冒険者ギルドにて
雪乃は大きな建物の前に立っていた。
「ここが冒険者ギルドって所かい。デカいねぇ…」
先程別れたサムの店もここまで大きくなかった。ただの支店である可能性もあるが…
冒険者ギルドは4階建て。1階では冒険者ギルドとしての受付や、素材の買い取り、酒場の経営などが行われており、2階が応接室や会議室の類がある。3階には有事の際にも即座に対応できるよう交代制で職員が寝泊まりできるように作られており、最上階の4階がギルドマスターの部屋や貴族対応用の豪華な応接室があった。
まぁ大多数の人間が使うのは1階だけである。
雪乃は前世でもっと大きな建物も見てきた為、特に気後れする事も無く入っていった。入ってすぐに中で飲んでいた男共に視線を向けられるが大して気にせず、受付まで進んでいく。
「冒険者登録ってのをしたいんだが、ここで良いかい?」
「はい。こちらで出来ますよ。私、冒険者ギルド・レアン支部受付のミレーユと申します」
「ご丁寧にどうも。私は雪乃だよ」
「ユキノさんですね。こちらの登録用紙に必要事項をご記入下さい。名前と年齢、種族が必須。それ以外は任意で結構です」
「それだけで良いのかい?」
「基本的にギルドの活動の1つであるパーティーメンバーの推薦以外に使いませんので、パーティーを希望する際には細かく書いていただいた方が紹介しやすい程度ですので」
「ちょいと待ちなぁ!!」
デカい声を上げた男がいた。視線を軽く向けるとこちらに向かって歩いてくる。30代前半程でまさしく筋骨隆々と言った感じで背も190cm程はあるのでは無いだろうか。
「ここは王都に最も近い街レアン!そんな所にてめぇみたいな小娘がいたんじゃ舐められるだろうが!ゴブリンやオークに犯される前に他の仕事を探しな!」
馬鹿にされているのか心配されているのか迷う微妙なセリフである。しかし、雪乃からすれば侮られているようにしか感じなかった。とはいえ、そんな事にいちいち反応するほどの子供でもない。
「そんな規約かなんかあんのかい?」
「ありませんね。基本的に登録は15歳以上であれば種族を問わず行えます」
「だってさ。そもそも登録しに来た奴に文句付けるような奴がいたら、そっちの方がみっともないだろう?器の小さい男だねぇ」
「てめぇ…喧嘩売ってんのか?この俺様に…」
「売ってきたのはそっちだろうに…」
「冒険者同士の私闘はご法度ですよ!」
ミレーユが受付から飛び出さんばかりに立ち上がり仲裁に入る。しかし、雪乃は喧嘩を買った。
「私はまだ登録終わってないんでね。どうだい?デカいの。試合で決めないかい?」
「試合?なるほど…決闘か!それならギルドも公認だな!」
「あんたが勝てば登録は辞めて、別の仕事に就く事にするよ。私が勝てば…そうだねぇ、金貨1枚ぐらいは払って貰おうかね」
「はっ!良いぜ!どうせ俺が払う事は無いがな!」
こうして雪乃の冒険者登録を賭けた勝負が始まろうとしていた。