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七の世界は謎だらけ

本来この話は前部分と同時に投稿する予定でしたが予約投稿で先延ばしにした日時が短く別々の投稿になってしまったのですよー!!

勇芽ちゃんがわたしとマガリを置いてカタリーナプロデューサーなる人物を呼びにいった。


それにしてもここは妙な感じだ。

一見何の変哲もない普通の教室に見えるがなにかが変な気がした。

空気が重いというか、生暖かいというか、目が疲れるような不思議な感覚がした。


マガリさんは無言で歩きだした。


音がない場所でカツンカツンと響くマガリさんの足音はいいようがない程不気味だった。

ハザマは魑魅魍魎が住まう人外魔境。そんな昨晩の仮説が信憑性を増した。


だが改めて考えれば、瞬間移動や時間停止、父さんの酔いを醒ましなどマガリさんも大概、人の領域を越えていた。


マガリさんは教室の窓を開けるとマントからスプレー缶を取り出してスプレーを自分にふりかけた。スプレーの煙でマガリさんの全身が包まれた。

無言でプシュってするマガリさんには少し怖さがあった。


マガリさんは単に寡黙なのか、それとも話すのが苦手なのかどっちなのだろうか。


「なにやってるの?」

わたしは出来うる限り純粋な眼でマガリさんに問いかけた。


マガリさんは窓から身を乗り出して校庭におりた。

ちなみにここは一階だ。



わたしはマガリさんの態度を不思議に思いつつもマガリさんを追いかけた。



開いた窓に両手を乗せたらマガリさんがスプレーをわたしにかけた。


「えっ、なに!?」

スプレーで視界がふさがれて一瞬だけパニックになってしまったわたし。


「マガリさん何したの?」


「撥水スプレーをツカったのサ」

マガリさんはそう言うとわたしから離れていった。


なんだそれと思いつつ、窓から校庭におりようとした。

具体的にいうと窓枠に乗せた両手に全体重をかけて左足を窓枠に乗せて右足を外に出して腰を窓枠に乗せてから地面に降りようとした。


耳に違和感を感じたと思ったら肩がなにかにぶつかってバランスを崩した。


「げはっ」

バランスを崩したところで首の辺りに何か固い板なものを思いっきりぶつけた。


首がなにか板みたいなのに固定された。

首だけじゃない両手もだ。


わたしはなにか板みたいなのに身動きを封じられた。


とりあえず、首に体重ををかけ続けていたら気道が止まり最悪死に至るかもしれないと思ったので両手に体重をかけて気道を確保した。


板は冷たかった。


マガリさんが振り向くと大慌てでわたしに駆け寄ってくれた。


マガリさんはなにか軟膏みたいなのをマントの下から取り出してわたしを押さえつけているなにかに塗ってくれたみたいだ。


すると軟膏みたいなのを塗った辺りがベロベロのフニャフニャになり鋭利さは消えた。手が自由になった。


マガリさんがわたしの首元のなにかをぶよぶよさせて広げてくれた。

わたしも両手を使ってなにかをめいっぱい広げた。


なにか板みたいなのはガラスの窓みたいだった。


開いていたはずの窓がいつの間にか閉まって、どうにかしてわたしの首と手の部分だけ穴が開いた窓にはめ込んだということなのだろうか。


そんな疑念を抱きながらフニャフニャになって空いたスペースから身を乗り出して校庭に降り立った。


フニャフニャになった窓を見つめて、こんなことはありえるのか?見間違いじゃないのか?と今更ながら疑い目をこすってもう一度見た。すると何の変哲もない窓に戻っていた。


「どういうこと」

私はそう言いながら窓に手をやった。

 

窓は濡れていたがわたしの手までなぜか濡れることはなかった。


首の痛みがいきなりぶり返した。ヒューヒューと変な呼吸をしてしまう。


マガリさんがわたしの首に手をかざした。

するとマガリさんの手がパーって光って首がビビリビって一瞬痛んだら痛みは止んで普通に息ができるようになった。


グラウンドは雨でも降っていたのかぐちゃぐちゃだ。実際空は曇っている。


校庭では空中に謎の半透明の点々が静止していた。


校庭に浮いていた点々に触れると点々は弾け飛んだ。


「マガリさん、これはなに?」


「どうやらアマツブみたいダ」


雨粒にしては空中に制止してるし、こんなに弾け飛ぶこれは雨粒なのだろうか。


ここで一つの推論ができた。

濡れて風邪でも引いたら大変だからとマガリさんは撥水スプレーをわたしにかけたのだろうというものだ。単純に濡れた服が気持ち悪いのもあるだろうけども。窓に触れても濡れなかったのは撥水スプレーのおかげかもしれない。


