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Cheat killer

作者: Yamato

分かりやすくチートな主人公を書きたくて、なろうの雰囲気に便乗して書いてみました!!!

やっぱり異世界転生チートこそ至高なんやなって。

 異世界転生、というものがある。らしい。

 らしいというのは、正直なところこの世界の住民からしてみれば『連中』は唐突に湧き出るものであって転生でも何でもないのだが。


「な、なんでだよっ!?!?俺の『ハイパーメガネ』はこの世界の住民には誰にでも効くんじゃないのかよっっ!?!?」


 …仕事中だったことを思い出し、眼前の『ヤツ』に意識を切り替える。

『ユーイチロー』。通り名を『絶視メガネのユーイチロー』。

『奴ら』は基本的なスペックに共通点がある。

 一つ、尋常ではない固有能力。

 二つ、類稀なる幸運。

 三つ、洗脳と呼んでも差し使えないレベルの魅了。

 四つ、異世界から持ち込まれた知識…これは個体差による変動が大きい。


 そのことを改めて心に刻み、ヤツに宣告する。


「…『リンネ王国法』を知らぬとは言わせぬぞユーイチロー」


 ヤツは一瞬怯んだ様な態度を見せたが、目に決意の光を灯して叫ぶ。


「ルール、ルールって、それだけで皆が守れるかよッ──!」


 ヤツの眼鏡が煌めく。


 絶視。それは最早神の域に達した魔眼、言うなれば「神眼」の一つである。

 有識者曰く『敵の能力が視者の元世界の文字で可視化される』能力らしい。

 そしてヤツはそれをあのメガネで再現している。


「『絶視(ゴッド・ノウズ)』!!!!!!」


 …言ってしまえば、この世界に対する脅威にも程があるのだろう。

 相手の悉くを暴きたて、それを解読出来るのは己がのみ。

 本来であれば余りにも恐ろしい。

 が、私は違う。

 ヤツの顔が闘志に満ちた顔から困惑、絶望へと目まぐるしく変わっていく。

 そろそろ、頃合いだろう。


「ちくしょう…なんで通じな…っっ!?!?」


 目には目を、歯には歯を。

 本来言うまでもなく、書き記すまでもない。

 ──CheatにはCheatを。


「…『The cheat』」


 このたった一言の詠唱の力は至ってシンプル。


「お、れは…やり、なおし…たかった…だけ、なの、に…」


 この世界の存在ならざる者の能力封印及び、その者の生命活動停止。


「此処はお前の居るべき世界ではないのは分かっている筈。無へと帰せ」


 ユーイチローはみっともなく涙をボロボロと零して消えていった。

 だがその涙すら、一雫も残らずに消えていった。


 ✳︎


「此度も見事な働きであったぞ、シン」

「恐れ入ります」


 リンネ王国首都、テンセイのリンネ王城謁見の間。

 先のユーイチローの仕事を終えた私はいつも通り大臣への報告、王への定期謁見を行なっていた。


「此度の『絶視メガネのユーイチロー』討伐の任、重ね重ねご苦労であった」

「報酬はいつも通り貴女の部屋に送っておきましたよ」


 円卓を挟んで向こう側にいる王と転生者省大臣はいつもの定型文を繰り返した。


「重ね重ね感謝致します。王の威光がより輝きを増しますよう」


 この王国伝統の挨拶で締めくくり、謁見の間から退室した。


「はぁ…」


 任務の後に王城の長い廊下を歩くと、つい溜息が出る。誰かに聞かれでもしたらコトだろう。


「フッハッハッハッ!さしもの、フンッ!!シン殿と言えど、フンッ!!!任務疲れはどうにも、フンッッ!!!!出来ぬかッ!!!!!」


 ハッとして振り返ると、そこに居たのは筋肉が鎧を着ているような、鎧が筋肉にくっついているような浅黒い肌の中年の大男が、満面の笑みを浮かべて「片手」で「両手剣」の素振りをしていた。


「えぇ。前々から言っていますように、私は体力はとてもあるとは言えない身なので」

「何を、フンッ!!言うかァ!!!あの転生者共ッッ!!!相手にィ、フンッッ!!!立ち回れる時点でェッ!!!十二分にあると言えようッ、10000回突破ァッ!!!!!」


