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麗しき500万円分のジャンク  作者: 村崎羯諦
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 この話を踏まえたうえで、当該事件におけるブレーブス株式会社の行動を見てみよう。


 ブレーブス社は大手IT会社の下請けを担う小規模な企業で、世間にもあまりその名を知られているとは決して言えないような会社だった。しかし、その揺るぎなき事実を憂いたのか、当時の代表取締役の一人が会社のアイデンティティの足しになればと、会社名を冠した人工衛星の打ち上げをほぼ独断で決定した。


 直属上司の機嫌を損ねるわけにもいかず、命令を受けた部下は限られた予算という厳しい制約のもと、何とか上司の歓心を買おうと奔走し、結果、奇跡的に当時の相場以下である三万ドル(およそ五百万)で、人工衛星の打ち上げを実現して見せた。三万ドルを切るリーズナブルな人工衛星はブレーブス01号と命名され、社員総出で見守る中、綺麗な単線の軌道を描きながら大気圏外へと飛んでいった。流行に流された短絡的なイベントではあったものの、その打ち上げの一部始終は社員一同に深い感慨を与えた。発起人の取締役と打ち上げを実現させた部下は熱い抱擁を交わし、その後社員全員で記念写真を撮った。この写真は仰々しい額縁に入れられ、今なお社長室の壁に飾られている。


 その麗しき打ち上げ式は銀行強盗事件の五年前に行われた。そしてその五年という長い月日は、三万ドル程度で打ち上げられた粗悪な人工衛星の、極めて破滅的な欠陥の発現には十分な時間だった。


 浜井が事件の存在を知るちょうど一時間前、ブレーブス社の受付にある電話がかかってきた。電話の主は、五年前に人工衛星の打ち上げを請け負った会社からであり、緊急事態のため一刻も早くトップと電話をつないで欲しいという内容だった。


 その声色は裏返り、緊急事態に対する尋常ならざる焦りが電話越しに伝わってくる。しかし、電話を取った受付嬢はその文字通りの緊急事態に対して鈍感であった。その理由としては、まず第一にあまりに相手の様子がただならぬものであったがために、かえってその焦りがインチキ臭いもののように感じられたこと、そして第二に、当受付嬢は昨年入社したばかりの新人で、会社が五年前に打ち上げた人工衛星の存在など全く持って不知であったことが考えられるであろう。


 何はともあれ、彼女はいつものように悠々とした口調で応対し、研修で教えられたとおりの手順通りに電話を取り次ぐことにした。彼女は細かく定められたマニュアルの通りハキハキと、そして聞き取りやすいようにゆっくりとした速度でしばらくお待ちくださいと告げ、手元のタブレットで電話相手の名前と現在の時刻を入力し、まずは代表取締役の秘書へと取り次いだ。このようなもどかしい対応に、電話主は少なくとも抗議の声を上げるべきであったのだろうが、いかんせん会社にとってもあまりに非日常的な緊急事態であったがたまに、健全で落ち着いた判断等ができなくなっていたのだろう。


 電話をかけた担当者はただ何も言わず、受付嬢と取締役秘書の半ば儀礼的な応対に従い続け、結局、ブレーブス社トップに電話がつながったのは、最初に電話が鳴ってから二十分経過した後であった。


「もしもし」


 代表取締役が初めに発した言葉はそのような言葉だった。緊急事態という用件にもかかわらず悠長に受付から秘書を経由してつながれた電話に対し、なんだかんだ言って大した話ではないのだろうと彼は高をくくっていた。


 しかし、彼のそのような楽観的思考は、電話越しに伝えられた情報によってあっけなく崩れ去ってしまう。電話に出た時点では、健康的な赤みを帯びていた彼の顔は、見る見るうちに不健康な青色へと変わり、眼鏡の奥にある小豆ほどの瞳孔はピスタチオほどの大きさへと開ききった。受話器を握る手を震わせながら、彼は告げられた情報を繰り返し確認する。


「君はつまり……うちの人工衛星が制御不能の状態のまま、地球に落下し始めていると言っているのかい?」


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