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十六の世界でカコの過去

すいません、更新開きました


吉備太郎と竹姫クロスオーバー編の始まりです!

界穴の中は不思議な感覚がする。

距離や時間が歪んでいるみたいで目に映る物は勇芽ちゃん、カコちゃん、マガリさん、わたし以外の全てが一瞬たりとも止まらずニジさんの服みたいに色が(うごめ)いていた。


しばらくすると磯の香りが漂ってきた。

同時にザパーン、ザパーンと波が沿岸を打ち付ける音が聞こえてきた。


見渡す限り一面の海が美しかった。


ただ、砂浜に朽ちた船が五隻打ち付けられていたのだが、その装いが不気味なほどに似すぎていた。


『何らかの方法で複製されたものです』

サンキュー、ヘスティアさん。


物を複製する技術とはなんだろう。


『複製。オリジナルと同一の存在を生成する技術の総称です』

パソコンのコピー&ペーストみたいなものだろうか。


『はい』

サンキュー、ヘスティアさん。


「廃墟なのだ」

カコちゃんの声がしたので振り返ると寂れて草が生い茂る村があった。家屋は木造、道は荒れ放題で人の気配はない。


「酷いな」

勇芽ちゃんはボロボロの家屋を撫でながら言った。

その部分には鋭利な刃傷が付いていた。


「なんらかのシュウゲキをウけてカイメツしたということかい?」


「少なくとも人がいなくなってから三年は経っている。財産は手つかずで死体がないという事は……」

勇芽ちゃんがおっかなさそうに言った。


「人喰いか」

マガリさんが眉間(みけん)(しわ)を寄せながら言いました。


『人喰い。人を常食する存在の総称』

サンキュー、ヘスティアさん。

この世界に人喰いがいるとしたら怖い。


『大規模データ集積装置ハーデスにこの世界を過去に訪れた異世界人の記録を発見しました』


ハーデスとは確かヘスティアの弟だったはずだ。


『この世界には人を喰い、この世界の戦士の百倍の力を持つ鬼と呼ばれる種族がいたようです』


ヘスティアさんが角を生やした大男が金棒や刀などで武装して陣を作っている光景をわたしの視界に映した。


『その鬼と互角以上に戦い壊滅まで追い込んだ戦士がいたようです』


その陣に四人の男が相対していた。


二本の刀を持つ不気味に顔が歪んだ男が恐るべき速度で鬼の陣に突撃した。鬼の陣の中に赤い血がドバーって流れて幻想的な光景が出来上がる。その血が出たところが彼のいたところなのだろうか。だとすれば強すぎないか。


犬飼(いぬかい) (たける)

彼は犬飼 健というらしい。


そんな彼に追従する男がいた。その男は鬼を拳でなぎ倒しているようだ。鬼の持つ金棒を殴りつけて金棒を鬼の頭部に当てて倒すのを見てわたしの常識の狭さを感じた。なぜなら、その金棒が凹んでいたからだ。


楽々(ささ) 森彦(もりひこ)

彼は楽々 森彦というらしい。


そして後ろから矢を飛ばし的確に鬼を射る不満げそうな男がいた。動きが淡々としすぎていてまるでロボットのようだと感じた。


(とめ) 玉臣(たまおみ)

