商人
「いや~、助かったよ。わざわざすまないねぇ」
「いえいえお気になさらずに。むしろこちらの方がありがたいくらいですよ。あれほどの大物はなかなかいないですからね」
雪乃は偶然通りかかった商人の馬車に乗せて貰っていた。2日程歩けば着くだろうと思ってはいたが、楽に行けるならばそれに越したことは無い。とはいえ、無償で乗せろというのもどうかと思ったので、森で採った果物や熊の素材を渡そうと思ったのだが、逆に金を支払われた。
「頭以外に大きな傷がなく、しかも血抜きもしっかりしてくださっている。これならば皮も肉も商品になりますからな。下手に解体していないのもありがたい。冒険者という者のはどうにも雑で皮を傷付けたり肉も無駄に大きく削いだりともったいないですからな。はっはっは!」
という事だ。確かに皮に傷があれば、それを避けるように使わなければ商品にならないだろうし、バッグやポーチの様な物がせいぜいだろう。しかも、グリズリー系の熊の魔物はベア系の上位に入るらしく、討伐できても傷が多い物ばかりらしい。傷が少ない物を手に入れようと思うと、上位の冒険者に依頼するぐらいしかなく、そうなると結構な依頼料がかかるらしい。
「そういえば街ってのは入んのに時間がかかるもんなのかい?」
「一応のチェックはありますが、それほど厳しい物ではありませんよ。身分証があればそれを専用の魔道具で読み取るだけ。それも数秒程しかかかりません。ユキノさんは身分証をお持ちでないとの事ですので、犯罪歴を調べる魔道具でチェックし、仮の身分証を発行する形になります」
「身分証はどこかのギルドで登録すれば良いんだったね?」
「ええ。基本的に発行されるギルドカード自体はどこも同じですからね。登録内容の違い程度です。冒険者になるなら冒険者ギルド。商人になるなら商業ギルド。その他にもいくつかありますが、そっちは専門的な物ばかりですな。料理であったり、木工であったり…」
「複数の登録ってのは?」
「出来ますぞ。何らかの理由で冒険者を辞めて商人になる者もおりますし、自分で獲ってきた物を自分で売った方が儲けると考える者もおりますからな。後者の場合は、あまり成功しませんがな」
「ん?自分で獲ってきたんなら元手はゼロじゃないのかい?1つ売れれば利益は出るだろう?」
「自分の店を持っていればそうですが、たまに品を出す程度に開くには少々高いですからな。露店の場合は商業ギルドに報告し、使う土地の立地や広さ、開店期間に応じた金を払うのですよ」
いわゆる場所代というやつだ。それを計算に入れず価格設定し雀の涙程の金を手に入れるか、儲けようと値段を高くして売れないような者が多いらしい。通常、市場を調査してどんなものの需要があるのか、どのぐらいの値段で売られているのかを把握してから物を売るものだが、その辺の知識がなく適当にやって失敗するらしい。何とも馬鹿な話である。