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麗しき500万円分のジャンク  作者: 村崎羯諦
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 浜井景勝は今から二十八年前、地球-日本区-九州中部で誕生した。


 彼が生まれ育った場所は都市部から離れた山間部であり、当時wi-fiすら整備されていない田舎であった。幼少期の家族構成は母親、父親、父方の祖母であり、兄弟はいない。その中でも祖母は、共働きである父親と母親に代わって浜井の育児を一手に担い、彼の人格形成に大きな影響を残した。


 彼女はもはや時代錯誤となりつつある、保守的な復古主義者であり、若干合理性を欠いたしつけを浜井に施すとともに、自分には理解できない電子機器全般を彼から遠ざけることを自分の教育のモットーとした。都市部の同級生がおしゃぶりの代わりにコンピューターマウスをあてがわれていた一方で、浜井は幸か不幸かはわからないが、有機的な物体や生き物とともに時間を過ごすことになった。すなわち彼は自然の中で人格を発達させていくことになり、時代とは逆行するローカルでセンチメンタルな幼少期を過ごしたと言えるだろう。


 結果として浜井は、神経質でありながら部分的に頑固という性格とともに、現代において最低限の教養とされている電子工学への潜在的な嫌悪と恐れを形成した。もちろん人間の多様性という崩しがたい理念が今なお根強く世界を覆っているはいるが、やはり彼のそうした側面は時代とは相いれない、「不利」な産物ではある。


 実際に彼は高等教育課程での電子工学に関連する単位の取得に苦労し、そのことから彼の将来への可能性が狭まってしまった。さらにその劣等意識が彼の電子工学への負の感情を増幅させ、社会構造によって狭められた選択を今度は自分の手で絞りをかけることになった。彼が自らの職業として選択した警察官という仕事も、結局は他の職業に比べ、相対的に電子工学が重要視されていなかったという点を見逃してはいけないだろう。


 ここでひとまず述べておきたいことは以下の点である。


 まず第一に浜井景勝が高校卒業後、警察官という職業に就任し、現在は王子第三派出所勤務の巡査長であるということ。電子工学への苦手意識から消極的に選択されたものではあったが、警察官という職は質実剛健な浜井との相性がすこぶるよく、特に直属の上司から浜井は可愛がってもらっていた。また人柄の良い同僚にも恵まれ、浜井は仕事という側面においてはこれ以上にないほど充実した日々を送っている。


 第二には、浜井は社会人となった後でさえも、電子工学、および技術発展がもたらした前時代的道徳の退廃への嫌悪感を抱き続けているということ。デジタルネイティブ世代である同僚が、職務や日々の生活において時代適合的な選択を好む一方で、浜井は同僚にからかわれながらも、祖母の教えを遵守し、自らの考え方を改めようとしなかった。もちろん定められた規律を蔑ろにすることはなかったものの、同僚が全自動運転システムが搭載された車で悠々自適に巡察を行う一方で、浜井はハンドルとアクセルから手と足を離そうとしなかったし、またアダルト動画やアダルトVRで自らを慰める同僚の横で、浜井はもはや文献的価値しか残されていないポルノ雑誌による、由緒正しい手淫を行うのだった。浜井のそうした諸行為は時代不適合であることは事実だが、そこまで信念を持って行われた場合、ちょっとした説得力さえ帯び始めるのだから不思議だ。同僚や上司もしまいには嘲笑や嘲りを止め、そういうものなのだと受け入れるに至ったことが何よりの証拠であろう。


 そして、第三に、これが最も重要なのだが、浜井はその生育環境が影響したのか、かなりの夢想家で、かつセンチメンタルな性格であった。彼は、寝る前のちょっとした時間に、自分を主人公とした痛々しい空想に耽ることを習慣としていた。また、彼はちょっとしたことでも感動し、また胸を痛めたりするので、毎月コップ一杯分の涙を流すという、現代の成人男性では珍しいタフネスではない性格の持ち主だった。これは後の事件とも関係してくるため、しっかりと頭に刻み込んでおいてほしい。

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