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偏在の理想ボーイ幻覚の普通ガール  作者: キャボション
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見舞い

ひとまず俺と乃木はシャワールームに走っていった。ずぶ濡れの体に冷たい冬の風が当たり、今にも凍りつきそうだった。装備を外すのがもはや面倒だったので、ヘルメットだけ外しそのままシャワーを浴びることにした。シャワーのお湯を浴びれば浴びるほど体から冷たさが抜けていき、冷凍食品が解凍される気持ちがなんとなく分かる。

体が暖かくなってからゆっくりと装備を外し、頭を洗う。塩のせいでガサガサになっていた髪は予想以上に手強く、5回ほど洗うはめになってしまった。

「乃愛ちゃーん!石鹸無い?こっちに無いの!」

「あるぞ。投げるからキャッチしてくれ」

俺は隣の乃木に石鹸を投げた。ベチ!という音が鳴ったのでおそらく乃木はキャッチ出来なかったのだろう。

「ありがとー」

「おう」

体も何回か洗った。しばらくぶりの石鹸の香りは心地よく、いつまで嗅いでいても飽きない気もしたが飽きたので体を拭き、シャワールームを出た。

俺が出た十数分後に乃木も出てきた。乃木はドライヤーで髪を乾かしていたそうだ。俺は平均よりやや短めだったのであまり気にしてはいなかったが、乃木くらいの長さになると自然乾燥では何時間も掛かってしまうだろう。別の迷彩服に着替え、椎名のいる病院に向かった。

「桃花ちゃん!元気?」

「椎名、肋骨は大丈夫か?」

「私の肋骨は綺麗に折れていたそうです。治るのは1ヶ月程かかるそうです」

「やっぱりエディはプロだったんだな」

「ですね。いたた」

椎名は痛そうに肋骨の辺りを擦っていた。妙だ。痛み止めを投与されているはずなのに。

「多分気のせいなんですけどたまに痛む気がするんです。お医者さんに聞いたらたまにいるそうです」

幻肢痛のような物なのだろうか。俺は専門家ではないのでよくわからないが専門家が言っているんだ。多分正しいのだろう。

「私心臓が止まっているときにある夢を見たんです」

「どんな夢だったんだ?」

「鮫をアザラシが蹴散らす夢です」

「エディが助けたからだな」

「どうしてです?」

「ネイビーシールズっていうのは『アザラシの群れ』っていう意味も持ってるんだ。エディはネイビーシールズの中のデブグル所属だ」

「だからですかねぇ」

椎名はフフッと笑い、楽しそうにしていた。まさか自分の見た夢が意味を持っているとは。こんなに面白い事はなかなか無い。

「乃木、そろそろ戻るか」

「桃花ちゃんお大事にね」

「ありがとうございます」

俺たちは基地に戻り、エディたちと訓練を始めた。訓練は非常に楽だった。いや、本当は楽ではない。海での訓練が異常だっただけだ。戦闘訓練、潜伏訓練。時々座学。それを繰り返し始めてからおよそ1ヶ月。退院した椎名も訓練に参加した。

半年後。俺たちは訓練を終了し、それぞれの役割を言い渡された。乃木が狙撃兵。椎名が安全地帯での技術支援。エディとジムが潜入兵。そして俺の役割は乃木を支援するスポッターだ。スポッターは狙撃兵にとって重要な存在だ。狙撃銃のスコープの視界は非常に狭い。その視界の狭さを補うための存在がスポッターだ。それに狙撃兵とスポッターの信頼関係は作戦自体に非常に影響を与える。だからエディは恋人同士である俺と乃木を組ませたのだろう。

「乃木、背中と周りは任せろ」

「乃愛ちゃん。頼んだよ!」

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