 ネッガ・マシュワ。このリンネ王国の騎士団長を務めている。


「いえ、私はあくまで自らの能力に頼り切っているのみの…」

「私も似たようなものだッ!魔法もろくに扱えない男が己が肉体を鍛えていたら、こんな所まで登りつめていたのだからなッ!!」


 笑顔がすごく眩しいです団長。

 でもそろそろ暑苦し過ぎて、団員から敬遠されていることに気付いてあげてください団長。


「…えっと、その、ありがとうございます」

「ぬわぁ〜に、気にするなッ!!」


 そう言った後、大きな右手で私の頭をシェイク(これのせいで、数分私はその場から動けなかった)すると彼は身を屈め、さらに片足跳びでその場から去っていった。


 *


 王城の片隅にある小さな小部屋。それは私の部屋であり、我が家である。


「ただいま」

 

 応える者は誰も居ないが、何故かこの言葉を発してしまう。


(…未熟だなぁ)


 思わず苦笑する。

 ふと小窓から差し込む陽光の色に気付き、衣服を庶民的な麻のものに着替える。

 任務後の夕食はいつもの場所で食べるのが私の決まりだから。


 *


 夕暮れ時の城下町。陽光が煉瓦を磨き上げ、街全体を温かな橙色へと染め上げる。


「おっ、シンちゃんじゃないか」


 今日はやたらと声を掛けられる。

 軽く返事をしながら振り返り、思わず笑みがこぼれた。


「うちにくる途中だろ?一緒に行こうじゃないか」

「はい、シラキさん」


 この後私はシラキさんの背後にある大量の荷物に気付かなかった事を後悔することになる。



「買い出しからの帰りでねぇ、荷物持ち助かったよ」

「…い、いえ」


 大通りから少し脇にされた路地。そこは酒場や賭場の密集地。

 このシラキさんもこの通りに酒場を構える女将だ。

 さながらオークの様な身体付きから分かるように「シンちゃん、今ロクでもないこと考えてたろ?」


「え、あっ、その…いいえ!!」


 じとーーーーーーーーーーーーーーーーっ。


「…た、逞しい身体だなぁ、と」

「ふん、女らしくなくて悪かった、ね!」


 ね!と言いながらデコピンを眉間に叩き込まれた。

 ゴメンナサイ。


「女将に女らしさなんて元からねーんだからよー!!」

「そそ、気にするだけ無駄っすよ〜〜シンちゃんも謝らなくていいっス〜〜!」


 気づいたら辿り着いていたシラキさんの店先には、もう出来上がってる方々が数名。

 特にこの二人は、毎晩全く同じように出来上がっている。

 何故なのか気になるところ。


「ほーぅ、私の店に入りたくない様だね」

「いや違うっスよ!!!」

「わーなんて美人なんだー今夜はシラキさんに抱かれたいなー」

「じゃあ今夜は色々とあんたから搾り取らせてもらおうかね」


 この喧騒もいつも通り。

 今日もまた、帰ってくることが出来た。


 ✳︎


「シラキさーん!ドラゴンジャーキーを一個ぉ!!」

「女将っ!エルフの涙を瓶で頼むぜー!!!」

「あーはいはい分かってんだから黙っときな!!銭と精の前に血を絞るよ!!!!」


 がやがや、どやどや。


「あっ、私は『スパイス焼き飯の大盛りと薬草ドリンク一つだろ?』…はい!」


 じゅわー、かんかんかん。ゴトリ。


「ほいっ、いつもの組み合わせ一丁上がりっ!!」


 ほわほわ…ぱくっ。


「うん、おいしい…!」


 生き返った。今まで半分死んでたから地の文雑だったけど、完璧に生き返ったからもう大丈夫。


「そーかいそーかい、それならよござんした」


 あっはっはと豪快に笑いながらシラキさんは厨房で忙しそうに行ったり来たりを繰り返す。


「シンちゃんは美味そうに食うねぇ〜〜!」

「よっ、リンネ王国1っっ!」


 ✳︎


 なんやかんやで夜は更け、酒場には私とあの二人、そしてシラキさんだけになった。


「アンタ達、酒はそこまでにしときな」

「まだあと一杯…ダメ?」

「女将ぃ〜」

「若造とオヤジがなにぶりっ子ぶってんだい。そら残りはまた今度にしな!」


 情けない声を上げてシラキさんがひったくっていったグラスに手を伸ばす二人。


「全く、男ってのは酒を飲んでいる時だけは不死鳥の血要らずとはよく言ったもんだよ」

「確かに。あの二人は前から変わりませんからねぇ…良くも悪くも、ですけど」

「へへっ、今なら俺たちでも転生者を倒せるかもな」

「おっ、一丁俺たちもやってみるっスかぁ?」


