第1話 神さまの部屋
「ん……ここ…どこ?」
普段の散らかった部屋とは正反対の真っ白で何もなく、どれ位の広さなのかも分からないその空間で、俺は平然とそんな疑問を抱いていた。
「よぉまさと!ようこそなのじゃ!」
陽気な声と共に現れたのは、派手なハーフパンツにアロハシャツ、サングラスをかけた70歳くらいの老人だった。
「亀……仙人?」
「なんじゃその仙人とやらは! わしはえっちぃな本なぞに興味はないぞ!」
絶対知ってんじゃん……と心の中でツッコミをいれつつ疑問に思っている事を聞いてみた。
「あのー。ここどこですか?」
「異世界じゃ!お主、【転移の扉】を通って来たじゃろ」
( 確かに〝ゲームの中〟で使ったけど……っ!まさか、異世界転生?)
「転生とはちと違うな。お主は死んどらんしな。この場合は転移かのぉ。チャハハ!」
「て、転移なら、元の世界には帰れるんですよね?」
心の声を聞かれた事よりも、ここが、現実世界じゃないと言われた俺は、焦ったように質問した。
「まぁまぁ、その辺も含めて説明しようかのぉ」
そこに座れと言わんばかりに、ちゃぶ台と座布団が置かれていた。いつのまに……
「神さまじゃからな!これぐらい簡単じゃわ!」
チャハハ!と笑いながら〝自称〟神さまは座布団にドカッと座った。
「自称とは失礼な!まぁええわ。座れぃ」
と茶菓子まで出してきた。
「それで、なんで僕は転移されたんですか?」
俺は当然の疑問を素直にぶつけた。
「まぁあれじゃ。お主がゲームだと思っておった世界は実際に存在する世界じゃ!そこでお主が面白い町づくりをしておったもんでな。何というかまぁ、呼んだのじゃ!」
ボリボリと煎餅を食べながら、非常に迷惑な事を簡単に言ってくれた。
「ちょっと待って下さい!学校とか家族とかどうなるんですか!」
死んで転生ではないにしろ、元の世界に帰れないなんてたまったもんじゃない。
「まぁ待て待て。そうじゃなぁ本来はダメなんじゃろうが……」
うーんと悩んでいたが、こんな提案をしてきた。
要約するとこうだ。
【以下「まさとがいた世界」を「現実世界」に
「ゲームの世界」を「異世界」に統制】
・ 異世界と現実世界は行き帰り可能
・ 異世界にいる時は現実世界が、現実世界にいる
時は異世界の時間が停止
・ 現実世界の物は異世界に持ち込み可、逆はダメ
「他に聞きたいことがあればその都度聞いてくれ!あと現実世界から帰ってくる時はお土産を頼むぞ!えっちぃな本でも構わんぞ!チャハハ!」
だから異世界にのみ持ち込み可なのか。エロじじぃめ……「あっ!」
心が読まれている事を忘れていたまさとはハッとして神さまを見たが既に遅かった……
顔を真っ赤に染めてプルプルと怒っている。
「す、すみません…」
静かに俯いて謝るしかなかった。
「まぁええわい。ほんで…他に希望はあるか?」
少し怒っていたようだがさすが神さま。仕事はちゃんとしているようだ。
「アイテムや装備はどうやって入手するんですか?
はっきり言って戦闘はちょっと自信がないです!」
俺は自信満々に言い放った。
通常、武器やアイテムはストーリーをクリアして手に入れたり、モンスターを倒して手に入れた素材から作るのが普通だ。
体育の授業以外でしか運動をした事がないまさとにとって、戦闘など無謀でしかなかった。
「その辺は大丈夫じゃ!レベルやステータスは他の者よりも上がりやすく設定してある。装備やアイテムなんかもそれで楽勝じゃろ!」
「うーん。それでも自信がないのでもっと簡単に手に入れる方法とかありませんか?」
体力に自信のない俺はそれだけでは不安があったのだ。
「仕方ないのぉ。ゲームでは【ガチャ】と言うものがあったじゃろ!それでこの世界のものを入手出来るようにしてやろう」
俯く俺を見かねた神さまは、仕方なくガチャスキルを追加してくれた。
「もっとワシを信用してほしいんじゃがのぉ。
まぁええわい。じゃが、このガチャスキルを乱用して戦闘を怠ってもらっても困るしの。レベルが上がった時、それから良い行いをした時にその度合いに応じてガチャを引けるポイントをやろう。それでええか?」
「はい!十分です!」
まさか異世界でガチャが出来るなんて思ってもいなかった俺は、先程までの不安など忘れ、元気に返事をした。
「では、困ったことがあれば呼ぶんじゃぞ!お土産も忘れずに頼むぞ!じゃあの!」
チャハハ!と笑う神さまの声がだんだん遠くなり、俺はまた意識を失った。