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夕焼けに躍り出る強者達

最初に確認しなければならない事があった。

俺が勇者と思われている事について、だ。

心当たりは全く無く、何の力も無い。

ついでに言えば記憶も無い。

ようやく起き上がる事が出来ただけの男だ。

しかしその件については俺以外の誰もまともに取り合おうとはしなかった。

何も出来なくても構わない位の勢いがあった。

オルソは怪力自慢の戦士で重たい武器なら何でも使いこなせるらしい。

バルデュールはエストックの達人でどんな相手も確実に突き刺せると言う。

シャーロッテは祓魔師と言い攻撃から回復までお手の物だと言う話だ。

レフレッシは四大属性の魔法を行使出来る攻撃系魔法のエキスパートだそうだ。

リナルドは弓矢の扱いに長け、トラップや計略でどんな敵でも翻弄するとの事。

「俺が居なくても問題無いだろ、何と戦うのか知らんけど頑張ってくれ」

片手を挙げ踵を返した俺をフォルカーが必死に引き止める。

「お待ち下さい、貴方様の力添えが無ければ夢を掴むより困難なのです」

何だかよく分からんが、聞けば聞くほど血生臭くなっていく話に俺の理解力は付いて行くのを諦めた。

「お宅らが強いのは解ったよ、何の為に何と戦って、何で俺がそれに加担しなきゃならんのか、そこを説明してくれ」

説明は丁寧を極めた。

主にオルソの横槍で長話になったが、要約するとこうだ。

25年に一度魔王が復活する。

そして、時を同じくして勇者が転生する。

魔王の力は絶大で世界中に手先となる魔物を次々と送り出してくる。

自分達は勇者をいち早く捜し出し世界を魔物、しいては魔王の手から救う事を先祖代々続けている一族である事。

魔王は悪魔の血筋の者で、神の力を宿した勇者だけが対抗出来る事。

神の力を宿した勇者が魔物を倒すと魔物の持つ力を吸収出来る事。

そして勇者をサポートするべく、その時代に最も優れた力を持つ者がお供として選抜されると言う事。

そして、フォルカーが俺に手渡したのは、先代の勇者が所有していたと言うひと振りの剣だった。

何故だが分からないが、適当な木の棒でも持たされて魔王を倒して来いと言われると思っていた為、かなり面食らってしまった。

まあ、普通に考えれば断るわな、そんなもん。

剣はズッシリと重く、鞘から抜くまでもなく、それが恐ろしい程の業物だと知れた。

「抜いても大丈夫なのか?これは」

爆発したり、周囲が蒸発したりしないか心配になったが

「どうぞ、御確認下され」

フォルカーがあっさりと認めたので、拍子抜けしながら鞘から抜き放ってみた。

それは、銀色に輝く美しい刀身だった。

真っ直ぐに延びた両刃の剣で長さは60cm程、巾は5cm程度。

見た目から想像するよりかなり重い。

そして感じるのは、やはりただの剣では無いと言う事だ。

磨きぬかれた曇りの無い刀身に映るのは目付きの悪い男の姿だった。

刀身に映った俺の像と映っていない部分の境が今にも切り裂かれるのでは無いかという不安が押し寄せてくる。

それ程の迫力があった。

鞘に戻す時もうっかり自分の手を切ってしまわない様に慎重に慎重を重ねた。

剣を鞘に戻すまでの間、呼吸をする事も忘れていた気がする。

ふぅ。

大きくひとつ息を吐いた。

こいつを振り回すのか。

細かな装飾が施された柄は充分な長さがあり、両手で扱う事も出来そうだった。

しかしこの剣、どこかで見た事がある様な気がしていた。

「試し斬りしてみようぜ」

オルソが物騒な事を言い出した。

「あなた達の力も見せて貰いたいものね」

レフレッシがオルソに向かって挑発的な笑みを浮かべる。

「姉ちゃんの魔法とやらもまだ信用してる訳じゃ無いんだけどな」