彼は留 玉臣というらしい。


最後に残された男に鬼が襲い掛かるも吹っ飛ばされた。


何が起こったかわからない。


『当時の主人公で御上の養子の桃太郎』

彼は桃太郎というらしい。


視界が普通に戻った。サンキュー、ヘスティアさん。

鬼がいて桃太郎がいて、村が一つ壊滅したりするだなんてまるで残酷な御伽話みたいな世界だ。



というか、この世界の人たちってこんなに強いのだろうか。だとすればもし敵対したとして勇芽ちゃんやマガリさんが太刀打ちできるのか不安になった。



「あの鬼とやらがこのムラをオソったのか?」


「あのデータはかなり古いし、その世界の問題に私たちがあまりに介入するのも褒められたものじゃないし、とりあえず主人公を捜しましょう」


勇芽ちゃんはマガリさんにそう言うといつの間にか右手にペットボトル大の何かを持っていた。


『人工衛星ゼウス』

サンキュー、ヘスティアさん。ゼウスはセンさんの居場所を探るのにも使った覚えがある。


「ファイア」

勇芽ちゃんがそう言うと手に持っていたゼウスが煙を噴いて辺り一面が真っ白になった。

ちょっと酸素が薄くなってゲホゲホと咳き込んだ。


「解析完了まで後三分ってとこだね」

煙が晴れた。勇芽ちゃんはアレスの兜を着けていた。


「ねえ、この世界であの人たちや船を複製できるぐらい強い人と戦うことになったらどうにかできる?」

わたしは不安を口にした。ビームや人工衛星がいくらあったって牛になれたからってあんな訳の分からない力を持った人とどうこう出来るのか知りたかった。どうにも出来ないのなら出来ないで知りたかった。


「異世界に絶対はない。だけど今の私ならマガリや真弓ぐらい守れるよ」


「ワガハイもいるのだ。万が一そんな事態になっても真弓は心配無用なのだ」

なんだろう。勇芽ちゃんやカコちゃんに大丈夫だと言われているのに胸が痛い。

なにか悪いことをみんなにしているみたいな理由の分からない罪悪感。


思春期って嫌だな。こういう感覚に向き合って世の人は大人になるらしいが、わたしはあと何年かかるか想像もつかない。


「イガイとヒマだな」

マガリさんがそう言った。


少しは気もまぎれるかもと、前から薄々気になっていたカコちゃんの話を聞いてみよう。


「ねえ、カコちゃん。カコちゃんの世界ってどうしてああなったの?」


「真弓」

カコちゃんはあぐらをかいてわたしに手のひらを向けた。


わたしは正座した。


「ワガハイは昔、未来という名前で別段得意なこともない女の子だったのだ」


「やっぱり記憶が残ってるのね」

勇芽ちゃんがカコちゃんになぜか苦々しげな表情で言った。アレスの兜は外されていた。


「学校に友達はいなかったが不思議と寂しくはなかった。しかしある日猫、兎、蛇の精霊に出会い世界を救って欲しいと言われたのだ」


「精霊達曰く正直人間のことはどうでもいいのだけれども自分の種族が絶滅するのは嫌だそうだ。そして精霊は人間の力を借りることで真の力を発揮できるので未来達に協力を求めたのだ」


「未来達?」

何気ない複数形が妙に気になった。


「たぶん、隣に二人いたが細かくは忘れたのだ」


忘れたとはどういうことだろう。


「精霊達が邪悪な気配を感じたというので現場へ向かうと漆黒に染まった人が二人でパチンコの店の中でお金を配ってたのだ。まず未来達は女子中学生がパチンコ店に入っていいものか悩んだのだが精霊達の変身すればセーフという甘言に乗り未来達はパチンコ店に乗り込んだのだ」


ここまで話してカコちゃんはうつむいて考え込んだ。


「ここから先は動画でお楽しみくださいなのだ」


そう言うとカコちゃんは人差し指と親指を直角にして両手で長方形を作って広げた。


そこに映像が映った。

その映像にはいつもどおり猫をあしらった服装のカコちゃんに加え兎と蛇の扮装をした人が二人いた。カコちゃんは当たり前だけど狭間の6で出会った未来ちゃんと同じ顔だった。兎と蛇の二人は目や鼻がないのっぺらぼうだった。