「ありがとうマガリさん」


あと、マガリさんはやっぱり不器用で口下手みたいだ。


「ナニがだ?Ms.高槻」


振り向いたマガリさんを見たらば胸がすごいキュンとした。


あと、わたしも大概不器用で口下手なのかもしれない。


つまりわたしとマガリさんは運命で結ばれているのかもしれない。


まずいまずい。こんな乙女心に身を任せた思考を続けていると、またハザマみたいにマガリさんと離ればなれになってしまう。


乙女心とは正反対の魂を持たねばならない。


乙女の対義語といえばおばあちゃんだ。


おばあちゃん心、すなわち老婆心で乙女心を相殺するんだ。


ただ実際問題、お節介で乙女心の暴走を止められるわけがない。



そんなたわけたことを考えていたらマガリさん黙ってどっかスタスタ行っちゃった。

足場の悪さを少しも感じさせない足取りだ。



わたしはまたよく分からない場所に一人置いていかれた。


でも、なぜだか昨晩ほどの不安はなかった。


せっかくの異世界だというのに勇芽ちゃん以外の人に会わないままハザマに戻ってしまったのが残念だ。


ならばせめてここで別な世界の人と出会えばいいじゃないかとシンキングをポジティブに合わせた。

この世界、水が空中に浮いている以外はわたしの世界と変わらないけれど。


そう考えてわたしは走り出した。


でも靴を汚したくないのでとりあえず校門を探して校外に出て一刻も速くアスファルトの上に行きたい。


まあ日本の学校なんてたいして構造は変わらないだろう。


校舎に沿って右側に移動する。

なんだか気分がすこぶる良いのでスキップしてみる。


わたしは今最高に楽しい。


それが少し不思議だった。


水が浮いていて、それに触ると弾かれて、世界にひとりぼっちで。だから目に映る全てはわたしが支配しているみたいなのが気持ち良いのだろうか。


スキップとかはしたないって気兼ねしてたいたけれど、スキップしている楽しそうな級友たちは前からうらやましかった。


そんなことを考えていたら校門を発見した。


校門は開いていて外には紫の車が停車していた。


とりあえず門を出てなんとなく振り返った。


この学校は『此糸高等学校』というらしい。


知らない学校だな。というかなんて読むんだろう。

シイト、コレイト、シシ、コレト、シト、どれもしっくりこない。



まあいい。そう気持ちを切り替えてあたりを見まわした。


すると紫の停車中の車の運転席に人が乗っていた。

なぜかその人は停車しているのにもかかわらずハンドルを握っていた。


不思議に思い紫の車に近づいて彼を観察する。


だが、彼は微動だにしていなかった。

寝ているのかとも考えたが目は見開いていた。


車のフロントに体が触れた瞬間。腰が膝が足が人生史上最大の痛みを受けた。


視界が変わる。世界が回る。いや、回っているのはわたしだ。

わたしはあの車に撥ねられてしまったのか。


でも、車は動いていなかったし、初速度も大したことないだろう。


ああ、地面が逆さに見える。


わたし、死んだかな。


不思議と後悔はないと眼をつぶった。


腰と肩に軽い衝撃がした。

なにか冷えた柔らかい物にぶつかったみたいだ。


「ねえ、世界は救われた?」

優しくそして怯えた声が上の方から聞こえた。


目を開けた。わたしは仰向けになっていた。


「私は『■■』。運命はまだ決していない」

わたしは『■■』を名乗る頭の上に二等辺直角三角型みたいな銀と黒の(ふち)のピンクのなにかを二つ乗せた銀髪の女の人にお姫様だっこされているようだ。『■■』の■で■■だ■が縦■なのが目を引いた。


『■■』はわたしを地面に置いた。


「呪うは己。望むは力。贄は存在。今ここにナステを行う!!」

『■■』は淡く銀に輝いた。『■■』の顔の皮がめくれた。めくれた下の顔には口も目も鼻も眉もなくのっぺらぼうみたいに平らだった。

『■■』はどんな名前だっただろうか。彼女の名前を思い出せない。そして彼女の目や口がなくなったことに驚いたはずなのに彼女のさっきまでの顔を思い出せない。さっき彼女のなにに目を引かれたのか思い出せない。


猫被り(キャットフード)。私の全てをあなたに託す」


彼女がそう言うと頭が重くなった。



マガリさんが右から放たれた青白い光に包まれた。

マガリさんが誰かの頭になにかを思いっきり打ち付けた。

マガリさんが数十人いた。


そんな三つのバラバラななにかが見えた。


でも、幻だったみたいだ。


今のわたしの目の前には彼女もマガリさんもいない。

あるのはさっきの動かない紫の車と変わり映えのしない日本の景色と空中に静止する雨粒だけ。


耳や頭の上に違和感があるので触ったら温かった。

毛が生えているようだ。


なんだろう、この頭をすっぽり覆う毛皮は?