オルソも不敵な笑みを浮かべながら挑発にのってみせる。

「親子喧嘩はやめろよ」

リナルドの呟きに

「誰が親子喧嘩だ」

「誰が親子よ」

初対面のようではあるが中々息が合っている。

シャーロッテがクスクス笑っている。

「悪くないメンバーになりそうだな」

静かに見守っていたバルデュールもニヤリと笑うとグラスに注がれた琥珀色の液体を優雅に飲み干した。


まず、状況を整理したい。

フォルカーの家、と思っていたが、俺がここ3日間お世話になっていたこの建物は教会だった。

かなりの規模で、礼拝堂は100人入っても全く窮屈ではない。

ちょっとした運動会だって出来るだろう。

そして、広い調理場や食堂、狭いが俺も寝泊まりしたような部屋が50以上。

食糧庫や武器庫をも備えており屋外から見たこの建物は、俺が最初に抱いたボロ屋のイメージとは天と地ほどの差があった。

100人以上で槍の訓練をしても良いだろう。

広い屋外訓練場も備えていた。

俺が部屋から眺めていた原っぱやちょっとした林もあり、それ等全てが高くて頑丈な塀と堀で囲まれていた。

それは直径1km程度あり、本格的な城塞のようだった。

塀の出入り口は東と西に2ヶ所あり、それぞれ立派な扉と跳ね上げ式の橋が架かっており通常は開いているらしい。

そう、通常は。

塀の上から見える夕焼けに映える美しい堀に架かる橋は、外界の全てを拒絶するかの様に跳ね上げられ、扉は堅く閉ざされていた。

この村の住人は全てこの教会に集められているそうだ。

フォルカーはこうなる事を予見していたようだ。

「こりゃ腕が鳴るぜ」

オルソはさっきから嬉しそうにニヤニヤしている。

「今回僕は応援に徹するよ」

リナルドはあくび交じりに宣言した。

「私も今回は後方支援します」

シャーロッテも退屈そうに呟いた。

「あなたの斧と私の魔法、どっちが強いか試してみる?」

レフレッシがオルソに提案する。

「そりゃおもしれーな、俺の力見せてやろう」

「盛り上がっている所申し訳無いが、勇者殿のサポートが我々の仕事だと言う事を忘れるなよ」

バルデュールがニヤニヤしながら釘を刺す。

親子漫才も板についてきたな。

多分そう思っているのだろう。

俺も余裕があればそう思っただろう。

「いや、俺に構わず遠慮無く全力でやっちゃって下さい」

俺も本心を遠慮無くぶちまけた。

堀の外には魔物の軍勢が押し寄せていた。

それは、軍だった。

鋭い牙と大きな鼻を持った4本足の獣は何匹いるか見当もつかないが、100や200どころでは無いだろう。

2足歩行の醜悪な生き物は、木製のこん棒のような武器を持っている。

鎧や盾のような物は持っていないようだ。

しかし、ざっと見て20匹はいるようだ。

相手の力も自分の実力もよく分からず、数の差は歴然としていた。

みんなの余裕から察するに大した相手では無いのだろうが、油断は出来ない。

「別に誰かが指示を出してる訳でも無いし適当に倒せば良いよ」

リナルドがオルソとレフレッシに指示を出している。

この3人は何だかんだで仲が良さそうだった。

「それでは始めるとしよう、勇者殿を中心に密集隊形で、散開!」

バルデュールが号令を出すとオルソ、バルデュール、レフレッシが跳んだ。

レフレッシはまぁ軽装だから辛うじて分からなくも無い。いや、分からないけど。

しかし、オルソもバルデュールも見るからに重そうな金属鎧を全身に纏っている。

しかも馬鹿デカイ斧やら剣を持っている。

それが高さ5mの塀の上から幅10mの堀を飛び越えて敵軍の真っ只中に飛び込んで行ったのだ。

住む世界と言うか、違う生き物なのだ。

「やっぱり旅に出よう」

俺は心に決めたのだった。

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