 転生者。その単語で一気に現実に引き戻される。


「シンちゃん、そういや今回の仕事はどうだったんだい?」

「えっと、ですね。まぁ、普通でしたよ」

「シンちゃんのいう普通ってのが俺たちにゃ普通じゃねぇんだよ〜」

「そうっスよ!もっと詳しく説明してほしいっス」

「…じゃあ、一から話しますね」


 目を輝かせた皆に押し切られる形で仕事の話をするのもいつものこと。

 食べ終わった食器をシラキさんに返すと、私は今回の一件の顛末を話し出した。


「じゃあ改めておさらいなんですけど、転生者って何だと思います?」

「そりゃあ、アレだよアレ。他の世界から転移してきた連中だろ?」

「まぁ広義にはそうなんですけど、連中にも種類がありまして」

「えーっと、能力傾向がどーたらこーたらってやつっスよね?」


 そう。転生者には能力の傾向というものがある。


「まず『特化型』。これは一つの能力に特化した連中で、まぁ、比較的楽ですよ。どうあがいても一つのことしか出来ませんから…でもたまーに面倒なのが混じってますね」

「例えばどんな奴なんだい?」

「楽なのだと、めっちゃくちゃ速く走れるとか、身体能力系ですね。アレは魔法で対処出来ますし、何より自分の能力を過信してるってパターンが多いです」

「マジかー?そっちの方が怖い気がするんだがなぁ」


 確かに身体能力系は一見厄介そうに見えるが、どう突き詰めてもそれは身体能力。魔法という身体能力の上をいく力があればどうという事はない。


「面倒なのは…最近増えたきた『生産系能力持ち』ですね…」

「え?寧ろそっちの方が弱そうな感じッスけど…」

「確かにそれ単体では脅威ではありません。ですが転生者特有の能力として…」

「そうか、生産したモノを使いこなせる仲間を魅了で集めれば…」


 大正解。転生者は皆、人を惹きつける力というか、異常なまでの魅了能力やカリスマを持っている。

 その力を持ってすれば、どんなにピーキーな生産物でも扱えるプロを集められ、実際に扱えば必殺の武器と化す。


「でも所詮は生産能力だろ?本人の戦闘能力が大したことないなら余裕じゃねーか?」

「確かに不意打ちでズバッと行けそうな気がするんスけどねぇ」

「まぁ、確かに転生者本人の対処は楽ですよ。転生者って戦闘技術に関しては皆素人の傾向が強いので。問題なのはその後なんです」

「その後?」

「はい。『市場に流通した物の回収』と『生産者の仲間達』が厄介極まりないんです」


 そう。転生自体はどうという事はない。武具の生産者なら兎も角、食事や工芸品等の生産者はどうとでもなる。

 しかし、その生産系転生者のカリスマに当てられた…謂わば信者達、そして市場に流通した物品はそうもいかない。


「信者達はその転生者の為なら何でもする狂信者となり、集団で暴動、国家への反乱を起こしたりします」

「うっわ…エグいッスね…」

「しかも市場流通したものは本来この世界に存在するべきものではない、いわばオーパーツです。そんな物が一般市場に出回れば…」

「多くのこの世界の住民が淘汰される事になっちまうな…」

「実際過去に転生者によって作成された兵器が戦争で利用されましたが…酷いものでしたよ」

「確か、シャイニングボムだったか…光に当たっただけで即死だったとか」


 こくりと頷く。

 二人はすっかり酔いが醒めたのか、真面目な顔をして私の話に聞き入っている。


「さて、話もひと段落したところで、そろそろお開きにするかね」

「えぇー!むしろこれからってところッスよ!!」

「結局今回の仕事のこと聞けなかったしなぁ…」

「ガキじゃないんだからグズるんじゃないよ!!」


 シラキさんは手を叩くと半ば押すようにして二人を強引に店から追い出した。


「全くアイツらは…」

「今度は今日は話せなかった『全能型』の話とかしないといけませんね」


 苦笑いしながら私も自宅へと帰るために席を立とうとして…椅子から崩れ落ちた。


「あ…れ…」


 目の前が暗くなり、地面がぐるぐると回し出した。


「……?───!!!」


 シラキさんの声が遠い。

 そんな事を考えていたら、意識は消えていた。





 …………………………………………………温もりを感じて、目覚める。


 そこは見慣れぬようで、見慣れたような板張りの天井。私はシラキさんの店の奥にあるベッドで眠っていたらしい。


(なんで…)


