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麗しき500万円分のジャンク  作者: 村崎羯諦
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 銀行強盗の現場はすでに多くの野次馬、マスコミ関係者で祭りのようににぎわっており、その興奮を鎮めようと、署から派遣された先鋭部隊が悪戦苦闘していた。


 このような重大事件の場合、当時の警察署規則では、派出所勤務の警官は署からの直接の要請がなされない限りは通常任務を優先するよう義務付けられていた。つまり、一人だけを残し、単なる好奇心から現場へとやってきた浜井らの行動は決して褒められるものではなかったし、規則違反には厳しい処分が下される可能性もあった。


 しかし、それはあくまで建て前として規則に過ぎず、猫の手も借りたいほどに切羽詰まっていた現場職員らは、のこのことやってきた同僚の姿を見るやいなや、大声で彼らを呼び寄せ、助太刀を依頼した。浜井らは野次馬をかき分けながら黄色い立ち入り禁止テープの中へと入り込み、すでに現場入りしていた仲間から簡単に銀行強盗の状況について教えてもらった。銀行強盗犯及び人質の人数などは移動中にネットから得たものとさして変わらなかったものの、立てこもり犯が人質解放の見返りとして逃走用の車を要求していることが新たに判明した。


「それにしても、逃走用の車なんてなぁ。一昔前のドラマじゃあるまいし、たとえそれを手に入れたとしても、絶対に逃げ切るはずないんだがな」


 浜井ら交番メンバーの中で、最も勤務歴が長いベテランがぽつりとつぶやく。このような感想はそのベテランだけでなく、現場で対応に追われていた警官や、話を聞いたばかりの他のメンバーの頭にも浮かんだ素朴な疑問だった。


 ほこりのように地球の周りに漂う人工衛星の存在を考慮した場合、車という手段ではどのような場所へ逃げても、あるいはどれほどのスピードで逃げても、GPS情報によって一秒もしないうちに犯人らの位置は特定できる。ハッキングを仕掛けるにはあまりに多くの人工衛星が飛んでいるし、またGPS信号を遮断できる脱法車を警察が気を聞かせて用意してくれるはずもない。


 そもそも現代のような監視社会において、大衆に注目されるような犯罪を起こしてしまった時点でほぼ確実に逃げ切ることはできないはずなのだ。だからこそ、このような計画的な立てこもり事件などは極めてまれにしか発生せず、また逆に、それゆえに銀行強盗への予防対策に隙が生まれ、事件がここまでこじれてしまったとも言える。


「車を用意しろというのはあくまでフェイクで、犯人は他の逃走手段を用意してるんじゃないですかね?」

「いやいや、たとえそうだとしてもずっと逃げ切るなんて不可能だ。やつらもそれくらいわかるはずだし、結局は目立ちたいだけの愉快犯なんだよ」

「そんな馬鹿な。何のために人質をとって立てこもったりしてるんだよ」


 浜井の同僚が嬉々として議論を交わす横で、浜井はただ一人、犯人らが立てこもる銀行を食い入るように見つめていた。


 現場となっている銀行は、誰もが知る大手銀行の支部であり、窓一面にはCMに起用されている若手女優の大きなポスターが張られていた。ポスターの表面での彼女は、口角をあげ、何かを指し示すように人差し指を立てていた。清純さを思わせる若手女優の表情は、裏側で起きているあまりにも破廉恥で醜い所業とあまりに対照的であり、そこには世界に溢れるあらゆる矛盾が透けて見えたような気がした。


 ポスターが張られた窓と銀行の入り口はシャッターとブラインドで覆われており、外から中の様子をうかがい知ることはできない。それでも浜井は、自分の中に沸き立つ正義感を周りに知らしめるためなのか、ただじっと険しい表情で犯行現場を鋭い眼光で睨み付けていた。そうすることで、中にいる犯人の行動をいくらか押し止めることができるのではないだろうか。浜井はいつもの空想癖に浸りながら、ぼんやりとそのようなことを考えてしまう。

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