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偏在の理想ボーイ幻覚の普通ガール  作者: キャボション
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交渉と抱擁

「乃木、いい加減機嫌をなおしてくれ」

乃木は放課後の件で俺に対しても怒っていた。俺が警戒をしないかららしい。何度も改善をすると言ったが乃木はベッドから出てこない。もう、かれこれ二時間程この状態が続いている。俺は一体どうすれば良いのか。まるで塹壕戦だ。

「乃愛ちゃんのバカ・・・」

ベッドに引きこもっている乃木がそう呟いた。

「いつまでもそこに引きこもってるつもりか?」

俺はそう言いながら布団を剥いだ。すると乃木の顔には涙の跡が残り、真っ赤になっていた。

「だって不安だったんだもん!」

乃木は泣きながら抱きついてきた。

「何が不安だったんだ?」

「乃愛ちゃんが男の人としちゃうんだと思って!」

乃木は本当に不安そうな表情をしている。不安と涙で顔はクシャクシャになっていた。

「乃木、聞いてくれ」

「なに?」

「俺は脳が男だ。つまり男とはしない。俺はノーマルだからだ」

「でも、乃愛ちゃんは女の子だよ?」

「俺の中で性別というのは精神によって決まると考えている。つまり俺の精神は男だから男だ」

乃木は意外そうな顔をした。

「それとも乃木は俺が誰とも行為に及ぶような軽い人間だと思っているのか?」

「思ってないよ」

「じゃあ、なんで不安になってたんだ?」

「なんだか怖くて」

「初めから怖がる必要なんて無かったんだよ」

俺は乃木を優しく抱き締めた。人間というのは本当に面白い生き物だ。無駄に心配したり、自身を過少評価をしたりする。

「抱いて・・・」

「へ?」

「不安をかきけす為に抱いて!」

「乃木、その事についてなんだがな、」

俺は乃木に回数を減らす為に交渉を始めた。乃木は少しイヤそうな表情をしていたが要求は呑んでくれた。

「俺は体の繋がりは重要だと思うけど心の繋がりも大切だと思う」

「そうなの?」

「俺はそうだと思う。そうだ、今度どこかに出掛けよう。どこが良い?」

「そうだねぇ」

乃木はどこに行こうか決める為にスマートフォンをいじり始めた。しばらくして「ここに行こうよ」と言った。そこは芸人たちがネタを披露する小さなライブハウスだった。

「コントか。良いねぇ」

「ねっ!良いでしょ!」

乃木はすっかり上機嫌になっていた。そういえばコントを観るのはいつ以来になるだろうか。いまいち思い出せない。

「じゃあ明日行こうよ!」

「そうだな。明日は休みだしな」

乃木の機嫌が治って本当に良かった。相棒として。









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