転職-01-
「ふぅ」
目を開けるとそこに広がる景色は到底日本では見られない街並みだった。赤茶色の屋根に白を基調としたレンガ造りの建物。アンティーク調の街灯、街の奥には時計塔がそびえ立っている。
「おお、これが異世界。新生活の始まりだな。」
あまり深く考えていなかったが服装もしっかりとこの世界にマッチしたものに変わっていた。まぁ文句を言うならこのザ・初期装備感をなんとかしたいところではあるが。
「まずは…そうだな、とりあえず飯でも食うか」
と、ここで俺は気付いた。
この世界のお金なんて持ってない!
クソ、あのじいさんせめてひのきの棒くらい持たせてくれたら売っぱらって飯代にできたと言うのに…
そんなことを考えながら途方にくれて歩いていると大きな噴水のある公園に着いていた。
ん?あれは…
「じいさん!」
なんとあの白髪のじいさんが噴水の中央で石化していた…
いや、あれは石像か?しかしなんでそんな悪趣味な…
「あらあら、そんなにセズ様の石像を見つめて、若いのに随分と信心深いのねぇ」
声を掛けられた方を向くと気の良さそうなおばさんがパンの入ったカゴを抱えて立っていた。
「あ、いえ噴水を見ていただけで…セズ様?」
「そうよぉ、セズ様はこの世界を見守ってくれている神さまじゃないのよ。ところであなたパンはいかが?安くしておくわよー。」
あのじいさんそうじゃないかと思ってたけどやっぱり神さまだったか!くしゃみで人を殺すとかとんでもない神だ!
「えっと、その、実はいま一文無しでして…どこか働けるところがないかなーなんて…」
「あら、そうなの?若いのに大変ねぇ。それならギルドに行くといいわ、その人に合ったいろいろな仕事を紹介してくれるはずよ。あの大きな時計塔の建物がそうだから」
思いがけずいい情報が聞けた!日が落ちるまでになんとか今日の宿を取れるくらいは稼がないと!
「ありがとう!早速いってきます!」
ーーー
「ここがギルドか、近くで見るとなかなか大きいな。」
ギルドは見た目の大きさだけではなく、出入り口は人の往来が激しく随分と賑わっているようだ。まずは中に入って話を聞いてみよう。
「あのーすいません。ここに来れば仕事を紹介してもらえるって聞いたんですけど」
受付窓口に立っている女性に声を掛けて見る。
「この街のギルドの利用は初めてですか?ではまずご職業を登録いたしますのでこちらに手をかざしていただけますか?」
そういって差し出された石板のような装置はなんというか、石でできてはいるものの前の世界ならSuicaをタッチしたくなるような見た目だった。
が今は言われた通りに手をかざそう。
ん?というかいま大切なワードが出たような…
「あー…無職の方なんですねー」
なんだ、その哀れむような目は!
「無職の方にはお仕事のご紹介が難しくなっておりまして、もし可能であればあちらの転職神官様の元で何かしらの職業に就いて頂けますか?」
そう言われて案内されたのが長蛇の列ができる転職窓口。並んで待っている間に先ほどの受付の女性が説明してくれていた。
「こちらで転職することが可能になりますが、ご本人様のステータスによって就けるご職業が決まっております。また各職業につきそれぞれ一つ職業特有のユニークスキルがございます。例えば鍛治職人であればSTR30以上LUK10以上が必要になります。転職された際にはユニークスキル:<形状記憶-シェイプメモリー->が使用可能となります。」
なるほど、しかしそれなら大抵の職業には就けることになるな。ちなみに-形状記憶-は一度作ったものと同じものを同じ品質以上で作ることができるようになるらしい。
「ご職業は多種多様ですので、よくお考えになってから決められるとよいかと思います。いつでも転職神官様の元で転職は可能ですがこの長蛇の列はいつものことですので…」
「あの、なんでこんなに混雑しているんですか?」
「それはですね、転職神官の数がこの街の人口に対して圧倒的に足りていないのです。そもそも私たちがスキルポイントを獲得するのは一般的に1年で2P程度。にも関わらず転職神官になるには4つ全てのステータスが30以上、つまり単純計算で60年分の合計120Pが必要になるのです。そもそもそのようにスキルポイントを割り振っている方は少数ですし、転職神官は常に少数でご高齢なのです」
なるほど、しかしそれ以上に驚いたのはスキルポイントの獲得ペースだ。年2Pってゼスのじいさん150年分もくれてたんだな。
なんて長々と数時間の説明を受けているうちにようやく俺の番が回ってきた。
「ではまずは貴方のステータスを確認させていただきますぞ」
そう言ってこの街唯一の転職神官が祈りを捧げた
「な、なんと!ALL75じゃと?!」
「「「「「!?!?!?!?!?」」」」」
周囲にどよめきが走る。
「あの若さでなんてやつだ!」
「クルセイダーにもなれるじゃないか」
「アークメイジだって夢じゃないぞ」
「ドラゴンテイマーだって!」
「あの神官ついにボケたか!」
どよめく周囲によって逆に冷静さを取り戻す転職神官が咳払いをした。
「コホン、取り乱してすまない。ではどの職業に就かれますかな?」
めちゃくちゃかっこいい名前の職業がいろいろ聞こえてきたが俺はもう一つに決めている!
生産職は知識と経験の職業、日銭を稼げるようになるまで時間がかかるのは明白。戦闘職は男として興味はあるが商売道具の武器を買う金がまず用意できない。
まず大切なのは今日を生きる金!つまりは…
「転職神官で」
「「「「「エエッ!?!?!?!?!?」」」」」
小説って設定考えるの難しいですねー