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偏在の理想ボーイ幻覚の普通ガール  作者: キャボション
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かまくら

隣の乃木から無線が入る。

「乃愛ちゃん!空、すっごく綺麗だよ!」

空は一面の星空。右上を見てみるとオリオン座も見える。正直、俺としては巨人ではなく砂時計に見える。

高度計を見るとものすごい勢いで数字が減っている。かなりの高さなので、あまり認識していなかったがかなりの速度で降下しているようだ。このスカイダイビングは観光客がするのとは訳が違う。あくまで目的地に向かう途中に過ぎない。だが、俺と乃木はこのスカイダイビングを楽しんでいた。

「乃愛ちゃん、手順覚えてる?」

「覚えてるぞ。着地したらまずパラシュートを埋めて本拠地の10キロメートル圏内まで歩くんだろ?」

そこまで乃木に言ったあと、乃木は忘れてたんじゃないかと俺はなんとなく思ったがそれは言わなかった。その後、俺と乃木はくるくると横回転をしたり、手を繋いで回ったりと遊んでいるとパラシュートを開くべき高度になってきたのでパラシュートの線を思い切り引いた。パラシュートが納まっているリュックのような袋から勢いよく飛び出した。一瞬の持ち上がるような感覚とともに今まで受けていた下からの重力が無くなり、その代わりに安定感が現れた。およそ1分後。着地予定地点に無事着地し、俺と乃木は手順通りパラシュートを雪に深く埋め、乃木はリュックから白い布を取り出し、白くペイントされた狙撃銃に巻いた。ヘルメットも重くなるので脱ぎパラシュートとともに雪に埋め、防寒服のフードを被ると俺はすかさず椎名に通信を入れる。

「こちらハーミット。無事着地した」

「こちらテンバランス。目標地点まで向かってください」

「了解」

俺と乃木はゴーグルに写し出されたARナビを頼りに歩き出した。周りは地平線までずっと真っ白だ。ナビが無ければ数時間以内に遭難してしまうだろう。乃木が顔を露出していたので顔をパラグラバを装着するように勧めた。乃木は素直に付けたがエディに勧められたらイヤだと言っていたのだろう。

歩き続けること半日。椎名から通信が入った。

「おふたりとも、そろそろ休憩したらどうですか?疲労を示す数値が出てますよ」

「このピッチピチのスーツ、そんなのも分かるんだね」

俺と乃木は雪原迷彩の装備の中にエディに渡された出発前、SF映画に出てくるようなインナースーツを着ている。エディに性能を聞くと「熱反射のすごいやつだ」とだけしか言っていなかったのでそんな機能があるとは思っていなかった。技術というのが表に出るのは随分と後の事なのだろう。こんな未来の物が今存在するのだから。俺と乃木は簡易的なかまくらを作り、その中で休む事にした。

ゴーグルで目標地点までの距離を見ると90kmと表示されており、見たことを少しだけ後悔した。乃木は俺の方にドライフルーツを向け「あーん」と言ってきたので遠慮なく頂いた。ドライフルーツの濃縮された甘みが口の中に広がり、突き刺すような寒さで固くなった唇が柔らかくなった。

「乃愛ちゃん、こっち見て」

「ん?どうしたんだ乃」

乃木はキスをしてきた。いつも不意打ちを喰らっていたが、任務中にされるとは思っていなかったのでさらに不意打ちだった。心臓の鼓動は普段より速くなり体温も少し上がった。乃木は目をうっとりとさせながら、舌を艶やかに揺らしていた。

「甘いね。どうしたの乃愛ちゃん」

「驚いただけだ。吹雪も強くなってきたし落ち着くまで休むか」

3時間程経過したが一向に吹雪は弱まらない。とにかく待ち続けた。

「乃愛ちゃん。この任務が終わったら何する?」

「家でゆっくりしたいかな」

「乃愛ちゃんらしいね。じゃあ、ウォーソルジャーやろうよ。ゲーム機もう1個買って」

「頑張ってみるかな。援護兵で」

結局その日は吹雪は強いままで、朝までかまくらに籠ることになった。


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