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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

間違いだらけの僕といつだって正しい彼のお話

作者: 車馬超

棚ぼた的な物語を書こうとしたら物凄く重く暗い話になってしまいました。

 僕は生まれたときから臆病者でした。

 

 失敗することが恐ろしくて、何をするにも怯えていました。


 だから僕は彼の後について回ることにしたのです。


 何でもできる彼、同年代とは思えない優秀な彼、そして誰にでも優しい彼。

 

 僕みたいな奴でも友人として接してくれる、とても凄い彼でした。


 彼は子供のころからよく夢を語っていました。


 『魔物に襲われない安全な国を作りたい』


 『この手で平和を取り戻したい』

 

 『世界中の人々が幸せに暮らせる世の中にしてみたい』


 壮大な夢でした、大人は彼を笑ったけれど僕ら子供は誰も笑いませんでした。

 

 彼はとても才能に溢れていたからです、それを同じ目線で見続けていましたから。


 剣を握ればあっという間に上達して大人をも打ち倒し、自分より大きい魔物を切り裂いて見せました。


 指揮を取れば的確な判断のもと大人をも動かし、村の総人口より規模の大きな魔物の群れを蹴散らして見せました。


 本を持てば様々な知識を身に着けて大人でも利用できる道具を作り、畑を改良して村の収益を倍以上に増やして見せました。


 口を開けば聞き惚れてしまいそうな力強い声で人々を魅了し、どんな反対意見をも穏便に説得して見せました。


 彼は大人からも期待を一身に受けて成長していきました。


 身体が一回り大きくなっても彼の能力は陰りを見せるどころか、さらに力強くなっていきます。


 それでも彼の語る夢は変わることはありません。


 『この手で皆を幸せにするんだ』


 『俺の力はそのためにあるんだ』


 『皆で協力して大きな夢をつかもう』


 いつしか大人も彼の言葉に真剣に聞き入る様になりました。

 

