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偏在の理想ボーイ幻覚の普通ガール  作者: キャボション
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ハッピークリスマス2

「やっぱりツリーにはオーナメントを付けたほうがいいな」

俺と乃木は家に帰ってから裸のクリスマスツリーに飾り付けをした。はじめは少し時間がかかるものだと思っていたが実際にはそこまで時間はかからなかった。まさかオーナメントを付けただけでここまで華やかになるとは思わなかった。

クリスマスツリーの飾り付けをしたのはいつ以来だろうか。少なくとも社会人になってからは1度もクリスマス関連の事をやっていなかった。

この少女の体になってから男だった頃に比べて充実している。乃木という彼女がいて残業の無い給料の良い仕事をして今は乃木とオーナメントの飾り付けをしている。

「乃愛ちゃん、私重要なこと思い出した」

乃木の言い方は夏休み明けに終えていない宿題を思い出した小学生のようだった。

「どうしたんだ?」

「乃愛ちゃんへのクリスマスプレゼントを買うの忘れてた!」

俺は乃木の肩を撫で「乃木、安心しろ。俺も忘れてた」と言った。

「よし、今から買いに行くか!」

「行こう!」

乃木はグーにした手を上に挙げた。

街は帰ったときよりも冷え込んでいた。俺はロングコートを着て、乃木はダッフルコートにマフラーを巻いていた。空に浮かぶ雲は雪を落とさないように耐えていた。

「乃愛ちゃん!ツリーだよ!」

乃木の指差す方には巨大なツリーが立っていた。

「あぁ、綺麗だな」

「乃愛ちゃんのほうが綺麗だよ」

「ハハ、ありがとな」

巨大なクリスマスツリーが立つ広場は例年通りカップルで賑わっていた。だが、ひとつ例年とは違かった。ちらほらではあるが同性のカップルがいた。心の結びつきは異性のカップルを凌駕しているのだろう。イチャイチャでは足りない。少なくともイチャイチャイチャイチャくらいだ。

しかし現実は悲しい事も起きる。聖夜の夜に喧嘩をするカップルもいた。お互いがお互いに発する暴言は嫌でも耳に届く。しばらく聞いているとだいたいの流れが分かった。

女のほうが男のプレゼントに文句を付けたのが事の発端。そして男が彼女に対する日頃の不満をぶちまけた。そしてまた彼女は運が無かった。電話が掛かってきたのだ。それも本命の彼氏から。もしかしたらそこにいた男が本命だったのかもしれない。

すると男は彼女の頬を叩いた。クリスマスの雰囲気は一気に壊れてしまった。

「乃愛ちゃん。これ、まずいかなぁ」

「止める?」

「うん」

俺は男を、乃木は女を宥めお互いの言い分を聞くことにした。

「それで、なんでお前は彼女をひっぱたいたんだ?」

「あいつは浮気してたんだよ」

男の目は赤かった。ちょうど怒りと悲しみが混じった感じだ。

「なるほど。よくある話だな」

「よくあるだと!」

「あぁ、言い間違えた。災難だったな」

「なんでお前は男みたいな話し方を?」

その質問に俺は一瞬ギョッとしたが「男兄弟の中で育ったからだよ」と適当にごまかした。

「そんで、お前は結局どうしたいんだ?」

「核心を突いてくるなぁ。そりゃ別れたくないよ」

男は困っているようだった。

「じゃあ、対決しよう。迷惑にならない場所で」

「対決?誰と」

「浮気相手と」

その後も俺は幾つか意見を出してみたが対決意外にあまり良い反応を見せなかったので対決をさせることにした。


「と、言うわけだ乃木。女のほうはなんて?」

「ホントあの女やだ!自分勝手過ぎる!」

「というと?」

「プレゼントが悪かったからだの電話してきたほうが悪いだの!自分を棚上げし過ぎ!」

俺と乃木、そしてカップルはマダムのサバゲーショップに向かった。

「あら、真理亜ちゃんに乃愛ちゃん。どうしたのかしら?」

「マダム、この店を対決に使っても良いですか?」

「対決?どういうことかしら?」

俺はマダムに事情を伝えた。

「あら、別に良いわよぉ」

男は彼女のスマートフォンを取り、電話越しに彼女の浮気相手もしくは本命の男と対決を始めた。対決は1時間にも及んだ。結果は引き分け。ふたりの男は彼女と別れることにした。

「あのふたりの男の人は正解だよ」

乃木はせいせいしていた。

「ま、そうかもな」

「乃愛ちゃん私、行きたい所があるんだ」

乃木はそう言うと俺の手を引き店を出た。

しばらく手を引かれ続けるとある店の前で止まった。

「乃木、本当にここで間違いないんだよな?」

「うん、」

その店は異常にメルヘンチックな雑貨店だった。



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