「何をしているの?」

兎の人が言った。


「チイウシュは困っている人にお金を配っているだけ。何も悪いことはしてない」

異彩を放つちっちゃい女の子が言った。

彼女は全身が黒かった。


「ああ、シクナの言うとおり困っている人にお金を配っているだけだ。返せとも言わない。良心的だろ?」

そして彼女の異彩に張り合う全身が黒い男が画面の中で言った。

わたしはなぜだか彼の姿に既視感を覚えた。

おそらく男がチイウシュで少女がシクナだろう。


「騙されないで」

チイウシュの下からナイフを持ったネズミの扮装をしたのっぺらぼうの女の子がそんなことを言って出てきた。


「そのお金はどこから出てきたか考えなさい。十中八九盗んだ金よ」

ねずみの人はチイウシュに掌底を当てて吹っ飛ばしながら言った。


チイウシュは窓ガラスを割って道路まで吹っ飛んだ。


「なんて酷い。チイウシュはただみんなのお金が欲しいって思いからお金を作っていただけなのに」

シクナがそんなことを言った。


「この外道が!!」

ネズミの人の全身が炎に包まれてシクナに飛びかかった。


「なにがあったか知らないけどこんな事をしていい理由にはならない」

兎の人が餅とかを突くのに使う杵を持ってネズミの人とシクナの間に入った。


「これ以上邪魔をするなら殺す。そいつらはハイパーインフレを引き起こそうとしている」

ネズミの人が言った。


ここでわたしはチイウシュとシクナがどれだけ大変な事態を起こそうとしているか思い知った。


「ハイパーインフレって何?」

兎の人が目も耳もないのに真顔で言った。


「大規模金融恐慌」

カコちゃ……じゃなかった、未来ちゃんが言った。


「だからハイパーインフレって何なのよ?」

兎の人は理解できないようだ。


「インフレを越えたインフレ。確かにこのままじゃ円の価値が暴落して世界規模で影響が出てしまう」

蛇の人が言った


「その通り、こんな紙っきれを欲しがる人の欲望が結果的に価値を貶め世界の崩壊に繋がるのって面白くない?」

シクナは思わず殴りたくなるほど純粋な笑みを浮かべて言った。


「技一」

ネズミの人から灰色の何かが飛び出てシクナに当たった。


「こんなの、えーい」

シクナに付いている灰色の何かは黄色がかった灰色の何かに変わり消えた。


「今から全力を試す。今は私の時間だ」

彼女がそう言うとネズミの扮装が竜の扮装に変わった。


『解析結果が出ました。約120㎞先の場所に主人公を確認しました』

サンキュー、ヘスティアさん。


カコちゃんが手を前に組むと映像が途切れた。


『画像を出します』

ヘスティアさんが衛星写真を見せてくれた。


あれっ、これって日本じゃないの。現在地は徳島県の海辺で、主人公がいるのは高知県のようだ。お城があって、その周りに町があった。この町に主人公がいるのか。


約120㎞か、まあどれぐらいかかるかな。でも、瞬間移動ならすぐだろうな。


「来なさい」

勇芽ちゃんがそう言うとどこからともなく戦闘機が出現した。


「じゃあ、行くよ。真弓、マガリ、カコ。あっ、これ二人乗りだった。カコは猫被り(キャットフード)で良いとしても一人乗れないや。帰って」


戦闘機が消えた。


「じゃあ、久しぶりにこっちか」

勇芽ちゃんが一人で納得すると勇芽ちゃんのすぐ後ろに高さ10mほどの大きな白い楕円形の何かが出てきた。


「これはスケとニジが暇つぶしに作った浮煙(ウキケムリ)を利用した気球なんだけど、これで行こう」

勇芽ちゃんはそう言って気球の中に入って行った。


気球の中は白一色で楕円の広い空間があった。

八つほどある白い椅子の一つに勇芽ちゃんが座っていたのでわたしも腰をかけた。


みんなが座ると床が透けた。


『地上の映像を投影しています』

サンキュー、ヘスティアさん。


熱気球はぐんぐん上昇していった。


「ワガハイの話の続きをしちゃうのだ、勇芽にはつらい話かもしれないが」

カコちゃんがまた右手と左手の間に映像を映しだした。


「ワタシはゼカラクサ。ワタシのヌナが世話になったね。じゃあ幸せに死ね」

ゼカラクサと名乗る女も黒かった。


「私はナナウトカ。私の下僕達、行きなさい」

ナナウトカと名乗る女も黒かった。


たくさんの人が兎の人たちに襲いかかった。ざっと二十人はいた。


「ああ、そいつらね。不死身なの」

そう言うナナウトカがどうにも憎たらしかった。


「惑わされるな。致死量の痛みを与えれば死ぬし。精霊の力を持ってすればダメージが通る」

斧を持った牛の扮装をした目も鼻も口もある男が狐、兎、蛇、ネズミの扮装をしたのっぺらぼうを奮いたてた。


「ああ、その手があったか。残酷すぎて思いつかなかったな」

ゼカラクサが(あざけ)った。


「はははっ、確かにこいつらはコピー元と感覚を共有しているしコピー元が死ねばこいつらは消える。だけど無顧の一般市民を傷つけることになるのよ」

ナナウトカも嘲った。


この黒い奴らは見てるだけでむかっ腹が立つ。危険だ。


「でもっ、餅兎(フェイト)引白兎(インパクト)

