自給自足
森に降り立った少女(中身老婆)は自身の確認をしていた。
「15歳って言ってたけど思ってたよりもデカいね。まぁ日本人が小さいのかもしれないけどねぇ…。体の調子も悪くないね。むしろ昔より楽な気がするね。まぁ15っつったら90年以上昔の話なんだけど」
神が言っていた知識も問題ない。ただ、言っていなかった事もある。前世の知識や技術をこちらのスキルに変換したようだ。
「ステータス」
-----
名前 ユキノ・ヤマシタ
人族 15歳 レベル 1
体力 120
魔力 100
スキル
鑑定 収納 体術 剣術 槍術 弓術 投擲術 気配察知 威圧 算術 料理 裁縫 掃除 農業 薬学 鍛冶の心得 解体 魔法(全) 創造神の加護
称号
異世界からの転生者 神に認められた者
-----
目の前に見えるウィンドウにはこう表示されている。
「体力や魔力が比較対象が無いとどんなもんか分んないね。にしてもスキルはやり過ぎじゃないかね?確かに一通り覚えはあるがねぇ…」
父から武術を習ったときに武器の扱いも習った。自分が使う事を想定したものではなく、間合いの違いや対処法を学ぶためである。農業は家庭菜園を作る際に近くの農家に教えてもらった事。薬学は薬が簡単に手に入らなかった頃に薬草なんかを使っていた事。鍛冶の心得は近くの鍛冶師に包丁を頼みに行った時に色々聞いたり説明を受けたりした事。
「まぁ多い分には困ることもないかね」
問題は魔法と加護である。神の説明では魔法陣を通せば魔力が変質し、イメージで魔法が使えるとの事だった。だと言うのに、全ということは普通は使えない属性もあるのではないだろうか?
「まぁ気にしなくても良いか。私が気を付けりゃ良いし。しかし加護はバレると厄介そうだね」
色々と見てきた、読んできたから思う加護の影響。こんなのを持っているなんて勇者とかその辺だろう。まぁバレなきゃ良いか、と保留にした。
「とりあえず魔法の確認と練習。しばらくの拠点かね?」
近くに街があるのは知識としてあるが、徒歩だと2日から3日程の距離だ。となると、道中の食料や獣対策は必要である。その為、しばらくこの森で自給自足してから行くことにした。と、気配察知のスキルに反応があった。
(反応は2つ。いや、便利なもんだね。前はなんとなく気配が分かる程度だったのにスキルってのは楽で良いね)
反応の主はゴブリンだった。ボロボロの短剣を片手に持ってこちらに近づいてくる。初めて見るというのに不思議と恐怖は感じない。それどころか…
「良いもの持ってるじゃないか…。私が使ってあげるよ。寄越しな」
ただの盗賊の様である。襲ってきたゴブリンの腕を取り、一本背負いの要領で投げる。有名で良く聞く技ではあるが、実は素人がやると大変危険な技である。特に実戦においては下が畳ではない為、頭から落ちて死ぬこともある。が、雪乃が学んだ技術は現代の柔道より柔術に近い実戦的な物だった。しかも相手が人間でないならば、わざわざ加減をする必要もない。
もう1匹のゴブリンが襲ってきたが、投げたゴブリンが落とした短剣を拾い、ゴブリンの喉に突き刺した。
「せっかく2本手に入れたってのに、あの程度で折れんのかい…」
ゴブリンの喉に刺した短剣は中ほどでポッキリと折れてしまった。おそらく手入れもされてなかった為、仕方ないがこれでは実戦では使用できない。
「まぁ鉄は鉄だし、溶かしゃ使えるかね」
折れた短剣の柄と刃を収納に入れ、残った1本を持っておくことにした。
ゴブリンの死体はどうしようかと思ったが、神の与えた知識の中に魔石というのがある。ゴブリンの死体のそばにしゃがんで、短剣を突き刺した。魔物は基本的に魔石を持ち、だいたい心臓の位置に魔石がある。
「昔、鹿の内臓引っ張り出したの思い出すねぇ」
知り合いの猟師が鹿を獲ってきた事があり、解体を手伝った。その時に近い感覚を思い出す。そんな事を考えていると、短剣が折れた。とりあえず、柄の先に残ったわずかな部分で切り開いて魔石を取り出した。
「こんなに小さいもんかい。ビー玉より少し小さいくらいかね?」
小指の先ほどの小さな魔石だ。もう1匹も解体し2つの魔石を手に入れた。その後、腹が開かれぐちゃぐちゃになった死体に目を向けた。前世からの知識として、こういうのを放っておくと肉食の獣が寄ってくる事がある。とりあえず埋めようと思ったが道具がない。
「ああ。魔法で穴を開けりゃ良いのか」
土の属性に魔力を変え、地面に穴を開ける。が、30cm程のあなが開いただけだった。
「要練習だね」
ゴブリンを埋められる穴を開けるまでに何回か繰り返し、十分な大きさの穴になった所でゴブリンを埋めた。雑魚の定番のゴブリンとは言え、なんとかなりそうだと拠点に良さそうな場所を探した。
一本背負いは大変危険です。素人は遊びでやらないように。
また、柔術など古流の武術では投げる際に腕の関節を極めて投げるものもありますが、折れてしまうので気を付けましょう。