 一瞬、毒を盛られたかなどと考えたが、


「…身体の方は大丈夫なのかい?」


 気付いたら側にいた、否、気付かなかっただけで一晩中付きっ切りだったであろう顔をしたシラキさんの声でそんな疑いは消え失せた。


「…発作…ごめんなさ『全くだよ!アンタって子は!!』」


 デコピン。

 …いつもよりそれがやけに優しくて、逆に辛い。


「お医者様がさっき来たけどね、アンタ任務中でも出来る限り薬は飲んでるんたろうね?」


 薬…あぁ、前回の時は立て続けの任務だったから薬を切らしてたままだったっけ。


「アンタねぇ…この、バカチン!!」


 デコピン。

 …さっきより威力が僅かに増してた。


「アンタの仕事は身体が無きゃどうにもなんないでしょうが!あの呑んだくれ共のバカが移ったかい!?」


 …ぐうの音も出ません。


「兎に角、今日は安静に…」


 言いかけた時に、店のドアを叩く音が薄暗い部屋の中に響いた。

 溜息をつきながらドタドタと店先へと向かうシラキさん。


「……っ」


 一人で部屋に残され、無音がやけに耳に刺さる。それから逃れる為に、自らの体に意識を集中する。

 …この身体を恨んだことは一回や二回ではない。どうやら天は二物を与えずという言葉を私の身体で見事に実践したらしい。

 私の身体は常に死に掛けている。

 この能力の代償なのか、はたまた何らかの別の原因なのかはさておき、私の身体は常に何らかの病魔に侵されている。現状私はそれを薬と自らの能力で抑えているのだ。

 何故私の能力で抑えていられるか。それは病魔というものは字の如く魔物、即ちこの世ならざるモノ。

 ならば私の能力で抑え込める…という理屈なんだとか。


『君のその能力はもっと可能性があるんだから』


 …そんなコトを少し寂しそうな顔で言った彼の事を考え、ますます寂しくなっていた時。


「おお、見つけましたぞ『転生者殺し』殿!!」

「ちょっとアンタ病人の部屋でうるさくするんじゃないよ!!」


 白銀の鎧を身に纏った大柄な金髪碧眼の青年がドアをやや乱暴に開け、大袈裟な態度で私に話しかけてきた。


「…クバ副団長」


 この前騎士副団長に就任したという、実戦経験ゼロの明らかに無能っぽい男。


「おお、なんとおいたわしい姿に…」

「…コイツ、シンちゃんの知り合いかい?」

「同僚です」


 即答するレベルで知り合いではない。コイツはいつもウザったく私に話しかけて、友人ツラしてくるが、私からすればあくまでただの同僚だ。


「おっとこんな事を話してる場合ではなかった...『転生者殺し』殿、私の手を掴んで頂きたい」


 ?…取り敢えず、言われるがまま手を掴んで──


「『瞬間移動』ッ!!」


 閃光の後、私は謁見の間でいつもの円卓を挟んで王と大臣の前にいた。


 …寝間着のままで。


 ✳︎


 いつもウザいとは感じていたが、今朝は今まで史上最高規模のウザさだった。


「王よ!『転生者殺し』殿をお連れ致したぞ!!!」


 額に脂汗を浮かべながらクバ副団長は王に報告…というか自画自賛するかの様に大声で吠える。

 …成る程、どうやら私を探して連れてこいとでも王から直々に言い渡されたのであろう。どうりでこの男が張り切る訳だ。


「うむ、ご苦労であった。下がるがよい」


 だが、これでコイツともおさらば──


「いえ!今は我が国存亡に関わる一大事!!この国を守護する騎士団の副団長として是非是非この会議に参加いたす所存!!!!」


 …何言ってるのこの人?


