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麗しき500万円分のジャンク  作者: 村崎羯諦
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 衛星の墜落を告げられたブレーブス社代表取締役の反応は、大方の予想を裏切り、迅速かつ的確なものだった。


 取締役は手早く衛星の状況、すなわち落下地点、及びタイムリミットを聞き出すやいなや、その危機回避のための行動をすぐさま実行した。彼はまずあまりの不測の出来事にうろたえる衛星会社に対し、行政、警察への連絡を命じるとともに(本来ならば、ブレーブス社より先にそれら機関への報告を行うべきだが、衛星打ち上げ担当会社は頭の足りなさゆえにそのような常識的な行動を取っていなかった)、自身の個人的なツテを使って、この有事に対応できるような人物へのコンタクトを図った。


 この一連の話の中で最も幸運なことは、彼は警察庁の中で、地方警察組織を顎と指先で右へ左へと動かすことのできる地位にいる人物と旧知の仲であり、なおかつ彼に電話をつなぐことに成功したことだった。ちなみに二番目に幸運なことは、取締役がその警察官僚の連絡先を知っており、なおかつ、ほら吹き野郎だと思われない程度の信頼を予め勝ち得ていたことだった。


 連絡を受けた警察官僚は、電話越しに伝えられた国の一大有事に対し、初めは何の危機感も、いや感想すらも抱かなかった。それだけ、この一連の事態は奇怪であったし、なにより、官僚組織にとっての天敵ともいえる、前例のないものだった。


 それでも、彼は一般人以上に明晰な頭脳と経験に裏打ちされた第六感を有していた。そのため、電話越しに聞こえる荒々しい呼吸から、何らかの危機を察知し、半信半疑のままではあるが、破格とも言えるような誠実さをもって事件の詳細を聞き出した。


 そして、この時点で具体的な状況をトップレベルの人間が把握できていたことが、後に奇跡とも崇められる救出劇のキーポイントとなった。なぜなら、後に衛星打ち上げ会社から行政に伝えられた情報はあまりに分裂的であり、断片的であったため、それらから正確な状況を読み取るためには、数千パーツのジグソーパズルを完成させることと同じだけの時間がかかったであろうからだ。


 ちょうど電話をつないでいるその間、彼を含む多くの行政組織に属する人間に対し、一斉に緊急事態を告げる伝言が届けられた。すなわち、一足先に衛星落下の報を受けた上部組織が、事の重大さを認識し、その危機回避のために動くことのできる組織、自衛隊と警察への協力を要請したのだ。もちろん平時であれば、いくら伝達が早かろうが、贅肉で肥えた組織はなかなか動くことができない。


 しかし、今回ばかりは違った。事前に事の詳細を誰よりも正確に理解しており、なおかつ、その重大さを認識するに足るだけの頭脳を備えた人間がいたからだ。彼は電話をつなげたまま、すぐさま部下を呼び出し、落下予想地点を管轄する警察署への伝達を命じた。通常であれば、だれが警察署に連絡をするかをめぐり三往復ほどの書面のやり取りが求められるであろうが、そのような正式な手続きをとっている暇もなかった。


 そして、この一報を受け取った署長もまた、同じだけの有能さを発揮し、秘書にスケジューリングを依頼し、とりあえず記憶と会議を行おうという暗愚な行動を取ることなく、トップダウン形式ですぐさま自らの手足に取るべき行動を指示した。もちろん、通常であれば、その連絡を受け取ってすぐに実行に移すことは難しい。


 これは誰がやるかを互いを牽制しながら意思決定しなければならないという意味ではなく、現場となる場所への物理的距離、及び送るべき人員の確保という問題が存在するからだった。しかし、今回の場合は、幸か不幸かそのことはまったくもって問題とならなかった。なぜか。それは、その落下予想地点にはすでに、警察官が配備されており、なおかつその中の一人が無断でトイレに行けるだけの人的余裕があったからだ。

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