外せた。どうやらフードみたいだ。


わたしはいつの間に毛皮のフードを付けていたのだろう。

それにしても、ここは妙な場所だ。


雨粒が浮いているし、窓が勝手に閉まるし、止まっているはずの車に触れたら吹っ飛ばされるし、名前も思い出せないよくわからないのっぺらぼうに会ったと思ったらフードがついているし、もうパニックで頭がうまく働かない。

とりあえずフードを下した。


「今、この世界はどうなっているの?」


「本当にどうなってるんだろう」

わたしはどこかから聞こえた声に何気なく答えた。


「この暗闇はなに?」

暗闇とはなにを言っているのだろう。というか声の主は誰だ。

わたしの隣にさっきののっぺらぼうさんに似てるけどどこか違う気がする女の人がいた。

もちろん目は二つ鼻は一つ口は一つ、耳は……四つ?彼女を見てのっぺらぼうさんにも生えていた二等辺直角三角形みたいなのが猫の耳になっているのにいまさら気が付いた。彼女はキョロキョロ辺りを見回していた。


そして彼女はわたしの頭をヌデってなでるとなにやら満足そうな顔を浮かべた。


「なるほどね。私は未来(ミライ)っていうんだ。大体理解したから。答えられることなら何でも答え……」


世界が暗転した。


未来ちゃんも闇の中に消えた。

「未来ちゃん?どこに行ったの?ねえ、ここはどこ?異界テント?どうして……」


わたしは辺りを見回しながらそう言った。

言いながらまるでこの暗さが異界テントの中みたいだと気が付いた。


「彼女が真弓よ」

勇芽がわたしの後ろにいつの間にか立っていた。

勇芽ちゃんは出会った時からずっと付けていたゴーグルを目から外しておでこにつけていた。


「勇芽ちゃん。未来ちゃんをどこにやったの?どうしてこんなふうになっちゃったの?ねえ、教えて」

わたしは不安で不安で勇芽ちゃんに詰め寄った。


「細かい話はマガリと合流した後」

勇芽は冷たくそう言って黒の中を歩きはじめた。

後ろに二人、あどけなさの残るわたしと同じくらいの年の女の人と落ち着いた風貌で年上の女の人を引き連れている。


「あはは、勇芽ってば冷たいよね。あたしミーヨン。そしてこの方はカタリーナさん」


「ミーヨンさん?カタリーナさん?あっ、はいわたしは高槻真弓です」

あどけない方はミーヨンさん、落ち着いた方はカタリーナさんというらしい。

なぜか、カタリーナさんにはどこかで会った気がした。


振り向いて立ち止る勇芽ちゃん。

「真弓、もしマガリに恋をしているのならやめた方がいいわ」


勇芽ちゃんがわたしの目をじっと見ながらそんな事を言った。なんといえばいいのだろうか勇芽ちゃんの眼圧が強い。

でも、それよりもわたしがマガリさんに恋してると言われたことがショックだった。


「な、なに言ってるの!」

わたしは反射的に上ずった声で答えた。


「マガリは人造人間よ。普通の人間との恋路が上手くいくとは思えない」


マガリさんが人造人間だという情報に戸惑い、わたしは茫然として立ち止ってしまった。


「人造人間か、ハザマってそういう人多いよね。特に旅人」


「そういう人を受け入れるのがハザマの存在意義だからな」

ミーヨンさんとカタリーナさんの言葉はぐるぐる回って頭の中に入らなかった。

体が揺れた。


「ちょっと、マガリ。なんで真弓を置いてふらふらしてんのよ!」

真弓ちゃんが怒った口調でそう言った。


マガリさんがいるのか、そう思って目を開けた。


「真弓、カタリーナさん下がっていてください」

ミーヨンさんがわたしの前に出て右手を横に出した。

なにかと思って辺りを見回した。相も変わらず周りは異界テントだ。奥に真弓ちゃんとマガリさんがいてわたしとの間にミーヨンさんが立っている。後ろにいるカタリーナさんがわたしを台車に乗せている。


とりあえずわたしは台車から降りた。カタリーナさんがここまで運んでくれたのだろう。


「ミーヨン、そいつがマガリだ。バータじゃないから安心していい」

カタリーナさんがそんな事を言った。


「うぇっ、はぁはぁはぁ」

急に勇芽ちゃんの息遣いが荒くなった。


それとほぼ同時に辺りが異界テントから暗い水槽が左右にある廊下に変わった。


水槽の中には何かが一定の間隔を置いて入っていた。


赤と白の人形はまるで人みたいなシルエットだったが赤と白のツートンカラーだから人形だと最初は思った。


だがどうしても眼を引くので注視した。


ここでわたしは気が付いてしまった。


マガリさんが人造人間とか謎のフードとか、未来ちゃんのこととかどうでもよくなるぐらい背筋が凍ることに。


この水槽の中にいっぱいある人みたいなものは筋肉が露出した人体だ。


「はぁはぁはぁ、ドェゲボラァ、グッフェ」

勇芽ちゃんがゲロ吐いた。




「私は『■■』。運命はまだ決していない」


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原案橋本洋一
コラボ企画進行中
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