 僕は何も変わりません、何もできません、ただ彼の後ろをついて回り彼を肯定し続けました。


 だって彼がすることは正しいのですから、いつだって彼は間違えることなんかないのですから。


 そんな情けない僕にも彼は優しく話しかけてくれて、友人として接してくれました。


 ある日珍しいことに僕は彼から相談を受けました。


 『好きな子ができた』


 相手は村で一番可愛い同年代の少女でした。


 彼には及びませんが気立てがよくやはり僕なんかにも話しかけてくれる素敵な女性でした。


 僕は正直にお似合いだと告げました、彼の気持ちをいつも通り肯定しました。


 だけど内心で少しだけ嫌な気持ちでした、僕もその子のことが好きだったからです。


 勿論彼は彼女の気持ちを射止めて付き合うことになりました。


 僕は自分の感情をおくびにも出さずに祝福しました。


 『お前のおかげだ』


 彼はそう言って僕に感謝しました、そんなことはないのに何もしていない僕にお礼を言うのです。


 とても眩しい笑顔でした、誰をも魅了するような素敵な笑顔でした、僕には絶対にできない笑顔でした。


 その日僕は布団の中で泣きました、自分の醜さに涙しました、彼に及ばない自分の無力さに泣きはらしました。


 それからも僕は彼の後ろをついて回りました、何もできない僕にはこれしか生きる道はないのです。


 彼は大人になりました、彼女も大人になりました、僕も大人になったのでしょうか。


 一途な彼は彼女と婚約しました、僕は未だに彼女すらいません。


 彼は一生懸命働きました、いつしか村は町になってどんどん発展していきます。


 僕は彼の後ろをついて回りました、彼の政策を全て肯定し続けました。


 ある日王国からの使者がやってきました。


 どんどんと脅威を増す魔物への討伐軍を集う誘いでした、子供とお年寄りを除いた男は一人残らず駆り出されることになりました。


 『幾らなんでも横暴だっ!! この町の守りはどうなるっ!? 田畑は誰が手入れをするのだっ!?』


 彼は王国の指示に逆らいました、僕は彼の言葉を肯定しました。


 だって彼はいつだって正しいから、彼が間違えたところなんかみたことがなかったから。


 お陰で何とかこの町での徴兵は免除されました、代わりに逆らった彼と僕だけは最前線に送られることになりました。


 『すまない、だけどお前のお陰で最悪の事態は免れた』


 彼はそう言って僕に謝りました、僕に感謝しました、何もしていない僕に頭を下げたのです。


 僕は正直に正しいと思う選択をしただけだと告げました。


 だけど内心少しだけ嫌な気持ちでした、命が惜しい僕は戦場が怖くて仕方ありませんでした。


 彼は戦場を駆け抜けました、兵卒から兵士長へ、部隊長から軍団長にまであっという間に出世しました。


 僕はそんな彼の後ろをついて回りました、文字通り死に物狂いで彼にへばりつきました。

 

 弱い僕が生き残るにはそれしかなかったのです、彼の援護がなければ弱い魔物にすら苦戦してしまうのです。


 彼は見事な指揮で軍団を率いました、そして誰よりも先頭にたって勇敢に戦いました。


 側近がいくら諫めても安全圏に引きこもろうとはしませんでした、多分それは出世についていけない僕のせいでもあったと思います。


 お陰で兵士の士気は高まり、彼の見事な采配の下ついにこの地方の魔物を駆逐することに成功しました。


 彼は英雄になりました、僕は僅かなお金と賞状だけ頂きました。


 王国中に彼の名前は響き渡りました、お姫様の耳にも止まりました。


 王様は彼を呼び出してお姫様と結婚するように告げました。

 

 彼は珍しく困ったような顔で僕に相談を持ち掛けました。


 『断れば王様の顔を潰すことになる、けれど俺は町に残してきた彼女を愛しているんだ』


 僕はいつも通り彼を肯定しました。


 だけど内心少しだけ嫌な気持ちでした、お姫様はとても美しくて僕は憧れていたのです。

 

 僕が憧れているものへ手が届く彼へ嫉妬しました、それをあっさり切って見せる潔さを見て自分の醜さを自覚させられました。


 結局彼はお姫様の求婚を断り町へと帰還することにしました、僕も後をついていきました。


 町はありませんでした、生きた人の姿は見当たりませんでした、彼女の姿はどこにもありませんでした。


 討伐軍から逃げ落ちた魔物が辺境の村や町を襲っていたのです。


 彼は号泣しました、怒声を上げました、物に当たり散らしました。


 僕は彼の感情を肯定しました、彼を存分に暴れさせてから身体を休ませました。


 だけど内心ほっとしていました、ここに居たら死んでいたでしょうからやはり彼についていってよかったと思いました。


 彼のように町に未練はありません、親しい人間すらろくにいなかったのです、両親ですら彼と比較して僕をこき下ろしていましたから。


 『この世から魔物を駆除する、一匹だって残すものかっ!!』


 起き上がった彼は叫びました、目は血走っていました、とても正気とは思えませんでした。


 だけど僕は肯定しました、彼の言葉より正しいことを知らなかったからです。


 彼は流浪の旅に出ました、片っ端から魔物を殺戮する旅を始めました。


 僕も後を付いて回ります、他に行く場所なんかありませんから。


 英雄と呼ばれた彼の噂は広まっていました、どこへ行っても歓迎されました。

 

 だけど彼はどんなおもてなしを受けても心が揺らぐことはありませんでした。

 

 ひたすらに魔物を駆逐するとすぐに次の土地へいき、また駆逐を続けました。


 彼の名声はどんどん高まっていきました、後を付いて回るだけの僕はお荷物として蔑まれるようになりました。


 途中何人もの実力者が同行を願いました、僕の代わりにと志願しました。


 『ふざけるなっ!!』


 彼はその全てを一蹴しました、僕に相談することすらありませんでした。


 僕は彼を肯定することすらできませんでした、否定することも意見することもできませんでした。


 だけど内心少し嫌でした、どんどん魔物の勢力が強い地方へと移動し続けているので身の危険を感じていました。


 ある日ついにドラゴンとの戦闘になりました、僕は毒の息が直撃して一瞬でやられてしまいました。


 気が付いたら街の宿屋に居ました、外からはお祭りのような騒がしさが聞こえてきました。


 彼は一人でドラゴンをも退治してしまったのです、僕は文字通り足手まといにしかならなかったのです。


 暫くして彼が薬をどっさり抱えて戻ってきました、目が覚めた僕を見て泣きついてきました。


 『死なないでくれ、お前が死んだら俺はもうどうしていいかわからない……』


 彼の涙を見たのは彼女を失った時以来でした、僕はさすがに衝撃を受けました。

 

