状況の変化
次の日。学校はやけにざわついていた。いや、学校どころではない。恐らく日本中がざわついているのだろう。先日の同性婚法案可決によってそれまで隠していた教師や生徒達が次々とカミングアウトしているのだ。
「乃愛ちゃん。堂々としようよ!」
「そうだな」
当然ながら教室もざわついていた。驚いたのがカミングアウトをしたのがクラスで8人もいたことだ。今の時代、人の性別というのは生物学以外ではもはやどうでも良い情報に成りつつあるのでは無いだろうか。
ただ、この学校にも情報が遅い奴もいた。前に俺を脅そうとした男だ。スマートフォンばかりいじっているので知っていると思ったが違かったようだ。そして今朝、今まで温めていた俺が世間的にレズビアンであることを言い触らしていたが自称人権保護主義者達によって吊るされる事になった。
「あいつも乃愛ちゃんがスマホを折った時に懲りれば良かったのにね」
「ああいう奴は1回痛い目に遭ったほうが良いんだ」
するとやつれたスマホ男が俺を見ながら歩いてきた。目は「恨んでるぞ!」と言っていた。無視をしていると待ちきれなくなったのか俺の目を睨んで「なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!」と言って俺の胸ぐらを掴んだ。
「汚い手で乃愛ちゃんに触んないでよ!」
乃木はスマホ男の股間に思い切り蹴りを入れた。顔を青くし股間を押さえながら倒れる様子はこちらまで痛くなりそうだった。
「昼休み、あと3分だぞ。戻らないと」
「そうだね」
俺と乃木は倒れているスマホ男をその場に置いて教室に戻った。
「乃愛ちゃん、古文って退屈だね」
授業中、隣の乃木はそう言ってきた。
「俺は結構好きだけどな。笑い話だし」
「そうなの?」
「そうだろ。鼎を被って抜けなくなったお坊さんがお医者さんの世話になるんだぞ?笑い話に決まってる」
「鼎って?」
「入り口の小さいデカイ鍋みたいなやつ」
「へぇ」
乃木は興味がなさそうに反応した。俺はそれが少し不満だったので乃木の耳元で「そんな反応だと1ヶ月くらいエッチな事しなくても良いか?」と言った。
「えー?やだよ」
「こら!久遠!乃木!授業を聞かないか!」
熱血教師に怒られてしまった。
放課後、乃木と帰ろうとするとカップルに声をかけられた。
「あの」
「どうしたんだ?」
「久遠さんと乃木さんって付き合っているんですよね?」
そのカップルは女子どうしのカップルだった。
「そうだけどどうしたんだ?」
「乃愛ちゃん!これは恋の相談だよ!」
「そうなの?」
「はい。私たち今日から付き合う事になったのですが普通のカップルとは違うのでどうすれば良いのか分からなくて」
俺はカップルの質問の意味がいまいち理解できなかった。
「逆に普通のカップルって何なんだ?俺はそれがわからない」
「えっと、男の人と女の人のカップルですか?」
「いや、違うな。日本には同性婚法案がある。つまり普通なんて無いんだよ。お互いが愛し合っていればそれで良いんじゃないか?」
「乃愛ちゃん良いこと言うね。こういう事でしょ?」
そう言うと乃木は俺にキスをした。俺は自然な動作で乃木を抱いた。
「極論だがこういう事だな。答えなんかはじめから無いんだよ」
カップルは驚いていた。
「ありがとうございます!」
カップルは笑顔で行ってしまった。
「私たちも帰ろうか」
「だな」




