決闘
雪乃たちは冒険者ギルドに作られた訓練場に来ていた。
「それでは決闘を開始します。審判は私、ギルド所属のアランが努めます。ルールは雪乃様より提案されました『攻撃魔法と武器の使用の禁止』。そして、戦闘不能、降参宣言で敗北となります。また、明らかに勝敗が決定している状況での追撃は禁止とします。よろしいですか?」
「問題無いよ」
「俺も問題ねぇ」
雪乃は自分からルールを提案していた。相手の情報を見て、魔力値の低さから魔法を使うタイプでは無いと予測し、接近戦を主体とした。何故、わざわざ相手の有利にするかというと、ただ後で文句を付けられないようにである。武器はどちらでも良かったのだが、素手の方が実力差が分かりやすいだろうという事で禁止にした。相手もただの小娘にしか見えないであろう雪乃の提案に快諾した。ちなみに他の挑戦者も受付け、ほかに計3名の挑戦者がいる。同じく金貨1枚を掛け金に雪乃が勝った場合のみ挑戦し、負ければ掛け金は返金される。挑戦者たちとしては雪乃が負けると予想してのお遊びのようなものだ。
「それではDランク冒険者バーレイ対ユキノ…試合開始!」
審判の開始の合図と共にチンピラ…もとい冒険者バーレイが突っ込んできた。
「死ねやぁぁあああ!!!」
大きく振りかぶった剛腕を繰り出してきた。周りには見学をしている冒険者が大勢いたが、そのほとんどがユキノという少女の無残な姿を思い描いた。しかし、実際には少し動いただけの少女と仰向けに倒れた大男が視界に映った。
「なんだ?今、何が…」
「ほら、待ってやってんだから早く立ちな」
「!?くそ!!」
バーレイは立ち上がり、また突撃する。しかし結果は変わらなかった。
「もう少しなんだがねぇ…」
「何がもう少しだ…。変な技使いやがって…」
雪乃の呟きに反応するが、雪乃は違う事を考えていた。雪乃はただ自身の感覚のズレを調整していた。30代、40代になると若い時と同じようには動けなくなる。自身のイメージと実際の体の運動能力に差が出来る訳だ。雪乃は逆に自身のイメージは老いた自分、体が若者という感じで力を持て余している感じだった。ただ、体を動かす分には何の問題も無いが、繊細な動きでズレがあると問題がある為に調整していた。
「変とは失礼だね。合気道っていうれっきとした武道だよ」
雪乃は自身の幼少期に習った物と別に合気道も習っていた。合気道は他の武術と違い、相手の力の流れをコントロールする事で体勢を崩したり投げたりする。その為、少ない力で扱う事が出来ると習い始めたものだった。
その後も突撃しては投げられ、突撃しては転ばされと繰り返してバーレイは体力を消耗していった。
「悪くない感じだね。そろそろ終わろうかね」
「はっ!ただ転がしてるだけじゃ俺は降参なんてしねぇぜ?」
「そうだねぇ。じゃあ次はこっちから行かせてもらうよ」
雪乃は試合が始まるよりずっと前…それこそ街に入るよりも前から魔法を使っていた。それを解除した。それは自身に負荷を掛ける魔法だ。レベルを上げずとも、魔力が魔法を使う事で上がるように負荷を掛ければ身体能力が上がるのでは無いかと予想しての事だ。通常、重りを付けて筋力を付ける方法を取っても、結果が出るまでに時間がかかる。だが数値として体力があるこの世界ならある程度の即効性があるのではないか、と…。
「体は軽く感じるけど、数値的なもんは無いかね」
この世界においてステータスで表示されるのは、体力と魔力だけ。実際には表示されないだけで存在はしているが、雪乃はそれでも誤差程度だろうと判断した。
「うちの流派はちょいと変わっててねぇ…。いわゆる『型』ってヤツに名前が無いのさ。型ってのは大事だけど、実戦において型通りに技が出せる状況ってのは多くないからね。それに『あらゆる武術に対処出来る』を目標に掲げてるような流派なのさ」
そう、だからこそ型に名前がない。多くの武術の基礎を習い、それに対応出来るように教えられる。つまり新しい物が現れれば、それを学び対応する必要がある。つまり技そのものが増える。そして学んだ基礎から自分で技を作り上げていかなければならない。山下流徒手空術と名乗ってはいたが、実際には門下それぞれ違う技を使う事もあるというわけだ。
雪乃はその中でも群を抜いて技が多かった。生来の好奇心からいろんな流派の道場に行き、数々の技を覚え、それに対応できるように試行錯誤を繰り返した。
結果、生まれたのは従来の武術と山下流のハイブリッドの様な物だった。
長く書いていくと脱線していくとです…orz