 だけど僕は彼の言葉を肯定することができませんでした、はっきり言って今も生きていたのは奇跡だと思っています。


 僕が健康になるのを待って出発しようという彼を、僕は初めて……否定しました。


 『二人じゃ無理だよ、仲間を集おう』


 本当は嫌でした、彼以外に僕を受け入れてくれる人はいないでしょうから。


 だからといって残るとも言えませんでした、何もできない僕は彼についていくしかないのです。


 彼はすぐに仲間を揃えました、回復が得意な僧侶と薬の調達が出来る商人で男四人のパーティを結成しました。


 実力者が二人増えて旅路はとても楽になりました、役に立たない僕は二人から見下されて旅はとても辛いものになりました。

 

 ある日仲間割れが起きました、危険地帯で連日魔物に襲われる中で役に立たない僕を切り捨てようという意見が出てたのです。


 激高した彼はパーティを解散させました、謝る二人を置いて彼は僕だけ連れていき何とか危険地帯を突破しました。

 

 そして彼は安全な場所に拠点を作ると改めて、仲間を募集しながら腰を据えて危険地帯の魔物を駆逐しようと提案しました。


 僕は肯定しました、するしかありませんでした。


 その危険地帯には巨大なワームや火を噴く怪鳥などが溢れていて、一匹一匹はドラゴンより弱いけれど数が尋常ではありませんでした。


 連携をとって襲ってこないから何とかなっているものの、流石の彼も苦戦を強いられていました。


 ある日仲間が増えました、やはり僧侶ですが今度の人は女性でした。


 とても美しい人でした、僕は見惚れてしまいましたが彼は淡々とよろしくとだけ言いました。


 今度の僧侶は神に仕える人間らしく僕を見下したりはしませんでした、だけど彼女は彼に惚れてしまいました。


 あからさまに態度が変わるわけではないのですが、やはり僕は居心地が悪くなりました。


 ある日仲間が増えました、危険を察知しやすい盗賊ですがこちらも女性でした。


 とても色っぽい人でした、僕はドキドキしてしまいましたが彼は淡白によろしくとしか言いませんでした。

 

 盗賊は僕を役立たずだと思っているようですが、彼を気遣って表向きは僕に優しく接しました。

 

 すぐに彼女も彼に惚れてしまいました、僕はどんどん居心地が悪くなっていきました。


 実力者が二人加わったことで駆除の効率は格段に上がり、ついに世界的に危険地帯と呼ばれていた場所から魔物を全滅させることに成功しました。


 彼は名実ともに勇者と呼ばれるようになりました、僧侶と盗賊は偉大なるメンバーとして褒めたたえられました。


 流石に僕も少しだけ認められました……途中で屍になっていたかつての二人はもう名前すら忘れ去られていました。


 一歩間違えば僕がこうなっていたでしょう、その時僕はもういいんじゃないかと思いました。


 居心地も悪くなってきたことだし、これだけ大掛かりな駆除を済ませたのです。


 切り上げるのにちょうどいいと思いました、新たな魔物を殺しに行こうと言う彼に僕は……二度目になる否定を突き付けました。


 『ここまでにしよう』


 その時の彼の顔は忘れられません。


 彼は荒れました、僕を貶しました、泣いて懇願しました、だけど僕はもう彼を肯定することはできませんでした。


 僧侶と盗賊は代わりに彼を肯定しました、僕をおいて先に行こうと提案しました。


 だけど彼は頷きませんでした。


 『これからどうするんだ?』


 何度目でしょうか、彼が僕にものを訪ねたのは……いや相談ばかりでこうして何をするかを聞かれたのは初めてだったと思います。


 ずっと僕は彼の後ろをついて回っていたから、他に何をしようともしなかったから当たり前です。


 『帰るよ、町に』


 何も考えていなかったはずなのに、僕はそう口にしていました。


 未練なんかなかったはずなのに、今まで欠片だって思い出したことはなかったのに……他に行く場所が思い浮かばなかったのです。


 彼は送ると言いました、魔物の駆除だけが生きがいのはずの彼はそれを後回しにしてでも僕についてくると言ったのです。


 だけど僕はとても嫌でした、彼が僕なんかの背中を追い回す姿なんか見たくなかったのです。

 

