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偏在の理想ボーイ幻覚の普通ガール  作者: キャボション
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1輪

俺と乃木は10分程走りづらい雪原を走り続けていたが追ってくる気配が一切しないので徐々に足を動かす速度を緩め、走るから歩くへと変えていく。互いにケガは無いか?と確認をして互いに安心し、互いに心を癒しあった。目標地点までの距離も確実に縮まっていき、運命の時が刻一刻と近付いているのも実感した。気が付くと目標地点までの距離は80キロを切っていた。

「乃愛ちゃん、また村があるよ」

「警戒はしておこう」

俺の小銃を握る手も強くなっていた。頭では思っていなかったが体はかなり警戒しているようだ。銃を構えながら半ば廃墟と化した家々を確認したが人はいなかった。

古びた倉庫には古びたタイヤがクアーリーのバイクがあった。状態が良いので直せば動きそうだ。それに運も良かった。倉庫には修理に必要な工具もあったのだ。

「直せそう?」

「時間はかかると思うが多分」

修理が終わった頃には辺りはすっかり日が落ち、暗くなっていた。

「動く?」

「やってみなきゃ分からないな」

アクセルをかけるとドルルという鈍い音を鳴らしエンジンが動いた。どうやらエンジンと燃料は生きていたらしい。俺と乃木はそのまま倉庫で夜を越すことにした。

「静かだね」

「だな」

それからしばらく。沈黙が続き、焚き火が燃える音だけが辺りに響いていた。先に沈黙を破ったのは乃木だった。

「乃愛ちゃん、桃花ちゃんはどう思ってるんだろうね」

「急にどうしたんだ?」

「梨香ちゃんのクローンが梨香ちゃんのクローンを殺してたからさ」

確かに椎名は久遠乃愛のクローンだ。だが、椎名と俺は全くの別人。オリジナルの脳が別人なのだ。つまり椎名は椎名という固有の存在だ。それに思考も違う。久遠乃愛はネガティブだったが椎名はポジティブだ。

「私は私ですよ」

椎名の通信が来た。

「私は自身を久遠乃愛のクローンだとは考えてません。椎名桃花という普通の女の子です」

やはり椎名は堂々としていた。椎名は強い。俺や乃木、そしてどんな奴らよりも。

次の日は憎たらしい程に青く澄んでいた。俺と乃木は昨日修理したタイヤがクアーリーのバイクに乗り、エンジンをかけた。エンジンが低い唸り声を上げ、雪原を走り出す。これで一気に目標地点まで向かい、できるだけ早く作戦を成功させる。俺は速度を上げていった。

バイクは思ってたより調子が良く、速度は50キロを越えていた。ゴーグルに表示されている目標地点までの距離はどんどんと減っていき俺と乃木に一種の興奮を覚えさせた。だが、大概の物は有限だ。1時間半後には燃料が切れて、便利なバイクは一瞬にして鉄の塊になった。しかしこのバイクはこの作戦に貢献してくれた。ゴーグルには30kmと表示されていた。つまりこのバイクのおかげで50キロも移動できたのだ。俺と乃木はバイクに感謝をしつつ雪の中に深く隠した。

「乃愛ちゃん、あと30キロだよ!たぶん4日くらいで着けるよ!」

「だな。ラストスパート行くか」

景色は変わらないが確実に進んでいる。俺たちが黒猫部隊を壊滅させる。今壊滅できなければ永遠に黒猫部隊を壊滅できない。俺たちは世界を救う。黒猫部隊が黒いのはもともとじゃない。返り血が赤黒く変色しただけだ。俺たちは地獄の炎だ。地獄の炎は魔女の象徴さえも焼き尽くす。俺と乃木は雪原を歩き出した。

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