「…それもそうか。ではクバ騎士副団長もこの会議に参加する事を許す」


 …王が許す以上、私は何も言えない。

 …でも少し恨みますよ。


「さて本題に入ろう。いや、君が招集された時点で大体の事は察しているだろうが」

「…転生者ですね」


 王はコクリと頷く。

 そしてそれを合図とするかの様に大臣が説明を引き継いだ。


「今回の転生者はエルフを含んだ、原住民と混成で数名でパーティを組んでいるとの報告が上がっている」

「悲しいことだ…転生者如きの魅了に対抗しきれないとは…」


 わざとらしい反応ご苦労です。


「そして彼等はこの首都に歩みを進めている。目的は…どうやら君らしい」


 王は指で私を指す。


「私ですと?!」

「いやシンの事だ」


 普通、指差す方向で分からない…?

 今明らかに私の方差してたよね…?


「この手の手合はよくいるが、今回は原住民との混成、しかもエルフもいると聞き及んでいる…戦力的にも過去最大級の転生者だ。気を付けたまえ」

「了解です」

「では我々騎士団も『転生者殺し』殿の為に動くとしよう!!!」


 隣が喧しすぎて肝心な事を今の今まで聞き忘れていたので質問する。


「…何故私を狙うのでしょうか?」

「そこまでは情報を掴んでいない。君を仲間にしたいのか、それとも他の転生者達の仇打ちか…」

「成る程」


 兎にも角にも行動しなければ始まらないということは分かった。

 故に。


「この任務、慎んでお受けいたします」


 ✳︎


 話し合いから僅か一時間半後、私は準備を手早く整え、副団長含む数名の騎士団員と共に王城から馬を走らせ、出発した。


「それにしてもあの『転生者殺し』殿と肩を並べて馬を走らせることが出来るとは、なんたる名誉!!」

「静かにしてください。気付かれたらどうするんですか」


 …やはりコイツを置いて出発するべきだったか。

 まぁ、そんなこんなで馬を街道沿いに走らせること2時間。

 最後に転生者一行が目撃された地域に私たちは足を踏み入れた。

 異変は、すぐに分かった。


「…なんだアレは」

「恐らく転生者達がやったのでしょう」


 ついこの前の任務で通りかかった時にはなかった、巨大な畑と建物、そして何より


「あの赤い機械は…?」

「畑を、耕しているのか?」

「しかも人が乗っているぞ?!」


 騎士団員達も思わず声を漏らす。

 どうやら転生者達は案の定、厄介なことをしでかしてくれたらしい。


「あの機械、もしや兵器としても」

「使えるでしょうね。量産されたらひとたまりも無い…という訳ではありませんが、厄介です」


 ぶるぉぶるぉぶるぉぶるぉと奇怪な音を出しながら畑を耕す機械と、それを操る農民達。

 きっとアレは非常に役立つ物なのであろう。しかし、それはこの先、我々自身の努力と技術によって手に入れるべきモノだ。


 歪んだ技術の進歩は新たなる惨劇を生むのみということは、よく理解していた。


「ではまずは」

「ええ、この機械を破壊させていただきましょう。この村の農民達には記憶消去魔法をかける様に」

『了解!!!』


 それぞれ村全体に散らばり馬を走らせ、記憶消去と機械の破壊のついでに転生者達の情報を集めるのも目的だ。


「…で、貴方はなんで私の側にいるのです?」

「何、レディを守護するのがナイトの務め故の事。気にする必要はありません」


 ……ノーコメントで。


「…そろそろ気付きなよ」

「何がです…かッ?!」


 強引に物陰に引きずり込まれる。


「なに…をッ…!」

「Haッ!あの『転生者殺し』と言えど所詮は女の子かよ。蚊トンボみてぇな腕力だなオイオイ??」


 こいつも転生者とグル…!?


「おっと、転生者とグルってわけじゃねーぜオレはよぉ。純粋にお前が欲しいだけの男さ」


 読心魔法…!

 さっさと脱出しないと「拘束魔法ォ!」


「さぁーて、縛られてる好きな女の子がぁ、人目につかない物陰にぃ、俺と二人っきりってことは〜〜〜〜???」


 …こんなに不愉快な血の気の引き方は初めて…クバ…!