 そこでようやく気付きました、僕がここまで彼に付き添った理由、彼を肯定し続けた理由。


 (ああ、僕はきっと……彼を……)


 浅ましい限りです、結局僕は彼と最後の挨拶を交わすと振り切る様に帰路へと付きました。


 道中魔物に出会うことはありませんでした、彼が駆逐しつくしたのだから当然です。


 どこへ行っても平和そうに人々が笑っていて、彼の夢は叶いつつあるようで僕は嬉しくなりました。


 暫くしてようやく僕は何も残っていない、誰もいない故郷へと戻りつくことができました。


 彼が付いてきていればきっとお出迎えもあったでしょうが、僕一人では歓迎すらありませんでした。


 けどそれでいいと思いました、これが分相応なのだと理解していましたから。


 そして僕は廃墟となった町の真ん中で生活を始めました。


 使えそうな田畑を耕し、立て直せそうな家屋に住まい、平凡な日々を送ることにしました。


 時折通りかかる旅人が彼の噂を運んできます、僕が居なくなったことで枷が外れたような勢いで活躍しているようでそう遠くないうちにこの世から魔物を駆逐できるそうです。


 そんな彼の無事を祈りながら僕は魔物のいない地域で平穏な毎日を送っていました。


 ある日変化が訪れました、町の畑を人型の魔物が荒らしていたのです。


 まだ生き残りが居たのかと驚いたものですが、ボロ布を纏ったその姿はよく見ればとても幼い子供達でした。


 いくら何でも幼子ならば負けはしないでしょうと思い、僕は長らく使っていなかった剣を持って近づいていきました。


 僕に気づいた魔物たちは襲い掛かるでもなく逃げ出すでもなく、一塊になって震えていました。


 その中で一番年長らしい子が、それでも人間で言えば年齢で二桁に行くか行かないかぐらいの子供が前に出て両手を広げ他の子を守ろうとします。


 両目からは涙が零れ身体は震えていて、だけど一生懸命立ちふさがるその姿を見て僕はどうしても攻撃することはできませんでした。


 僕は剣で畑を囲むと、手振り身振りでこの中のは好きに食べろと伝えました。


 最初は半信半疑そうにしていた魔物たちですが、暫くして恐る恐るという風情で食事を再開しました。


 僕はそれを横目で眺めながら剣を鞘に納め腰に下げると、いつも通りの作業へと取り掛かりました。


 彼ならばきっと容赦せずに殺していたでしょうけれども、僕は正直もう殺し合いなんかごめんでした。


 しかし計算外の事態が起こりました、僕は食べ終われば出ていくと思っていたのですが魔物たちは町に住みついてしまったのです。


 しかも始めのうちは僕の挙動一つ一つに震えていたのですが、だんだんと大胆になって町中を走り回って遊ぶようになってしまいました。


 おかげで田畑が踏み荒らされて迷惑極まりないのですが、何度伝えてもわかってくれないのです。


 結局収穫はどんどん減っていって、仕方なく僕はサバイバル経験を生かして狩りをする羽目になりました。


 魔物たちも僕を見習って狩りをしようとしますが、やはり子供には難しいようでした。


 また別の人間に見つかる危険が身に染みているのでしょう、余り遠くまで出かけられないのだからなおさら獲物にありつけずにいます。


 段々弱々しくなっていく魔物たちを僕はきっと見捨てるべきだったのかもしれません。


 だけどある日気づいてしまったのです、その魔物たちの性別が雌であることに。


 人型で顔立ちもスタイルも人間によく似ていて、濃い体毛も肝心なところだけは避けていて……僕が興奮するには十分すぎたのです。


 僕はどうしようもなく浅ましい人間でした、欲深く醜い哀れな男でした。


 食事と引き換えに僕は一番年上の、それでも子供にしか見えないその子を性欲のはけ口に利用したのです。


