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さて、これほどの影響を後にもたらすことになる犯行グループの行動に対し、熱い正義感を胸に秘める浜井景勝がポジティブな感情を抱くはずがなく、彼は同僚の話を興味なさげに聞くふりをしながら、内心では嫌悪と憎悪の情を高ぶらせていた。浜井はそれが根拠のない噂話であることを忘れ、ただただ普段のルーティン化された職務では感じたことのない熱気を押さえることに必死だった。
彼は車窓から外を眺ながら、頭の中で凌辱される女性銀行員を想像した。すると、意図せぬうちに彼の局部が若干熱を帯び始める。偏屈な倫理観に縛られている浜井はそれが被害者への著しい冒涜であるかのように感じてしまい、慌てて銀行強盗犯への憎しみを思い出すことで自らを戒める。それから次に、自分がその現場に乗り込み、銀行強盗をお縄にかけ、その後警察署長やマスコミから賞賛されるという妄想へと次第に耽っていく。
妄想は映画の予告編のように断片的に流れていく。糊のきいた制服を着た浜井は恭しく首を垂れながら表彰状を受け取るシーン。飲み会の場で同僚と後輩から羨望のまなざしで見つめられるシーン。妄想の中では、普段は強大な超自我によって抑圧された彼のイドが優位となり、神経質で緘黙な彼とは対照的なまた別の浜井が鼻下を伸ばしたままむさぼるようにその賞賛を漁っていた。
このような浜井の妄想は常習的なものであり、時代錯誤な規範による神経病の発症を防ぐ、彼の防衛機制の一つだった。だからこそ彼はこの妄想がそれ自体として卑しいものと認識しながら、心の安定のためという大義のもと、必要とする時には何の抵抗もないまま受け入れていた。
事件現場へと向かう車の中、浜井は泥の中へと沈んでいくような心地で、ただ静かに妄想に自らのすべてを委ねる。そして、妄想が同じシーンを繰り返し始めた頃、車は静かに止まった。そして、運転席に座る浜井の同僚がシートベルトを外しながらつぶやく。
「おい、到着したぞ」




