白い花
調べるとすぐに出てきた。「七夕女子高生殺人事件」事件にはそう名前が付けられていた。被害者はこの娘の彼女「白石梨里」まだ17歳の少女だ。死因は首を刺されたことによる失血性ショック。惨い話だ。死んだ後も何回も刺された上に遺体を解体しようとした痕跡まで残っていたようだ。しかし幾ら事件について調べても彼女を殺した犯人の手掛かりは一切見つからなかった。
夜も更けてきたので俺は一旦頭を整理させるためにベッドで横になった。そしてそのまま眠ってしまった。
数日後 午前7時50分
「ここが清楼高校か。意外と綺麗な校舎だな」
俺はそんなことを言いながら校舎に入った。確か久遠乃愛はこの高校の2年生。クラスは5組だ。俺は教室に向かった。
「お、久遠。待ってたぞ」
教室には男の教師がいた。このクラスの担任なのだろうか。
「1週間も学校を休んでどうしたんだ?何かあったのか?」
教師は俺にそう聞いてきた。俺はそれらしい理由を考えたがあまり良い案が思い付かなかったのでただ面倒だから行かなかったと答えた。すると教師の目に一瞬火のようなものが見えた。
「そうだったのか!久遠!お前は悩んでたんだよな!相談できるなら俺にしてくれ!」
この教師、かなり熱い。いやかなり暑苦しい。ウザさを感じるほどだ。
「あ、いやそこまで深刻ではないんですが」
「隠さなくたって良い!さぁ!相談してくれ!」
ダメだ、面倒すぎる。少なくとも悪い人ではない。だがおせっかいが過ぎている。
俺は適当に話を流して無理やり話を終わらせた。
「じゃあ俺は一旦職員室に戻るからな。悩み事があるんなら言えよ?」
教師は教室から出ていった。あんな熱い人物と毎日話をしていたらこっちのエネルギーが吸収されてしまいそうだ。そんなことを考えていると聞き覚えのある声が聞こえた。
「乃愛ちゃんおはよう!」
乃木の声だった。
「おはよう、真理亜」
「やっぱり乃愛ちゃん、少し様子が変じゃない?」
真理亜は俺にそう言った。変なのも当たり前だ。俺は久遠乃愛ではない。久遠乃愛という少女の体を持つ男だ。
「そう?」
「でも気にする事じゃないよ」
「じゃあなんで聞いてきたんだよ」
俺は少し笑いながら言った。
「少し気になっちゃってね。ごめんね」
「いや、良いんだよ別に。気にしてないよ」
俺はしばらくこの微笑ましい空間を楽しんでいた。しかし突如としてその空間は壊された。
「ねぇ、乃木ぃ」
下品な女3人が教室に入ってきた。
「え?えっとなにかな?」
乃木は少し怯えていた。
「ちょっとお金貸してくれないかなぁ?」
女たちはそう言った。その光景は非常に不愉快なものだった。俺がそう思考する前に俺の口からは言葉が飛び出した。
「お前らそんな売春婦みたいな化粧してるんだからお前の真っ黒になってる部分で金を作れば良いんじゃない?」
女たちは視線をこっちに向けた。
「今なんて言った?」
「売春婦は体で金を稼げばって言ったんだよ。なんなの?その化粧。自分の顔をキャンバスかなにかと勘違いしてるの?」
女たちは顔を真っ赤にしていた。よほど腹が立ったのだろう。
「決めた、次はお前から金を貰う」
女のひとりが俺にカツアゲ宣言をした。
「なに?中絶に掛かるお金?」
女たちは意味不明なことを言いながら教室を出た。
「あの」
「どうしたんだ?」
「ありがとう」
「あいつらの態度が気に食わなかったから悪口を言っただけだよ」
「そうなんだ。でも気を付けて」
「何をだ?」乃木はやけに重い表情をしていた。
「あの3人中学生の時にひとり自殺に追い込んだんだよ」
「それで?」
「あの3人の親がとんでもないモンペアで学校もいじめを無かったことにしたの。それでいじめを受けた子の親は泣き寝入り。あの3人は普通に生きてる」
「安心して、それをされるくらいなら私はあの3人を殺す」
「なんで殺すの?」
「殺されるくらいなら殺す。生きたいから」
「なんだか前の乃愛ちゃんからは聞かないような事を聞けて良かったよ。乃愛ちゃんは何があっても乃愛ちゃんだからね」
その後は普通に1日を過ごした。高校生の学校での1日は昔と比べてあまり変わらなかった。だが使っている物や話題は随分と変わっていた。やはりネットで色々調べておいて正解だったようだ。今日学校で一番言われたのは「雰囲気変わったよね」だった。まぁ雰囲気どころか脳も変わっているんだがな。
家に帰った後改めて自身の顔を鏡で見てみた。本来は久遠乃愛という少女の顔だが。個人の意見としてはかなりの美人だ。おそらく普通のアイドルより整った顔をしている。これなら俺が万が一あの売春婦みたいな奴らに何かされても大丈夫だろう。それに根拠もある。やたら男に話し掛けられた。愛想よく話した後にそいつらの様子を見てみると俺の話題で盛り上がっていた。それに女子にも人気だった。女子いわく久遠乃愛は男からも女からも人気のようだ。アイドルタイプらしい。もしもあいつらが中身が違うと知ったらどんな反応をするのだろうか。事件について調べながらそんなことを考えた。この娘は人柄が良かったと知れただけでも良い収穫だ。