 初めての性行為はとても気持ちよくて、魔物が相手だということなどすぐに忘れ去り僕は一日中行為に耽っていました。


 次の日の罪悪感はすさまじく、自己嫌悪で吐き気がするほど気持ち悪くなって頭がくらくらしました。


 そんな僕をあの子は、僕が犯したあの子は優しく受け止めてくれたのです。


 元々性行為に忌避感の少ない種族だったのでしょう、それからも彼女は食事の度にむしろ嬉しそうにしながら行為を求めてきました。


 どうしようもない屑な僕は肉欲を抑えることなどできませんでした。


 少しすると妹たちも気持ちいい遊びぐらいの感覚で身体を差し出すようになったのですが、それを拒むこともできませんでした。


 不思議なものであれほど後味が悪かったというのに、続けていくうちに慣れてしまい僕は何も感じなくなっていました。


 それどころか彼女たちを愛おしいとすら思ってしまい、彼女たちも僕に甘えるようになっていきました。


 彼を除いて僕を受け入れてくれた人間はいなかったというのに、魔物である彼女たちは僕を受け入れてくれたのです。


 だから僕はもう彼女たちと離れることなどできなくなっていったのです、毎日のように彼女たちの身体に溺れ心からの交流を続けました。


 暫くして彼女たちが妊娠したのは当然のことでした。


 そして通りかかった旅人が、せっかく駆除された魔物を飼って増やそうとしている僕のことを言い広めるのも当たり前の話でした。


 ですから、こうなるのは必然だったのです。


 『何、してるんだ?』


 久しぶりに会った彼はとても逞しく立派に見えました、少なくとも愚かな僕とは比べ物にならないぐらいに。


 だけどその声はどうしようもなく震えていて、その顔は信じたくないものを見ているような情けない顔をしていて、彼のそんな様子を僕は初めて見たのでした。


 彼の後ろからはあの時分かれたときと同じ僧侶と盗賊、そして初めて出会う賢者の三人の女性が僕らを汚らわしいものを見るような目で睨みつけています。


 胸が締め付けられそうなぐらい苦しいくて、彼と別れたあの時よりはるかに居心地が悪いけれど……僕の背中には世界で一番大事な子たちがいるのだから逃げるわけにはいきません。


 僕は腹に力を籠めると震えてしまいそうな声を抑え、淡々と返事をしました。


 『何って……幸せ家族計画的な?』


 『ふざけるなっ!!』


 『はは、久しぶりに聞いたなその言葉……確か前は僕が馬鹿にされた時だったかな?』


 『何で……っ!? 何で魔物なんかと……っ!!』


 『人間が相手をしてくれないから……って言うと空しいし、まあ愛してるからということで』


 『魔物だぞっ!! 俺たちの故郷を壊した魔物だっ!! 俺たちの仲間を皆殺しにした魔物だっ!! ……を殺した魔物だっ!!』


 『わかってるよ、あんま怒鳴らないでくれ……もう臨月なんだお腹に響く』


 『っ!?』


 僕の言葉に嫌悪感すら浮かべた僧侶が口を開こうとして、だけど彼がそれを許さず深呼吸して口を開く。


 『俺が魔物を皆殺しにすると決めているのは知ってるな』

  

 『ああ、知ってるよ……長い付き合いだ、その決意が絶対に翻らないのも……例外を認めることもないのも……わかってる』


 『ならそこを退け……そいつらが最後の魔物なんだ』


 力強く、もはや迷いもないという強い視線でまっすぐ僕を見抜く彼。


 『お前は魔物に誘惑されただけだ……今間違いを直してやる、全部俺がやってやる……だからそこを退け』


 彼の言葉はいつだって正しい、彼が判断を間違えることはない、愚かで間違ってばかりの僕とは違うのだ。


 そんな彼にいつだって頼ってきた、何もかも任せっきりだった。

 