「お前の不快指数なんてどーっでもいいのよ。俺は最高に愉快痛快で爽快な思いをこれからするんだからなッッッ!!!!!!」


 …まぁ、最悪処女を失ったところで死ぬ訳でもない。

 そもそもコイツは私の命を狙ってすらいない。

 ただ、一番不味いのは「おいお前」


「あ?…コホン。なんだね青年?」

「…その子を離せよ」


 …あぁ、やはりか。


 ヤツらは自らの利益となる事に出くわす幸運だけは強いから、まさかとは思っていたけど。


「おいおいおいおい一般庶民如きが騎士副団長である私にーー」

「…『ファイナリー・ストライク』!!!!!!」


 それはほんの刹那の出来事。

 …青年の両腕が光り輝き、クバの腹に鎧を貫通してめり込んだのは微かに視認できた。


「おっ…ごっ…」

「加減はさておいたぜ。暫く眠ってろ」


 崩れ落ちるクバ。

 しかし、念には念を入れていたのか私の拘束魔法は解除されない。

 さて、どうしたものか。


「おい、アンタ大丈夫…」


 転生者の風貌は出発直前に渡された覚書と完全に一致していた。

 黒髪、黒眼の17〜8歳といったところだろう。


「あんた、もしかして…『転生者殺し』か?」


 バレている。

 そして彼の手に先程の様に光がともる。

 …なんだこのロクでもない終わり方は。

 いや、そもそも私の人生は大抵ロクでもなかった。

 ならばこの終わり方も妥当なモノなのではないのだろうか。


(ごめんね)


 今まで出会った人々を思い出す。

 シラキさん、マシュワさん、そして


『君はもっと幸せになってもいいんだよ』


 温かな思い出を沢山作ってくれた、彼。


 転生者の腕が振り下ろされる。

 そういえば。この転生者の名前、まだ手配書にすら載ってなかったっけ──。




 ガキン!!!!


 耳障りな音が鼓膜を震わせる。


「かってぇぇぇぇ!!!!」


 ついでに耳障りな声も。


(…やっぱり)


 まぁ、一応覚悟的なのは決めてたけどこうなるよね。


 転生者の特性その5。

 ──極一部を除いて基本的にお人好し。


「あ、アンタ大丈夫か?」


 なんでこうも転生者は、愚かなのか。



「『The cheat』」



 私の純潔の恩人は、私を救って十数秒のうちに生き絶えた。


 ✳︎


「すまなかった!!!!!!!!!!!!!!!!」

「い、いえマシュワさんが謝るような事では…」


 マシュワさんはどうやら他の転生者案件にあたっていたらしく、私からことの顛末を聞き終わるやいなやその場に即座に土下座をかましたのだった。


「それに他の団員さんは転生者の仲間達を捕らえてくれましたし、その他諸々の後処理も、しっかりしてくれましたし…」

「…すまない」


 自分の見込んだ若者の失態があまりにもショックだったのか、この後一ヶ月は私は彼と顔を合わせるたびに土下座をかまされることになったのだった。



「とまぁ、そんな事があったりしました」

「まぁアンタが無事で良かったよ私ゃ」


 いつも通りシラキさんの所で任務後の食事を終え、きちんと薬を飲んで、今宵も今宵で店で四人で語らう。


「はい。相手が典型的な『全能型』だったのも命拾いした点ですね…正直かなり危なかったです」

「その副団長はどうなったんスか?」

「資格も地位も剥奪されて、地方で色々働いてるらしいです。後任の方はマシュワさんが前回より時間をかけてゆっくり決めるそうです…あ、このテーブル拭き終わりましたシラキさん」


 布巾をシラキさんに渡し、いつものテーブル席に座る。


「じゃあ安心だなぁ〜〜シンちゃんの純潔が奪われていたらおじさん悲しくて悲しくて…」

「あーもうなんでアンタが泣いてるんだい!!シンちゃんが一番泣きたいでしょうに!!」

「や、別に私は…」

「シンちゃん…いつでも俺たちに頼ってくださいっスよ…!」


 なんか、その、私が二人を泣かせたみたいな空気になってしまった。


「ところで、例の『全能型』っていうのはどんな能力なんだい?」

「あ、それ俺も気になるっス」

「おじさんもおじさんも!」

「全くゲンキンな奴らだねアンタ達は!」

「えーっとですね、分かりやすく言うと、人の形をした神様です」


 全能型とは読んで字の如く、さながら全能の神の如き力を発揮する転生者。

 無尽蔵の魔力、未知の技術、異常なまでの特殊能力。

 転生者が元より持っている力を全て最大限まで増幅したような存在だ。

 最近では特化型と入れ替わる形で減少傾向にあるが、それでも一定数存在している。


「なんだそりゃあ…絶対に勝てねーじゃんかよぅ」

「正攻法ではまず勝ち目は無いですね。なにせ戦闘技術がなくても連中はごり押しで勝てちゃいますから。彼ら一人で国一つなら余裕で滅ぼせますし、なんなら乗取ることもできます」

