って……なんの?」
「決まってるじゃあないですか! 目と目があったらやることは一つしかありません!」
「はっ!!」
「ふふ、気づきましたね。えーと……あそこのベンチに座ってポ○モンバトルしましょ!」
体育館前にある芝生の広場内のベンチを指差ししながらそういうと、天道さんはタタタっと小走りで向かっていった。
な、なんなんだ……?
なぜ急にバトルを……しかも入会希望者でないならなおさら。
そもそも僕がポ○モンのソフトを持っているって分からないだろうに……まぁ、いつでもできるように携帯型ゲーム機をリュックに忍ばせているが。
天道さん……少し、いやかなり変な子だ。
無視することもできるが、チョット可愛いのでとりあえず着いていくことにしよう。下心はないぞ。
ドキドキした心を落ち着かせながら僕もベンチの方に歩きはじめた。
――この時の僕は知らなかった。
この子と出会い、モノクロだった世界が約1677万色に輝きはじめていくことを――
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