 それでも僕は肯定できなかった、今回だけは肯定できなかった、これだけは肯定するわけにはいかない。


 浅ましくどうしようもない屑な僕が、間違った選択ばかりして何の役にも立たない僕が、無能で仕方のない僕が、それでもようやく手にした宝物なのだ。


 彼の言うとおりにすれば上手くいくと分かっていても、彼に逆らっても敵うはずないと分かっていても、これが明白な間違いだと理解したうえでなお、僕は彼を否定する。


 『断る、僕は……俺は妻を守るっ!!』


 『そうか……』


 剣を抜いて彼に突き付ける、彼もまた静かに剣を引き抜いた。


 確実に死ぬだろうと分かっていて臆病な僕は内心、それでも彼女たちの間に立ちふさがれたことが誇らしかった。


 一歩二歩と鏡合わせのように僕と彼の距離が近づき、同時に駆け出して……一閃。


 ぶつかり合った僕の剣は何の抵抗もなく切り捨てられ、勢いを失わない彼の剣は僕の身体をあっさりと切り裂いた。


 上半身が大地へと落下していく最中、痛みは鈍く妙に世界が遅く感じられた。


 (どこで……間違えたのかな?)


 その中で思う、すぐに答えは出た。


 (帰るって言わなければ……)


 彼が間違えるはずがなかったのだ、僕があんなことを言い出さなければこんなことにはなっていなかった。


 では何で僕はあんな判断を下したのか、それは居心地の悪さからでつまりはだ。


 (仲間を集おうって……僕が言ったから……)

 

 彼の判断は正しかった、ただ僕が口出ししたことだけが僕を追い詰めた。


 何もかもが自業自得だった、何もかも間違っていたのは僕のほうだった。


 彼の判断が正しいと決めて彼の後ろをついて歩くと決めておいて、彼の判断にケチをつけて彼の背中から勝手に離れた。


 そしてこのざまだ、大事なあの子たちも守れずに……いやそれも僕に出会っていなければ彼女たちは少なくとも彼に狙われることはなかった。

 

 この場の不幸は全て……僕が生み出したものだ。


 『ごめん……ね』


 その言葉は一体誰に向けていったのか自分でもわからなかった。


 身体が大地にぶつかり世界は時の流れを取り戻し、僕の脳内を激痛が埋め尽くした。


 『!!?』


 あの子たちが重い身体を引き摺る様に僕へと駆け寄るのが分かった、そんな彼女たちに彼が冷たい目を向け剣を構え直すのが見えた。


 もう指一つ動かすこともできないが、せめて最後まで成り行きを見届けなければと思っても瞼すら操ることはできなかった。


 『………』


 そして僕の意識は闇へと落ちて……どうしようもなく愚かな人生に幕が引かれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 『本当に俺をおいて一人で帰るのか?』


 『ごめん、もう僕辛いんだ』

 

 『そうか……すまない』


 『何でお前が謝るんだよ?』


 『ずっと……ずっとお前を俺の我儘に付き合わせた……なのに俺はお前に何も……』

 

 『バーカ、僕はお前を利用してただけだっての……本当に今までありがとうな』


 『ああ、寂しくなるな……最後に抱きしめてもいいか?』


 『勘弁してくれよ……お前が女ならともかく僕にその気はないんだよ』


 『俺だってそっちの気はないわ……そうじゃなく純粋にお別れのハグをだな』


 『だから気色悪いって言ってんだよ……マジでお前が女なら僕は……僕は…………とっくに振り切られてたな』


 『何だよそれ……まあ嫌ならいいや、また機会があったら会おう』


 『そうだなお前が魔物を退治しきった記念とかな』


 『お前の結婚祝いでもいいぞ』


 『……はぁ、僕にそんな縁があるわけないだろ?』


 『分からないぞ~、意外と田舎に戻ったらすぐにかわいい恋人ができるかもしれないぞ~』


 『はいはい……じゃあ、な』


 『おう……絶対死ぬなよっ!! お前は俺の最後の、一番の親友なんだからなっ!! お前まで死んだら俺はもう耐えられないからなっ!!』

 

 『分かってるよっ!! そっちこそ魔物退治気をつけろよ、後変な誘惑なんかに引っかかるんじゃねーぞっ!!』 


 『『それじゃあ、またなーっ!!』』




終わり

 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 

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 作者は単純なのでとても喜びます。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ただただ、悲しいお話だなあと思いました。好きです。
[一言] 結局彼は大切なものを何一つ守れない所か奪うだけ奪って英雄になった訳か。 俺は僕君の選択は間違って無いと思う。彼とは違って(守れたかは別として)最期は大切なものを見つけたからね。
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