兎の人はそう叫びながら襲ってきた人たちを白い何かで拘束した。


「石化蛇弾」

蛇の人が蛇みたいなものを複数発射した。当たった人は石になった。


「あははははっ、こいつらはね腕がないとか足がないとかそういう特徴を持っていたの」

「でね、治してあげるって言ってちょっと奇跡を見せたらホイホイついてきたの」

「で私がそいつの分身を作り」

「ワタシの液で満たした水槽に本体を入れて分身を本体だって思わせて」

「分身に私が襲うよう指示する」

「「素敵だよね」」

ナナウトカとゼカラクサが代わる代わる話す。胸の奥から何かがこみ上げて見ているのが辛いのに目が離せない。


「ふざけんなよ。そんなにしてまで人の思いを踏みにじって楽しいのかよ。この世界の、いや全ての世界に生きる人に謝りやがれ」

狐の人がそう言いながらゼカラクサに向かって扇子を(あお)いだ。


扇子の風を受けたゼカラクサとナナウトカは凍りついた。


無雲(ムーン)引白兎(インパクト)

その氷を兎の人が杵で割った。


「廻れウロボロス」

蛇の人が二匹の蛇を出した。その蛇は互いの尾を喰らい合っていた。それはまさに破壊と再生の象徴であるウロボロスだった。

ウロボロスは狐の人が作り兎の人が割った氷を再生させた。


砂卯惨怒(サウザンド)引白兎(インパクト)

兎の人がウロボロスの再生に合わせて杵で氷を砕き続けた。


地味だけど何気に操られた人を一人で牛の人が止めているのも地味だがすごい。


「封・印」

狐の人が破壊と再生を続ける氷にお札を張り付けた。


氷はゼカラクサとナナウトカごとお札に吸い込まれた。


「ふぅー、砂卯惨怒(サウザンド)美紅(ビック)無雲(ムーン)蹴兎(シュート)


兎の人が杵から出した赤い何かに絡めとられて操られた人たちは動きを止めた。


「勝ったのか?」

牛の人がいぶかしげに言った。


青い鳥が狐の人が手に持っていたお札を奪っていった。


「マジかよ」

狐の人が目も鼻もない顔を青くした。


「石化蛇」「駄目だ、■■。あの紙に衝撃を与えたら封印が解けてしまう。だから俺が行くんだ」

狐の人の狐の扮装がカラに変わって青い鳥を追って飛んでいった。


「到着したみたい」

勇芽ちゃんが言った。


カコちゃんが映像を止めた。


ここで終わりか。もうちょっと見たかったな。


勇芽ちゃんがお札をかざすと服装が黒いマントから淡い蒼い着物に変わった。


頭にはかんざしを履き物は下駄のまま。顔には薄い白の化粧を唇には紅をしていた。


「どう、お姫様みたいでしょ」


うーんと、どちらかというと花魁かな?


「さあ、イこうか」

マガリさんに促されるままにわたしたちは気球を降りた。


猫被り(キャッツフード)

わたしにカコちゃんが取り憑いた。


城下町には当然だけど関所があってわたしたちみたいな異世界人を簡単には通してくれなさそうだ。


「セキショはマカせろ」

マガリさんがそう言うと関所の人が動きを止めた。


おそらく父さんの動きを止めたのと同じ技だよね。


というわけでわたしたちはノーチェックで関所を通ることが出来た。


でもこの町並みはどこかで見たような気がした。


「認識阻害の技をかけたから私たちの姿は目立たなくなってる」

勇芽ちゃんが言った。


なら衣装を変えた意味がないような。


「主人公のハンノウがあのタテモノのムこうからデている」

マガリさんはそう言ってお城を指さした。


「じゃあ飛ぶよ」

勇芽ちゃんがそう言うとわたしの体が軽くなった。

「これ以上邪魔をするなら殺す。そいつらはハイパーインフレを引き起こそうとしている」

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原案橋本洋一
コラボ企画進行中
吉備太郎と竹姫はこちらから
コラボ作品募集中!
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