「おーこわ…そうならないように頼らせてもらうっスよシンちゃん!」

「さっきの『頼ってくれ』ってセリフはどうしたんだい!!」

「人間頼られてばかりじゃ生きていけねーよ女将ィ」

「ハッ、よく言うよアル厨共!!」


 ✳︎


 空も白みだした頃にシラキさんの店を出てから少し歩いた所で、ふと寄らなければいけない場所を思い出した。

 ルートを変えてその方向へと歩みを進める。

 数分歩いて、そこに着いた。そこは一見巨大な刑務所の様な場所。しかしあくまで一見であって、正確には刑務所ではない。

 正門を開き、通路を歩き、階段を登る。

 そして、大広間へと通じる渡り廊下で目の前に人影が現れた。(悪い事をしてる訳ではないのだけれど)咄嗟に警戒した私を宥めるようにその人影が


「おはよう、シン」


 と声を掛けてきた。


「うん、おはようサーファ」


 サーファ・シス。私の数少ない同年代、同性の友人。

 彼女はこの寮の様な施設で皆のまとめ役をしている。


「この前の任務、その…大変だったらしいわね?」


 なんでちょっと笑ってるのサーファ。

 抗議する様な視線で私が見ていることに気付くと、彼女は申し訳なさそうな顔をして


「そうね、不謹慎だったわね……でもね、貴女を副団長さんが仮に…してたら、貴女どうしてた?」


 ……そんなの決まってる。


「どさくさ紛れに」

「始末してる」


 流石我が友人、私の言おうとしていたことを完璧に当ててきた。

 ……私ってそんなに暴力的なイメージあったんだ……


「でも貴女は結果的に何事もなく平和に終わって良かったわね…こっちはもうてんてこ舞いよ」

「…やっぱり?」

「まぁエルフの入居者が来るとよくある事なんだけどね。彼女達は特に転生者への依存が強いのよ」


 そう。この寮の様な施設は、転生者の魅了だったり、カリスマに当てられてしまった人々が社会復帰を果たすための施設、通称『現実生還場』。

「異世界転生の反対語とはとても思えないわ」とはサーファの談。


「でも今回は幸いにも転生者にひどい事をされた子は居ないみたいで安心したわ」

「この前は酷かったからね…催眠ってその気になればあんな事が出来るなんて思いもしなかった」

「やめて!あの事件の記録見てからは暫く男性不信になったのよ!!」


 心底ドン引きした顔で嫌そうな顔をしている辺り、あの事件はサーファにとってはかなりショックだった様だ。

 でも、そんな事があっても彼女はこの仕事を続けている。


「……強いね、サーファは」


 ポツリと、呟いた。

 でもサーファは


「強くなんかないわ。目の前にやるべき事がある。だからそれをただやるだけなのよ」


 私が思っていたより、もっと強かった。


 ✳︎


「着いたわ。ここがこの前の事件の被害者の部屋よ」


 私の眼前にあったのは何重にも様々な種類の結界の術式が刻み込まれたドアだった。

 それは主に、室内にいる者の魔法の行使を封印するための術式が多くを占めていた。


「じゃあ、開けるわね」


 ドアが開いた瞬間、殺気が溢れ出た。


「…貴女が、転生者殺しね…!」


 そこにいたのは、金髪、碧眼、特徴的な尖った耳。

 エルフ。しかも今の魔法を見る辺り、かなりのやり手であろう。


「えぇ。その通り」

「ふん、人間風情に絆された私を笑いに来ましたか。存分に笑いなさい。貴女のその首がまだ付いているうちに!!」


 エルフ達は転生者の特性を知りながらも彼らの仲間になる者もいるというのは聞いていたけど、ここまでとは……


「…ねぇ、聞いて欲しいの」

「去りなさい。コウタ以外の人間と語らうことなど何もないのですから」


 生憎こっちも語らう気は無い。

 聞かせればいいだけ。


「確かに、転生者であった彼は貴女が見たこともない世界、モノ、事柄を教えてくれたでしょう」

「彼を転生者だなんて呼ばないで!!彼の名はコウタ!!!彼にも名があるの!!!」


 語らう気は無いが反論する気はあるらしい。

 転生者の魅了、おそるべしというかなんというか。

 …でも、少し分かってしまう。

