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麗しき500万円分のジャンク  作者: 村崎羯諦
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 上層部から衛星落下の報を受けた現場の混乱っぷりは筆舌に尽くしがたい。


 タイムリミットが刻一刻と迫る中、銀行強盗退治を理由に駆り出された警察官諸君は、必死に周辺現場からの市民の避難に徹しなければならなくなった。現場と隣接した建物群から人をつまみ出し、強盗見学に集まった野次馬の尻をけ飛ばす。事件後、一人の婦警に太ももを強く蹴られたと言って、国家賠償請求訴訟を起こした者もいたが、やはり国家権力の権化ともいえる組織相手に、大衆たちは意外にもおとなしく従った。これは衛星落下という出来事があまりに現実離れなものだったからだろう。多くの市民は所持している携帯端末などを通じ、衛星と日常的につながってはいるものの、銀行強盗よりもずっと彼らにとって縁遠いもののように感じられていたのだろう。


 さて、周辺住民、及び野次馬の問題は片付いたとして、厄介な問題が一つ残されていた。それはもちろん、銀行に立てこもった強盗犯と人質たちだ。人権、人道の問題に目をつぶれば、銀行強盗犯がそのまま避難できず、衛星の下敷きになってしまっても、警察組織が市民から厳しい弾劾を受けるとは考えられなかった。しかし、銀行の中では無辜の民が外の事情を知らずに恐怖におびえていた。これを必要悪として切り捨ててしまうことは、やはり正義というものに背いてしまう。そのため、彼らも何とかして避難を行わせようと試みなければならなかった。


 ちなみに、銀行強盗犯は外の事情、すなわち衛星落下のニュースを知ってはいた。


 知ってはいたというのは、銀行強盗を始め、彼らがそれを全く持って信じていなかったからだ。これは、彼らが非現実的な危機に対応できるだけの脳のキャパシティを有してなかったからではなく、その事実を報じていたのが、何を隠そう、銀行強盗犯の最大の天敵である警察組織だったからだ。


 当たり前といえば、当たり前だが、その当り前によってこれほど面倒な事態が起こると誰が想像できただろうか。衛星落下の報は、落下予測地点に存在するすべての情報端末に届けられていた。そのため、銀行強盗犯が所持していた携帯情報端末にも当然、その連絡自体は届けられた。しかし、その送り主は警察であり、たった今、彼らはその巨大権力に抗っている最中だった。


 加えて、試しに外に出、散歩途中の人間にこの真偽を訪ねてみることはできなかった。なぜか。それは彼らが銀行強盗だったからだ。そのような事情が重なり合い、彼らはその通知を、警察の謀略だと考えずにいられなかった。つまり、衛星が落下すると嘘をつき、自分たちを銀行の外へおびき出そうとしているのだろう。こんな子供だましで誘うい出そうとするなんで、なめられたものだ。こうなったら、絶対に負けてたまるもんか。彼らは一層警察へのヘイトを強め、ますます彼らは立てこもり続行の決意を揺るぎないものにした。


 だからこそ、外にいる警察官が、親切にも衛星落下の事実を大声で叫び、捕まえないから出ておいでと平時においては到底信じられないような言葉で避難を呼びかけたことに対しても、犯人らは頑なに警官の言葉に耳を閉ざし、ますます、狭く鬱々とした銀行内へと閉じこもってしまうのだった。そして、彼らの反応は、警察官にこれ以上の説得は不可能だということを思い知らせ、結果として、これ以上の説得は行われず、自身の身の安全のため、一斉に現場から遠く離れた場所へ余一時避行うに至らしめた。


 彼らの行動を誰が非難できるだろうか。一見すると、人質の切り捨てと見なされかねない行動は、実際問題として、銀行強盗犯からの救出が不可能であった以上、極めて合理的かつ、被害を最小限を抑える最良な手段だったのだ。

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