 今の私は。


『もっと自分の名を大切にしないとダメだよ、シン』


「…うん。わかってるよ」

「シン?」


 サーファに返事の代わりに微笑みを返し、改めてエルフに向き合う。


「…貴女、名前は?」

「…聞かずとも知っているだろう」

「貴女の口から聞きたいの」

「…我が名は【この世界の人間には認識不可のため省略】」

「【省略】、貴女の一族の本来の役割を思い出して」

「……貴女も私に役割を押し付けるのですか」

「押し付けるわ。容赦も躊躇も無く。役割から逃れていいのは民が納得する理由あってこそだから」


 じっと彼女を見つめる。

 その瞳の奥には不安と覚悟、二つの感情が混ざりあっていた。


「貴女はコウタという転生者、ただ一人の人間のために貴女の一族が受け継いできた『自然の守護者』という役割のここで閉ざしてしまうの?」

「……」


 彼女は沈黙する。

 ……最後に、彼女も一番よく分かっているであろう事をぶつける。


「家族をこのまま裏切り続けるの?」

「……初めてだったんです」


 今にも消えそうなか細い声で、今にも泣きそうな顔で彼女は話し出した。


「初めて、他者(だれか)に恋したんです。愚かな事をしてるのも、これが、転生者の能力である事も、頭では分かっていたんです…でも、止められなかった…」


 ぺたんと座り込む彼女。

 かける言葉はたった一つ。

 転生者が死して、なお苦しめられている彼女を即座に解放するのは


「『The cheat』」


 まさに、この一言のズルだった。


 ✳︎


「前から思っていたのだけど」

「どうしたのサーファ?」


 最後にまた正門まで見送りに来てくれたサーファがポツリと私に問うた。


「貴女の能力をすぐに使えば、あの魅了は解けるのでしょう?何故わざわざ手間を掛けて対話するの?」

「……『敵を知れば百戦危うからず』って答えじゃダメかな?」


 私のその答えにサーファはクスリと笑い


「いいと思うわ。貴女らしくて、とても」


 そう満足げに言い放った。


 ✳︎


 転生者。

 この世界の調和を乱す、悪。


『初めてだったんです……』


 彼女のセリフが頭の中でループする。

 つきん、と胸の奥が痛んだ。

 私もこの能力が無かったら、転生者に恋をしていたのだろうか。

 それはきっと幸せな事だろう。何者にも縛られることなく世界を股にかけ、多くの友を、仲間を得て、全てに逆らうのは。


 けれど、転生者はあくまで部外者に過ぎない。

 この世界に土足で上がり込み、自らの欲求のままに荒らし尽くす災害だ。


 奴隷の少女が転生者に解放されたことにより、労働力が足りなくなって潰れた商社があった。


 転生者がもたらしたオーパーテクノロジーにより、伝統的な工芸品とその技術が失われた里があった。


 周囲の生態系を鑑みずに転生者が巨龍を倒した影響で、その巨龍の恩恵を受けていた生物達が多く死にたい絶えた森があった。


 ……災害は阻止されねばならない。


「……よし」


 私は部屋から飛び出す。

 今日はまだ王から命令はくだってはいないけれど、少しでも早く、多くの転生者達を消すために。


 皆の日常を、守る為に。

某ダイアーさんのセリフを言いたくてたまらないあらすじと作品紹介を書き上げたyamatoです。


昨夜にふっとこの作品のアイデアを思いつきまして、風呂に入りながら軽くストーリーを練って書き上げた浅漬け的なさっぱり?とした作品。

場面転換に困って✳︎連打しましたが、悪しからず。

あと好評なら続編とか書いてみようかなーとか。

一日、しかも数時間で一万文字も人間って書けるものなんですね、すげぇ。


インフィニティ・ワールド?何のことやら〜。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 脳筋騎士団長好き………… 登場シーンから滅茶苦茶気に入ってしまった…………
2019/09/04 19:20 退会済み
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